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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
580/911

580.手を差し伸べて③

 王都を離れて、私たちは転移してきた場所に戻ってきた。

 ルークたちは戻って来ていないから、今ここにいるのは私とジェラード、レオノーラさんの三人だけだ。


 時間はもう17時。

 当初の予定であれば、そろそろみんなここに来る頃だとは思うんだけど――



「……遅いですね」


「そうだねぇ……。

 時間があるなら、着替えちゃわない?」


 ジェラードが私に魅力的な提案をしてきた。

 今はまだ風俗街用に変装した姿のままで、二人とも遊び人風の格好をしているのだ。

 正直なところ、こんな格好はあまり仲間には見せたくないわけで。


「良いですね、着替えちゃいましょうか。

 でも、隠れる場所がそこの樹くらいしかありませんから……、覘かないでくださいよ?」


「の、覘かないよっ!!」


「アイナさん、私がジェラードさんのことを見張っていましょうか?」


「あ、お願いできますか?」


「……僕、信用無いなぁ……」


「いや、別にルークでも見張りは付けますよ?」


「あ、そう? それならいっか」


 ……よくは分からないけど、そんな返事で納得されてしまった。

 一体ジェラードの中では、どういう基準になっているんだろう……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 特に何も事件も起きず、私たちの着替えはすんなり終わった。

 水場が無かったので髪の色を落とすのに少し苦労したけど、時間があったのでそれも何とかなってしまった。


 そんなこんなで冷えてしまった身体を温めるため、熱いお茶を錬金術で作り出す。

 些細なところで便利なもの、それが私の錬金術なのだ。



「――ところでアイナさんの仲間の方は、今は何をしに行っているの?

 ルークさんやエミリア様も一緒なんでしょう?」


「えーっと……。今はまた、某所を襲撃中でして……」


「えぇ……。どれだけ過激派なのよ……」


「ま、まぁそう見えちゃいますよね……。

 でもレオノーラさんと同じように、助けたい人がいるんですよ」


「あら……。

 アイナさんは、いろいろな方を助けているのね。立派だわ」


「立派と言うか、何と言うか……。

 ただ偶然、助け出せる力を持っただけですよ。もしそれが無ければ、きっと何もできませんし」


「力を持ったからって、誰にでもできることじゃないわ。

 私も助けてもらったし――アイナさんは、もっと胸を張るべきよ」


「……ありがとうございます。

 私も王都から逃げている間、いろいろ嫌な目にも遭いましたけど、それでも助けてくれた人がいたんです。

 誰かを助けられているなら、それは私も嬉しいなぁ……」


「どう考えても私、助けられているけどね」


 そう言いながら、レオノーラさんはにっこりと微笑んでくれた。


 ――護りたい、この笑顔。

 いや、本当に護っていこう。私がレオノーラさんの人生に、大きな変化をもたらしてしまったのだから。



「……あれ?

 アイナちゃん! あそこを見て!!」


 不意に、ジェラードが空を指差して大きな声で言った。

 すでに空は暗くなっているため、いまいちよくは見えないが……何かが飛んでいるようだ。

 そしてそれはこちらに向かって来て――



 ドズン……ッ!!



 ――『それ』は私たちの目の前に、大きな音を立てて降り立った。


「ド、ドラゴン!?」


 レオノーラさんは突然の展開に、驚きを隠せないでいた。

 さすがのジェラードも、レオノーラさんほどではないが驚いている。


 ……しかし私は案外落ち着いたものである。

 だってこれ、知り合いだし。


「セミラミスさん、どうしたんですか!?」


「え? セミラミスさん……なの?」

「え? お知り合いの……ドラゴン……様?」


 私たちの言葉を受けて、そのドラゴンは一瞬輝いたあと、見る見るうちに人間の姿になっていった。

 それはいつも見るセミラミスさんの姿で、途端にいつも通りの弱々しさを振り撒き始める。


「はわわ……。アイナ様~、助けてくださーい……」


「ど、どうしたんですか? 何か失敗しちゃいました?」


「うぅぅ……。最後までは上手くいったんですぅ……。

 でも最後に、厄介な仕掛けがありまして……!」


「厄介な仕掛け……?

 それでセミラミスさんは、私たちを呼びにきたんですか?」


「は、はい……っ!

 あのお屋敷の近くには龍脈が通っていたので、そこからもマーメイドサイドに帰還することができます……。

 ……なので、アイナ様たちも来ていただけないでしょうか……?」


「分かりました!

 えっと、セミラミスさんは三人乗せて飛べますか?」


「大丈夫です……!

 アイナ様と、ジェラードさんと、あとは――」


「初めまして、セミラミス様。

 私はレオノーラと申します」


「は、はうっ!?

 こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします……」


 丁寧に挨拶をするレオノーラさんと、慌てて挨拶をするセミラミスさん。

 この二人も、何だか面白い組み合わせのような気がする。今後に期待しておこうかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――冬の夜空を、ドラゴンに乗って飛んで行く。


 とても幻想的に聞こえはするが、正直言えばかなり怖い。

 飛行機みたいに密室というわけでも無いから、風がびゅんびゅん吹いてくる。

 暗くて視界も悪いし、ちょっとした結界を張ってもらっているとは言え、やっぱり寒い。


 空を飛ぶのはポチに乗って多少は慣れているが、セミラミスさんは速さが段違いなのだ。

 そのため、初めてこんな経験をするレオノーラさんにとっては、かなりの恐怖が伴うことだろう。



「アイナさん……っ」


 私にしがみついたレオノーラさんが、後ろで小さく私の名を呼ぶ。

 命綱のようにロープで身体を巻き付けているから、手を離したところで落ちはしないんだけど――やっぱり怖いよね。


「大丈夫ですか?

 ……その、ダメでも我慢してもらうしかないんですけど……」


「え、えぇ……。大丈夫よ……。

 ……それにしてもアイナさん、セミラミス様とはどういう関係なの?

 竜族から『様』付けで呼ばれるなんて、どれだけ偉くなったのよ……」


「それはですねぇ……。

 うーん……、いろいろとあったんですよ……」


「……いろいろ。

 そうね。あれからずいぶん、時間が経ってしまったものね……」


 レオノーラさんは噛み締めるように、寂しそうに呟いた。

 私たちが酷い目に遭っていたのと同様、レオノーラさんも酷い目に遭っている。


 いろいろなことがあったけど、私たちは苦難を乗り越え、今は進む先が決まっている。

 しかしレオノーラさんは、まさに今日が再出発の日となるのだ。


 今までは辛い日々が続いたけど、それでも今日からは、明るい未来に向かって――



「――アイナちゃん!

 向こうの方、明るくなってるよ!!」


「えぇっ!?」


 私たちの向かう先に目を向けてみれば、何かが燃えて明るくなっているような――

 ……違う違う、そういう明るさを求めていたわけじゃなくてっ!!


 しかし改めて見れば、それはエミリアさんの『暴食の炎』のものらしかった。

 作り物のような美しい炎。それはつまり、『暴食の炎』なのだ。



「……アイナさん、あの場所って――」


「レオノーラさんはご存知ですか?

 あそこはグランベル公爵のお屋敷です。あそこに、助けたい子がいるんですよ」



 ――目指すはグランベル公爵のお屋敷。

 そして助けたいのは、当然――

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