566.VS.王国軍~⑮繋がる欠片~
――こういうときに頼りになるのは、やはりグレーゴルさんだ。
深夜にも関わらずポチにまたがり、さくっと状況を確認してきてくれた。
結果としては、戦況報告の魔法使いから伝えられた通り、投降した人たちが集まっていた場所の三分の一が無惨にも吹き飛ばされてしまっていた。
それはつまり、三分の一の人が亡くなってしまった……ということに他ならない。
何故そんなことが起きたのかと言えば、その場所に強力な砲撃のようなものが撃ち込まれたかららしい。
しかし広範囲を吹き飛ばすなんて代物、元の世界にならともかく、この世界にもあるものなのか――
……そしてその砲撃は、マーメイドサイドの遥か南西から一直線に放たれたものだという。
ここから南西と言うと……?
「……もしかして、ミラの作った川の向こう側の……結界があったっていう場所から……?」
「アイナ殿、ご明察だ。
にわかに信じられないが、そうとしか考えられん」
グレーゴルさんも、何と言って良いのか分からない感じで返事をしてきた。
実際目で見ても信じられないものなんて、この世界にはたくさんある。
そもそもこの時間、暗くてよく見えなかっただろうし、あまり正確なところまでは分からないだろう。
「大賢者に英雄ときて……、最後の最後でまたとんでもないものが……」
確認した限りでは、ポエール商会の人たちは全員引き揚げていたから無事だったそうだ。
しかし自警団のうち、50人ほどの安全が確認できていない。
……今までこの街に尽力してくれてきた人なのに。
私の怒りは、主にそこに向いていた。
投降していた人も可哀想だとは思うんだけど……やっぱり、ね。
「――ひっひっひっ……。
大変なことになったのう……」
「うわぁ、マリサさんっ!?」
突然の笑い声に、私は驚いてしまった。
私の後ろから、マリサ姉妹の四人が仲良く現れたのだ。
「なんだい、その驚き様は……。
急いできてあげたというのにねぇ……」
「「「ひぇっひぇっひぇっ。こんばんわぁ……」」」
「す、すいません、こんばんわ。
こんな夜中まで起きてて、大丈夫なんですか?」
「まぁ、実は寝ていたんだけどねぇ……。
……しかし強大な魔力の迸りを感じて、目が覚めちまったのさ……」
「魔力の迸り……。
さっきあった砲撃って、もしかして魔法なんですか!?」
「ひっひっひっ……。
あまりにも異質、異次元……。魔法なんて生温い……、兵器と言っても良いかもしれないねぇ……」
「兵器……」
「あの威力なら、ここの街壁なんて余裕だろうねぇ……。
しかしさすがにあの威力じゃ、連発するというわけにはいくまいよ……」
「それなら今のうちに何とか対応をしないと!!
でも結構、川の向こうって遠いんですよね。着くまでに二発目を撃ち込まれても困るし……。
ああもう、どうすればーっ!?」
「ひっひっひっ……。
こういうときは、まずは落ち着くものだねぇ……。
闇雲に突っ込んでも仕方ないし、情報収集をしないことにはねぇ……」
……しかしそうは言っても、早くしないと危ないわけで。
最後の最後にこんな攻撃をぶち込んでくるだなんて、やっぱりもうあの国は嫌いだよーっ!!
「――アイナ様、よろしいでしょうか」
「んっ!?
えーっと、あなたは……ビアンカさんだっけ? ジェラードの配下の」
「はい、その通りです。
現在、ジェラード様が不在なので、私が代わりに情報をお持ちしました」
「お、おお! さすが!!」
「ありがとうございます。
グレーゴル様の情報を加味した結果、今回の砲撃を行った部隊は、ヴェルダクレス王国のグランベル家の部隊と推測されます」
「……ぐらんべる?
え、えぇーっ!? 何でそんなところからー!?」
グランベル家と言えば、私が王都にいる間、いろいろとあった公爵家である。
仲良くなったファーディナンドさんが家督奪還を狙っていて――
……そのあとの情報によれば、家督はしっかり弟から取り戻したとは聞いているんだけど……?
「ここまでの進軍中、当主のファーディナンド・ジェフ・グランベル公爵の存在も確認されております。
恐らくは砲撃を行った部隊にいるものかと思われます」
「んがっ」
え、えぇえー……。
ちょっと待ってー……?
えぇえー……。
「そして今回砲撃に使われたものは、秘密裏に開発を進められていた大型の魔導具と目されています。
自然系統四属性の魔力を加速・増幅させて撃ち出すという代物らしいのですが、これ以上の情報は未確認です」
「ふぅむ……。四属性の魔力を、加速、増幅……ねぇ……。
……ん? ……増幅?」
「増幅……。
あれ? アイナさん、何だか私、思い当たる節が……」
私が引っ掛かったところに、エミリアさんも引っ掛かっていた。
ついでにルークも引っ掛かっているようだった。
グランベル家と、魔法の増幅――
「……増幅石?」
「「あ!」」
王都にいた頃、グランベル家に接触するために売り込んだアイテム――
……『炎の増幅石』を始めとした、4つの増幅石。
何に使うかは聞いていなかったけど、あのアイテムのことは亡くなった前王様も存在は知っていたし――
……もしかして、トップシークレット的な兵器に使うものだった……?
「あちゃぁ……。
まさか巡り巡って、ここで繋がってくるとは……」
「ひっひっひっ……。
お前さん、心当たりがあるのかい……?」
「残念ながら、はい……。
属性の力を増幅させる結晶を、四属性分売ったことがあって……」
「ほう、お前さんが売ったのかい……。
それで攻撃を受けるなんざ、世の中は狭いものだねぇ……」
「まったくその通りで……」
「しかしそれを媒介にあの砲撃を生み出しているのなら、魔力回路を乱してやれば良さそうだねぇ……。
あるいは魔力を枯渇させるか……」
「魔力を枯渇……?
それってどうやるんですか?」
「いや、対象が人間一人なら、そういう魔法は割とあるんだけどねぇ……。
あんな砲撃を生み出す魔導具には――……まぁ、『千瞳の大賢者』くらいの実力者なら、知っていたかもしれないけどねぇ……」
「あー。あの人はエミリアさんが倒しちゃいましたからね……」
「ひっ?」
「「「ひぇっ?」」」
私の言葉に、マリサ姉妹の視線はエミリアさんに向かった。
ああ、マリサ姉妹は全員が魔法使いだもんね。それならクラウディアのことも知っていたのかな?
「ま、まさかこの娘っ子が、クラウディア様を……?
……ははぁ、見掛けに依らないものだねぇ……。
それにしても、あんたは司祭じゃなかったのかねぇ……」
「エミリアさんは司祭ではあるんですけど、今はフリーなんですよね」
「ま、まぁそうですね……。
ああ、いえ。最近は新しく信仰を作ろうと、頑張っているんですよ!」
新しい信仰とは、もちろんガルルン教のことだ。
……あ、そう考えればフリーと言うわけでもないのか。
「ふぅむ……。司祭の攻撃魔法と言えば、シルバー・ブレッドあたりかねぇ……。
そんな魔法で、クラウディア様をねぇ……」
「公然の秘密ですけど、エミリアさんは特殊なスキルで魔法発動点をいじれますからね。
本当に強いんですよ!」
「むむむ!
アイナさん、早速バラしちゃいましたね!?」
「だってあんなの、一目見ればおかしいって分かるじゃないですか……」
「ほう、魔法発動点を……?
……お前さん、私の弟子にならないかねぇ?」
「へ?」
……む? 何やらマリサさんから、突然の申し出が。
「大賢者を倒したとなれば、これはもう賢者の器だねぇ……。
それに魔法発動点をいじるなんざ、常識では出来ないことだからねぇ……。
しかも昨日作った神器――神杖フィエルナトスとやらは、お前さんが持つことになるんだろう?」
「ひぇっひぇっひぇっ……。
マリサ姉さんよ、弟子を取るなら、私たちも噛ませてくれないかねぇ……?」
「それは楽しそうだねぇ……」
「老い先短い楽しみになるねぇ……」
「え、えぇっ!? 待ってくださいっ!?
私、賢者なんて器じゃないですよ!?」
「えぇー?
でもエミリアさんのふたつ名、『暴食の賢者』――」
……ん?
暴食の賢者? ……暴食――
「だ、だからそれは嫌だって言ってますよーっ!?」
「――あ! あああ!
そうだ、それだ、それです!!」
「えっ」
「暴食で思い出しました!
これ、どうにか使えませんかね!?」
私はアイテムボックスから、以前手に入れていた魔石をひとつ取り出した。
その効果はこれ――
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【封刻の魔石(暴食の炎・発動補助)】
複合魔法『暴食の炎』発動補助の魔法陣を展開する
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――そして、その魔法の効果はこれ――
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【暴食の炎】
光、闇、火属性魔法。
周囲の魔力を奪い、その量に応じた炎を生み出す
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――……王都でシェリルさんとヴィオラさんからもらったこの力。
説明文の中にも『魔力を奪う』って書いてあるし、増幅石が生み出す魔力を何とかできないかな……!?




