53.宿屋の昼下がり
「はー、今日は疲れたぁ~……」
ぼふん、と宿屋のベッドに飛び込む。
鉱山をちょっと見て帰ろうと思っていただけなのに、まさかそこで崩落事故に出くわすとは――。
さらにナイフを持った男にも襲われたし、何故かジェラードにも出くわしたりと本当によく分からない展開が続いた。
「あ……そういえば服、ちょっと汚れちゃったかな」
何だかんだで土埃がそれなりに付いてしまったことをすっかり忘れていた。
時すでに遅し。ベッドも少し汚れてしまったし、ちょっと掃除をしないといけないかな。――それと洗濯もしないと!
――とかやってたらもう15時過ぎ。
そういえば昼食を食べ損ねていたので宿屋の食堂に行ってみると、幸いにも残りの食材でサンドイッチを作ってもらえた。
夜の営業に向けて休憩と準備中だったので申し訳なかったのだが、連泊をしているということで対応してもらった感じだ。
うん、そういう小さい心配りが嬉しいよね。私も何か機会があれば、ちょっとしたお礼でもするようにしよう。
……さて、そろそろ錬金術のあれこれでもしようかな。
今ある素材で作れるものは――っと、『創造才覚<錬金術>』に意識を傾けながら思いを巡らせる。
ちなみに『創造才覚<錬金術>』を使ったときの脳内のイメージは、作れるものがすべて一覧のようにズラーっと並ぶ……のでは無くて、何の素材を使うかいちいち意識しなければいけない。
もしくは作りたい大まかなイメージを先にすると、その関連のものが浮かび上がってくるって感じ。
そんなわけなので、何が作れるか……ということを確認するのも、少し時間が必要になるのだ。
そういえば、ジェラードの右腕――確か、『右腕可動障害(極)』だっけ? あれって治せるのかなぁ……?
ルイサさんとアイーシャさんは『歩行障害(小)』だったから、ちょっと障害のレベルが違うんだよね。
えーっと、それじゃ『創造才覚<錬金術>』で――そりゃ!!
――……。
……あ、作れるわ。錬金術ってすごーい(棒)
――さてさて、他には何か作れるものは無いかな……?
イメージを追っていくと、『アイアンリング』が浮かんできた。
アイアンリング……鉄の指輪?
もしかして彫金技術を持っていなくても指輪が作れるのかな!?
いいじゃんいいじゃん、やってみよー!
「れんきーん!」
バチッ
いつもの音と共に、右手の上に小さい指輪が出来た。
「――おお、凄い!」
とりあえずは自分の指のサイズをイメージしていたのだが、サイズもぴったりだ。
それにデザインも極々シンプルなものでなかなか――。
「……シンプル」
……少しその響きが気になったので、次は少しデザイン性のあるものをイメージして作ることにした。
えぇっと、それじゃ天使の羽でも付けてみようかな?
「れんきーん!」
バチッ
右手の上に小さい指輪が出来た――のだが、何やら形状が不安定だ。
「これ……天使の羽というか……なに?」
もはや何を表現したいのか分からない『でっぱり』が、シンプルな指輪の外側に付いていた。
「くっ……。もしかして装飾品は作れるけど――デザイン面は何も調整が出来ないってこと……?」
とすると、もしかして――
「超豪華なアイアンダガーを……れんきんッ!!」
バチッ
おもむろに武器を作ってみた。材料の都合でダガーくらいしか出来なかったのだが――柄の部分に何やら変なでこぼこが付いたダガーが作り出された。
「こ、これはもしかして……まずいかもしれない!」
私のこの旅の目的は『神器を作ること』である。
とりあえず最初は『剣』が良いかなと思っているのだけど、もしかして……装飾が皆無なものを作らざるを得ない?
装飾が皆無な剣というと――武器屋に置いてある一番安そうな感じだろうか。
さすがにそんな見た目で『神器』を名乗らせたくないよね……。いや、性能が大切なのはそうなんだけど、やっぱりみんなの憧れ――そんな感じにしたいわけで。
うーん、参った。装飾がどうにもならないというのなら、何か神器とかもう作りたくなくなってきたぞ……。
ここに来て謎のモチベーションダウンである。まずい。
――よし、ここは一旦置いておこう。
他にやりようがあるかもしれないし、神器の件は今日はここまでだ。
そもそも神器を作るにしても素材がまだ何も無いわけだし――……。
あ、そういえば先日ミスリルの指輪を見たよね。
指輪の一部が単純にミスリルだけみたいだったから、もしかして素材が分かったりするのかな。
えーっと、ミスリルのところだけ思い出して――『創造才覚<錬金術>』!!
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【『ミスリル』の作成に必要なアイテム】
・賢者の石×1
・銀×1
・特殊条件<魔力>
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出来た――!! ……けど、『賢者の石』が必要だああああああああああ!!
賢者の石ってあれだよね、ファンタジーでお馴染みの『他の物質から金を作り出す』ってやつ!
由来や物語次第では他の解釈があるみたいだけど、基本的には確かそんなところだったと思う。
さすがにそんなレベルのアイテムを素材にするんじゃ、今すぐに――とはいかないよね。
……ちなみにこれはただの勘だけど、このパターンでいくと……もしかして『オリハルコン』は『賢者の石』と『金』が必要になるんじゃないかな……?
いや、何となくだけど……滅茶苦茶ありそう。
……と、それはおいておいて、ミスリルについてはやっぱり採掘で手に入れるしかないのかな。でも、それが一番早そうだよね。
さて、他には何か作れるものは無いかな。
――……。
うん? 何か『ダイアモンド原石』って浮かんでくるな……。
確かダイアモンドって、炭素の塊なんだよね。普通の炭と同じ元素で出来てるんだけど、その並び方がちょっと違う――って感じの。
っていうと――『創造才覚<錬金術>』!
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【『ダイアモンド原石』の作成に必要なアイテム】
・炭系列の素材×N
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――……え、本当に作れるの?
「れんきーん?」
バチッ
その瞬間、私の右手の上に重い塊が作り出された。
恐る恐る見てみると、大きなダイアモンド原石が右手に乗っている。
「――……あれぇ? もしかしてこれって、もう金策しないでいいんじゃない……?」
私は一人、ダイアモンド原石を見ながら目を丸くしていた。




