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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
541/911

541.錬金術師ギルド、はじまるよ!

 テレーゼさんの大声を期待していた私だったが、聞こえてこないものは仕方が無い。

 気を取り直して顔を上げてみると、そこには思い掛けない展開がいろいろと待っていた。



 ……とりあえずそこにいたのは、男女一人ずつの二人組。


 男性の方は、私がよく知っている人――

 ……ああ、なるほど? ……え、ええぇ!?


 いやいや、どこからツッコめば良いの!?



「やぁ、アイナさん……」


「むぐーっ!」


 ソファーの横に座った女性にしがみ付きながら、何とか口を押さえている男性が言葉を振り絞った。

 まずはひとつずつ、いろいろな要素を分解しながら話を進めていくことにしよう……。



「……何してるんですか、ダグラスさん……」


 王都の錬金術師ギルドで、ずっと依頼の窓口になってくれていたダグラスさん。

 久し振りの再会なのに、そんな言葉しか出て来ないこの現状――


 ダグラスさんがしがみ付いている女性は妊婦さんのようで、ダグラスさんはしがみ付きながらも、大きなお腹の負担にはならないようにはしていた。

 そもそもこれ、何でこうなっちゃってるの。


「ははは、すまんな……。

 さ、もう落ち着いたか? 手、放すぞ? 叫ぶなよ?」


 そう言いながら、ダグラスさんは彼の手をそっと、妊婦さんの口から放した。

 ……ん? 叫ぶって――


 私がそう思った瞬間、ダグラスさんの手で隠れていた女性の顔が、ようやくはっきり見えてきた。



「アイナさぁああああああああんっ!!!!」


「こらぁっ!! 叫ぶなって言ってるだろ!!」


「アイナさぁああああああああんっ!!!!

 会いたかったですうぅううううう!!!!」


「おおぃ!?」



 ダグラスさんの言葉を完全に無視する彼女は、間違いなくテレーゼさんだった。

 昔よりも声は小さい気もするが、それでもこの叫びは健在――


 テレーゼさんはぼてぼてと私の方に歩いてきて、私に抱き付いてきた。

 ……けど、お腹!! お腹、大きいんですけど!!


「えぇっと、どこから何を言って良いものやら……。

 と、とりあえずお久し振りです。

 ……えぇー?」


 テレーゼさんと再会したときは、きっと思い切り抱き締めてしまうんだろうなぁ……とは思っていたものの。

 目の前の驚きの現実が、私をそうさせないでいた。



「はぁ……。医者からもあんまり大声は出すなって言われただろう……」


 私に抱き付くテレーゼさんを見ながら、ダグラスさんは仕方の無さそうに呟いた。

 なるほど、最初に口を塞いで止めていたのは、それが理由なのか……。

 ……さっきの大声を聞き付けて、部屋の前に何人か集まっちゃったみたいだけど……それはそれとして。


「ま、まぁ……落ち着くまではこのままで大丈夫ですよ。

 でも落ち着いたら、お話をしたいのでソファーに戻りましょうね」


「ふぇっ……。わ、分かりました……。

 でもあと、ちょっとだけ……えぇ……」


 鼻を(すす)りながら涙声を出すテレーゼさん。

 私もきっと、驚きの展開が無かったらこれくらい感情を出していたかもしれない。


 ……本当に久し振りだ。

 こうして会えただけでも、とっても嬉しいわけで――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――落ち着くまでは15分ほど。

 さすがにそのころになると、ダグラスさんがテレーゼさんを引っ剥がしてくれた。


「ほらほら、今日は仕事で来たんだからな?

 そろそろ始めるぞ」


「も、もう少しだけぇ……!」


「ポエールさんも待たせているんだから、いい加減にしような?」


「うぅー……」


「テレーゼさん、もし時間があれば、今晩はうちに来ませんか?

 もちろんダグラスさんも。歓迎しますから!」


「えぇ!? それはもう、是非!

 ささ、主任! 仕事をしますよ!!」


「おい」


 テレーゼさんの切り替えの速さに、ダグラスさんは冷静なツッコミを入れた。

 そうそう、これこれ。この二人の掛け合い、大好きなんだよね。



「……はぁ。それにしても、テレーゼさんに赤ちゃんが出来たんですね。

 相手の方は、私の知ってる人なのかなぁ」


「はい! アイナさんも良く知っている人ですよ!」


「うーん、誰だろう。

 仕事の話を進めたいとは言え、そこだけは知っておきたいですねぇ……」


 ……だって正直、気になるし。

 この二人が来た時点で、錬金術師ギルドの話も順調に進むことは間違いないし。


「ふふふ、気になりますよね♪

 それでは発表しましょう!

 ダダダダダダーン♪

 それは、こちらの方でーすっ!!」


 陽気に元気に、テレーゼさんは両手をダグラスさんの方に指し向けた。



「……へ?」


 テレーゼさんのお腹の赤ちゃん。

 ……ダグラスさんと、の?


「ま、まぁ……。そういうわけなんだよ……うん」


「え、えぇえええっ!?

 ど、どういうわけなんですか!?」


 そこ!

 そんな簡単にまとめられても困るんですけど!!


「……アイナさん、その辺りの話は夜にしないか?

 ほら、今日は仕事の話で来ているわけだし……」


 ダグラスさんは申し訳なさそうに、ポエールさんの方をちらっと見た。

 主にはテレーゼさんのせいだが、ここまでの間に時間は結構経ってしまっている。

 ポエールさんも忙しい身なのだから、そろそろ話を進めなければいけないか……。


「そ、そうですね。

 ポエールさん、失礼しました」


「いえいえ、大丈夫ですよ。

 ただ、このあとアイナさんのお屋敷に行くのであれば、今は先に仕事の話をしてしまいましょう」


「はい、ありがとうございます!

 テレーゼさんとダグラスさんは、ここでの用事が終わったら私のお屋敷に来てくださいね。

 職員の誰かに聞けば、分かると思いますので」


「はーい!」


「すまんな、そうさせてもらうよ……。

 それでは改めまして。俺の名前はダグラス・アラン・オールディスです。

 錬金術師ギルドの代表として、マーメイドサイドにやって来ました」


 ポエールさんがいるから、ダグラスさんも敬語モードだ。

 この喋り方、何だか新鮮な感じがするかもしれない。


「その助手として付いてきました、テレーゼ・ブレア・アップルヤードです!

 いろいろと頑張りますので、よろしくお願いします!!」


「ご丁寧にありがとうございます。

 私はポエール商会の代表で、アイナさんの相方――相方の、ポエール・ミラ・ラシャスです!」


 ……何で『相方』を二回言ったし。

 ポエールさん、ちょっと強調しすぎですよ!



「――えぇっと、二人は王都の錬金術師ギルドの職員でして。

 私が王都にいたときは、主にこの二人にお世話になっていたんですよ」


「ほうほう、そうだったのですか。

 王都……ということは、やはり突然のお別れになってしまったわけですね……」


 ポエールさんはその辺りの事情を知っているから、いちいち話をしなくても察してくれる。

 実際その辺りはややこしい話だから、正直助かるというものだ。


「はい。そんなわけでの再会劇でした。

 ポエールさんの貴重な時間を取ってしまって、本当にすいません」


「いえいえ、大丈夫ですから!

 それでダグラスさん、錬金術師ギルドもマーメイドサイドに拠点を置く……という話で良いのですよね」


「はい、そうです」


「それは私も嬉しいなぁ。

 ポエールさんが良い場所を確保してくれているので、ここはもうドドーンと建てちゃいましょう♪」


 何せ私が愛する錬金術師ギルドだ。

 ギルドとしての規模は冒険者ギルドには遠く及ばないものの、ここは負けないくらいにドドーンと、ババーンと!!


「アイナさん、ありがとう。

 ……ただ、予算があまり無いんだ……。

 実は冒険者ギルドと違って、錬金術師ギルドのお偉いさんがまだ懐疑的でなぁ……」



 ……え?


 ……えぇーっ!?

 そんなぁーっ!?


 ドドーンと、ババーンといきましょうよ!?

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