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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
564/911

564.VS.王国軍~⑬第二の産声~

「――聞け!!!!!!」



 戦いの最中、マーメイドサイド周辺に大きな声が響き渡った。

 誰の声かと言えば、私の声。

 どれだけ大きいかと言えば、拡声魔法でとんでもなく大きくしているボリュームだ。


 この声を合図に、こちらからの攻撃は徐々に緩めていった。

 あらかじめそうなるように、戦況報告の魔法使いを介して全体に周知を掛けていたのだ。


 そしてそんな私たちを相手に、敵も動きを徐々に緩めていった。



 ゴロゴロゴロ……



 ……おっと、これは想像しなかった展開だ。


 空にはいつの間にか暗雲が立ち込め、地上をどんどん暗くしていった。

 そして雷の音と共に、ポツポツと雨が降り始める。


 しかしこれも神の(おぼ)()しか。

 ただの偶然だとは思うけど、本当に良いところで天気が悪くなってくれたものだ。




「――王国軍に告ぐ!!!!

 マーメイドサイドに攻め入った『千瞳の大賢者』クラウディアは死んだ!!!!

 そして『神剣ナナフヴァドス』の使い手、英雄ハルゲイルも死んだ!!!!

 無駄な争いは止めて、直ちに投降するが良いッ!!!!

 引き続き戦いを続けるのであれば、敵対する者すべてに平等なる死を与えるッ!!!!」




「……アイナさん、こわーい♪」


 私の横で、声を拾われないようにエミリアさんが言ってきた。

 だって最終通告だからね? 怖くなきゃダメでしょ……?


 ……ちなみにここまでの間で、すでに肩を落としている敵もいるようだった。

 やはり『英雄の死』というものはインパクトが強いのだろう。


 そして恐らく、クラウディアを知る人もショックだったに違いない。

 『千瞳の大賢者』なんてふたつ名から察するに、魔法使いの世界では英雄のような存在だったのでは無いだろうか。


 ……まぁそれはそれとして、続き、続き……っと。




「――投降の意思を示す者は、マーメイドサイドの東側に集まるが良いッ!!!!

 それ以外の場所にいる者には、無条件で容赦無い攻撃をさせてもらうッ!!!!

 ……逃げ場は無いぞ? 今までの攻撃と同じだと思うな。我らにはまだ、強大な戦力があるのだッ!!!!」




「え? そんなのあったんですか?」


「いや、無いですけど」


「えぇー……」


「嘘も方便ですよー」


 引き続きエミリアさんとは、声を拾われないところでお茶目に話す。

 私はいつもと口調を変えているから、こういう雑談でバランスを取っているのだ。


 正直こんな口調を大音量で響き渡らせるなんて、顔から火が出るほど恥ずかしいからね……。

 そんなわけで、これくらいのお茶目はどうか許して頂きたいところだ。


 ――と、言うか。

 私もこれからひとつの本番を迎えることになっているから、それに向けて緊張もしているのだ。

 こんなところでやるだなんて、それこそ全然決めていなかったからね……。



「……さて、それじゃやりますか」


「はい!」

「はーい!」




「――もう一度だけ繰り返す!!!!

 ヴェルダクレス王国軍、並びにそれに(くみ)する者よ!!!!

 直ちに我らに投降せよ!!!!

 私は『神器の魔女』、アイナ・バートランド・クリスティア!!!!

 お前たちが希望としていた英雄ハルゲイルはもういないッ!!!!

 そして『神剣ナナフヴァドス』はこちらの手にある――」




 響き渡る声の合間から、ざわついた雰囲気が伝わってくる。

 やはり英雄と神器は人々の希望に成り得るものなのだろう。


 私はアイテムボックスから、『神剣ナナフヴァドス』と『神剣デルトフィング』を取り出した。

 そのままでは持つことが出来ないから、地面に置くようにして――


 ……その状態で私が錬金術スキルを使うと、ふたつの神器は強い光と共に消え去った。

 以前、神剣カルタペズラを消したときと同じように。



 ……そして狙い通り、少しあとには『世界の声』が頭に響いてきた。



 ━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

 ─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━

 『アイナ・バートランド・クリスティア』によって神器『神剣ナナフヴァドス』が消滅しました。

 『世界の記憶』に登録されました。

 ━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

 ─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━

 『アイナ・バートランド・クリスティア』によって神器『神剣デルトフィング』が消滅しました。

 『世界の記憶』に登録されました。

 ─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━

 ━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─



 私の大音量の声の余韻はすでに消えている。

 その静けさの中、あちらこちらから雨風に乗って、ざわついた声が小さく聞こえてくる。



「……各所の様子は、どうかな?」


「――……え? あ、はい!

 直ちに確認しますっ!!」


 ここで一旦、戦況報告の魔法使いに、各地の敵の様子を見てもらうことにした。


 5分後、すべての場所で敵が戦意を喪失しつつあることを教えてもらう。

 ……うん、まずまずの効果だ。

 それじゃ、次――




「――投降の決心は付いたか!!!!

 ここでお前たちに、決心の後押しをする知らせをくれてやる!!!!

 南西の門にいる者は、今から起こることの生き証人になるが良いッ!!!!」




「アイナさん、頑張って――」


 エミリアさんの声に、私は深呼吸をしてから手に力を込めた。

 その瞬間、私の目の前には杖――……アドルフさんに作ってもらった第二の神器の素体が、激しい光と稲妻を放ちながら現れる。



 ――ズガガッ!! ガガガァアアアンッ!!!



「ひ、ひぃっ!?」

「何だ!? 稲妻!?」

「いや、杖……!?」

「攻撃かっ!?」

「し、死にたくねぇよ……!」



 激しい音と共に、私の前に浮かぶ眩い杖。


 その姿を見た敵からは驚きと絶望の声が上がっていた。

 当然のことながら、味方からも驚きの声は上がっているけどね。




「希望と未来の宣言――……悠久の中、心在りし者が望むもの。

 暗く横たわる闇の海、明るく煌めく光になりて、全てを討ち払え。

 穏やかなる日々に、燃える様な、静まる様な、太陽の様な安らぎを――」



『――理想補正<錬金術>を使用しますか?』



 はい! よく分からないけど、はい!!


 神剣アゼルラディアのときと同様、不思議な声が私に聞いてきた。

 それに答えた瞬間、目の前の杖に大きな力を宿るのを感じた。



「自由意志の宣言――……世界を象る七と九の根源よ。

 我が意のままに法則を折り曲げ、新たなる法則を創り出せ。

 現象、生命、概念の形象を捉え、我が支配に透明なる翼を――」



 ……稲妻はそのまま静かに収束する。

 ここで最後の段階、『神剣カルタペズラ』から調達した『炎竜の魂』を吹き込めば――



 パアアアアアアアアンッ!!!!!



 ――何かが弾ける音がした。

 目の前の杖は光と稲妻を放つのを止め、周囲は徐々に静けさを取り戻していく。



 ……無事に完成。

 これが第二の神器――



 ━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

 ─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━

 『アイナ・バートランド・クリスティア』によって神器『神杖フィエルナトス』が誕生しました。

 『世界の記憶』に登録されました。

 ─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━

 ━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─



 ――神杖フィエルナトスの誕生である。

 名前は先に決めておいたから、誕生の瞬間からばっちりだ。



 私はその杖を手に取り、何回か軽く振ったあと、エミリアさんに静かに手渡した。

 エミリアさんとルークは私と一緒に、静かに笑顔で頷き合った。


 ……何も喋らなくても、この感動は伝わってしまう。

 長い冒険の中で、ようやく誕生したふたつ目の神器――



 ……さて。

 この感動はあとで改めてするとして、今はこの戦いを終わらせることにしよう。

 ここまでの間で、御膳立(おぜんだ)てはすべて終わったのだ。




「――聞こえたか!!!!

 かつてこの世界に存在した神器――神剣カルタペズラ、神剣デルトフィング、そして神剣ナナフヴァドス!!!!

 全てはこの私、『神器の魔女』によって消滅させた!!!!

 そして『神器の魔女』の手には新たなる神器が生まれた!!!!

 ……これが意味することは、分かるな?」




 私は大音量の声の余韻が消えるまで待った。

 余韻が消えたあと、聞こえてくるのは雨と雷の音だけ――


 ……雨は小降りになってきている。

 あまり降らなさそうではあるが、何とも丁度良い加減の演出だ。




「――……通告は以上とする。

 願わくば王国からの客人に、賢明なる判断を――」




 ……私の大音量での通告は、これでおしまい。

 我ながら良い感じだとは思うけど、上手くいったかな?


 上手くいったらもう、今日はさっさと帰ってしまいたいところだ。

 帰ってから、新しい神器をじっくりゆっくり眺めてみたいしね。

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