553.VS.王国軍~②矢の雨~
私の放った初撃――アルケミカ・クラッグバーストは、轟音と共に、空を飛んでいる一番立派な騎士を撃ち落とした。
恐らくは指揮官。一人を失っただけで崩れるわけも無いだろうが、初撃の成果にしては上々だ。
それ以外の空舞う騎士たちは、凄まじい轟音の余韻にふら付き、この場から一旦離れようとしていた。
……しかし動きは鈍い。
ならばここは――
「アルケミカ・クラッグバースト!!」
――ドゴォオオォオォオオォンッ!!
「……ぐぁっ!!」
再びの強烈な魔法に、二人目が撃墜された。
今ならまだ、撃てば撃っただけ敵を落とすことができる。
出来るだけここで、厄介な空兵たちを倒しておかなければいけない。
街壁の遥か下を見てみれば、多くの騎士や兵士が未だに轟音の余韻を引きずっていた。
大声を張り上げての命令も出ているようだが、耳がやられてしまっていては、上手く聞き取ることも出来ないだろう。
従って今は、対空と同時に、対地への攻撃も絶好のチャンスなのだ。
「――弓隊! 全員、撃てぇええええっ!!!!」
街壁の上、私たちから少し離れたところから、勇ましい大声が聞こえてきた。
あの声は味方の弓隊の隊長だ。
今回の作戦のひとつとして、かなりの人数の弓兵を街壁の上に配置している。
その中には弓のプロもいるが、この3週間ほどで弓の訓練をみっちりした人たちもいる。
とにかく遠距離から攻撃をして、こちらに余計な被害が出ないようにする――これが、今回の作戦のひとつなのだ。
隊長は引き続き弓兵たちを鼓舞しながら、自身も巨大な弓を撃っている。
逞しい腕によって繰り出される矢は、大きな音と共に眼下の敵を豪快に撃ち抜いていく。
そして街壁の上の弓兵たちからも、まるで雨のように、敵の頭上へと矢が射られていった。
「く、くそ……」
「怯むな、突っ込め……!」
「ぐぁっ!?」
通常であれば敵ももう少しまともな動きを見せそうだが、今はまだまだ、開幕の轟音の影響が残ってくれている。
敵の戦線は乱れ、今はまさにこちらのターン。
そしてさらに、激しく降り注ぐ矢は敵の出鼻を完全に挫いてくれていた。
――さて。それじゃ私も、仕事の続きをすることにしよう。
「アルケミカ・クラッグバースト!!」
――ドゴォオオォオォオオォンッ!!
「ぐぁっ!!?」
「あぁっ!?」
「団長っ!?」
少し前まで、私に名乗りを上げていたトレヴァーさんをあっさりと撃ち砕く。
ごめんね、敵対しちゃったからね。最初に言った通り、容赦はしないからね。
……まずは頭を叩く。末端はあとで良い。
とにかく指揮系統で重要そうな人を見つけたら、即座に倒してしまうのだ。
そして合間を縫って、私は空への攻撃も忘れない。
2体、3体と確実に撃ち落としていく。
……ああもう。これじゃ完全に人間兵器だよ……。
地上は弓隊に任せて、私は空中の敵をどうにか10体ほど撃ち落とした。
倒した空兵は、これでようやく全体の十分の一。さすがに強力な魔法があるとは言え、それ以上はなかなか捗ってくれない。
しかし初っ端としては上々だ。
そろそろ次の局面に、目を移すことにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――正直、私は何だかんだで強くなったと思う。
そしてまだまだ、今回の隠し玉は用意しているのだ。
この日のために、一生懸命覚えた魔法もあるからね。
……ただ、そうは言っても私だけで戦えるほど戦いは甘く無い。
例えば長距離に渡るこの街壁を、すべてを守れるわけもない。
正直、十分の一すら難しいだろう。
しかし、私には頼りになる仲間がいる。
しかも空での戦いとなれば、ヴェルダクレス王国の中でも1、2を争っていた程の実力者がいるのだ。
「はーっはっは!!
懐かしいな、ヴェルダクレスの裂空騎士団よ!!」
大きな声を上げながら、ポチに乗ったグレーゴルさんが現れ、私のまわりを旋回した。
遠目には見ていたけど、グレーゴルさんも既に数体、敵の空兵を倒してくれている。
さすが王国が誇っていた、七星の元メンバー。
戦いとなると、やはりとんでもなく頼りになるものだ。
……そしてその傍らには、可愛い小さな女の子が寄り添っていた。
「ママーっ!!」
「リリー! グレーゴルさんと、よろしくね!!」
「なの!!」
今回は何と、グレーゴルさんとリリーのコンビが結成されていた。
グレーゴルさんがポチを操り、そこにリリーが同乗しているのだ。
うーん。リリー、凄く楽しそうだなぁ……!
……って、いやいや。遊びじゃないんだけどね。
グレーゴルさんはリリーを乗せて、そのまま街壁を沿うように飛んで行く。
私のいる場所から少し離れたところでは、矢を撃っているにも関わらず、敵も何とか街壁に接近しようとしていた。
そしてそこから梯子を掛けて、街の中に入ることを狙っているのだ。
……うん、入られたら大変だよね。
だからこそ、グレーゴルさんとリリーには高い機動力を活かして、それを制してもらうのだ。
私が様子を見ている中、リリーがポチの上から、敵に向かって何かをばら撒いた。
――ドカーンッ!!
――ドゴーンッ!!
――スゴォオオンッ!!
「う、うわぁっ!?」
「ひぃっ!?」
「な、何だーっ!?」
遠くから、爆音と共にたくさんの悲鳴が聞こえてくる。
実はこれ、私の作った爆弾をリリーにばら撒いてもらっているのだ。
リリーはどこででも、『疫病の迷宮』を開くことができる。
それを極狭い範囲で開くようにすると、使い勝手は少し違うものの、アイテムボックスのような使い方が出来るのだ。
つまりそれを応用すると、ポチの上から、大量の爆弾を投下することができてしまう。
量を使えば、それこそ絨毯爆撃のような――
……この世界、この時代においては、まさに圧倒的な空中兵器と化すのだ。
余談ではあるが、ポチのように飛べる魔獣が他にいれば、私も参加することが出来ていた。
しかし残念ながら、人を乗せて飛べる魔獣は、こちらにはポチしかいないのだ。
もう一体でもいれば、作戦はずいぶん変わったんだろうけど――
……そんなことを考える間にも、グレーゴルさんとリリーは北に向かって爆撃を続けていった。
この二人にはもうひとつ、役目を持ってもらっている。
私たちと合流するのは、それが済んだあとになるだろう。
「――アイナ様! リリー様たちのおかげで、西側は一旦攻撃が収まったようです!」
私に報告をしてくれたのは、最近知り合った魔法使いの一人だ。
5人ほどのパーティを組んでいて、特殊な魔法で長距離間でのやり取りができるのだと言う。
イメージ的には、モールス信号を使う……みたいな感じかな?
この戦いではその技術を見込んで、戦況報告をしてもらっているのだ。
「了解っ!!
南側から東側はどう?」
「南側が厳しいそうです!
壁に梯子を掛けられた上、敵の魔法使いも多いらしく……。
東側はマリサ姉妹の活躍で、まだ余力があるようです」
「……うん? マリサ姉妹……?」
唐突に、聞きなれない名前が出てきた。
そんな人たち、味方にいたっけ?
「あれ? 結構有名なんですけど、アイナ様はご存知ありませんか?
マリサ、ミリサ、メリサ、モリサの四人の魔法使いたちを――」
「いや、知らないけど……」
……有名、なの?
まぁ、戦いが終わるなり、余力があったら会ってみることにしよう。
今はそれよりも、街の南側だ。
「それでは私がサポートしてきます。その間、ここはお願いできますか?
私とエミリアさんで南側に行ってきますので!」
「分かりました、お任せください!!」
力強く返事をしてくれたのは、何故か後ろに控えていたエイブラムさんだった。
しかしこう見えてエイブラムさん、なかなかトリッキーというか、技巧派の魔法を持っているから頼りになるんだよね。
最初に使った遮音結界とか、私の知らない魔法もたくさん持っているし――
……ちなみにその遮音結界、大きな音を立てる作業をするときに、近所迷惑にならないように覚えたものだったらしい。
覚えた理由が何だか、いちいち微笑ましかったりして。
――ま、それはそれとして。
この近くには弓隊の隊長もいるし、一旦任せて南側に急ぐとしよう。
……ざっと見渡せば、敵の攻撃も徐々に強くなってきている。
矢も多く射られ、魔法も多く撃ち込まれているようだ。
今はこちらの作戦通りに進んでいるとしても、そもそもがギリギリの戦い。
焦らず、油断せず、途中途中できつい一撃を放ちながら、引き続きこのペースを維持して、戦いを進めていくことにしよう。




