表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
543/911

543.懐かしのお土産

 その日の夕方、ダグラスさんとテレーゼさんがお屋敷を訪ねてきてくれた。

 ケアリーさんも呼びたかったところだけど、それまでの間に連絡が取れず、結局は断念することに。


 もう少し早い時間から動けば何とかなりそうだったんだけど、ケアリーさんとはまた次の機会にすることにしよう。

 あまりたくさん招いても、あまり話すことができなくなりそうだしね。



「――あ! 可愛い子!」


 お屋敷に入るなり、テレーゼさんが突然大きな声で言った。

 お客様の出迎えということで、メイドさんが3人ほど来ているんだけど――


「……ああ。そう言えばテレーゼさん、キャスリーンさんのことがお気に入りでしたもんね。

 王都でお世話になったメイドさんに、ここでもお世話になっているんですよ」


「えぇー、そうだったんですか!

 お久し振りです、キャスリーンさん!」


「いらっしゃいませ。

 お久し振りです、テレーゼさん」


 キャスリーンさんはやや業務的な微笑みながら、それでもテレーゼさんには優しく接していた。


「クラリスさんも、テレーゼさんのことは心配していたんですよ。

 ほら、私がいなくなってから、ずっとお屋敷の前にいたとかで」


「あ……、あはは……。

 すいません、その節はご迷惑を……」


「いえ。アイナ様がいなくなってショックだったというのは、私共も同じでしたので。

 滞在の間、ゆっくりとお(くつろ)ぎください」


「はい、ありがとうございます!」


「すいません、お久し振りです。

 俺もお世話になりますので……」


「はい、アイナ様から伺っております。

 お部屋は同じ部屋ということで、よろしいでしょうか」


「あ、そうですね!」

「それでお願いします」


 クラリスさんの質問に、テレーゼさんとダグラスさんは一緒に返事をした。


 ……そうか、同じ部屋か。

 そうだよね、夫婦だもんね。いやー、そっかそっか。

 でも昔の二人を知っている身としては、やっぱり複雑な気分だったりして……。



「――アイナさん、どうかしたんですか?」


「ああ、いえ、何でも無いです。

 それでは部屋で一休みしたら、食堂に集合ということで」


「はーい!」

「分かった」



 私たちはひとまず、ここで一旦解散することにした。


 ……さて、と。

 夕食まではまだまだ時間があるけど、せっかくだから、今いるお屋敷の仲間にも声を掛けておこうかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 仲間の部屋をそれぞれ訪ねてみたものの、残念ながらセミラミスさんしか部屋にいなかった。

 ……と言うか、セミラミスさんは当然のようにいるのが流石だ。

 たまにはどこかに行かないのかな? ……行かないんだろうなぁ。



「はわわ……。アイナ様の大切な、お客様なんですね……」


「大切ではありますけど、普通の人ですからね。

 強かったり偉かったり、そういうのはありませんから。気楽に、気楽に!」


 緊張するセミラミスさんを応援しながら、私たちは食堂に向かった。

 食堂に入ってみると、早くもダグラスさんとテレーゼさんが席に着いている。



「あれ、早いですね。

 もう少しゆっくりして来れば良かったのに」


「俺はそう言ったんだが、テレーゼのやつが急かすものでな……」


「たくさんお話をしたかったので、待ちきれなかったんです!

 この日をどれだけ待ち望んで来たことか~っ!!」


「……というわけなんだ。

 アイナさん、すまんが相手をしてやってくれ……」


「あはは、大丈夫ですよ。

 そうそう、紹介しますね。こちらセミラミスさんです。

 マーメイドサイドで仲間になってくれた方なんですよ」


「は、はじめまして……」


「初めまして! わー、綺麗な方ですね!」


「お前はそればっかだな……。

 俺はダグラス、こっちはテレーゼだ。セミラミスさん、よろしくな」


「よろしくお願いしまーす!」


 畳みかけるような二人の言葉に、セミラミスさんは少しあわあわしてきてしまった。

 早い早い、あわあわ早い。


「セミラミスさんは言葉数が少ないのですが、静かな方なので、そこは気にしないでくださいね」


「うん、分かった。

 しかしアイナさんの仲間ともなれば、静かに見えて、きっと何かが飛びぬけているんだろうなぁ……」


「はい、魔法の知識が凄いんですよ!

 私もとっても、お世話になっていまして」


 ……あとはついでに、戦闘能力も凄いんだけどね。

 でも性格的にあまり発揮されないところだし、今は伝えなくても問題は無いか。


「ふむ、魔法か……。

 そういえば魔術師ギルドもこの街に拠点を作りたいって、どこかで聞いたことがあるな。

 うちと同様、やはり圧力は掛けられていたみたいなんだが」


「へー、そうなんですか……。

 とすると、やっぱり冒険者ギルドは――」


「むむ! 主任もアイナさんも!

 今はそういう話は禁止です! もっと楽しい話をしましょう!!」


「お、そうだな。すまんすまん」


「あはは、そうですね。せっかくの再会ですから。

 まぁ、ギルド関係の話はあとで聞かせてくださいな」



 時計を見ると、夕食まではまだまだ時間があるようだ。

 その頃になればエミリアさんたちも帰ってくるだろうし、とりあえずは今までの話をしてしまおうかな。

 掻い摘んで話しても、それなりに時間が掛かってしまうからね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――はぁ……。何とも、かんとも……」


「ふえぇ……。本当に、本当に大変だったんですね……。

 アイナさぁああああああんっ!!!!」


「うわぁ、急に叫ばないでください!」


 一通り話し終えると、とりあえずそんな感想が返ってきた。

 いつも通り『疫病の迷宮』の部分は少しぼかしたけど、それ以外は一通り話してしまった感じだ。



「何回かは本当にダメそうだったんですよ。でもその中の一回が、テレーゼさんに本当に救われたんです。

 こうしてお礼を言える機会ができて、本当に嬉しいです!」


「俺もその話、初耳だったぞ……。

 ずいぶん貯金が無いと思ったら、そういうことだったのか……」


「えへへ……。ごめんなさーいっ!」


「あ、そうですよね!

 偽造の身分証明書とか、きっとお金が掛かりましたよね!

 さすがにそれは、払わせてください」


「えーっ。いいですよ、私の好きでやったことだったんですから」


「いやいや!

 赤ちゃんが生まれるなら、お金なんていくらでもあった方が良いでしょう?」


「……ふむ、そうだな。ここはありがたく申し出を受けよう。

 な、テレーゼ?」


「うぅん……分かりました!

 では実費だけ頂きます! それ以上は受け取りませんから!」


「あはは、分かりました。

 でもお金だけでは返せない恩を受けていますからね。何か困ったことがあったら、何でも言ってくださいよ?」


「はい、ありがとうございます!

 ……あ、それでですね。アイナさんにお渡ししたいものがあるんです」


「え? 私に?」


 テレーゼさんの言葉を不思議に思っていると、彼女は膝に乗せていた布包みをテーブルの上に置いた。

 そしてそれをゆっくり開いていくと――



 ……それは、見覚えのあるものだった。

 王都のお店の扉に付けていた、ジェラードからもらった鐘――



「う、わぁ!!?

 ……え? それ、何でテレーゼさんが持っているんですか!?

 誰かに盗まれたとかで、諦めていたんですけど……!!」


「まぁ、その……な?

 盗んだの、俺たちなんだよ……。テレーゼのやつが、まぁ、やっちまって……」


「えぇっ!?」



 何が何だかよく分からないが、ひとまず次は、その話を聞くことにしよう。

 しかし戻ってこないと思っていたものが戻ってきてくれたのは、これはとても嬉しいことだ。


 この鐘は凄く気に入っていたし、早速明日にでもお店に付けて来ようかな。

 うん、そうしよう、そうしよう♪


 ――……って、まずはテレーゼさんの話を聞かないと!

 偽造に盗みに、何だか凄いことになっているからね。

 ……まぁ両方とも、私のせいではあるんだけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ