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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
570/911

570.VS.王国軍~⑲翌日~

 翌日は、活動開始の時間を遅くしていた。

 街に戻ってきたのは日が昇ったあとだったし、私たちの疲労も大きかったためだ。


 また幸いなことに、朝の時点では街の外に敵兵がいなかったというのも大きい。

 そのため私を始めとした数人は、昼過ぎまでのんびりとさせてもらうことにしたのだ。



「――いやぁ、昨日は酷い目に遭ったよ♪」


 そんな中、食堂にいた私にジェラードが話し掛けてきた。

 ジェラードは私たちがファーディナンドさんを見つけたあと、そこにひょっこりと突然姿を現したのだ。


 話を聞いてみれば、どうやら魔導具の噂を聞きつけて、あの辺りを監視していたとのこと。

 魔導具が砲撃を行う段階で何とか止めようとしたものの、そこで一人の敵に見つかってしまったらしい。


 見つかったとは言っても、そこはジェラードのことだ。

 黙って撃たせるわけにもいかず、まずはその敵を速攻で倒そうとしたらしいのだが――

 ……しかし敵は不思議な術で攻撃を始め、結局、戦いはかなりの長時間に及んでしまったとのことだった。



「1対1でジェラードさんに渡り合うだなんて、凄い人がいたものですね」


「僕は強さを売りにしていないから! 悔しくなんてないんだからねっ!」


 ……おっと、ツンデレかな?


「でも、その不思議な術っていうのも気になりますね。

 どんな感じだったんですか?」


「えーっとね、魔法っていうか、体術っていうか……。

 両方を組み合わせたような戦闘術っていうのかな。

 予想外の動きばかりされたから、僕も上手く攻められなくてねぇ……」


「ふぅむ……。希少職っぽい感じなんでしょうか……」



 そんなことを話していると、エミリアさんが食堂にやってきた。

 エミリアさんには少し、外出をしてもらっていたのだ。


「ただいま戻りましたーっ」


「お帰りなさーい」


「お帰り♪

 ファーディナンドさん、どうだった?」


「はい、アイナさんのお薬も効いているようです。

 でも、もう少し時間は掛かりそうですね。治癒魔法のサポートがあってもそんな感じでした」


「そうですか……。

 治ってくれれば良いんですけど……」



 ――敵軍の真っただ中に取り残されていたファーディナンドさん。

 最初は病気だと思われていたが、私の鑑定によれば『重度の薬物中毒』ということだった。


 今はこの街の小さな治療院に入れて、私の薬と治癒魔法で治療を始めたところなのだ。


「アイナさんの薬なのに、ぱーっと治らないんですね……」


「そういう薬もあるみたいですけど、それを作るには素材が足りなくって。

 でも一般的な薬よりは、よっぽど良い薬なんですよ」



 しかし意識はまだ朦朧としていて、意味の分からないうわごとを言い続けているようだった。


 ……特に意味の無さそうな言葉。

 魔法でも何でも無いような感じではあるんだけど――


「……ま、しっかり治してもらってから、いろいろと聞かせてもらおうことにしよう。

 僕が確認した限りでも、ファーディナンドさんは最初からまともに歩けなかったみたいだし」


「えぇ……?

 それじゃ、何のために来ていたんですか……?」


「さぁ……?」



 ……状況がやっぱり分からない。

 死に瀕して私を恨み、息の根を止めるのを見に来た――とかなら分かるけど、そんな恨みを買った覚えも無いし。


 それに鑑定結果によれば、『重度の薬物中毒』以外には持病とかも無さそうだったし……。

 まぁここはしっかりと見張りを付けた上で、しっかりと治してもらうことにしよう。



「――ところでエミリアちゃん。

 昨日の魔法……『暴食の炎』って、エミリアちゃんが使った魔法なんだよね?」


「はい、そうですよー」


「ジェラードさんも、しっかり食らったみたいですよ!」


「え、そうだったんですか!?」


「うん……。

 ……あれは無いわぁ……。あんなのはもう、撃ち込まれたくないよ……」


 明るく言いながらも、ジェラードはげっそりとしていた。


「ちなみにどんな感じだったんですか?」


「うーん……。そのときは例の敵と戦っていたから、全体的には見られてないんだけど……。

 いつの間にか部隊の方が赤く燃えていてさ、僕にもいつの間にか炎が纏わりついていたんだよ」


「纏わり……?」


「うん、燃えているっていう感覚は無かったなぁ。

 でも炎は消えないし、それにどんどん力が――いや、魔力かな? 魔力がどんどん抜けていくし……。

 正直、突然過ぎて意味が分からなかったよ。

 ……それにあの炎の竜巻! めちゃくちゃ怖かったんだから!!」


「アイナさんから聞いてはいましたけど、やっぱり魔力だけを燃やすんですね……」


「そのようだね。

 部隊にいた人たちは、それに驚いて撤退したみたい。……僕と戦っていた敵も含めてね。

 ミラちゃんの川が邪魔をしない場所だったから、すんなり撤退できたみたいだよ」


「あんな混乱の中じゃ、魔導具もファーディナンドさんも置いてけぼりにされちゃいますか……。

 と言うか、敵からしてみれば魔導具が燃えるように見えたのかな?」


「……あれ?

 そういえばアイナさん、その魔導具はどうしたんですか?」


「持ってきましたよ」


「え?」


「いえ……。敵の手に戻っても面倒なので、アイテムボックスにひょいっと入れて……」


「さすがアイナちゃん!」


「さすがアイナさん!

 ……くぅ、やっぽりさすが(りょく)が高いですね!」


「何ですか、『さすが(りょく)』って……」


「ちなみにその魔導具って、アイナちゃんも使えるの?」


「いえ……。

 どうやら魔法制御らしくって、操作方法が全然分からないんですよ。

 ボタンとかもありませんでしたし」


「なるほどねぇ……。

 でも脅威になるものは消えたし、昨日はなかなかの成果だったね♪」


「大賢者に英雄、そして魔導具の砲撃――

 ……何だか盛りだくさんでしたよね。隠し玉はもう、無ければ良いんですけど」


「僕の情報網にも、それ以外は掛かってないかな。

 ビアンカたちの報告も受けたけど、指揮系統もぐちゃぐちゃだし、あとは残党整理って感じで終わるんじゃない?」


「それなら一安心ですね。

 本当、さすがに怒涛の攻撃体制でした……」


「あはは♪ でも結果的に考えれば、こっちだって神器ふたつにダンジョンふたつでしょ?

 あんまり敵のことは言えないと思うよ♪」


「……まぁ、確かに。

 そうすると次は、今回以上の戦力で攻められちゃいますかね……」


「うーん……。王国軍にはまだまだ戦力はあるはずだけど、さすがにしばらくは攻めてこないんじゃない?

 マーメイドサイドへの進軍は結構な強行だったのに、たかが2500人の敵に、40000人の味方が壊滅させられちゃったわけだし。

 さらに大賢者も英雄も戦死して、神器に至っては消されて――

 ……それに、グランベル家が開発した魔導具も失ったんじゃねぇ……」


「改めて聞くと私たち、結構やっちゃいましたね!」


「そうだね♪

 だからしばらくはさ、新しい王様も内政の舵取りが難しくなるんじゃないかな」


「そういうものですか?」


「そりゃ、ね。

 王様だからって何でもかんでも自分の好きなようにはできないものさ。

 アイナちゃんが『白金の儀式』に巻き込まれたときだって、王様にはそれなりに味方がいたはずだよ」


「ああ、そういえば……。

 王族の味方が多そうでしたけど……」


 ただ、中には私のことを護ってくれようとする人もいた。

 ……レオノーラさん、元気かなぁ……。



「レオノーラ様、元気でしょうか……」


「ん?」


「え?」


「あはは♪ エミリアさん、私もそう思ってたところですよ。

 いつか王都が行くことがあったら、レオノーラさんにまたお会いしたいですね」


「私は怒られちゃいそうですけどね……。

 その、ルーンセラフィス教から抜けたこと……」


「怒るというか、寂しがるって感じじゃないでしょうか。

 でも最初はやっぱり怒りそうかな……」


「うぅ……、そうですよね……。

 ああ、会いたいのに会いたくないです……」


「何とも複雑な♪」



 ――しかしそれは、どう考えてもこの戦いが終わってからの話だ。

 レオノーラさんに会える日が来るかは分からないけど、ひとまずは目の前の戦いを終わらせてしまわないといけない。


 ……あ、そうだ。

 グランベル家の部隊を壊滅させたことも、拡声魔法を使って周知しておこうかな。


 言葉だけで戦いが無くなるのであれば、それに越したことは無いからね。

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