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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
572/911

572.セミラミスさんの新魔法

 次の日は朝から豪華な食事だった。

 食糧の値段は高騰しているものの、今日くらいは財力でカバーだ。


 ……何せ久し振りに、グリゼルダやセミラミスさんと一緒の食事だからね。

 日数的には大したことはないけど、この数日の内容が濃すぎたと言うか。



「うーむ、豪華な食事じゃのう♪」


「はわわ……。美味しそうです……」


「やっとお二人に戻ってきてもらえましたからね♪

 まだまだやることは多いですけど、これでひと段落ですよ」


「ふふふ♪ それにしてもまさか、これほどまでに被害を少なく済ませるとはのう。

 運も大きかったが、それも日頃の行いじゃろうな」


「確かに運が良かったですね。

 エミリアさんのユニークスキルとか、あれが覚醒していなかったらまた違ったでしょうし」


「おお? エミリアの『神竜の卵』も孵化したのか。

 どういうスキルを覚えたんじゃ?」


「えぇっと、『魔法発動点無視』っていうやつなんですけど……。

 視界の範囲なら、魔法発動点をどこにでも出来るっていう」


「ふえぇ……。そんなスキルがあるんですか……」


「妾もそんなものは初耳じゃのう。

 ……いや、それは妾も欲しいくらいじゃ」


「私も欲しいですよ!」


「アイナ様がそんなものを持ったら……、さらに無敵になるじゃないですか……」


「ただでさえ、アイナには錬金魔法があるからのう。

 あんなに無茶苦茶な攻撃をどこからでも撃たれたら、それこそ冗談では済まんぞ?」


 ……まぁ確かにそうだけど。

 魔法の中では威力が控えめなシルバー・ブレッドでさえ、あんなにも活躍したくらいだからね……。



「それ以外にも、運の良かったことはたくさんありました。

 でもやっぱり、これまでに培ってきたものの集大成だって気もしました」


「うむ、そうじゃな。

 日々の積み重ねが、いざというときには生きるものじゃよ」


「ところでグリゼルダたちの方は大丈夫でした?」


「余裕、余裕じゃ♪

 ちらっと変な連中のちょっかいは受けたがな」


「変な連中?」


「ほれ、ルークが海の魔獣と戦っていたじゃろ?

 あんなやつらがこっちにも来おってのう。妾らは何もせんと言うのに」


「あはは。でもそれ、相手は知りませんからね……」


「うむ。ま、多少は戦力を削ってやったから、ありがたく思うが良い。

 ……結局はルークがいたから、何も変わらんかったとは思うがの」


「あ、ルークのことは見えていたんですか?」


「あんなにしょっちゅう戦っておったら、嫌でも気付くわいな。

 前線に出たことは少なかったじゃろうが、海辺ではずいぶん奮闘しておったぞ」


「前線に出たら出たで、神器持ちの英雄を倒してくれましたけどね」


「おお、それそれ。

 また変なタイミングで神器を作ったものじゃのう」


「予定には無かったんですけど……。

 投降させるために、ちょっと敵の心を折ろうかなって」


「ふむ、大声で言っておったのう。

 しかしさすがの妾も、神器の二本消しはショックじゃったよ……」


「長らくの間、神器は三本でしたからね……。

 それも全部、アイナ様が消してしまわれて……」


 ……おっと。神器を消したのは、人間だけではなく竜族にも精神ダメージを与えてしまっていた。

 しかし新しい神器も作ったし、余力としてはあと2つ分の魂を持っている。

 ここはそういうことで、ご理解を得ていくことにしよう。



 私たちはそのまま、戦いの数日に起きたことをじっくり語り合った。

 人魚の島の方は基本的に平和だったから、大体はこちらの話になっちゃったけどね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――ふむ、大体は把握した。

 ところで、これからはどうするんじゃ?」


「そうですね、まずは街壁を直して、あとは投降した人の住む場所を確保して――」


「ああ、それもそうなんじゃがな。

 もう少し大きいところじゃよ」


「大きいところ?」


「うむ。アイナたちはヴェルダクレス王国から仕掛けられた戦いに勝ったんじゃろ?

 国と国との戦いであれば、賠償金を求めるところじゃからな」


 そう言えばそうだ。

 この戦いのおかげで結構な被害も出たし、準備をするためにお金も使ってしまった。

 それにこれから、1万人以上の投降者を受け入れなくてはいけないのだ。


 お金なんていくらあっても困ることなんてない。

 そもそも私やポエールさんが負担している部分だって、かなり多いのだから。



「……私たちはまだ、国としての名乗りを上げてはいませんし、それに攻め込まれた側ですからね。

 何かを要求するにしても、集団で王都に出向くのは現実的で無いというか……」


「ま、ひとまずは距離が問題じゃよな。

 王都まで行ってしまえば、今のアイナなら余裕で要求を通すこともできるじゃろうが」


「私、どれだけ乱暴者なんですか……」


「それもあるが、さすがに胆力も半端なくなってきたからのう。

 うむ、そういう意味でじゃよ」


 ……いや、後半は確かにそう思うときもあるけど、前半!

 前言を全然撤回していないじゃないですか!!


「……言い返したいところはありますが、ひとまず置いておきましょう。

 まぁそんなわけで、いろいろと要求するのは難しいんじゃないかな、と」


「そこで今回は、セミラミスの出番じゃな!」


「え? 何でここで、セミラミスさんが?」


「実はですね……。私もアイナ様に触発されまして、新しい魔法を研究していたんです……!」


「おお、セミラミスさんの新魔法!」


 セミラミスさんはユニークスキル『魔法理論合成』を持っている。

 そのため、異なる系統の魔法を組み合わせて、新しい魔法理論を作ることが出来るのだ。

 他にもそれを利用して、新しい魔法を作り出すことも得意としている。



「魔力の消費は半端無いが、かなり便利な魔法じゃぞ。

 のう、セミラミスよ」


「はい……! 早速アイナ様のお役に立てそうです……!」


「それは期待しちゃいますね!

 一体、どういう魔法なんですか?」


「簡単に言ってしまえば、長距離の転移魔法になります……!」


「転移魔法……!

 あれ? グリゼルダも使えませんでしたっけ?」


 ガチャの殿堂に置いているガチャの装置。

 あれにもさりげなく、ガチャを補充をするときに転移魔法を使っているのだ。


「あれは軽いものを、短距離で移しているだけじゃからな。

 いくら魔力を使おうが、あれ以上は妾には出来んぞ?」


「あ、そうなんですか……」


「今回はグリゼルダ様が使う転移魔法――これをですね、龍脈の流れに絡めまして、長距離の転移に応用したんです……。

 ですので、行き来する場所は龍脈が通る場所の近く……という制限は残るのですが……」


「なるほど。

 でも龍脈って、ダンジョンには絶対に繋がっているんですよね?

 それなら王都の近くには『循環の迷宮』もありますし……」


「うむ、ヴェセルブルクに行くには何の問題も無いんじゃよ」


「わー、凄い!

 普通に行けば三週間の道のりですからね!」


「下手に使われては悪用が怖いが……。

 ま、セミラミス以外には制御も効かんじゃろうし、そこは大丈夫じゃな」


「ちなみにその魔法、私も使えるようになったりします?」


「どうかのう。100年くらい修行すれば、もしかしたら出来るかもしれんぞ?」


「うへ……。そんなに修行した上で、『出来るかも』ですか……」


「ま、そういうわけじゃ。

 行くも行かぬもお主次第じゃからな、よく考えておくが良い」


「はーい」



 ――思わぬ開けた王都への道。

 セミラミスさんに詳しく聞いてみたところ、人数としては100人程度を連れていけるらしい。

 ただ、セミラミスさんの魔力の関係で、ひとまず往復できるのは一度きり。


 ここは悩ましいけど、やっぱり行って、何かを要求してこようかなぁ……。

 でもひとまず、情報はたくさんあった方が良いよね?


 とりあえずここは、ファーディナンドさんの回復を待ってから進めることにしよう。

 ……場合によっては、交渉のカードにさせてもらうかもしれないし。

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