表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
531/911

531.未来への想像

 ポエール商会の拠点を出たあと、私はルークと一緒に街を歩いてみた。

 街からは収穫祭の気配もすっかり無くなっていて、今は方々で建築ラッシュが再開している。


 最近はミラエルツ辺りからも、土木建築の職人が次々と流入してきているようだ。

 あの街の主要産業は採掘業だけど、そもそも王都の方は景気が悪いからね。

 それを踏まえると、マーメイドサイドに人が流入してくるというのも自然のことなのだ。



「やっぱり新しい建物は良いね♪

 収穫祭では結局、宿屋も足りていなかったし……。

 これからのことを考えると、宿屋はもっともっと欲しいかなぁ」


「そうですね。交易が始まれば、より多くの人で賑わうでしょう。

 私は他の国に行ったことが無いので、異人の方と会えるのが今から楽しみです」


「交易といえば、もう少ししたらポエールさんが約束した日なんだよね。

 ほら、他の国からお偉いさんが面会に来るっていう」


「おお、そろそろでしたか。

 何らかの形で交易が始まれば、それに続く国も出てくるでしょう。

 まずは大切な一歩、ということですね」


「だねー。

 面会のときはまた、一緒に来てくれる?」


「もちろんです。私の命に懸けて、アイナ様のことは必ずお護りいたします」


「あはは、ありがとね。

 さっきの嫌な感じの貴族――あの人と会ったときもね、ルークとジェラードさんがいてくれて、私も安心して話を進めることが出来たんだよ」


「そうだったんですか?

 ……ずいぶん積極的にいくとは思っていたのですが」


「積極的って……」


「いえ、かなり煽っていたようにも見えましたし……。

 しかし、とても格好良かったですよ!」


「それは褒め言葉として受け取っておくよ……」


 ……まぁルークのことだから、実際に褒めているんだろうけど。

 でも貴族を煽っていたのは本当のことだし、今回は素直に喜んでおくことにしよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 昼食をとって、引き続きルークとぶらぶら歩く。


 収穫祭が終わってから一週間後くらいのとき――今から三週間くらい前。

 その頃に『魔女の試練』を取り払ってから、この街にも人の数が多くなってきているように思える。


 増えた数の分布としては、一般の人よりも冒険者の方が多いかな?

 よくある冒険者の目的と言えば、主に『水の迷宮』と『ガチャの殿堂』のふたつ。


 このふたつは比較的近くに配置しているから、大体はセットで扱われるようになっていた。

 まずは『水の迷宮』で稼いで、そのお金を使って『ガチャの殿堂』でガチャをまわす……みたいな。


 これは最初に狙っていた効果ではあるんだけど、おかげで売り上げも右肩上がりになっている。

 最近ではガチャの数の母数を増やして、錬金効果付きの武器の比率は少し落として――

 ……その分、金目のものは入れているんだけど、今はいろいろいじって最善のバランスを模索している状態だ。


 出し過ぎでもダメだし、出さな過ぎてもダメ。

 売上が最高になるように、その分岐点を見極めている最中なのだ。

 あまりにギリギリ過ぎても売れなくなっちゃうから、たまには出やすい設定にもしているけどね。



 ま、それはそれとして――


「ところでルークの方って、最近どう?

 ジェラードさんは諜報部隊が結構本格的で、びっくりしちゃったけど」


「諜報部隊……確かに少数精鋭といった感じでしたね。

 それに対して私の方……自警団は、人が多くなければいけませんので」


「組織的な性質が違うからね。

 諜報部隊の方は、人がぞろぞろいても仕方がないし」


「自警団は引き続き、訓練を重ねて強化を図っているところです。

 最近は、冒険者の方が自警団に入ることも結構あるんですよ」


「おー、そうなんだ!」


「何しろ収入が安定していますからね。

 それにこの街では、冒険者や職人以外の仕事はまだまだ少ないですから」


「そうなんだよね……。

 仕事があれば、たくさん人を呼べるのになー」


「はい。自警団にも、もっとたくさん人が欲しいです」



 ……確かに、自警団はさらに増員をしたいところだ。

 仮に王国と戦うとなれば、自警団がメインの戦力になるわけだし……。

 クレントスで王国と戦ったときみたいに、冒険者を雇うっていうのでも良いんだけどね。


 ただ、他から雇ってくるのと、自分のところで育てているのとでは、やはり質が全然違うのだ。

 自警団はこの街の命綱となるのだから、ルークの指揮のもと、このまま一枚岩のような集団を作り上げていって欲しい。


 いわゆる防衛費は、たくさん出す用意があるからね。


 ……何故って?

 負けたら、すべてを失ってしまうから。



「――自警団のルークに、諜報部隊のジェラードさん。

 ……うん、自然と体制が出来ているよね」


「体制……、ですか。

 私は将来、近衛騎士団を作るのが夢なんです。

 そしてアイナ様を、ずっとお護りしたいです」


「騎士団!!

 やっぱりルークって、そういうのに憧れる感じ?」


「はい、私も騎士ですから。

 名前だけだとしても、騎士団の所属は嬉しいですね」


「……なるほど。

 うーん、それじゃ国を作ったら、騎士団も作っちゃう?」


「良いのですか?」


「将来の体制は分からないけど、街とか国が大きくなるなら、ずっと自警団のまま――っていうのもね。

 ぱっと聞いたときの、イメージっていうか」


「はい、分かります。

 例えばヴェルダクレス王国を守るのが自警団だったら、ちょっと控え目な感じがしますよね」


「王様を護る自警団!

 ……うん、そうそう。何だかミスマッチな感じのやつ」


「それでは私は、騎士団の創設を目指しましょう。

 まずは自警団を立派に成長させて、そして誰かに任せたあと、私は近衛騎士団を作ることにします」


「とするとルークは当然、団長候補だよね。

 近衛騎士団団長――ルーク・ノヴァス・スプリングフィールド!!

 おお、格好良い!」


「おぉ……」


 私が仰々しく肩書きと名前を告げると、ルークは感動に打ち震えていた。

 やっぱり男の子。そして現役の騎士。その肩書きにはやはり、強く感じるものがあるようだ。


「そうするとあれだね。

 家門っていうか、家柄みたいなものも作った方が良いのかな」


「世襲ならそうかもしれませんが……。

 そこは体制によるかと思います」


「でも、家門っていう響きも格好良いよね。

 私が信頼している人なら、そういう家柄を作っても良いかなぁ……。

 ま、代替わりして残念な感じになったら、お取り潰しになるかもしれないけど」


「ははは。それでしたら、子供の教育はしっかりしませんといけませんね」


「教育かぁ……。

 やっぱり大切だよね。学んでおけば、将来の可能性はぐっと広がるから」


「点在している村では教育水準は高くありませんし、この街に大きな学校を作るのも良いですね」


「良いねー!

 村の方だと、どうしても家の仕事が優先になっちゃうし」



 ――交易都市というのは、お金やモノが行き来する場所だ。

 しかしそれに加えて、知識が教養、価値観も行き来するのであれば――そこにはまた、新しい価値が生まれるかもしれない。


「うーん、学校は良いなぁ……。

 やっぱり戦い一辺倒よりも、精神的にも豊かになれる方が私は好きだなぁ」


「精神的、ですか……。

 収穫祭では、音楽関連が目立っていましたよね」


「そうそう!

 歌と踊りも、凄く楽しかったから――いつでも音楽を聴けるような場所も欲しいんだよね。

 ルーンセラフィス教は、そういう催しもするみたいなんだけど、参考に出来るかな……」


「そうすると、教会も欲しくなりますね。

 私も一応、ルーンセラフィス教の信徒ではありますので」


「あー……。教会のことなら、エミリアさんに任せちゃうとか……?

 でもエミリアさん、もはやルーンセラフィス教じゃなくて、ガルルン教かもしれないけど……」


 例の教祖様たちは、すでにエミリアさんと一緒に行動をしている。

 彼らはガルーナ村から離れて、エミリアさんと一緒に孤児院の運営に携わっているのだ。

 そして自分たちの信仰を呼ぶときは、すでに『ガルルン教』になっていたりする。



「……ふむ。

 そういうことであれば、私もおそらくガルルン教なのかもしれません」


「え? 何で?」


「以前、アイナ様からガルルンの置物を頂いたじゃないですか。

 私は毎日、祈りを捧げていますので」


「うわぁ、何だか懐かしいね」


 ちなみにその置物とは、私が王都でアーティファクト錬金で作った、金属製のガルルンだ。

 確か錬金効果で『幸運の鐘』っていうのが付いたんだよね。

 王都から逃げたときに一旦は置いてきてしまったけど、その後ポエールさんによって回収されて、またルークの手元に戻ってきていたのだ。


 それにしてもルーク、見えないところでずっと祈りを捧げてくれていたんだ。

 ……ふふふ。それは何だか、嬉しいかもしれないぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ