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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
587/911

587.帰還のあと⑤

 ――翌日の朝食。


 今日はしっかり、ヴィオラさんもセミラミスさんも食堂に来てくれた。

 しかしあとはリリーのみ。ルークはすでに出掛けており、エミリアさんとレオノーラさんは今日も起きてきていない。


 ……実際には起きているのかもしれないが、まだ食堂に来られるような精神状態では無いのだろう。

 一回心が折れると、しばらくはなかなか上手くいかないものだからね。

 これはもう、時間が経つのを待つしかないのかな……。



「アイナー。今日はメシ食ったら、ファーディナンドのところに行ってくるからな!」


「ママー、私も一緒に行くの!」


「あれ、リリーも治療院に?

 ふふふ、ヴィオラさんと仲良くなったんだねー」


「なの!」


 初めて会ったのは昨日なのに、何だかもう仲良しになっている。

 ヴィオラさんはセミラミスさんとも仲良くなっているし、もしかしたらコミュニケーション能力が意外と高いのではないだろうか。


「……あ、そうだ!

 ヴィオラさん、言い忘れていたことがあるんだけど」


「ん? 何?」


「実はこの街にね、テレーゼさんが引っ越してきているの」


「え!? マジで!?」


 そう言えばヴィオラさんは、テレーゼさんの幼馴染なのだ。

 裁縫士のバーバラさんもいれば、幼馴染の三人組が揃って完璧なんだけどね。

 残念ながら彼女は王都にいるはずだ。ここはもう、白兎亭ともども引っ越してきてくれないかなぁ……。


 ……というのは置いておいて。


「マジですよ!

 しかもね、この前可愛い女の子が生まれたばかりなの!」


「え? え?

 ええぇ――っ!?」


 私の言葉に、ヴィオラさんは大きな声を上げて驚いた。

 テレーゼさんが妊娠しているのを知ったときは私も驚いたからね。その気持ち、痛いほど分かる。


「午後にでも、遊びに行ってみる?」


「うん、行こう行こう!

 そっかー、それにしてもテレーゼがねぇ……。ぷっ、ぷぷぷっ」


 ……何故か笑い出すヴィオラさん。

 まぁ、それも何となく分かるけど……。



「リリーはどうする? 午後は私たちと一緒に行く?」


「んー。私、ミラのところのに行ってくるの!」


「あ、そう? そっかー、私もミラには会いたいなぁ……。

 それに、やっぱりヴィオラさんにも紹介したいし」


「おー。俺もその子と遊びたいぞ!

 でも今日はテレーゼと話したいから、そっちはまた今度お願いな」


「あはは、そうだね。時間はあるから、そんなに急がなくても大丈夫だよね」


「そうそう! 楽しみはちょっとずつ、だな!」


 そう言うと、ヴィオラさんは目の前の料理を急いで食べ始めた。

 ……まるで給食のときの小学生男子のようだ。


 さっさと食べて、さっさと遊びに行く――みたいな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 午前中は特に用事が無かったので、私は部屋でのんびりすることにした。

 ……しかし用事が無いとは言っても、そろそろ交易の話が具体的に進み始める頃合いだ。


 だからこそポエール商会とは上手く連携していかなければいけないんだけど――でも、今はそれどころじゃないんだよねぇ……。


 何と言っても目先の問題。まずは王国軍から投降した人たちを、無駄飯食らいにしないようにしなければいけないのだ。

 だから申し訳ないけど、交易の方は優先順位が低くなってしまっている。


 ……かと言って、交易をおざなりにするわけにもいかないんだよね……。

 ああもう、バランスを取るのが難しい……!



 でもまぁ、そこはポエールさんの領分だから、ポエールさんに任せておくことにしよう。

 そうすると私は何だろう。私がやらなければいけないことは――


 ……ひとまずは仲間内の、いろいろな問題の解決かな。

 特にレオノーラさん、次にエミリアさん。……正直、ここがかなり心配だ。


 何だかんだでヴィオラさんは、普通に馴染み始めたから問題は無さそうだ。


 ファーディナンドさんも多少の心配は残るけど、責任を持って何でもやると言ってくれたのだ。

 ならば雇われ王様も頑張ってやって頂こう。


 ……ああ、そうだ。

 その辺りの話もポエールさんにしておかないと。


 今までこの街のことは私とポエールさん主導でやってきたけど、そこにファーディナンドさんが加わるイメージかな。

 そしてゆくゆくは、私はここから抜けていきたいところだ。


 今の立場も面白くはあるんだけど、私はもう少し目立たないでのんびり暮らしたい。

 それこそ都合が付けば、少しくらいはマーメイドサイドを離れてみても――


「……なんて、上手くいけば良いんだけど」



 そもそも私やリリーの安全のためにこの街を作ったというのに、自分からそこを離れるというのもある意味では自殺行為だ。

 でも今なら、少しくらいは強くなったから問題は無さそうだよね。


 グリゼルダやセミラミスさんが用事で北の大陸に行ったように、私も何かの用事があれば、少しくらいは旅をしてみたい。

 王都の方は難しいかもしれないけど、行く先なんてものは海の向こうにもたくさんあるはずだし。



 ――結局のところ、私がいなくてもすべてがまわるようになれば、私もそこでようやく安心できるんだよね。

 だから今は、まだまだ頑張る時だ。

 頑張って、頑張って、一通り頑張り終わったら、あとはゆっくりさせてもらおう。


 それこそ錬金術師の本分に戻って、ひっそりと錬金術のお店をやるのも良いかもしれない。


 大体今やっていることは、いわゆる錬金術師の仕事内容からはかけ離れているからね。

 ……まぁ、神器を作ろうと思った時点でズレていた気もするんだけど。



「――ひとまず、ひとつずつ潰すことにしよう……」


 まずはポエールさんに、ファーディナンドさんのことを伝えることにしよう。

 でもポエールさんも最近、ずっと忙しくしているからなぁ……。


 ……となれば、手紙を書くというのも良いかもしれない。

 伝えたいことをしっかりまとめられるしね。



 ……うん、ひとまずそうしてみようかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 私が手紙を書いていると、しばらくして扉をノックする音が聞こえてきた。

 ヴィオラさんはリリーと出掛けているから――


 ……扉を開けてみると、そこにはエミリアさんが立っていた。

 さすがに昨日ほどではないが目を赤くしており、まだまだ気持ち的に収まりが付いていないように見受けられる。



「――入ります?」


「はい……。ぐすっ……」


 今日はベッドの方に押し込まれずに、エミリアさんはふらふらとテーブルの方に歩いて行った。

 ……あまり、食事もとっていないんだろうなぁ……。


「お茶、入れますね」


「ありがとうございます……。

 ……あれ? お手紙を書いていたんですか……?」


「ええ。ポエールさんが忙しそうなので、いちいち呼び止めるのも申し訳ないかなって。

 でも早めにお伝えしたいこともあるので……っていう感じですね」


「なるほど……。

 ……手紙、ですか。良いですね……!」


「え?」


「私……どうにもレオノーラ様を前にすると、言葉が上手く出てこなくって……。

 それで、悩んじゃっていたんです……。でも、手紙……うん、良いですね……!」


「上手くいかないなら、それも良いかもしれませんね。

 ……ところでレオノーラさん、どんな感じですか? 私も心配してて」


「はい……。もう少し、気持ちの整理の時間が必要そうです……。

 いえ、それなりの時間……ですか……。私も、どこまで踏み込んで良いか分からなくて……。うぅ……」


 エミリアさんも悩み相談くらいは受けたことはあるだろうけど、さすがに今回は身近な存在すぎるからね……。

 長らく司祭をやっていたとは言え、エミリアさんもまだまだ若い女の子。

 さすがに重い人生相談のレベルになると、上手くいかないこともあるだろう。


「……私たちも大変な目に遭ってきましたけど、方向性が違いますからね……。

 私だってレオノーラさんみたいな目に遭ったら、どうなっていたか分かりませんし……」



 その後は何となく言葉数も少なくなり、お茶を黙って飲んで、そして何故かエミリアさんに一回抱き締められてから、彼女は部屋を出て行った。

 ……私も上手く相談に乗れたとは思えないけど、どうにか上手くいって欲しいものだなぁ……。



 ――私に何が出来るのか。

 うぅん、しばらくは悶々と考えてしまいそうだ……。

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