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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
577/911

577.殴り込み④

 戦いとなれば、私たちも本気だ。


 しかしこれはただの戦いでは無い。

 この戦いには目的があるのだ。



「オティーリエさんは私が相手をします!

 他の敵はみんなでお願い!!」


「「「「「はいっ!!」」」」」


「……ちっ! 舐めてんじゃないわよ!!

 シルバー・ブレッド!!」


 オティーリエさんは苛立ちながら、私に向かって攻撃魔法を放った。

 彼女もルーンセラフィス教で長く活動をしていただけに、当然のように魔法はエミリアさんと被ってしまう。


 しかしそれゆえ、私は特に意識もせずに避けることができる。

 何せこの世界に来て以来、シルバー・ブレッドは一番見ている攻撃魔法だからね。


「王様ともあろう方が、その程度の魔法しか使えないんですか?

 アクア・ブラストッ!!」


「はっ! 貴女こそそんな水魔法しか使えないの!?」


 オティーリエさんは私の魔法を、あっさりと防御結界で散らしてしまった。

 攻撃力は低くても、防御力は高い――そんな感じの戦闘スタイルか。


 ……でも、私が錬金魔法を使ったら一発で決着が付いちゃうんだよね。

 それはそれで良いんだけど、オティーリエさんにはこの戦いで、私への苦手意識を持って欲しいのだ。

 これから私たちに、ちょっかいが出せなくなりそうなくらいの――



 ……オティーリエさんと戦いながら、ちらっと他の場所を見てみれば、それぞれが激しく交戦していた。


 私の仲間がオティーリエさんを攻撃することは無いけど、その逆は有る。

 オティーリエさん以外の敵は、彼女を護るために当然のことながら私を狙って攻撃をしてくるのだ。


 しかしそれを上手く調整しているのが、ルークとエミリアさんだった。

 二人ではさすがに私の全方位を囲むことは出来ないけど、そこはエミリアさんが防御結界を作って、敵を足止めしてくれている。

 何せ今のエミリアさんは、視界の範囲であればどこにでも防御結界を作ることが出来るからね。


 ……本当、敵にはまわしたくない人財だ。

 いや、それがなくても誰かに渡すなんて嫌だけど。



「――余所見(よそみ)してるんじゃないわよッ!

 我が杖に宿れ! ベイキャント・エンハンス!!」


 オティーリエさんが大声で唱えると、彼女の持つ杖に陽炎(かげろう)のような揺らめきが(まと)わり付いた。

 見ていると何か心がざわつくような、何だか嫌な感覚――


「アイナ様っ! その魔法は危険ですっ!!」


 後ろからセミラミスさんの声が聞こえてくる。

 え? あのセミラミスさんが、言葉に淀みなく言うほど!?


「バニッシュ・フェイトッ!!」


 オティーリエさんがその杖で、私に直接攻撃をしようとしている中――私はギリギリ、対抗の魔法を放つことが出来た。

 私の魔法はオティーリエさんの杖に纏った陽炎を一瞬で、溶かすように消していく。



 ――バシッ!!



 そして私が受けたのは、ただの杖による攻撃だった。

 あの魔法が生きていたら、一体どんな効果だったのか――


「ちっ! その魔法も忌々しいッ!!

 何で貴女なんかが! そんな高位の魔法を持ってるのよッ!!」


「私、神様には愛されていますからね!」


 アドラルーン様のことは恨んだときもあったけど、今ではとても感謝をしている。

 この世界で起きた奇跡は、全部アドラルーン様からの祝福だと思えるくらいに。


「何で貴女なんかを……! 貴女が、この世界のなんだって言うのよ!!

 この世界には私のような――」


「……無能な王様が必要とでも?」


「……っ!! 殺してやる……! 跡形も残らないほどに――」


 その言葉を発したあと、オティーリエさんは私から一気に距離を取った。

 そして私たちの間に防御結界を張り、その中で長い呪文の詠唱を始める。



 ――え?

 防御魔法を使いながら、他の魔法も使えるの? ……えぇ、本当に!?


「バニッシュ・フェイト!!」


 私はすかさず防御結界を打ち消した。

 しかしそれでも一瞬時間を取られ、そしてその隙にオティーリエさんの詠唱は完了してしまう。

 さすがにもう一度、バニッシュ・フェイトを使う猶予なんて無さそうだ。


 ここまで手順を踏んで使おうとしている魔法なのだから、きっとオティーリエさんの奥の手になるのだろう。

 恐らくはセミラミスさんが危険視した、先ほどの魔法よりもずっと強力な――



「全員滅べッ!!

 ベイキャント・クリムゾンッ!!!!」



 その瞬間、オティーリエさんの身体が炎に包まれた。

 激しく燃える炎に、周囲は明るく照らされる。


「炎で全員を倒す気!?」


「……え……? な、何よ、これ……!?」


 私の言葉に、オティーリエさんは戸惑いの表情を浮かべた。

 使った本人がそんな表情をするなんて――

 ……あれ? どういうこと?



「アイナさんっ!!」


 私の後ろから、エミリアさんの大きな声が聞こえてきた。

 振り返って見れば、宙に魔法陣を描いたエミリアさんが真剣な眼差しでオティーリエさんを見ている。


 ……ああ、そうか。

 エミリアさんが『暴食の炎』で、オティーリエさんの魔力を燃やしていたのか。

 タイミング的にはかなりギリギリだったはずだけど、こういう妨害目的の使い方もあるんだね。


「エミリアさん、ありがとうございます! 今度ご飯を奢りますね!!

 ――とぉりゃっ!!」


 私はオティーリエさんに走って近付き、杖で思い切り彼女のお腹を突いた。

 さっきは杖で殴られたからね。目には目を、歯には歯を、杖には杖を、なのだ。



「ぐ……っ!?

 まさかエミリア様が炎魔法を……?

 それに――何よ、この炎! 私の魔力が抜けていく……!?」


「これでもう、貴女は魔法を使えません。

 ……最後に聞きます。賠償金と領地の件、考え直してくれませんか?」


「誰が貴女なんかに!!

 まったく貴女が来てから本当におかしくなったわ! あのコウモリ娘だって、貴女に肩入れなんてしなければ――」



 ――コウモリ娘。

 オティーリエさんが『コウモリ』と言うとき、それはレオノーラさんのことを指している。

 王族と王族以外の間で、どちらにも良い顔をしているように捉えているからだ。


 私が最後にレオノーラさんを見たのは、『白金の儀式』が執り行われる直前。

 そのときは私が儀式に参加しようとするのを、危険を承知の上で止めようとしてくれたのだ。

 その場で拘束されて、どこかに連れていかれてしまったけど――



「……レオノーラさんは、どうしている?」


「あら、知りたいの? ふふふ、知りたいわよねぇ?

 あははっ! あの娘ならもう、王室にはいないわよっ!!」


「……いない?」


「私が王位を継いでからね、あの娘のことがもう嫌になっちゃって。

 一見従順そうに見えるんだけど、でも貴女のことを(かば)ったのよ? なんて汚らわしい……。

 だから汚物には、汚物に相応しいところに叩き込んであげたのッ!!」


 オティーリエさんの言葉に、自分の表情が強張(こわば)っていくのがよく分かる。

 私を命がけで助けようとしてくれた友達を、よりにもよって汚物だなんて――



「……言いなさい。

 レオノーラさんを、どうしたの……」


「知りたければ仲間に武器を捨てさせろッ!!

 ……交換条件よ? 今回は大人しく引き下がりな――」


「――『言え』って言ってんだよぉッッ!!!!」




 ズガアアアアアアアァンッ!!!!!!




 私の怒りの声と共に、謁見の間にはアルケミカ・クラッグバーストの轟音が響いた。

 その魔法は玉座の左側を貫き、立派な内装の壁を無惨に破壊していく。


 そして――



「ひ……。ぎゃ、ぎゃぁあああああああっ!!?

 わ、私の腕ッ!! 私の腕がぁああああああッ!!!!」



 ――オティーリエさんは絶叫の中、右肩の下……少し前まで美しい腕が伸びていた場所から、激しく血を噴き出させていた。

 激痛に顔を歪ませながら、自身で回復魔法を使っているのはさすがではある。


 彼女がその場にへたり込み、なおも回復に集中しているところに、私は静かに歩み出た。

 そしてアイテムボックスから高級ポーションを取り出し、オティーリエさんの頭の上からドバドバと振り掛ける。


 高級ポーションは彼女の頭を伝い、顔を伝い、首を伝い、肩を伝い、そして腕の根元へと流れて傷を癒していく。

 残念ながら、身体の欠損を治す効果までは無い。ただ単に、吹き飛ばされた断面を治してくれるだけだ。



「――貴女にはまだ、生きてもらわないと困るの。

 無能な貴女が、もう少しこの国を治めていてくださいよ。

 ……さぁ、レオノーラさんのことを教えてください。もし断れば次は――……分かっていますよね?」


「ひっ!?

 お前ら、何をしているッ!! 早くこの女を――」



 オティーリエさんが声を荒げて呼び掛ける中、戦いの行方はすでに決していた。

 まだ敵は残っているが、それでもこちらの数に押されて上手く戦えないでいる。

 当然、オティーリエさんを護ることの出来る敵はもういない――



「……さぁ、しっかり話してくださいね。

 余計な真似をしても、殺しはしません。ただ、このあと生きていくのに不便が増えるだけですよ」



 ――……私は今、どんな顔だったのだろうか。

 オティーリエさんの顔は、今まで見たこともないような絶望的な顔になっていたけど。

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