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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
544/911

544.二人を招いて

 私が王都から姿を消したあと、テレーゼさんはずいぶんとショックを受けていたそうだ。

 この辺りは想像に(かた)くないし、クラリスさんからもそんな話を聞いている。


 テレーゼさんは仕事も休みがちになり、毎日私のお屋敷の前に通っていた。

 そんなある日、私が残してきた荷物が全部、運び出されることになったのだ。


 私のお店の扉に付けた鐘が気になったテレーゼさんは、それだけでも必死に残してもらおうと頑張ってくれたらしい。

 しかし無料というわけにもいかず、作業をしていた男性から無理やり――


 ……というところで、助けに入ったのが我らがダグラスさん!

 そのままその男性を張り倒し、テレーゼさんと一緒に逃亡した……というのが、鐘を手に入れるまでの話だ。



「――ダグラスさん……?」


 まさかダグラスさんが、そんなやんちゃをするだなんて……。

 予想外の行動に、私は少しじとっとした目を向けてしまった。


「いやいや! そこはやっぱりテレーゼを助けるだろう!?

 アイナさんの鐘だって冷静に考えたら犯罪だけど、そこは持っていくべきだろうし……!!」


「格好良かったですよ、あのときの主任!」


 ダグラスさんの言葉に、テレーゼさんがフォローを入れた。

 ……いや、これはフォローなのか、惚気(のろけ)なのか……。


「まぁ……、そのおかげで鐘も戻ってきてくれたので、お礼は言っておきますね。

 本当に、ありがとうございます。

 ポエールさんから聞いたんですけど、この鐘は搬出の予定には無かったらしいんですよ。

 だから、テレーゼさんが頑張ってくれなかったら、ここには無いものなんです」


「えへへ、それは良かったです♪」


「それで――

 ……その立ち回りが二人の馴れ初めだった、というわけですか?」


「うん……、まぁ、そういうことだな。

 それからしばらく、テレーゼはずっと情緒不安定でなぁ。

 ずっと面倒を見ていたら、まぁ、そんな空気になっちまって……」


「うふふ♪」


 ダグラスさんが顔を少し赤らめると、テレーゼさんは満更でも無いように微笑んだ。

 ……はぁ、お熱いことで。


「テレーゼも、ずっとアイナさんたちのことを心配していたんだよ。

 ほら、指名手配をされただろ? 行き先くらいは何となく噂になっていたしさ」


「途中で王国軍とも何回かやりあったから、やっぱり情報は流れちゃいますよね……。

 それに、たくさんの懸賞金も懸けて頂いちゃいましたし」


「ははは、あれは本当に凄い額だよな……。

 それで、しばらくしたら、マーメイドサイトの噂も流れてきてな。

 俺たちも錬金術師ギルドで冷遇されていたことだし、破れかぶれでこの街に拠点を出すことを提案したんだ」


「あ、言い出したのはダグラスさんだったんですね」


「ああ。大きな街になるっていう噂もあったし、何よりアイナさんが作る街だもんな。

 それに……テレーゼがもう、毎日せがむんだよ」


「苦労はしそうだけど、絶対に楽しいだろうし、アイナさんのお手伝いもしたかったんです。

 結局、錬金術師ギルドでの担当は、ずっと主任がやっちゃっていましたから」


「そうですね……。

 それじゃ、私の次の担当はテレーゼさんにお願いすることにしましょう」


「本当ですか!? わーい、やったー!!」


「ははは、ちゃんと頑張るんだぞ。

 ……まぁ、その前に元気な子供を産んでもらうことになるんだが」


 確かに。

 どう考えてみても、赤ちゃんの方が先になるのは間違いないよね。


「ちなみに、出産は大体いつ頃になる予定なんですか?」


「んー、あと一か月以内……ってところですね」


「ふむふむ……。

 産婆さん、紹介します? 当てはありますか?」


「はい、大丈夫です!

 ちょっとした伝手があって、そこにお願いすることになっているんですよ!」


「それなら一安心ですね。

 あとは……そうですね、欲しい薬があれば作りますよ」


「えーっと、何かあるかな……。

 ……思い付いたら、お願いしますね!」


「はーい。無いなら無いで、越したことはありませんから」


 ……とは言え、このお屋敷でしばらく過ごすのであれば、一応その伝手の産婆さんの話も聞いておこうかな。

 急に産気付いたら、ここでは対応できないもんね。

 この辺りはあとで、ダグラスさんに聞いておくことにしよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、夕食の時間になると、エミリアさんとルークが戻ってきた。

 二人も王都からの逃亡生活の中で、テレーゼさんに命を救われた身だ。

 私も含めて改めてお礼を言うと、テレーゼさんは照れくさそうに困ってしまっていた。


 でも本当に、私たち三人が生き延びられたのはテレーゼさんのおかげだからね。

 ここは感謝感謝、どこまでも感謝だ。


 ……そして一通り話が終わった頃、食堂に追加のメンバーがやってきた。



「ママー、ただいまなの!」


「世話になるぞ。酒も持ってきたから今日は付き合うのじゃ――

 ……っと、来客かえ?」


 追加のメンバーとは、リリーとグリゼルダの仲良し二人組だ。


「おかえりなさーい。

 今日突然、再会しちゃったんで、夕食に招待したんですよ。

 こちら王都でお世話になった、ダグラスさんとテレーゼさんです」


「初めまして、ダグラスです」


「テレーゼです! わー、素敵な方――

 ……と、ママ……? え!? ママって、アイナさんのことですか!?」


「えーっと……、はい」


「えええええええええっ!?

 まさかアイナさんも、お子さんがいたんですか!?

 いつの間に!? 相手はルークさんですか!?」


「「ぶっ!?」」


 とりあえず私とルークが一緒に噴き出した。

 だから、何でそうなるの……。


「リリーは私が産んだわけでは無いんですけど……。

 少しいろいろありまして、はい。確かに生んだのは私なので、こうなっているわけです」


「む……、むーん……?」


「ふむ……。もしかして――……ああ、いや。

 アイナさんも、いろいろあるんだなぁ」


 不思議がるテレーゼさんと、何かに思い当たったダグラスさん。

 おそらくはホムンクルス錬金を思い描いているのだろうけど、それとも違うんだよね。


 まさか『世界の声』で聞かされた『疫病の迷宮』だとは思いも寄らないだろうし……。

 でも、とりあえずホムンクルス錬金だって思われていた方が、問題は無さそうかな。



「というわけで、この子供はリリー。そして妾はグリゼルダじゃ。

 妾はアイナの――……何じゃろうな、アイナと妾の今の関係は」


「仲間で良いなら、仲間のつもりですけど」


「おお、それそれ。アイナの仲間のグリゼルダじゃよ」


「よ、よろしくお願いします……!」


「おぉ……、主任が緊張している!?」


「む……。何か、ただならぬオーラが……だな……」


 グリゼルダは気配を隠しているものの、それなりの存在感はやはりある。

 ダグラスさんはその辺りを感じ取っているようだ。


「オーラなの?

 私も、オーラ出せば良いの?」


 きょとんとした顔で、私とグリゼルダを交互に見つめるリリー。


「あ、ちょっと待って!

 リリー、今は大丈夫だから!!」


「ふみゅ、分かったの!」


 私の言葉に、リリーは素直に気配を解放しないでいてくれた。

 強い気配を解放したところで、いつもなら笑い話で済ませられるけど――


 ……今は妊娠中のテレーゼさんが驚いちゃうからね。

 怖いだけならともかく、それ以上の影響があれば今は止めるべきだろう。



 そうこうしている内に、メイドさんたちが配膳の準備にやってきた。

 気が付けばずいぶん話してしまったし、お腹も空いてしまっている。

 ジェラードはいないけど、今日はもう戻ってこないのかな? ……ま、これもいつものことか。


「――それでは夕食にしましょう。

 軽くお酒も飲んじゃいますか!」



 ……その後は昔の話に花を咲かせながら、未来の話に思いを馳せながら、全員で会話を楽しんだ。

 セミラミスさんが空気と化していたのは……まぁ、それはそれだ。

 お開きの時間はテレーゼさんの身体のことを考えて22時にしたけど、その翌日もその次の日も、何だかんだで彼女とはたくさん話をしてしまった。



 そしてしばらく先だと思っていた、交易するにあたっての要人との面会――

 ……気が付いたら、すでに当日になってしまっていた。


 楽しい時間は、やっぱり過ぎるのが速いというもので……。

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