55.宿屋で報告会②
食堂を出た後、私たちはルークの部屋に集まった。
本当は私の部屋で話をしようと思ったのだが、何やらルークが難色を示すもので……。
曰く、『私がアイナ様のお部屋に入るなんて!』……らしいのだが、私の家の私の部屋でもあるまいし。
そんなわけでルークの部屋に来たのだが、間取りは同じだし、荷物も同じくらい整頓してるし。
特に変わりなんて無いんだけど――まぁ、ルークがそれで良いなら良いか。
「――それじゃ、お話の前にお茶でも」
私はエミリアさんにお茶セットを渡し、私は私でお湯を作る。安定のいつもの分担だ。
ルークは特にやることもなく、静かに椅子に座っていた。
「はい、お茶をどうぞ」
お茶を淹れ終わったエミリアさんがカップを渡してくれた。
ごくり。――はぁ、美味しい。
「それでアイナ様、お話というのは何ですか?」
「あ、うん。早速本題に入るんだけど――これを見て欲しいの」
私はアイテムボックスからダイアモンド原石を取り出した。
ずっしりと重いこれを、机に置く。
「これは――ガラスですか?」
「ううん、ダイアモンドの原石」
「ぶふ――――ッ!?」
エミリアさんが豪快にお茶を噴き出した。
「ごほっ、ごほっ……。す、すいません! アイナさん、大丈夫ですか!?」
大丈夫だけど――めっちゃ掛かりました!
エミリアさんは申し訳なさそうにハンカチを渡して来る。
「えっと……アイナ様、本当にこれが……?」
ルークも驚きならが聞いてくる。そりゃそうだ、私も驚いたんだから。
「うん。錬金術で色々試してたら出来ちゃった」
「出来ちゃったって……えぇ? アイナさん、こんなのまで作れちゃうんですか?」
「うん、材料があったから――」
「えぇ……。ちなみに材料って何だったんですか?」
「炭」
「「え?」」
「これ」
私はアイテムボックスから黒い炭を取り出した。
二人はそれをまじまじと見つめる。
「アイナさん、これって炭、ですよね」
「はい、言った通りです」
「アイナ様。こんな黒いものが、何で透明になるのでしょうか?」
……さぁ? それはこの世界がそういう風に創られているから――うん、なんとも壮大な話だ。
「炭を限界まで細かくして、並べ替えるとこうなる……らしいヨ」
私も化学はうろ覚えなんだよね。何せ元の世界では24歳なもんで、社会に出てからそれなりに経っていたわけで。
「へぇぇ……。錬金術って、本当に凄いですねぇ……」
エミリアさんはダイアモンド原石を恐る恐るつっつく。
「それで、鑑定でざっくり調べたら金貨2000枚くらいらしいんだけど――」
「へぁ!? に、にせんまい……ですか?」
「サイズも大きいですし――それと、私が作ったものだから、品質がやはりS+級なのです」
「――……」
エミリアさんが呆然とした目で見てくる。
「アイナさんはこれを作り続ければ億万長者に一直線――……」
「ま、まぁそうなんですけど、ダイアモンドって希少価値ですからね。あまり作りすぎると価値が落ちちゃいますし?」
それに、下手したらヴィクトリアみたいに難癖を付けてくる輩も出て来るかもしれないし。
「そ、そうですね……。ところで、これはさっさと売っちゃう感じですか?」
「錬金術じゃカッティングが出来ないですし――。でも売るにしても、何か売り様があるような気もしますし――」
「高価なものは、それはそれで売りにくいですからねー。
でも、急ぎで売る必要が無ければ、タイミングを見計らう――で、私は良いと思います!」
エミリアさんは空を仰ぎながら、うんうんと頷きながら話す。
「そうですね、私もそう思います。目下、魔物討伐の依頼はしていきたいですし」
ルークも同意した。そもそもルークは魔物討伐をしたがっているからね。
お金にもなるし、戦いの経験も手に入るし――。
「それじゃこれはこれとして、引き続き依頼は受けていきますか」
「はい、是非よろしくお願いします」
「私もそれが良いと思いますー!」
うん、真面目な人たちで良かった。
人によっては『金はたくさんあるぜ! 遊びまくるぞ!』みたいな考えになる場合もあるからね。いや、むしろそっちの方が多そうだけど。
「――はぁ、それじゃひと段落っと」
「アイナさん? ひと段落って?」
「いえ、急にこんなものが作れちゃったから……私もびっくりしちゃいまして。
まぁ、これはタイミングの良いときに売るとして――うん、私の中で何とか整理は付きました!」
「作れちゃったっていうのも凄いんですけどね……」
「まったくですね。エミリアさん、同感です。そしてアイナ様、さすがです」
はい、いつも通りにまとまりました! ぐぬぬ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、少し話をしてから解散。
明日は冒険者ギルドに行ってみて、長時間並ぶようでなければ依頼を受けることにした。
もしも依頼を受けられなければ――どうしよう?
依頼無しで魔物討伐をしても良いんだけど、やっぱり目的が無いとね。
「ふにゃーん」
変な声を上げながら――ぼふん、とベッドに飛び込む。
今日は朝から、何だか色々なことがあった気がする。
そのせいか魔物討伐をした日よりも疲れた感じがしなくも無い。
うーん、でも魔物討伐はあれはあれで疲れるし、戦闘ならではの緊張があるからなぁ。
疲れが大きい小さいでは無くて、多分違う種類の疲れなのかな?
――それにしても、ダイアモンド原石で金貨2000枚!
この事実は大きいよね。
でもさっき話した通り、あまり乱発しないで効率良く、タイミングを見極めて売りたいところ。
言うのは簡単だけど、それにしてもどうやってそのタイミングを見計らえば良いのかな……?
こういうときに商人みたいな知り合いがいれば良いのに――。
そんなことを思いながら、とりあえず今まで会った人を思い浮かべてみたが――ハマる人がやはりいない。
うーむ、これからの出会いに期待するか……。
それじゃダイアモンド原石はとりあえず置いておいて、目先ではまた真面目に金策に励まないとね。
……とすると、結局のところやることは今までと一緒なわけか。うーん、明日からも頑張ろう!




