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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第10章 国へと至る道
530/911

530.突然の来客

 それは収穫祭からひと月ほど経った、ある日のお話。


 季節は秋。

 穏やかに過ごしたい頃に、彼らはやってきた。



「――承服できませんね」



 私はひとまず、彼らの話を拒絶する。

 冗談ではない。突然来て、その要求は到底飲めるものでは無い。


「ふむ……。

 稼いだ分の税金すら納められないとは?」


 目の前の、高圧的な男性。

 どうやらヴェルダクレス王国から派遣されてきた貴族らしい。


 突然貴族がやってくるというのも不自然な話ではあるが、上手くことを運ぶことができたら、この辺りの領地をもらえることにでもなっているのかもしれない。

 何となく言葉の端々から、この辺りを我が物にしているような、そんな嫌な感じを受けてしまう。


「この街は王国の援助を受けていませんからね。

 それに、王国の管理からは完全に離れる予定ですので」


「こんな辺境の街が、国の庇護を離れるとは正気ですかな?

 何ともおかしなことを仰るものですなぁ」


「庇護なんて、今まで一回もされたことがありませんけどねぇ」


「ふっ、はははっ」


「ふふふ♪」



 ――今いる場所は、ポエール商会の立派な客室。

 向こうは総勢100人という人数でやってきたが、この場には責任者の貴族と、護衛の二人。

 対してこちらは私と、護衛の二人。護衛というのはルークとジェラードにお願いしていた。


 向こうの言い分をまとめると、今までに出した街の利益――これに対する税金を直ちに払え、というものだった。

 今までに出た利益なんて、この街に再投資をするに決まっている。

 ……まぁ、それが無くても王国に納税するだなんて、冗談では無いんだけど。



「なるほど、そちらの事情は分かりました。

 後日、この街の有識者には話をしておきます」


「うむ、良いでしょう。

 それで回答はいつ頃に頂けるのですかな?」


「回答? もちろん、税金なんて払いませんよ?

 情報を共有しておく、という意味なだけです」


「ちっ……。

 ……完全に、王国を敵にまわすつもりですかな?」


 私の回答に、貴族は苛立ちを隠さなかった。


「完全にも何も、どこからどう見ても敵じゃないですか。

 そもそもあなた方をここまで招き入れたのだって、特例中の特例ですよ?」


「……外には精鋭の部隊がいるんですけどねぇ……。

 私にあまり舐めたことを言っておりますと――」


「100人ぽっちで、何を言っているんですか?」


「なっ……!?」



 この貴族だって、さすがに私たちの噂くらいは聞いているだろう。

 私も今までいろいろな出来事に巻き込まれてきたし、収穫祭ではあんな大人数の前で司会進行なんてやったし、いつの間にかずいぶんと肝も据わってしまった。

 こんな貴族程度では、もはや怯むことも無い。

 ……それに100人くらいの敵だなんて、もう戦った経験もあるからね。


「もちろん、このままあなたを捕縛して、拷問に掛けることだって可能なんです。

 ふふっ。見たところ、あなたも口が堅い方では無さそうだし――」


「何と! 私を愚弄する気か!!」


 その瞬間、貴族の合図に従って、護衛の二人が剣を抜いた。

 ……ダメじゃん。こんな程度の貴族を大切な交渉の場に出してくるなんて。

 王国もいよいよもって、人材不足なのかな。



 バチッ



「――っ!?」

「なにっ!?」


 向こうの護衛が抜き放った剣の刃は、一瞬にして白銀色から黒色へと変わった。

 私が錬金術の置換を使って、炭クズにしてあげたのだ。


「……お忘れですか?

 私は『神器の魔女』。S級の錬金術師ではありますが、この世界で一番の錬金術師だと自負しています。

 あなた方は今、そんな私の領域に完全に入ってしまっているんですよ?」


「く……っ。

 は、話にならん! 我らは帰らせてもらう!!」


 そう言うと、その貴族はソファーから荒々しく立ち上がった。

 ……話が始まってからここまで、時間にして20分ほどと言ったところか。


「ジェラードさん、どうですかね?」


「ん、もう大丈夫だと思うよ♪」


「分かりました。

 それではお客様には、このまま帰って頂きましょう」


「……?

 まったく訳の分からん! 忌々しいこと限りないわっ!!」


 そう言い残すと、貴族と護衛の二人はこの部屋から出て行ってしまった。

 そのあとすぐ、入れ替わるようにしてポエールさんが飛んできたけど――まぁ、やっぱり不安になっちゃうよね。



 とりあえず突然訪れた王国側との話し合いは、当然のように物別れで終わってしまった。

 街を明け渡せ――なんて要求よりはよっぽどマシな話ではあったけど、それにしても利益の半分を税金に、だなんてね。


 しかしこんな話が出てきたのは、この街の発展ぶりが王国側にも良い感触で伝わったことの(あかし)だろう。

 王国側の食指を動かせる程度には発展した――……それが分かっただけでも、今の無駄な話し合いは、きっと無駄では無かったはずだ。


 ……あれ? 何だかややこしいな……?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ソファーに座って三人で話をしていると、扉がノックされて、見知らぬ女性が入ってきた。


「失礼します。

 ジェラード様、ご報告いたします」


「あ、うん。

 それよりも、こちらアイナちゃん。挨拶よろしくー」


「かしこまりました。

 初めまして、アイナ様。私はジェラード様の配下の一人、ビアンカと申します」


「初めまして。

 ……ん? ジェラードさんの、配下?」


「ほらほら。アイナちゃんには以前、話したことがあるでしょ?

 ビアンカは、僕が作った諜報部隊の部下なんだよ♪」


「ああ、そういえばありましたね……」


 その女性――ビアンカさんを改めて見ると、凛としたたたずまいをしている。

 戦闘では短剣とかで戦いそうな、ゲームで例えるとアサシンみたいな、そんな感じのイメージだ。


「ふふふ。みんな頼りになる人ばかりだから、期待しててよね♪

 それでビアンカ、どうだった?」


「はい。王国側の手の者と思われる5名を街の中で捕縛しました。

 加えて、先ほどここに来た貴族の部隊に1名、こちらの手の者を紛れ込ませました」


「うん、おっけー。

 引き続き情報収集をお願いね♪」


「かしこまりました」


 それだけ言うと、ビアンカさんは早々にこの部屋をあとにしていった。



「――……何、今の。凄い会話!」


「ジェラードさんらしいと言いますか……」


 私の言葉に、ルークも少し呆れたような言葉を続ける。

 呆れた……とは言っても、凄すぎて呆れた……、みたいな。


「ね? 30分もあれば、間者なんて潜り込ませられるものなんだよ♪」


「……そう……ですか?」


「それはジェラードさんだけでは……」


 私の言葉に、ルークも続けて言葉を絞り出す。

 ……どういう方法で間者を潜り込ませるのか。それがまったく分からない……。


「僕からすればアイナちゃんの錬金術だってよく分からないし、ルーク君の剣術だってよく分からないものだよ。

 ま、これくらいでしか僕は役に立てないからね~♪」


「ジェラードさん、普通に強いじゃないですか。

 『創星剛鍛祭』の優勝者だし……」


「あはは♪ あれはあくまでも、お祭りの余興だからね。

 ルーク君が参加していたら、また違っていたと思うよ?」


「ルークはルークで、びっくり人間大賞ですからね」


「アイナ様……。何ですか、それは……」


「いや、ただのイメージなんだけど……」


 あまりそこをツッコまれても困るんだけどね。

 適当に言っただけだから、素で来られるとちょっとツライ。



「――さて、それじゃ僕はそろそろ行こうかな。

 王国が下手な手を打ってくれたから、それを利用して何かしたいんだよね♪」


「おー、良い感じでお願いしますね!

 ……それにしてもジェラードさん、敵にまわしたくない能力ですよね……」


「あはは♪ 僕がアイナちゃんの敵にまわるわけは無いでしょ?

 ここはもう、僕にどーんと任せておいてよ!」


「確かにジェラードさんの独壇場ですからね……。

 まぁ、私は私で出来るところをやるとしますか」


「そそそ♪ 適材適所ってやつだね!

 それじゃルーク君は適材適所ということで、アイナちゃんを無事に送ってあげてね♪」


「分かりました、お任せください」


「任せたよー。それじゃね!」


 ジェラードは明るくそう言うと、楽しそうに部屋から出ていった。


 ……何だか上機嫌?

 よく分からないけど、悪いことではないよね。むしろ良いことだし。



「それじゃ、私たちも行こっか。

 まだお昼前だし、何か食べていく?」


「それは良いですね。お供いたします」



 ……不意の来客はあったものの、それ以外はいつも通り。

 ルークと二人っていうのも何だか珍しいし、今日はちょっと一緒に遊んで行こうかな。

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