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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
534/911

534.再会、そして……③

 クレントスの街門を出て、ひたすらスリを追い掛け続ける。

 人通りも無く、平和な光景が広がっているものの、やっていることは犯罪者の追跡。

 ……ま、これでさらに平和になってくれるなら、問題なんて無いんだけどね。



 スリも案外体力があるようで、たまにはこちらを振り返りながら、今なお走って逃げている。

 私も正直、朝のジョギングをしていなければもうバテていたところだ。


 さすがに走るペースは落ちてはいるものの、今は脚を動かし続ける方が大切。

 スリの方だって、正直遅くなっているからね。


 このまま行けば問題無い――とは思ってはいたものの、遠くに見えていた森が徐々に迫ってきていた。

 もしかして……いや、考えるまでもなく、スリはあの森に逃げ込むつもりだろう。




「……やっぱり?」


 私の懸念もあっさり当たり、スリは森の中に逃げ込んでしまった。

 まだ背中は見えるから、引き続き追い掛けることはできるけど……。


 ……でもこの森、好きじゃないんだよなぁ……。


 それは転生直後、クレントスにしばらく滞在していたときの話。

 私の嫌な記憶が、この森には詰まっているのだ。


 ――私が殺されかけた森。


 あれ以来、私はこの森には立ち入っていない。

 これからもずっと、来るつもりも無かったんだけど――



「はぁ……。ま、もう少しだけ追ってみるか……」


 息を整えながら、私は森に入っていくことにした。

 熱くなった身体に、冷たい森の空気が心地良い。

 これがただの散歩だったら、もっと心地良かったんだろうけど……。




「――キエェエエエエイッ!!」


「ひゃわっ!?」


 突然の掛け声と共に、鋭い何かが私を掠めていった。

 しかし何とか避けて、ここは無傷。私はそのまま、その場所から距離を空けた。


「……ちっ」


 その男は深いフードで顔を隠している。

 いかにも隠してます、といった服装がとんでもなく怪しい。

 それにしても――


「さっきのスリと……違う人?」


「けっ!」


 私の言葉に、フードの男は小馬鹿にしたような声を残してから、森の奥へと逃げ出した。

 しかし結構隙だらけにも見えるし、追い付いてさえしまえば案外簡単に倒せるのでは無いだろうか。



「待て! 待ちなさーいっ!!」


 一応叫んで呼び掛けてみるも、当然のことながら待ってはくれない。


 それにしても、スリに怪しげなフードの男に――

 ……この二人が仲間かどうかも気になるところだけど、それもどちらかを捕まえれば分かる話だ。


 スリの姿はもう見失ってしまったから、今はフードの男を捉えることに集中しよう。

 私もたくさん走って疲れたとはいえ、それでもフードの男には追い付けそうだし――



 ――ビシッ!



「ぅひゃ!?」


 引き続きフードの男を追い掛けて森の中を走っていると、突然私の足首に何かが引っ掛かった。

 それが何かを確認する間もなく、私は豪快に転んで地面に投げ出される。


 地面を少し滑ったところで咄嗟に元の場所を見てみれば、地面に近い色のロープが樹と樹の間に張られていた。

 これは何とも古典的な罠――


 ……罠。

 罠ということは、この場所まで誘い込まれたっていうこと……?



 私がそう思った瞬間、目の前には怪しげなフードの男が息を整えながら歩いてきた。

 さらにその後ろからは、スリが付いてくる。


 この二人は仲間だった。

 完全に、街の中から誘い込まれた状態――



「くくっ。こんなところまでおびき出されるとは!!」


「はぁっはっは! 愚かなり、アイナ・バートランド・クリスティア!!」


 フードの男はそのフードをたくし上げ、スリの男は今ここで初めてまともに顔を見せた。

 まともに見た結果――



「……あれ?

 何だか見覚えのある様な……」


 私が呟くと同時に、後ろからも誰かが現れた。

 その数は二人。その二人も、以前に見覚えのある顔だった。



「忘れたとは言わさんぞ! 我らに与えた(はずかし)めの数々!!」

「某の怒り、貴様の命で償わせてもらおう……」

「吾輩の怒りも叩きつけるのであーる!!」

「死は恐ろしくない……。小生の剣、潔く受けるが良い……」



 ――この一人称にこの喋り方。

 忘れたいけど微妙に忘れられない個性派集団、ヴィクトリア親衛隊――


 ……逆に言うと、私の相手じゃないんだけど?

 正体が分かって、実はちょっと安心していたりして。



「ああ、お久し振りです。

 ……あれ? 一人、足りなくないですか?」


「一人? ……ああ、コジローのことか?

 あいつは我らを裏切ったのだ!!」


「……え? 裏切ったって……」


「ある日あいつは某たちに言ったのだ。

 『拙者、アイナ殿のファンクラブに入って来たでござる♪』などとっ!!

 嗚呼、何と何と情けない!!」


「吾輩たちはあの日、ヴィクトリア様に生涯命を捧げると誓い合ったはずなのであーる!」


「しかし突然の裏切り……。

 小生らの衝撃を、貴様は知る由もないだろう……」


 ……いや、そりゃ知らないけど。

 それに私の仲間になったとかならともかく、別にそういうのでも無いし……。


「完全に、言いがかりじゃないですか……」


「黙れ、黙れぃ!! とにかく貴様は、我らとヴィクトリア様を辱めたのだ!!

 今ここに、その命を以て償わせてくれる!!」


「うぅん……。

 それでわざわざ、スリなんてまでして私をおびき出したんですか?」


「はははっ、その通りだ!!

 以前はおかしな術でやられてしまったが、さすがに森の中では使えまい!!

 そして呼ぶ仲間もおるまい!!」


「そうとなればこのような女子(おなご)、某たちの敵では無いのだッ!!」


「吾輩の剣の錆にしてくれるであーる!!」


「小生のポエムの中で、永遠に生きて行け……っ!」



 思い思いに、好き勝手なことを喋るヴィクトリア親衛隊の面々。

 ああもう、面倒くさい――



 バチッ



「……ッ!!」

「……ッ!!」

「……ッ!!」

「……ッ!!」



 ドサッ ドササッ



 前回と同じ方法。

 空気の成分を調整して、酸欠にさせて頂いた。


 ……別にこれ、屋内じゃないと使えないわけじゃないからね?

 屋外だとまわりからすぐに酸素が流れてきてしまうけど、気絶させるだけなら何の問題も無いから。



「……はぁ。それにしても、このまま放っておくわけにもいかないか」


 もちろん、助ける……という意味では無い。

 このまま置いていけば、そのうち目を覚まして、きっとどこかに行ってしまうだろう。

 せめてクレントスの騎士や衛兵に突き出したいところだけど、さすがに4人もいるんじゃね……。


 とりあえず考えていても仕方が無いので、4人をそれぞれロープで樹に縛り付けていく。

 他には仲間もいないようだし――……あれ? もしかして街門のところにいたザマスのオバサン、この人たちの仲間なのかな。

 タイミングが良すぎだったし、語尾も変だったし……。




「――さて、一旦クレントスに戻ろっと」


 一人呟いた瞬間、私の背後から新たな気配を感じた。

 え? もしかして、まだ仲間が……!?


 慌てて振り返り、そして咄嗟に右手を前に構える。

 そのまま魔法を撃てるように――


 しかし私の前に悠然と現れたその女性は、そんな私を不遜な目で睨み付けていた。



「――使えない連中ねぇ。

 あんな大口をたたいておきながら、こんな小娘にやられるだなんて」


「え? あなたは……」


「久し振りね。

 その後はお元気だったかしら? 生憎と、ご活躍のようだったけど」



 ……私はその言葉を返さない。

 そもそも、話したくも無いというのが本音だった。


 しかし何で、彼女がここにいる?

 彼女はクレントスに幽閉されているはず――



「――あら?

 言葉も喋れないようになったの? ……無視するんじゃないよ、このクソガキが!!」



 ああ、この傲慢の物言い。

 懐かしい。何とも、懐かしい。


 彼女の名前は、ヴィクトリア・ヴァン・イルリーナ・アルデンヌ――

 ……私がこの世界に転生してきた直後、私を殺そうとした女。



 以前にやられた肩口が、何となく疼き始める。

 ……あのときの痛み、忘れられるわけも無い。

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