571.VS.王国軍~⑳終戦~
昼過ぎ、私はエミリアさんとジェラードと一緒に、街の様子を見てまわることにした。
軽く確認したところでは、今日は特に攻撃を受けておらず、どこも平和なものだった。
――ただひとつ、街の東側だけは例外だったけど……。
「……賑やかですね」
「そうですねー」
「ずいぶんと人が多いねぇ♪」
……街の東側と言えば、投降した敵を集めている場所だ。
ここには1万人以上の人がいるから、基本的にはそれだけでも大変な状態。
しかも今は、昨晩の魔導具による砲撃で、想定外の混乱も起きてしまっているのだ。
精神的なショックを受けている人も多く、自分の故郷に帰りたいと騒ぐ人も多い。
奴隷紋は一通り刻み終わったところだけど、こんな状態であれば帰してあげたくもなっちゃうんだよね……。
そんな人混みの中、私たちはどうにかポエールさんを見つけることが出来た。
ポエールさんは商会の職員と一緒に、忙しそうに働きまくっている。
「ポエールさん!」
「おお、アイナさん!
昨晩もずいぶんと活躍されたそうで……!」
「いえいえ!
ポエールさんたちも無事で良かったです。亡くなった方は残念ですが……」
「そうですね……。
しかし大きな戦争なんです。生き残った私たちが、その方たちの分まで前に進んでいかなければ……!」
……私がマーメイドサイドの街を作らなければ、そもそもこの戦いは起こらなかったに違いない。
しかしこの街を作ろうとした時点で、私には命を背負う覚悟は出来ている。
だからこそ、私たちは引き続き、前へ前へと進んで行かなければいけないのだ。
「――そうだ。一応、お薬を持ってきたんですよ。
心を壊しちゃうと、身体も壊れちゃいますから」
「それは助かります……。
落ち込んでいる方も多くて、なかなかこちらも大変で……」
ポエールさんが少し肩を落としながら言うと、エミリアさんが言葉を続けた。
「それなら私、ここに残りますね!
どうにもならないこともあるでしょうけど、話を聞くくらいなら出来ますので」
「ん、そうですね……。
分かりました。エミリアさん、お願いします」
「もしお願いできるのなら、エイブラムさんや孤児院のみんなを呼んできてもらえませんか?
お手伝いできることもあるでしょうし、こういうときは助け合いが大切ですから!」
「エミリアさん、ご助力ありがとうございます!
それはポエール商会にて承りましょう」
「それじゃここはエミリアさんにお任せしましょう。
もし戦いになったら、遠慮なく呼びに来ますけどね!」
「あはは、そのときはお気軽に♪」
戦いも沈静化しているし、エミリアさんが裏方にまわっても問題は無いだろう。
ジェラードは引き続き私と一緒にいてくれるから、エミリアさんには存分に人助けをしてもらいたいところだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――ドーン……ッ
街の南側を歩いていると、遠くの方から爆発音が聞こえてきた。
敵の攻撃……ではなく、グレーゴルさんが敵を燻り出しているところなのだ。
「うちの部隊も、隠れられそうなところを探しているからね♪」
満足気に頷くジェラード。彼の部隊も引き続き、こっそり大活躍中だ。
今回の戦いは明確な終わりが見えなくなってしまっているから、今は敵の残存戦力を全滅させることに注力しているのだ。
「敵の大将が白旗を降って、『降参ですぅ』とか言ってくれれば分かりやすいんですけどね……」
「あはは、それは確かに分かりやすいねぇ♪」
戦意のある敵がいる状態で警戒を解いたら、嫌な事件が起きてしまうかもしれない。
判断ミスから起きる事件は避けたいから、ここは慎重に行かないとね。
そのまましばらく街壁の上を歩いていると、いつの間にやら南西側の拠点に辿り着いてた。
ここは今回の戦いで、私が最初にいた場所。出来れば終わりもここにしたいところだ。
「アイナ様、巡回ご苦労様です!」
「あ、お疲れ様ー。
今回はあなたのパーティにも助けてもらえて、本当に助かったよ」
私に声を掛けてきたのは、戦況報告の魔法使いだった。
このパーティの5人が各所に散って、リアルタイムで報告をしてくれたおかげで、この戦いもスムーズに進めることが出来た。
今後とも、この人たちにはいろいろと手助けをしてもらいたいところだ。
「いえ、こちらこそ貢献できて嬉しいです……!」
「そう言ってくれると嬉しいな。
ところで何か、変わったことはあった?」
「南側と西側から、数人の敵兵を発見したとのことで、討伐隊が派遣されました。
東側では5回ほど、敵の投降を受け入れています」
「ん、了解っ。
……このままいけば、戦いは終わり……ですよね……」
「はいっ!」
「そうだねぇ♪」
戦いが終わると言っても、やることはたくさん残っている。
今回の戦いの整理も必要だし、あとは次の戦いを起こさせないようにするのも大切だ。
……しかし私たちは、できる限り被害を抑えて、戦いを無事に勝ち抜くことが出来たに違いない。
それなら、ここはもう――
「……クラーラさんはいる?」
「はい、ここに!」
「おぉっと、見えてませんでした!
まだ敵兵はいるかもしれないけど、勝鬨をあげてしまいましょう」
戦いの開始を告げたのが私なら、戦いの終了も私が告げよう。
このあと続く責任をしっかり果たすためにも、その仕事は私のものに違いないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――準備ができました!」
「それでは、いきまーす」
穏やかな夕方。
風は冷たく、さっさとお屋敷に戻りたい空気が流れる。
しかしこの戦いも、そろそろおしまい。
ならばここはひとつ、しっかり締めておくことにしよう。
「――……私は『神器の魔女』アイナ・バートランド・クリスティア。
マーメイドサイドに暮らす皆さま、マーメイドサイドにいらしている客人の皆さま。
昨晩、私たちはグランベル公爵家の部隊を壊滅させました。
大賢者に英雄、そして強大な魔導兵器――王国から持ち込まれたあらゆる脅威を、私たちは取り除くことに成功しました。
王国軍の主たる戦力はすでに無く、敗残兵を残すのみ――
……従って、私はここに、この戦争の勝利を宣言します!!!!」
「……うおぉおーっ!!?」
「やった……! 勝利だ……!!」
「護りきれたーっ!!」
「終わりだ! やったーっ!!」
「ちくしょーめーっ!!」
どこからともなく、いろいろな声が聞こえてくる。
もちろん南西側の街壁では歓喜が湧き起こっているが、街の中でも住民たちが外に出て、手を取り合って喜んでいる。
遠くに見える街壁の上には、踊っている人なんかもいたりする。
……ちょっとはしゃぎ過ぎじゃないですかね……。
しかし勝ったとは言え、しばらくは警戒を絶やすこともできないだろう。
まだまだ油断しきるわけにはいかない。
それでも今、ようやく戦いに区切りをつけることが出来たのだ。
それも勝利という形で……。
拡声魔法での宣言はこれだけでおしまい。
その後は夜までの間に、結構な数の投降者が出てきたらしい。
一矢報いようとしていた人、逃げようとして思うように逃げられなかった人、そして最後に心が折れた人――
……結局私たちは、そこら辺の対応で、やることがまた増えてしまった。
戦いに勝ったら、私には飛んで行きたい場所があったのに……。
しかしまぁ、雑多な作業までを含めてこの戦いなのだ。
だから最後まで、しっかり頑張らないと。
このひと山さえ越えれば、また平和が蘇えるわけだからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――お迎えにあがりました」
「うむ、待っておったぞ」
月が明るい冬の夜。
この戦いの最後を締めくくる私たちの会話は、ただそれだけだった。




