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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
583/911

583.帰還のあと①

 マーメイドサイドに帰ってきた時点で、時間は22時を過ぎていた。


 今日は朝からいろいろなことがあった。

 王都に長距離転移して、王城に殴り込んで、そしてオティーリエさんとやり合って。

 ……そのあとはレオノーラさんの元を訪れて、 ヴィオラさんの元を訪れて。


 正直レオノーラさんを連れてくる予定はまったく無かったけど、それにしても全てが一応、上手くいったんじゃないかな。




「「「「「かんぱーいっ!!」」」」」


 マーメイドサイドの一番大きな酒場を借り切って、私たちは祝勝会を開くことにした。


 正直なところ、疲れて眠い。

 しかし勝利のあとは、その味に酔いしれるというのも良いものだ。



 祝勝会に参加していないのは、まずはジェラードとグレーゴルさん。

 この二人は転移魔法の人数制限が発端となり、王都からは自力で戻ることになっていた。

 マーメイドサイドまで帰ってきたときには、それぞれ(ねぎら)ってあげることにしよう。


 あとはエミリアさんとレオノーラさんもいない。

 この二人は早々に、私のお屋敷に帰っていってしまった。


 ……レオノーラさんのことを考えれば仕方が無い。

 むしろ私も一緒に行きたかったところだ。


 でもエミリアさんだってレオノーラさんとお話をしたいだろうから、今日のところはお任せすることにしよう。

 私よりもずっと、エミリアさんの方が昔から交流があるわけだしね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 いろいろな人に挨拶とお礼をしてまわっていると、ふとヴィオラさんの姿が目に付いた。

 彼女はたまにきょろきょろとしながら、ちびちびとオレンジジュースに口を付けている。


「……ヴィオラさん、今日はごめんね。

 知ってる人もいないし、面白くないでしょう?」


「そうだなー。

 雰囲気は良いと思うんだけど、正直みんな『他人』だし……。

 そもそも人がたくさんいる場所って、何だか酔っちまうんだよな」


「あはは……。

 んー、ヴィオラさんは、セミラミスさんとお話が合いそうかなぁ」


「セミラミス?

 ああ、あのびくびくしていたヤツか。何でアイツ、あんなにびくびくしてるんだ?」


「それは性格的なところとしか言えないんだけど……。

 でも本気になるとかなり強いし、それに――」


「ん?」


 私はヴィオラさんの耳元で、小さく教えてあげた。


「……セミラミスさんもユニークスキルを持っているんですよ。

 魔法を作る系のやつ」


「え!? へー!! やるじゃん!!」


「それに彼女、人間じゃなくて水竜なの」


「ええぇえ!? かっけー!!

 なぁなぁ、アイナ! 俺に紹介してくれよーっ!!」


 別に普通に話し掛ければ良いのでは――

 ……とは思ったものの、セミラミスさんのことだから逃げてしまうかもしれない。

 それなら私の方から、ちゃんと紹介をしておいてあげよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 セミラミスさんにヴィオラさんを紹介すると、大体イメージ通りのやり取りがあったあと、酒場の隅で魔法談義を始めていた。

 主にはシェリルさんが見せた炎の球体の封印と、セミラミスさんが見せた長距離転移の魔法について。

 それぞれがとんでもなく高水準の魔法だから、それをネタにすると、すぐに盛り上がってしまったようだ。


 その光景に満足して、私は引き続き他の人と話していく。


 ルークはルークで、人だかりの中心にいて何かを話していた。

 今回連れていった仲間たちは、少なからずルークと関係のある人が多かったからね。

 飲み物は……あれはミルク的なものかな? カルーアミルク的なものでは無いことだけ、祈っておくとしよう。



「――アイナさん!」


「あ、ポエールさん!

 来てくれてありがとうございます!」


「いえいえ! 今日は本当にお疲れ様でした!

 参加したい者も多かったのですが、店のスペースは限られていますからね。

 私だけ、代表として来ましたよ!」


「少しくらいなら入れますけど……でもポエール商会も、人が増えてきましたからね。

 そのうち、ポエール商会でも慰労会とかを開いてみますか」


「おお、それは名案です!

 ……さて、それでは私も少し挨拶まわりをしてくるとしましょう。

 それが終わったらアイナさんとお話がしたいのですが、よろしいですか?」


「分かりました、今日の出来事も話しておきたいですからね。

 ではまた、のちほど」


「はい、少々お待ちください!」


 そう言うとポエールさんは、あちこちに行っていろいろな人と話を始めた。

 こういう細かいところで、しっかり顔繋ぎをしているんだろうなぁ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――場所は変わってポエール商会の拠点。

 ヴィオラさんのことはセミラミスさんに任せたので、ここでの用事が終われば私もお屋敷に帰るだけだ。


 話すことだけ話して、今日はさっさと帰ろう――

 ……と思っていたら、ポエール商会の職員が結構残ってくれていた。



「アイナさん、お疲れ様でした!」

「お疲れのところ、申し訳ございません!」

「こんばんわー!」

「今度お話を聞かせてくださいね!」

「ポエールさんばっかりずるい!!」



 口にすることはそれぞれ違うが、夜中にも関わらず歓迎はされているようだ。

 ポエールさんはそんな彼らを手で制しながら、私を奥の部屋へと案内していく。



「ははは……。すいません、野次馬ばかりで」


「いえいえ、私も嬉しいですよ。

 それにこんな遅くまで仕事をして頂いて、ありがたい限りです」


「やることはたくさんありますからね……!」


 やること――特に想定外だったのは、一気に増えた人口の件だ。

 先日の戦いの結果、マーメイドサイドでは大勢の元王国兵を受け入れている。


 無駄飯食らいにはしておけないものの、だからと言ってすぐに仕事を振るのも難しい。

 今はそこら辺を、ポエール商会には全力で頑張ってもらっているところなのだ。



「さて、それでは今日あったことをお話しましょう。

 ……の前に、まずは今日の戦利品をお見せしておきますね」


「はい! 意外とすんなり、賠償金はもらうことが出来たんですね」


 ソファーに座ってテーブル越しに向かい合った状態で、私はアイテムボックスから戦利品を取り出した。

 ジェラードが宝物庫から頂戴したものを、私が別れ際に受け取っていたのだ。



「――これなら、大丈夫でしょうか」


 そう言いながらテーブルに置いたのは、重さ10キロほどの金塊だ。

 金というのは元の世界でもかなりの価値があるが、この世界でも同様に価値がある。


「おお、これは良いですね!

 売って良し、使って良し。それに宝飾品などとは違って、換金しやすいですから!」


「で、これを500個ほど頂いてきました」


「ぶっ!?」


 私の言葉に、ポエールさんは豪快に噴き出した。

 ジェラードによれば、総額はおおよそ金貨10万枚程度。

 私がオティーリエさんに提示したのは金貨100万枚だから、価値としては十分の一といったところになる。


「……それだけあれば、今回の戦いで使ったお金は全額回収できますね。

 破壊された場所を直して、戦いの報酬を支払っても……うん、完全にプラスです!」


「それでは私が使った分だけ返してもらって、あとはポエール商会に預けておきますね。

 一時的に大金が必要になるでしょうし、ご自由に使ってください」


「おお、それはありがたいですが……。

 でも、アイナさんの方は大丈夫なんですか?」


「他にもジェラードさんが――……あ、いえ。

 現物でもいろいろもらってきましたので、私はそちらで。だから金塊は、ポエール商会の方で大丈夫ですよ」


「それではありがたくお預かりいたします。

 余った分は、別口の資産として管理しながら使わせて頂きますね」


「はい、よろしくお願いします」



 ――ちなみにこのあと、やっぱり正直なことも話しておくことにした。

 宝物庫を破ったのはアウトローな手段だから、一応ね。


 しかしジェラードは宝物庫破りを、『混乱に乗じた窃盗』に見せかけるような工作もしてくれていた。

 金塊はまだまだたくさんあったらしいが、その工作によって、かなりの人たちが宝物庫から金塊を持ち出していたのだ。


 だから宝物庫破りの疑いは、私たちに『完全に向く』ということは無いだろう。

 ……まぁ、限りなく黒に近いグレーなんだけどね。

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