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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
586/911

586.帰還のあと④

 ファーディナンドさんとの話を終えたあと、中庭にいたヴィオラさんを呼んでくる。


 この二人も会うのは久し振りなのだから、私は少し別の場所に行っていよう。

 院長先生に最近の話でも聞いてこようかな?

 薬とか寄付とか、私も治療院にはそれなりに関与しているからね。



 30分ほど話をしてから、改めてファーディナンドさんの病室を訪れる。

 まだ話し足りないような時間しか経っていないけど、今の状況はどうなっているだろう。



「――お! アイナ、やっと来たな!」


「え? うん、ちょっと院長先生とお話をしてて」


「ここにはまた明日来るからさ、そろそろ何とか商会ってところに行こうぜ!」


「あれ? お話はもう良いの?

 ファーディナンドさんも大丈夫ですか?」


「明日もまた、ヴィオラが遊びに来てくれるそうでね。

 これから家具を買いに行くんだって? ヴィオラのこと、よろしく頼むよ」


「はい、お任せください。それでは失礼しますね」


「ファーディナンドー、また明日なー」


「ああ、待っているよ」



 ヴィオラさんはぱたぱたと手を振りながら、病室を出て行った。


 何とも子供っぽいと言うか――

 ……まぁ実際、中身は子供っぽいからね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……ポエール商会にきたは良いものの、そう言えばみんな忙しかったんだっけ。


 私たちはいつも家具を手配してくれている職員さんに話をして、少し先に改めて伺う約束を取り付けた。

 大体の要望はヴィオラさんに伝えてもらったから、次回はそれをもとに提案してくれるそうだ。



「……すぐに終わっちゃったなぁ~……」


「あはは……。

 この前の戦いの後片付けで、みんな忙しいんだよね……。

 ごめんね、家具はすぐに準備できないや」


「それは大丈夫。待ってる時間も楽しいものだからさ」


 ……おっと、ここは予想外に大人っぽい考え方だ。


 でも今までは部屋から出られなくて、基本的には『待つ』だけの生活だったんだよね。

 何かを楽しみにするということは、彼女なりの処世術だったのかもしれない。

 ……そう考えると、何だかしんみりしてしまうなぁ。



「――さて、それじゃ私はグリゼルダのところに行くね。

 ヴィオラさんはどうする?」


「んー。折角だし、俺も行ってみようかな。

 光竜王様だなんて信じられないけど、それならそれで会ってみたいし……」


「私も未だに信じられないけどね」


 ……信じられないというか、つい忘れてしまう……っていう感じが正しいかな?

 さてさて、グリゼルダは今日も人魚の島にいるだろうけど、一体何をしていることやら。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「すっげー!

 人魚だぞ!! すっげー!!」


 人魚の島に渡るときは、いつものように見張りの人魚に道を開けてもらう。

 その光景を目の当たりにして、ヴィオラさんはとても興奮してしまった。


「私はもう慣れちゃったけど、確かに最初に見たときは驚いたね。

 いやー、懐かしいなぁ」


「それに、海から道が出てきたんだぞ!?

 んー、海もすげーよな! 俺、海も初めて見たんだ!! でも、潮くさいな!!」


「ここで暮らすなら、それも慣れていかないとね……」



 そんな話をしながら歩いて行くと、島の浜辺に置かれたテーブルに人影が見えてきた。


「グリゼルダ、こんにちは」


「おう、アイナか。よく来たのう」


「ママー♪ いらっしゃいなのー!」


「あ、リリーもいたんだね」


「……え?

 この子、もしかしてアイナの子供……?」


 ふと、ヴィオラさんが恐る恐る聞いてきた。

 このやり取り、やっぱりいつも発生してしまうなぁ……。


「えぇっと、子供というか――

 ……まぁちょっと、いろいろあってね……。でも、私が産んだわけじゃないから」


「そ、そうだよな。計算が合わないもんな。

 ……いや、俺が会ったときにはもう産んでいたとすれば……」


「だから違うって!」


「お、おう……」


 いまいち納得のいっていなさそうなヴィオラさん。

 ここはひとまず置いておこう。



「グリゼルダ、紹介しますね。

 こちらヴィオラさん。ちょこちょこお話をしていた方ですよ」


「ふむ、上手く助けられたようじゃのう。

 妾はグリゼルダじゃ。これからよろしくな」


「は、はいっ!

 えっと、グリゼルダ……様って、光竜王様……なんですか?」


「うわぁ、ヴィオラさんが敬語だ」


「と、当然だろ!?

 タメぐちのアイナがおかしいんだぞっ!?」


「えぇー……。

 だって私、そう言われてるんですもん……」


「ふふふ、アイナだけは特別じゃよ。

 こやつにはずいぶんと世話になっておるからのう」


「……アイナって、すげーんだな……」


「い、いろいろあったからね……」



 実際、振り返ってみればいろいろなことがあったものだ。

 いつの間にかそれにも慣れてしまい、今は他の人が驚くのを見るだけになってしまっているけど。


「なぁなぁ。もしかして、アイナの子供の方も凄いのか……?」


「あー……。……まぁヴィオラさんになら言っても良いかな。

 リリーは『疫病の迷宮』の力を持った子なの」


「は……?

 あれ? もしかしてやっぱり、『疫病の迷宮』ってアイナの仕業(しわざ) ――

 ……って言うと、『水の迷宮』も……?」


「『水の迷宮』の子は、ミラっていう名前だよ」


「おぉぅ……。

 ……シェリルがユニークスキルを持っているから、俺も特別な存在みたいなつもりでいたけど……。

 ここにいたら、俺って全然大したことないって感じるぜ……」


「いやいや、ユニークスキルの存在を知っているだけでも大したことはあるから!」


「うぅーん……」



「――ま、それはそれとしてじゃ。

 アイナは妾に何か用なんじゃろ? 王都での話でもしに来たのかえ?」


「あ、そうです、その通り!

 ちょっとお時間を頂いてもよろしいですか?」


「うむ。それではリリー、お主はヴィオラと遊んでいるように」


「分かったの!

 でも、お勉強を見て欲しいの!」


 そう言いながら、リリーはテーブルの上の紙を高々とかざした。

 そこには拙い感じではあるが、いろいろな文字が書かれている。


「あ、そうそう! リリーも文字が書けるようになったんだね!

 お手紙、ありがとうね!!」


「読んでくれたの? わーい♪」


 ここで練習をしていたということは、面倒を見てくれたのはグリゼルダなのだろう。

 それにしても光竜王様に勉強を見てもらえるなんて、とんでもなく贅沢なことだよね……。


「それじゃヴィオラ。リリーに読み書きを教えてもらっても良い?」


「おう、任せとけー!

 アイナは安心して、ゆっくり話してきて良いからな!!」



 勉強をするにはテーブルがあった方が良い。

 リリーたちを残して、私とグリゼルダはそこら辺を歩きながら話すことにした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 王都での出来事をグリゼルダに話し終わったあと、元いた場所に戻ると――



「うおぉ! 海、冷てぇ!!」


「ひゃう!? 冷たいの! お返しなのっ!」


「ぎゃー、やめろー!

 あははははーっ!! それそれーっ!!」



「……もう、馴染んでおるようじゃなぁ……」


「冬なのに、何をやっているんですかねぇ……」



 ……何だかこの二人、子供時代の友達って感じがする。

 ヴィオラさんの方がずっと年上なんだけど――……まぁ、楽しそうだからいっか。

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