564.VS.王国軍~⑬第二の産声~
「――聞け!!!!!!」
戦いの最中、マーメイドサイド周辺に大きな声が響き渡った。
誰の声かと言えば、私の声。
どれだけ大きいかと言えば、拡声魔法でとんでもなく大きくしているボリュームだ。
この声を合図に、こちらからの攻撃は徐々に緩めていった。
あらかじめそうなるように、戦況報告の魔法使いを介して全体に周知を掛けていたのだ。
そしてそんな私たちを相手に、敵も動きを徐々に緩めていった。
ゴロゴロゴロ……
……おっと、これは想像しなかった展開だ。
空にはいつの間にか暗雲が立ち込め、地上をどんどん暗くしていった。
そして雷の音と共に、ポツポツと雨が降り始める。
しかしこれも神の思し召しか。
ただの偶然だとは思うけど、本当に良いところで天気が悪くなってくれたものだ。
「――王国軍に告ぐ!!!!
マーメイドサイドに攻め入った『千瞳の大賢者』クラウディアは死んだ!!!!
そして『神剣ナナフヴァドス』の使い手、英雄ハルゲイルも死んだ!!!!
無駄な争いは止めて、直ちに投降するが良いッ!!!!
引き続き戦いを続けるのであれば、敵対する者すべてに平等なる死を与えるッ!!!!」
「……アイナさん、こわーい♪」
私の横で、声を拾われないようにエミリアさんが言ってきた。
だって最終通告だからね? 怖くなきゃダメでしょ……?
……ちなみにここまでの間で、すでに肩を落としている敵もいるようだった。
やはり『英雄の死』というものはインパクトが強いのだろう。
そして恐らく、クラウディアを知る人もショックだったに違いない。
『千瞳の大賢者』なんてふたつ名から察するに、魔法使いの世界では英雄のような存在だったのでは無いだろうか。
……まぁそれはそれとして、続き、続き……っと。
「――投降の意思を示す者は、マーメイドサイドの東側に集まるが良いッ!!!!
それ以外の場所にいる者には、無条件で容赦無い攻撃をさせてもらうッ!!!!
……逃げ場は無いぞ? 今までの攻撃と同じだと思うな。我らにはまだ、強大な戦力があるのだッ!!!!」
「え? そんなのあったんですか?」
「いや、無いですけど」
「えぇー……」
「嘘も方便ですよー」
引き続きエミリアさんとは、声を拾われないところでお茶目に話す。
私はいつもと口調を変えているから、こういう雑談でバランスを取っているのだ。
正直こんな口調を大音量で響き渡らせるなんて、顔から火が出るほど恥ずかしいからね……。
そんなわけで、これくらいのお茶目はどうか許して頂きたいところだ。
――と、言うか。
私もこれからひとつの本番を迎えることになっているから、それに向けて緊張もしているのだ。
こんなところでやるだなんて、それこそ全然決めていなかったからね……。
「……さて、それじゃやりますか」
「はい!」
「はーい!」
「――もう一度だけ繰り返す!!!!
ヴェルダクレス王国軍、並びにそれに与する者よ!!!!
直ちに我らに投降せよ!!!!
私は『神器の魔女』、アイナ・バートランド・クリスティア!!!!
お前たちが希望としていた英雄ハルゲイルはもういないッ!!!!
そして『神剣ナナフヴァドス』はこちらの手にある――」
響き渡る声の合間から、ざわついた雰囲気が伝わってくる。
やはり英雄と神器は人々の希望に成り得るものなのだろう。
私はアイテムボックスから、『神剣ナナフヴァドス』と『神剣デルトフィング』を取り出した。
そのままでは持つことが出来ないから、地面に置くようにして――
……その状態で私が錬金術スキルを使うと、ふたつの神器は強い光と共に消え去った。
以前、神剣カルタペズラを消したときと同じように。
……そして狙い通り、少しあとには『世界の声』が頭に響いてきた。
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『アイナ・バートランド・クリスティア』によって神器『神剣ナナフヴァドス』が消滅しました。
『世界の記憶』に登録されました。
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『アイナ・バートランド・クリスティア』によって神器『神剣デルトフィング』が消滅しました。
『世界の記憶』に登録されました。
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私の大音量の声の余韻はすでに消えている。
その静けさの中、あちらこちらから雨風に乗って、ざわついた声が小さく聞こえてくる。
「……各所の様子は、どうかな?」
「――……え? あ、はい!
直ちに確認しますっ!!」
ここで一旦、戦況報告の魔法使いに、各地の敵の様子を見てもらうことにした。
5分後、すべての場所で敵が戦意を喪失しつつあることを教えてもらう。
……うん、まずまずの効果だ。
それじゃ、次――
「――投降の決心は付いたか!!!!
ここでお前たちに、決心の後押しをする知らせをくれてやる!!!!
南西の門にいる者は、今から起こることの生き証人になるが良いッ!!!!」
「アイナさん、頑張って――」
エミリアさんの声に、私は深呼吸をしてから手に力を込めた。
その瞬間、私の目の前には杖――……アドルフさんに作ってもらった第二の神器の素体が、激しい光と稲妻を放ちながら現れる。
――ズガガッ!! ガガガァアアアンッ!!!
「ひ、ひぃっ!?」
「何だ!? 稲妻!?」
「いや、杖……!?」
「攻撃かっ!?」
「し、死にたくねぇよ……!」
激しい音と共に、私の前に浮かぶ眩い杖。
その姿を見た敵からは驚きと絶望の声が上がっていた。
当然のことながら、味方からも驚きの声は上がっているけどね。
「希望と未来の宣言――……悠久の中、心在りし者が望むもの。
暗く横たわる闇の海、明るく煌めく光になりて、全てを討ち払え。
穏やかなる日々に、燃える様な、静まる様な、太陽の様な安らぎを――」
『――理想補正<錬金術>を使用しますか?』
はい! よく分からないけど、はい!!
神剣アゼルラディアのときと同様、不思議な声が私に聞いてきた。
それに答えた瞬間、目の前の杖に大きな力を宿るのを感じた。
「自由意志の宣言――……世界を象る七と九の根源よ。
我が意のままに法則を折り曲げ、新たなる法則を創り出せ。
現象、生命、概念の形象を捉え、我が支配に透明なる翼を――」
……稲妻はそのまま静かに収束する。
ここで最後の段階、『神剣カルタペズラ』から調達した『炎竜の魂』を吹き込めば――
パアアアアアアアアンッ!!!!!
――何かが弾ける音がした。
目の前の杖は光と稲妻を放つのを止め、周囲は徐々に静けさを取り戻していく。
……無事に完成。
これが第二の神器――
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『アイナ・バートランド・クリスティア』によって神器『神杖フィエルナトス』が誕生しました。
『世界の記憶』に登録されました。
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――神杖フィエルナトスの誕生である。
名前は先に決めておいたから、誕生の瞬間からばっちりだ。
私はその杖を手に取り、何回か軽く振ったあと、エミリアさんに静かに手渡した。
エミリアさんとルークは私と一緒に、静かに笑顔で頷き合った。
……何も喋らなくても、この感動は伝わってしまう。
長い冒険の中で、ようやく誕生したふたつ目の神器――
……さて。
この感動はあとで改めてするとして、今はこの戦いを終わらせることにしよう。
ここまでの間で、御膳立てはすべて終わったのだ。
「――聞こえたか!!!!
かつてこの世界に存在した神器――神剣カルタペズラ、神剣デルトフィング、そして神剣ナナフヴァドス!!!!
全てはこの私、『神器の魔女』によって消滅させた!!!!
そして『神器の魔女』の手には新たなる神器が生まれた!!!!
……これが意味することは、分かるな?」
私は大音量の声の余韻が消えるまで待った。
余韻が消えたあと、聞こえてくるのは雨と雷の音だけ――
……雨は小降りになってきている。
あまり降らなさそうではあるが、何とも丁度良い加減の演出だ。
「――……通告は以上とする。
願わくば王国からの客人に、賢明なる判断を――」
……私の大音量での通告は、これでおしまい。
我ながら良い感じだとは思うけど、上手くいったかな?
上手くいったらもう、今日はさっさと帰ってしまいたいところだ。
帰ってから、新しい神器をじっくりゆっくり眺めてみたいしね。




