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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
537/911

537.再会、そして……⑥

 ヴィクトリアが気絶してから少し経つと、どこからともなく声が聞こえてきた。

 詳しくは聞き取れないものの、どうやら誰かが呼び掛けているような感じだ。



「……おーい……。

 ……誰かいるか……?」



 耳を澄ませば、そんな言葉が何人かによって叫ばれている。


 ヴィクトリアとはずいぶん派手な戦いをしてしまったから、それに気付いた人たちがやって来たのかな。

 私の魔法も轟音を出していたし、ヴィクトリアのトルトニスだって、やたらと輝いちゃっていたからね。


 さらにそれらは、私が通った街門の先の森で起こったことだから、きっと私が関係しているとも思われているだろう。

 ……はぁ。私は完全に被害者なんだけどなぁ……。



 隠れていても仕方が無いので、私はヴィクトリアを縛ってから、声のする方へと歩いて行った。

 さすがに彼女も、気絶からすぐに目を覚ますことも無いだろう。

 しかしこういうところで過信をしていると、いつか命取りになっちゃいそうなんだよね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「すいませーん」


 私が声を掛けると、そこには3人ほどの衛兵がいた。

 運が良いことに、街門から出るときに会った人もいる。


「おお! アイナさん、ご無事でしたか!

 あの、この森で何かがあったようなのですが……ご存知ですか?」


「はい、それがですね……。

 スリを追っていたら、最終的に従魔使いがいまして。

 ちょっとそれと、戦っていたんですよ」


 隠してもいずれバレそうなので、ここはさっさと本当のことを言っておく。

 私はあくまでも被害者。だから嘘を付くことなんて、何も無いのだ。


「え? 戦って……?

 えぇっと、ずいぶんと激しい音がしたんですけど……」


「そうだよな、凄い音や変な光の報告もあったし……。

 アイナさん、本当にそんな戦いがあったんですか?」


 他の衛兵も参加してきて、不思議そうに私に聞いてくる。


「そこら辺は、この騒ぎの首謀者にでも尋問してください。

 従魔は全部倒したので、今はもう脅威にはなりませんから」


「あ、あんな轟音や閃光を放つ従魔を倒して……?

 え? アイナさんが一人で倒したんですか……?」


「あ、すいません。

 轟音の方は、私の魔法です♪」


「「「えぇ……」」」


 衛兵たちは見事に声を揃えて、困惑の声を上げた。

 まぁ、私の情報はマーメイドサイドほどは広がっていないだろうし、錬金術師風情(ふぜい)がそんな魔法を使えるなんて、なかなか思えないだろうしね。


 ……いや、普通の錬金術師はそもそも、そんな魔法は使えないか……。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、私は戦いのあった場所に衛兵たちを案内した。

 私がいない隙に誰かが逃げ出した――ということもなく、みんな大人しく縛られていてくれたようだ。

 ヴィクトリアはまだ気絶をしているし、ヴィクトリア親衛隊の四人も気絶をしたまま。


「うわ……。これ、アイナさんが全員倒したんですか……?」


「そうですよー。凄いでしょう?」


 ここはもう、私は茶化して言っておくことにした。

 ヴィクトリア親衛隊の面々はそれぞれ、見た目からしてそれなりには強そうだ。

 ヴィクトリアは一見すると普通の女性だけど、私と戦った跡を見れば、ただの女性ではないことが簡単に分かってしまう。


「……はぁ、本当に凄い……。

 さすがルークの(あるじ)、と言ったところですね……」


「いやいや、ルークも強いですからね。

 ……そういえばルークって、昔から強かったんですか?」


「そうですね……。

 確かに剣の実力は注目されていましたが――」


「でも強さというか、器用さの方が目を引いたよな。

 あいつ、何でもこなしちゃうから」


 ……ああ、ルークって昔からそうだったんだ。

 一緒に旅をしていても、やたらと何でもこなしちゃうからね。

 サバイバルにも強いし、馬車とかの技能もあるし、今までどれだけ助けてもらったことか……。


「あはは、器用さは今なお健在ですよ。

 ルークがいなかったら、私も何度死んでいたか分かりませんから」


 ……実際、死にはしないんだけどね。

 ただ、死ぬギリギリまでは行くから――つまりそれを何度回避できたか、ということだ。


「それなら良かったです。

 同郷の者として、鼻が高いですよ! 今や高名な、アイナさんを護っているんですから」



 ――衛兵たちは、気の良い人たちだ。

 こんな素晴らしい仲間に囲まれていたのに、私は変な運命へとルークを導いてしまった。

 今さら後悔も謝罪もする気は無いけど、感謝の気持ちは持ち続けている。


 ……また今度、どこかのタイミングで感謝を形にしないといけないかな。

 言わないで伝わることもあるけど、言って伝えた方が、誰でも嬉しいはずだからね。




「――さて!

 それではあまり遅くなっても仕方がありませんし、倒れている人たちを運んでしまいましょう」


「そうですね。

 しかし……全部で5人もいるんですね。どうやって運ぼうかな……」


「んー。この森には、他にも誰か来ているんですか?」


「ええ、50人ほどで来ました」


「ごじゅう……」


「轟音が聞こえたり、謎の閃光が目撃されたりしましたから。

 ここまで来れる人数を揃えていたので、少し来るのが遅れてしまったんですよ。

 不用意に近付いて、二次被害を出したら洒落では済みませんので」


 確かに戦闘になったとしても、50人もいればきっと大丈夫だっただろう。

 いや、ヴィクトリア親衛隊はどうにでもなっただろうけど、ヴィクトリアについてはちょっと自信が無いかな……。


 でもヴィクトリアだって、相手が私だったからこそ、奥の手のトルトニスを出したはずだ。

 ……となると、私はどれだけ嫌われていたことになるんだろう。


 私も他人のことは言えないんだけどね。

 ずいぶんと久し振りに、ダークサイドが顔を覗かせた気もするし――


 ……それにしても、以前はこれが毎日だったんだよなぁ……。

 あのときに比べれば、今は本当に平和に、健やかに過ごせているものだ。

 こういうときこそ、感謝が大切だ。日々、感謝を忘れないようにしないとね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後しばらくすると、他の衛兵たち10人ほどと合流することができた。

 5人を運ぶには十分な人数が集まったので、私たちはクレントスに戻ることになった。


「……ああ、そうだ。

 今のうちに治しておかないと」


 気絶したヴィクトリアの、胸の前で組んだ両手を(ほど)く。

 ちょうど両手で隠されていた場所は、服が焼け焦げ、肌が(あら)わになっていた。

 しかしそこから見えているのは綺麗な肌ではなく、焼け焦げた肌と、奴隷紋だった。


「……奴隷紋?」


 奴隷紋を見た衛兵が呟いた。

 ヴィクトリアと言えば、クレントスでは知らない人はいない。

 もちろん貴族で、今は幽閉されていることも有名だ。

 そんな彼女に奴隷紋が――


「アイーシャさんが勝ったときに、刻んだそうですよ」


「あ、そうなんですね」


 ……それは確かに、本当のことだ。

 しかし今見えている奴隷紋は、私が改めて刻み付けたもの。

 これこそ、私がヴィクトリアに勝利したという証なのだ。


 ……そして勝利の証なんていうものは、奴隷紋だけで十分だった。

 だから火傷を負ってしまった肌は、しっかりと綺麗に治してあげよう。


 ヴィクトリアは何だかんだ言っても、見た目は綺麗な女性だからね。

 無用な火傷は似合わないというものだよ、うん。


 ……とりあえずある程度の敬意を払うという意味も込めて、高級ポーションで治してあげることにした。

 時間もそこまで経っていなかったので、火傷は痕も残らず、綺麗に消えてくれた。


 綺麗な白い肌に、黒々とした奴隷紋――

 ……肌が綺麗なことによって、はっきりと見えるようになった奴隷紋。


 ――……ああ、だめだ。

 私のダークサイドが、また顔を覗かせてくる……。


 ……ま、この感情も含めて、私という人間なんだけどね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 森からようやく抜けると、涼しい風が吹いてきた。

 それと同時に、森の樹々の葉が、擦れるように心地良い音を立てている。



「もう、この森も――……」



 ……かつて敗北を喫し、命を落とし掛けた森。

 しかし今日、その森は勝利の森へと変わった。


 ……心の奥底につっかえていた骨のようなもの。

 あの日から一年以上が経っていたが、その骨はようやく、私の心から取れてくれたのだ。

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