574.殴り込み①
「――私はマーメイドサイド領主、『神器の魔女』アイナ・バートランド・クリスティア!
ヴェルダクレス王国軍より受けた被害を清算しに来たッ!!」
場所は懐かしのヴェルダクレス王国、王都ヴェセルブルク。
私は仲間を連れ立って、総勢100人で王城の前へとやってきた。
今回同行しているのはルークやエミリアさんを始めとした、現時点でのマーメイドサイドの主力メンバーを動員して押し寄せている。
マーメイドサイドから王都までは、普通に行けば25日ほど。どんなに急いでも18日は掛かってしまう。
私たちはその道のりを、セミラミスさんの新魔法――……転移魔法によって、一瞬で済ませることができた。
その時間差によって、王国軍の敗北の知らせはまだ王都には届いていないはずだ。
転移魔法で私たちが飛ばされてきたのは、『循環の迷宮』と王都の中ほどの場所だった。
そこからであれば、王都を護るものは王都の街壁のみ。
私たちはその場所に早朝に訪れ、そのまま王都へ向かい、お返しとばかりに街壁を破壊して、そしてその後は堂々と王城へ向かった。
……もちろん途中で衛兵や騎士などに囲まれたものの、そこは戦力でごり押しだ。
そんな程度の人たちが、今さら私たちを止められるはずも無いのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お前たち、大人しくしろ!!
こんな無茶が通ると思うなッ!!」
王城の入口を警備していた騎士たちが、剣を構えながらこちらを威嚇してきた。
しかしそんな威嚇は大したことでは無い。今日はもう、行け行けゴーゴーの心持ちなのだ。
「直ちに城門を開け、私たちを通しなさいッ!!
現国王、オティーリエに用事があるッ!!」
「な、何を馬鹿げたことを……!!
一体何が目的だッ!!」
「――目的?
マーメイドサイドに侵攻した王国軍、4万は壊滅させた!!
敗北したヴェルダクレス王国には、今回我らが受けた被害の賠償を求めるッ!!」
「は……? 敗北しただと……?
ちょっと待て、何を根拠にそんな……!!」
「この場で語ることは無いッ!
我らは本気だ! 直ちに通さなければ――」
私は右手で王城の見張り塔を指差し、小さくアルケミカ・クラッグバーストを唱える。
――ズガアアアアアアアァンッ!!
ドォオオオンッ……!!
「うぉっ!?」
「ひっ!?」
「何だッ!!?」
いつもの轟音と、それに続くのは見張り塔が崩れる音。
高いところからは瓦礫が下に、ぼろぼろと大量に落ちてくる。
「こちらは一方的に王国軍から攻められ、大切な仲間の命を失ったのだッ!!
お前たちに選択肢は無い!! 直ちに現国王、オティーリエを出せッ!!」
「ふざけるなッ!!
ここをどこだと思っているッ!!」
物分かりの悪い騎士を相手にしていると、敵の頭数もどんどん増えて、結構な人数になってしまった。
さすが敵の本拠地だ。
……以前までは生活の場から近い場所だっただけに、あまり『敵の本拠地』っていう感じもしないんだけど……。
「聞く耳を持たないのであれば、こちらも無理を通すのみ。
我らはあくまでも被害者。それを努々、忘れないよう――」
私は軽く手を挙げ、仲間たちに合図を送った。
この王城も、以前一度は来たことがある場所だ。
さすがに完全には覚えていないが、玉座の間への方向くらいは覚えている。
……つまり?
ここからは、強引に入らせてもらうことにしよう。
相手の勝手なんて、こちらの知ったことでは無いのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アルケミカ・ディスミスト!!
――スリープポーション!」
「ぅぉ……」
「ふわぁ……」
「すやぁ……」
王城に強引に入り、しばらく進んでから、通ってきた道に白い霧を作り出す。
この霧の中に入ってしまえば、途端にスリープポーションの睡眠効果が発生してしまうのだ。
……正直、この魔法は便利過ぎる。
特定の場所にそれなりの時間、敵を完全に無効化する領域を作ってくれるのだ。
今までは屋外でしか使ったことが無かったけど、もしかしたら屋内でこそ光る魔法なのかもしれない。
私たちが進む先や脇道から現れる敵に対しては、ルークの容赦ない攻撃と、エミリアさんの奇をてらった魔法攻撃が飛んでいく。
エミリアさんは敵の防御陣形を完全に無視して、今回も後衛の敵から順番に倒してくれている。
例によって初見ともなれば、敵も一体何が起こっているのか分からないことだろう。
セミラミスさんはいつも通りびくびくとして私の影に隠れているが、今回はエミリアさんの代わりに防御魔法を使ってくれている。
グリゼルダは――……実は彼女だけは、マーメイドサイドでお留守番だ。
主力メンバーが街から全員離れるのを懸念して、今回はマーメイドサイドの防衛を一手に引き受けてくれたのだ。
さすがに一人では大変だから、いざとなれば竜化も辞さないとのこと。
……王国軍との戦いのときとは違ってがっつり手伝ってくれているけど、先の戦いで私たちが勝ったから、今回は加護の範囲でやってくれるんだって。
あとは――ジェラードはいつの間にか、どこかに行ってしまった。
……まぁ、これはいつも通りだね。
でもジェラードのことだから、いざというときには絶対に役に立ってくれることだろう。
帰るまでに合流できなかったら、そのときは申し訳ないけど置いていかせてもらおうかな♪
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私たちがずかずかと王城を進んでいると、巨大な魔法の罠を発見した。
さすが王城、いろいろと侵入者への対応をしているものである。
しかし――
「バニッシュフェイト!!」
「……な、何だと!? アレを見破られた……ッ!?」
ここは敵の本拠地ということもあり、私は歩きながらずっと鑑定を続けている。
そのため罠もあっさりと見つけられるし、それが魔法で作られているものであれば、私は無条件で解除することまでが出来る。
さすがに王城では物理的な罠を仕掛けるわけにもいかないし、私と相性が良い場所とも言えるだろう。
……それにしても王城の中を眺めていると、やはり懐かしさが蘇えってきてしまうものだ。
良い思い出かと言えば、そんなことも無いんだけどね。
何しろあのときは、王様とオティーリエさんに『白金の儀式』に巻き込まれて、結局は王都から追われるはめになったしまったのだから――
……その途中で神剣アゼルラディアを作ったのは良い思い出だけど、さすがにその後が悪すぎたわけで……。
「――くそっ!!
これ以上は通すな!! ここは護るぞ!!」
「「「おお!!」」」
敵もいろいろな手を打ってきているが、お次はバリケードのようなものを築いてきた。
攻撃しても止まらない、それなら物理的に進めなくする……ということだ。
しかし捻りの無い妨害なんて、私たちを邪魔するにはこと足りない。
「アルケミカ・クラッグバースト!」
――ズガアアアアアアアァンッ!!」
「うっわぁああっ!?」
「吹き飛ばされた!?」
「退け、退けぇ!!」
魔法で罠を張ってもダメ、物理で妨害しようとしてもダメ。
前から攻めてもダメ、側面から攻めてもダメ、後方からはそもそも攻められない。
100人で王城に乗り込むのは無茶だと思ったこともあったけど、案外何とかなっているものだ。
今回一緒に来てくれた残りの90人近くの仲間だって、ルークの指揮のもと、みんなが良い仕事をしてくれているからね。
大勢で王城を進む関係で、一番端から一番端までは命令は届きにくいけど、それでも自分で判断して上手くやってくれているのだ。
……さて。
さすがにここまで来れば、私たちの脅威は十分に伝わったことだろう。
そろそろ次の段階に行こうかな。このまま謁見の間まで雪崩れ込んでも良いんだけど――
「――改めて我らの要求を伝えるッ!!
マーメイドサイドに戦いを仕掛けた王国軍、4万は壊滅させた!!
敗北したヴェルダクレス王国に、我らが受けた被害の賠償を求めるッ!!」
「ふざけるな!
そんな真偽の分からん情報だけで、国王陛下に会せるなど!!」
「王国軍に編成されていた『千瞳の大賢者』クラウディア、英雄ハルゲイルは戦死したッ!
グランベル公爵家が所有していた魔導兵器も破壊したッ!!
『世界の声』で聞こえただろう? 神剣デルトフィングも、神剣ナナフヴァドスも消滅させ、新たな神器を作成した!!
――……私は『神器の魔女』アイナ・バートランド・クリスティア。
これ以上、何の証明が要る?」
「くっ……!!」
私の長々とした口上を、敵は今度こそしっかりと聞いてくれた。
まだ王都まで伝わっていないだろう新情報もあったからね、ちゃんと上の人に伝えておいてね。
その騎士が王城の奥に逃げるのをゆっくりと眺めたあと、私は何となく見覚えのある部屋を見つけた。
……確かここ、王族の人がお茶を飲んでいた場所だったっけ。
さすがにオティーリエさんも準備をする時間が要るかもしれないし、ここで少しだけ時間を潰して行こうかな。
敵が接触してきたら、容赦なく攻撃はするけど。
……とりあえず部屋の中を鑑定して、何も問題無いことを確認する。
この部屋への入口は一か所だけだから、ここはルークが門番を買って出てくれた。
補佐に着くのはエミリアさん。念のために私も、いざというときはすぐに対応できる場所に座ることにしよう。
――さて。それじゃ1時間くらい、時間を潰してみようかな。
そのあとは謁見の間まで一直線に進むことにしよう。
敵には時間をあげているのだから、引き続き妨害をしてくるようであれば、さらに容赦なく潰させて頂くことにしよう。




