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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
567/911

567.VS.王国軍~⑯反撃準備~

「はい、エミリアさん」


「え? わーい♪」


 ひとまず私は、エミリアさんに神杖フィエルナトスを渡してみた。

 この杖もいずれはエミリアさんに渡す予定ではあるけど、この戦いがひと段落するまでは私が持っていることになっていたのだ。


「それで、これも」


 パチッ


「むむ!」


 神杖フィエルナトスの魔石スロットに、『封刻の魔石(暴食の炎・発動補助)』を()めてみる。

 アドルフさんの(こだわ)りのおかげで、この杖にも魔石スロットは5つあるのだ。

 今回使うのは1つだけだけど、改めて、魔石スロットを付けてもらっていて良かったかな。



「それはエミリアさん、『暴食の炎』を発動させてください!」


「え、ええぇーっ!?

 前にやって、ダメだったじゃないですかーっ!!」


 ……とは言いつつも、エミリアさんは素直に応じてくれた。

 エミリアさんが杖に力を込めると、難解で複雑な魔法陣がすぐに現れたのだ。



「ひっ!?」

「ひぇっ!?」


「……どうでしょう?

 これは『暴食の炎』っていう、オリジナル魔法の補助をしてくれる魔法陣らしいんですが……」


 しかし私の言葉を待たず、マリサ姉妹はその魔法陣に近寄って、まじまじと見入(みい)っていった。

 四人が四人、同じ行動だ。


 こういうところを見ると、やっぱり姉妹なんだなぁと思ってしまう。

 ……まぁ、見た目からして姉妹なんだけどね。



「――ふぅむ、これは実に難解だねぇ」


「ふむ、実に美しいねぇ」

「ふむ、実に機能的だねぇ」

「ふむ、実に珍妙だねぇ」


 ……行動は同じながら、四者四様、微妙に違う感想が飛び出してきた。


「なるほどねぇ……。この魔法陣を介して、その『暴食の炎』……とやらを操作するみたいだねぇ……。

 ただ、ちょっとしたコツが必要そうだねぇ……。ちと読み解くから、お前さんはこのまま魔法陣を出しておいておくれ……」


「いやさ、絵にして飾っておきたいものだねぇ……」

「いやさ、すぐに発動させてみたいものだねぇ……」

「いやさ、ちょいと描き加えたいものだねぇ……」



「えーっと……。

 それじゃエミリアさん、そのまま出しっ放しでお願いします」


「は、はい! 集中力が切れそうですけど、頑張りますっ!!」


「ちなみにマリサさん、解読の時間はどれくらい掛かりそうですか?」


「そうだねぇ……。

 少なくとも10分か20分はもらえるかねぇ……」


「分かりました、エミリアさんは何とか頑張っていてください。

 ……そうすると、少し時間ができちゃいますか」



 しかし、そうは言っても無駄に過ごす時間は無い。


 私はひとまず住民の避難――出来る限り街の南西側から、北東側に避難してもらうように指示を出そうとした。

 ただ、それはすでに自警団の方でやってくれたらしい。


 ……うん。私が言わなくても上手く動いてくれるのは、これはもう良いことだよね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――ズドドォオオオオオォオオン……ッ!!!!!!!



「うっ、うわぁっ!!?」


 何人かと一緒に今後の相談をしていると、再び大きな音と衝撃が私たちに襲い掛かってきた。

 最初のものより大きいことを踏まえると、この場所から、より近い場所に攻撃を受けたことが考えられる。


 マリサ姉妹はまだまだ魔法陣を読み解いているところだったので、私はグレーゴルさんと一緒に、マーメイドサイドを上空から見てくることにした。




「――……酷いッ!!」



 冷たい風の中、マーメイドサイドの上空からは、酷い状況が見えてきた。


 街の南西側から少し北にずれた場所。

 そこの街壁が無惨にも破壊されて、そしてその付近の建物も、結構な範囲で吹き飛ばされてしまっていたのだ。


 ……あの辺りの建物は、私も建築し始めたときからずっと見ていた。

 それだけに、どこもかしこも思い入れがある場所だった。


 それなのに――



「……アイナ殿、大丈夫か……?」


 グレーゴルさんにつかまる両手に、思わず力が入ってしまっていた。


「だ、大丈夫……です。

 でも、これ以上は許しませんよ……!!」



 手の力を抜きながら、少しでも落ち着こうと息を整える。

 そんな中、街のいろいろな場所から、風に乗って人の声が聞こえてくるような気がした。


 ……実際、いろいろな人が誰かと話しているのだろう。

 突然の正体不明の攻撃に、きっとみんな、大きな不安を抱えているに違いない。

 まずはここ、ここをどうにかしなければ――



 ……迅速にすべてを終わらせるためには、一発逆転を狙えるかもしれない『暴食の炎』に、やはり期待が掛かってしまう。


 以前は使うことが出来なかったけど、今回は神器もあるし、マリサ姉妹もいる。

 王国軍との戦いは短期決戦でここまで来たものの、恐らくはここが、この戦いの最後の山場になるだろう。


 それならばこの局面、敵を完膚なきまでに叩き潰してあげなければいけない――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 私が複雑な思いを抱えながら……主には怒りを抱えながら作戦会議室に戻ってみると、マリサ姉妹の前で、エミリアさんが小さな光球を出しているところだった。

 淡く小さな紫色の光。見ようによっては少し赤くも見えるけど――


「ただいま戻りました。

 ……もしかして、発動したんですか!?」


「アイナさん、どやーっ!!

 ……ああ、でもまだなんです。まだ効果が出るまで進めていなくて」


「そうなんですか?」


「ひっひっひっ……。

 ここまで来てしまえば、あとは効果を発現させるだけなんだけどねぇ……。

 その操作自体は、最初に出した魔法陣から行うんだよねぇ……」


「というわけで、アイナさん。

 ――えいっ!!」


 エミリアさんが明るくそう言うと、紫色の光球は私に向かってゆるゆると近付いてきた。


「うわぁ!?

 ……って、簡単に逃げられますね」


 さすがにここまで遅いと、実戦では不意を突いて当てるしか無さそうだ。


 しばらくおっかなびっくりしたあと、その光球に触ってみるも、特に何かが起こるということは無かった。

 あくまでも術者が効果を発現させるまでは、何も起こらないらしい。

 それに安心して手で(もてあそ)んでいると、やがて光は消えてしまった。


「ただ、一旦発動させるとそれなりの広さに効果が及ぶようだねぇ……。

 効果が連鎖をするみたいだから、そうすると想像以上の範囲にも届くことになりそうだねぇ……」


「おお、連鎖……ですか」



 例えばこの魔法の効果範囲が10メートルくらいだとすると――

 ……敵のAさんを最初の対象にした場合、Aさんを中心とした10メートルが『暴食の炎』の効果範囲となる。

 次に、Aさんから10メートル離れた場所にBさんがいたとすると、次はBさんを中心として再び効果範囲が発生する。

 さらにCさんが10メートル離れた場所にいたとすると、効果はまたまた広がって……っていう感じになるそうだ。


 つまり、対象が多ければ多いほど効果範囲も広がっていくということになる。

 相手が何人いようとも、近くに固まってさえいれば、『暴食の炎』の効果はきっと全員に及ぶはず――



「……それよりもアイナさん、今から攻撃をしに行くんですか?

 一回目と二回目の攻撃の間に1時間くらいの時間があったから――……移動している間に、また攻撃をされてしまいそうですよね」


「何を言っているんですか、エミリアさん」


「え?」


 私の言葉に、エミリアさんは不思議そうに返してきた。


「だってエミリアさん、視界の範囲なら魔法発動点を変えられるんでしょう?

 それならこの街の――そうですね、街壁からの距離でも使えるんじゃないですか?」


「むむ。距離ならそうですけど、でも、敵が見えませんよね……?

 私たちはずっと街壁の上で戦っていましたけど、川の向こうまでは見えた記憶が無いですよ?」


「そこは大丈夫だと思います。

 視界の邪魔になる障害物は、敵さんが破壊してくれていましたから」


 ……何せ、凄まじい砲撃は一直線に撃ち込まれていたのだ。

 ざっと見た感じ、途中にあった林やら丘やらは綺麗に削られてしまっていたわけで――


 ……逆に考えれば、それを踏まえた上で、なおもあの威力だったということになる。

 だから次、三回目の攻撃を二回目と同じ場所に撃ち込まれたら、街にはさらに大きな被害が出ることに……。


 ……いやいや、冗談じゃないよ、本当に。


「障害物が大丈夫だったとしても、あとは暗さが心配です……。

 日が昇るまでは時間がありますし、月明かりだけでは遠くは見えなさそうですし……」


「そうですね……。それなら照明弾でも打ち上げますか。

 確か錬金術で作れたはず……」


「おお、そういうのがあるんですね!」



「ひっひっひっ……。

 あとはお前さんたちで大丈夫そうだねぇ……」


「はい、遅くまでありがとうございました!」


 タイミングを見て、マリサさんが話し掛けてきた。

 魔法陣の解読までやってくれれば、あとはこちらだけでどうにかなるというものだ。



 ――さて。

 ここからは迅速に、次の攻撃を受ける前に反撃をしなければいけない。


 ……それにしても、ビアンカさんの話によれば、相手はグランベル家の部隊なんだよね。

 それを考えると複雑な気分になってしまうけど、だからと言って放っておくわけにもいけないわけで……!!

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