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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
579/911

579.手を差し伸べて②

 私はレオノーラさんを落ち着かせてから、急いでお店を出ることにした。


 入口のカウンターにいた老婆は、怯えながらも大人しくしてくれていたようだ。

 基本的にはジェラードが監視していたから、あまり動くことは出来なかったんだけどね。


 ……ちなみに廊下の端で、屈強な大男が倒れていたのが気になった。

 多分、私がいない間に用心棒みたいなのをジェラードが倒したのだろう、きっと。




「――サイズは大丈夫ですか? 服、それしか無くて」


 とりあえずレオノーラさんには、私がテレーゼさんにもらった服を着ていてもらった。

 逃亡生活の中で私を助けてくれた、魔法使い風の服だ。


「ちょっと胸が――……ううん、大丈夫よ。ありがとう」


 ……ん?

 何か気になることが聞こえたけど、そこは無視しておこう。


「アイナちゃん。僕たちは着替え、どうしようか。

 この格好のままじゃ、風俗街の外だと浮いちゃうよ」


「う……。着替えたいですけど、そんなことを言っている場合でも無いような……」


 行きとは違い、帰りはもう街を出て逃げるだけなのだ。

 ……それに、私たちはむしろこの姿の方が良いかもしれない。

 何せこの街に入るとき、堂々と街壁を破って、さらに街中で戦いを繰り広げてしまったわけだし――


「……それにしてもアイナさん、そういう服も着るのね……」


「こ、これは変装用ですよっ!? ここに潜入するとき以外は着ませんから!!」


「まぁ、少し着られている感じがするものね……。

 ……ところで、これから私のことをどうするの?」


 今になって心配そうに、レオノーラさんが聞いてきた。

 そういえばこれからの話はまだしていなかったっけ。



「レオノーラさんは、帰るところはあるんですか?」


「……いいえ。

 お父様もお母様も殺されてしまったし、王都には私の居場所はもう無いわ……。

 大聖堂だって、あの人の息が掛かっているでしょうし……」


「え!?」


 ……話を聞いてみれば、王位継承のお家騒動の中、レオノーラさんの両親はオティーリエさんの対抗側に付いていたらしい。

 その結果、王位がオティーリエさんにいった時点で処刑。

 そしてレオノーラさんは風俗街に連れていかれた……とのことだった。


 話しているうちにレオノーラさんの歩みは遅くなり、身体を細かに震えさせ始めた。


「……だから、ね?

 アイナさんも私なんか捨てて、すぐにこの街から逃げて欲しいの。

 一年前はどうにか逃げられたようだけど、今回もまた、ここから逃げなきゃいけないんでしょう……?」


「嫌ですよ!

 レオノーラさんを捨てるのも、レオノーラさんが悲しい思いをするのも!!」


 私は歩みを止めて、レオノーラさんの真正面から、彼女の両肩を強く掴んだ。

 レオノーラさんはそんな私を、驚きながら真っすぐに見つめ返してくる。


「――アイナさんは真っすぐに生きてこられたのね……。

 でも、私はもう――」


「そんなこと、言わないでください!!!!」


「……あ、アイナさん……?」


「――……ねぇ、レオノーラさん。……私、クレントスの向こうで……今、街を作っているんですよ。

 ほら、私だって前の王様に命を狙われて、懸賞金まで懸けられて、長い逃亡生活を送って、それでようやく落ち着ける場所を作り始めたんです……。

 まわりから(うと)まれて、まわりから命を狙われて、どこまでも追い詰められて……。

 ……でも、みんなのおかげでまた、前に進められているんです。

 だからレオノーラさんも、私の街に来てくれませんか?

 そこで一緒に、私と一緒に幸せになりましょうよ……」


「幸せに……」


「……はい。

 誰がどうとか、関係ありません。今まで何があったのかなんて、関係ありません。

 私は友達を助けたい。レオノーラさんだって、危険を承知で私を助けようとしてくれたじゃないですか。

 レオノーラさんのことはもう、誰にも手出しをさせません。だから――……」


「ちょ、ちょっとアイナさん……。

 こんな通りの真ん中で、そんなにぼろぼろと泣かないでくれるかしら……」


「そ、そういうレオノーラさんだって! ぼろぼろじゃないですかっ!」


「違うわよ、これは――」



 レオノーラさんはそのまま、両手を顔に当てながら泣き続けた。

 それを見て、私の涙も止まらなかった。


 ……結局また、ジェラードから声を掛けられるまで、二人で泣き続けてしまった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――簡単に脱出できると思った王都の街も、なかなか難しくなってしまっていた。

 さすがに王城が襲撃されたということで、私がレオノーラさんを助けている間に、警戒線が張られてしまったようだ。

 ルークたちはもう、街を出ているから大丈夫なはずだけど――


「……参りましたね。

 ルークかエミリアさんがいてくれれば、突っ切ることも簡単だとは思うんですけど……。

 あっちに行ってもらっちゃったからなぁ……」


「え? ルークさんも、エミリア様も来ているの?

 ……って言うか、エミリア様がいればどうにかなるものなの!?」


「あはは、エミリアさんも強くなりましたよ。

 だからみんなで揃って、今日は王城を襲撃してきたんです」


「えぇ……。騒ぎが大きいと思っていたら、そんなことをやっていたのね……。信じられないわ……」


「ちなみにレオノーラさんの居場所は、オティーリエさんから聞き出したんですよ」


「……どうやって調べたのかは気になっていたけど……。

 まさかの直接だったなんて……、ふふっ」


 レオノーラさんはようやく、少しだけ笑ってくれた。

 会った最初こそ営業スマイルを見せてくれたけど、その後は全然笑ってくれていなかったのだ。

 今までの境遇からして、それも仕方が無いとは思うけど……。


「ところでジェラードさん、ここはどうやって通り抜けましょう。

 私の魔法は目立つので避けたいんです。ここを打開できるような必殺技とか、覚えていませんか?」


「えぇ!? 何、その無茶振り!?」


「いえ、ルークもエミリアさんも、最近は何だか凄く強いじゃないですか。

 だからその……ここはジェラードさんの、隠密的な必殺技を何か……」


「それなら僕にも神器をおくれよ……」


「えぇー……?

 ……ああ、でも土属性のやつなら作れると思いますよ」


「っ!! 是非、是非お願いっ!!

 ルーク君とエミリアちゃんばっかりズルいからさ!!」


「仲間になった順だと考えれば、実に妥当な順番なんですけど……。

 でもそうすると、次は確かにジェラードさんの番ですね。

 ……ああ、でも私も自分の分を作りたいんですよ」


「うん、そのあとでも大丈夫だから!

 神器をもらえたら、アイナちゃんの仲間になったんだっていう実感が湧くからさ!!」


「えぇ? 今まで無かったんですか?」


「それとこれとは別の話!」


「むぅ……?」


「――はぁ。アイナさん、神器をどれだけ簡単に作っているのよ……。

 私も『世界の声』でいろいろと聞いてはいたけど、全部アイナさんの仕業なんでしょう……?」


「えへへ♪」


 レオノーラさんの冷ややかな目に、私はとりあえず照れ笑いをしておいた。



「……ま、必殺技は使えないけどさ。

 街門を通り抜けることが出来れば良いんでしょ?

 通り抜けさえすれば、アイナちゃんの霧の魔法を使って簡単に逃げられるわけだし」


「ふむ、なるほど……」


 明るく言うジェラードを信じて、私たちは街門に向かうことにした。

 いざとなれば私も参戦するけど、今は人数が少ないからね。

 ……やっぱりちょっと、心配にはなってしまうかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――おい、そこのお前たち! ここは今、封鎖されている!!

 ……というか、そんな恰好で街の外に出る気だったのか!?」


 街門に行くと、私たちは衛兵に呼び止められた。

 ……まぁ封鎖されていなくても、こんな遊び人っぽい格好なら呼び止められるとは思うけど。


「お仕事、ご苦労様~♪」


 ――ヒュッ


「ぐぁ……?」


 バタンッ


「はい、次~♪」



 倒れた衛兵の前を通り過ぎると、ジェラードはそのまま街門から外に出ようとした。

 しかし当然のことながら、別の衛兵がそれを止めてくる。


「おい、お前! ちょっと待て――」


 ――ヒュッ


「ぐぁ……?」


 バタンッ



 ……良く見えないが、ジェラードは声を掛けられるたびに、素早い一撃を衛兵に食らわせていっている。

 あまりの速さに、別の衛兵は何が起こっているか分からない状態だっただろう。


 それを繰り返すこと10回ほど、私たちはすべての衛兵たちの前を無事に通過することができた。

 しかし街の中からは別の衛兵が私たちに気付き、猛然と追い掛けてくる。


「それじゃアイナちゃん、お願いね♪」


「ジェラードさんに、必殺技なんて要らなかったんだ……。

 それじゃ、アルケミカ・ディスミスト――スリープポーション!!」



「ぅぁ……?」

「眠気が……」

「すやぁ……」


 バタッ バタタッ



 街門の近くにいた一般人を巻き込みながら、私の魔法は衛兵たちを全員、白い霧で包み込んだ。

 ……関係ない人、ごめんなさい。


 しかしこれで、私たちを追ってくる衛兵の動きは止めることができただろう。



「よーし! アイナちゃん、レオノーラさん!

 さっさと走って逃げちゃうよ!!」


「はーい!

 ……それにしてもジェラードさん、必殺技とか無くても普通に突破できるじゃないですか。

 まったく、大概ですよねぇ」


「アイナさん、あなたがそれを言うの……。

 あなたの魔法だって――」


「え?」


「……いえ、何でも無いわ……」



 ――途中で言うのを諦めるレオノーラさん。

 まぁ、そう言えばそれもそうか。私も結構、大概なものなのだ。


 ……でも自分のことになると、最近ちょっと分からなくなっちゃうんだよね。

 自分が普通というか、標準というか……、つまりはそんな感じということで。

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