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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
548/911

548.収束

「――はい、どうぞなの♪」


 朝食のあと、お屋敷の裏庭でリリーに『奈落の欠片』を取って来てもらった。

 私視点ではリリーがしばらく消えて、しばらくしたら戻ってきて、黒い欠片を渡されただけ。

 疫病が漏れることも無く、実にあっさりとしたものだった。


 でも『奈落の欠片』は、深淵クラスの迷宮の最下層にあるような代物なんだよね。

 私を含め、仲間たちだって昔よりもずっと強くなったけど、そんな場所に行くのはまだまだ難しいはずだ。


 最下層なら頑張れば行けるかな? ――なんて少しは思ったこともあったけど、先日グリゼルダから北の大陸の話を聞いてしまったからね。

 この世界には神器を持とうが、強力な魔法を使おうが、竜族を仲間にしようが、攻略が難しい場所なんて、きっといくらでもあるに違いない。


 ……そう考えると、リリーが持ってきてくれた『奈落の欠片』は、正直『助かる』だなんてレベルでは無い。

 これはもう、一生恩に着るレベルになってしまうのだ。


「ありがとう!

 リリーには何か、お礼をしなくちゃね。

 何か欲しいものはある?」


「むー……。

 それならきんつばが欲しいの!」


 マーメイドサイド名物、きんつば。

 名物とは言っても、作り方は公開していないんだけど。


 しかし私の作ったものを目指して、試行錯誤で作っている人たちもいるそうだ。

 きっとそのうち、似たようなものは出来てくるんじゃないかな。

 ……私のS+級のきんつばには、なかなか追い付けないだろうけどね。



「おっけー。それじゃ、あとで作ってあげるね!」


「よろしくなの!

 それで、たくさんお願いしても良い?」


「ん? 別に良いけど……。

 そんなに食べるの?」


「人魚さんたちに持っていってあげるの!」


 ……おお、何て優しい。

 リリーがグリゼルダと遊ぶときは、大体は人魚の島だ。

 だから、人魚との交流も多いらしいんだよね。


「それならたくさん作らないとね!」


「なの!」


 私の言葉に、リリーは元気に返事をした。

 今日は時間もあることだし、午後にでも人魚の島に行ってみるのも面白いかなぁ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 リリーは引き続き庭で遊んでいくそうだったので、私だけ一旦部屋に戻ることにした。

 テーブルでちょっとした書きものをしていると、扉の方からノックの音が聞こえてくる。


「はーい、どうぞー」


「お邪魔しまーす」


 私の部屋に現れたのはエミリアさんだった。

 空いている時間にはたまにこうして来てくれるから、別に珍しいということも無い。


「あれ? 今日は孤児院には行かないんですか?」


「もう少ししたら行く予定ですよー。

 えぇっと、ちょっとアイナさんにお話があって。……リリーちゃんはいないんですね」


「外で遊んでますよ。

 リリーがいたら、しにくい話でした?」


「いえ、全然。

 ただ、アイナさんにプレゼントを渡したかっただけですから」


「え? プレゼント?

 ……特にもらう理由、ありましたっけ」


「神器作成の、準備記念……的な?」


「あはは。なんですか、それ」


 神器が出来たときならともかく、今は素材を集め始めようとしているところなのだ。

 しかしエミリアさんは、小さな箱を私の方に差し出してきた。


「まぁまぁ。

 これは私が買ったわけでもありませんし、私が持っていても仕方が無いものですから」


「はぁ……。

 それじゃ開けますよー。えいっ」


 特に包装などもされていなかったので、紙製の箱をぱかっと開けてみる。

 そこには不思議な輝きを放つ、小さな石が入っていた。


 ……んん? これは見え覚えのある――



「どうでしょう!」


「え、えぇー……?

 どうしたんですか、これ……」


 間違いは無いと思うものの、それでも念のために鑑定をしてみる。

 そして結果は、私の思った通りのものだった。


 ----------------------------------------

 【土の封晶石】

 土の力を増幅させる結晶体。高度な製造で使用する

 ----------------------------------------


 これは私の神器作成に必要な素材の、封晶石の最後のひとつ――


「……これ、アイナさんの側で見つけたものなんですよ。

 アイナさんが『疫病の迷宮』を創ったあと、アイナさんが倒れている横で見つけたんです」


「そうだったんですか?

 え、でも何でそんなところに……?」


「さぁ?」


 ……頑張って理由を付けてみれば、『疫病の迷宮』を創るときの条件に『特殊条件<大地>』っていうのがあったから、きっとその関係ではあるのだろう。

 何かを作ったとき、それと一緒に出来てしまう副産物というものがあるけど――……恐らくはそんな感じかな?



「うーん……。

 となると、私たちの旅の中で、封晶石は集まっていたんですね……」


「封晶石はいろいろなところで手に入っていたから、私たちの旅の証って感じがしますよね。

 そう考えると、アイナさんの神器にぴったりな素材かなって♪」


「あはは、確かに……」


 考えてみれば、『奈落の欠片』だって私の旅が無ければ手に入らなかったわけだし――

 ……あれ、そうすると……?


「もしかしたら『虚ろの石』も、私たちの旅に関係しているのかもしれませんね!」


「――ですよね!

 さすがに出来過ぎかもしれませんけど、その可能性だってありますよね!」


「はい!」



 ……私が今までに触れてきた信仰と言えば、ルーンセラフィス教と……まぁ、ガルルン教くらいか。

 強いて挙げれば、あとは例の教祖様――エイブラムさんたちの信仰と、パププパペロッチ教くらいのものだ。


 ……未だに覚えているよ、パププパペロッチ教。

 メルタテオスの施設で見掛けた名前だけど、語呂だけはやたら良いからね。

 多分、死ぬまで忘れない気がする……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 エミリアさんはこれから出掛けるというので、お礼も兼ねてお見送りをさせてもらった。

 その後、部屋に戻ってもリリーはまだいないし、昼食まではまだまだ時間がある。


「――さて、それじゃアイーシャさんの手紙でも読もうかな」


 距離が離れてしまえば、ヴィクトリアのことは割とどうでも良くなってくる。

 近くにいれば別だけど、もはや私の人生に影響を及ぼさない人間なのだ。

 ……ただまぁ、いつか一発逆転だけはされないように、一応気を付けておくことにしよう。



 早速手紙を読んでみると、ヴィクトリアが森の中にいた経緯が丁寧に綴られていた。

 どうやらヴィクトリア親衛隊の四人が、ヴィクトリアを外に連れ出したらしい。


 連れ出したのは、私がクレントスにいることを聞き付けてからの話。

 ヴィクトリアはヴィクトリアで、自由な生活が手に入るなら……と承諾していたようだ。

 初対面であの四人と一緒に行くのもアレな話だとは思うけど、ヴィクトリアもそれなりに追い詰められていたのだろう。


 そしてその後の予定としては、私をどうにか攫って、途中で懸賞金を手に入れる計画だったそうだ。

 そもそもそれが無ければ、ヴィクトリアだって働かないといけないことになる。

 ヴィクトリアには錬金術があるから、それで生計は立てられそうだけど――贅沢をしてきたワガママ娘が、そんな人生を歩めるかと言えば……ねぇ?


 お屋敷に連れ戻されたヴィクトリアは、結果として、今まで以上に監視の目が厳しくなったらしい。

 そしてヴィクトリア親衛隊の四人――……と、共犯だったザマスのオバサンを合わせた五人は、すぐに処刑されたとのこと。



「……え? 展開が速すぎる……」



 加えて、ヴィクトリアが連れ出されたことを知りながら、黙認していた使用人についても処分が下ったらしい。

 私がついつい驚いてしまうほどに、すべての処理はスムーズに終わってしまっていた。



「――ま、一件落着なのかな」



 とりあえず私は、アイーシャさんへの返事を書くことにした。

 お礼と、お礼と、お礼と――……あれ、お礼しか書くことが無いや。

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