54.宿屋で報告会①
「はい、今日もお疲れ様でした!」
「「お疲れ様でした!」」
時間は19時過ぎ。ルークとエミリアさんも宿屋に戻ってきて、一緒に夕食を囲む。
「今日はどうでした?」
私の質問に、最初に答えたのはルークだった。
「私は武器屋の方に行っていたのですが――ちょっと色々ありました」
「色々?」
「はい。武器屋の通りで騒ぎがありまして――」
「え? 騒ぎって、もしかして爆発事故?」
「爆発事故、ですか? いえ、ちょっと子供と大人が揉めていまして」
「子供と大人……?」
んん? 子供をいじめる大人……ってこと?
「ちょっと大人の方も――何というか、柄の悪い感じだったのですが。
仲裁に入って話を聞いてみると、何でもその子のおじいさんが鍛冶屋をやっていて、それを大人の方に笑われたとか。
ナマクラな武器しか作れない、腕の悪い職人――と」
「へぇ……? 大人の方も大人げないよねぇ、大人なのに」
「子供に難癖付けるなんて大人失格ですね!」
エミリアさんも同意する。
「それでひと悶着あったのですが、何だかんだでその子をおじいさんの鍛冶屋に送って行くことになりまして。
ついでにそこで、色々と武器を見せてもらったんです」
「そうなんだ? 何か良いものはあった?」
「ええっと……、見せてもらったものは少し特殊な武器だったんです。
いわゆる魔法剣士――という方々の武器でして、魔法無しで使うとナマクラと呼ばれても仕方ない代物でしたね。
ただ魔法を乗せてこその武器なので、そういった面ではかなりしっかり作られたものでしたよ」
「へぇ? そういうのもあるんだ」
「はい。魔法を乗せるにも、魔法が流れる経路を作るとその伝導に無駄がなくなるんです。
もちろん普通の武器にも魔法は乗せられるのですが、魔力の消費がどうしても大きくなるんですよね」
「それって、魔石スロットにも通じるところがあるんですよ」
エミリアさんがルークの話に乗っかってきた。
「魔石スロットって、ただ単純に武器にくっついてるわけじゃないんです。
構造的なところを言いますと、魔石スロットの部品から植物の根みたいな感じで――武器本体に向けて力の経路が伸びているんです。
その経路は魔石スロットが多ければ多いほど複雑になるので、作るのも難しくなって、それで高価になっちゃうんですよね」
「へー」
「だから、アイナさんの持ってる魔石スロット5つっていうのは……それだけでかなりの値打ちものなんですよ」
「な、なるほど……。それはアイーシャさんに改めて感謝をしなければ……」
「逆に言えば、そんなものをもらっちゃえるほどアイナさんが良いことをしたってことなんですよね。
私も出来たら、そのアイーシャさんという方にお会いしてみたいなぁ」
「そうですね、機会があれば――……あるのかな? もしあれば、紹介させて頂きますね」
「うぅ……、クレントスの方ですよね? 機会は無さそうですが、もしあればよろしくお願いします……」
エミリアさんはしょんぼりしながらサラダをつつき始めた。
それにしても魔法を乗せる剣――か。加えて、魔力が流れる経路――。
何か神器を作るにも関わってきそうな情報だぞ……? 神器は色々な力を宿しているから、もしかしたらそっちの知識も必要……?
でも私は『工程省略<錬金術>』があるから、そこら辺は飛ばせるのかなぁ……。
――ああもう、スキルは持ち合わせているのに知識が追いつかないこの歯痒さ!
「ねぇねぇ、ルーク。私も機会があれば、その魔法の剣? の鍛冶屋さんに行ってみたいなぁ」
「興味がおありですか? それでは依頼を受けなかった日にでも参りましょう」
「うん、そうだね。そのときは案内をよろしくね」
「はい」
「――それで、エミリアさんはどうでした? 今日は何かありましたか?」
「はい。今日はばっちり勝ちました!」
……勝った?
「え? 勝ったって――」
「!! あ、いえ、ばっちり買いました!」
え、あれ? ……聞き間違えたかな?
「そうなんですか? 何を買ったんですか?」
「えっと、服を――あ! いえ、本を買いました!」
……どっち?
「服は――」
「服は買ってません!」
「そ、そうなんですね? それじゃ、本を買ったんですね」
「はい、本を買いました!」
――……何か怪しいんですけど? ……まぁいっか。
「ちなみに、何の本を買ったんですか?」
「この辺りの伝承に関する本です」
「へー」
エミリアさんが鞄の中から小さな本を出して見せてくれた。
中を見てみると、やはり鉱石や宝石、鍛冶に関することが多く載っている。
ちなみに本の中身はすべて手書きで――割と薄い本だけど――それなりの値段はしそうだった。
「なるほど。色々載ってますけど、これぞミラエルツ! って感じがしますね」
「そうなんです! それぞれの土地に根差した文化や伝説を調べてみるのも面白いものですよ」
「ふむふむ、確かに。ところで今日はずっと本を見ていたんですか?」
「え? ……あ、そうですね。後は聖堂とかに寄って――はい、そんなもんでした!」
「――それで、アイナさんは今日は何をしていたんですか?」
エミリアさんの話が終わると、そのまま話題がこちらに。
「えっと、鉱石関連ということで――鉱山に行ってきました」
「鉱山ですか? アイナさん、鉱石好きですね……」
「いやいや、エミリアさん。アイナ様は勉強熱心なのです」
ルークがしれっとフォローしてくる。でも今はそういうの要らないから――あ、いや。鉱石好きと呼ばれるよりは良いか。
「それで、中には入ったんですか?」
「はい。最初は外で見てただけなんですが、崩落事故が起きて」
「「え!?」」
「それで怪我人が出たので――ポーションを出してお手伝いしました。
その流れで、生き埋めになってた人も助けたりもしました」
「ははぁ……何とも凄いことをしていたんですね……」
「さすがアイナ様。お休みの日にまで人助けとは……」
エミリアさんは驚き、ルークは何やら感動している。
いやいやルーク君。そこは感動するところじゃないよ? ただの偶然だからね?
ちなみに大雑把に話してしまったけど……ナイフで斬り付けられたことは言わない方が良いよね。何だか話が大きくなっちゃいそうだし。
「それと――崩落事故のとき、何だか中で爆発音がしたんですって。冒険者ギルドの爆発事故と、何か関係あるかも――って」
「ああ、だからさっき爆発のことに触れられたんですね」
ルークはなるほど、といった感じで頷いた。
「何だか物騒な話ですね。でもアイナさんが巻き込まれなくて良かったです」
「そうですね。何が起こるか分かりませんし……。あ、そうだ。何かそこで、ジェラードが働いてました」
「え? ジェラードさんって――この前、ルークさんが退治した男の人ですか?」
「変なことはされませんでしたか?」
ルークは真面目な顔でこちらを見てくる。もう、心配性なんだから。
「ううん。真面目に仕事していたし――」
それに襲われたときに助けてもらったし。……おっと、これは言わないでおこう。
「――それと、宿屋まで送ってもらったけど、ずっとだんまりでしたよ」
それを聞いて、二人とも『え?』という表情を浮かべた。うん、気持ちは分かるけどさ。
「それでその後は、自分の部屋で錬金術のあれこれをやってたんだけど――」
「ふむふむ」
「えーっと……。ここからはちょっと、ここではしにくい話だから――後で私の部屋でお話させて?」
これからの金策に関して、ダイアモンド原石の話をしないとね。
でも、宿屋の食堂――人の多いところでする話では無いから、これは部屋に戻った後で。




