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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
528/911

528.収穫祭⑲

「やったあああああああああー!!!!

 アイナさんのが当たったぞおおおおおおおおっ!!!!!!!!」


 ビンゴの20番目、その男性は嬉しそうに大声を張り上げた。

 しかし拡声魔法の対象内だったため、大声はさらに大きくなって辺りに響き渡ってしまう。


 最終的には轟音――

 ……まさにそんなレベルの大きさになってしまった。

 ステージもしっかりした作りではあるが、その声の影響で結構揺れているし――


「ちょちょっ、ちょっと声が大きいですよ!?」



「うるせーぞ!!」

「静かにしろばかもん!!」

「耳痛ぇ……っ」



 観客からも、非難の声が多く上がる。

 今の声、近くの村くらいになら余裕で届いたんじゃないかな。

 耳を塞いでうずくまっている人も多いようだし……。



「は……っ。ご、ごめんなさい……。つい、嬉しくて……」


「気を付けてくださいね……」


 私がやんわりと男性に注意を促すと、ポエールさんがすかさず謝罪を入れた。


「申し訳ありません。イベントが長時間なので、拡声魔法の音量上限を設けておりませんでした。

 体調が思わしくない方は、近くの係員にお声掛けください」


 拡声魔法というのはなかなか希少な魔法のため、実は使い手が限られている。

 ポエール商会にも使える人は一人しかおらず、そのため負担の軽いように、難しい制御は行っていないということだった。

 今回の問題は、まさにそこを突かれてしまったものだ。



「――ひとまず体調の優れない方、耳鳴りが続く方が多いと思いますので、薬を差し上げますね」


 こういう場合の薬……というのはよく分からないけど、とりあえず杖を出して、『英知接続』から『創造才覚<錬金術>』を使って――

 ……それで、それっぽい薬を作って――


 バチッ



「おお?」

「あれが噂の!?」

「え? あれが!?」



 観客からは何かそんな言葉が聞こえてくるが、ひとまず置いておいて……っと。


「ちょっと冷たいですけど、濡れはしませんからご安心ください。

 『アルケミカ・ポーションレイン』っ!!」


 そのまますぐ、作った薬を錬金魔法で周囲に降らせる。

 回復系の薬なら『アルケミカ・ポーションレイン』で共通に使えるから、ひとまず応急処置としては大丈夫なはず。

 これでダメなら、責任を取って今後の治療もさせて頂くことにしよう。



「……あ、何だか良くなった気がする」

「耳の痛みが取れた……!」

「アイナさん、すっげー!」



 ちなみにこの間、降らせた雨には照明係が器用にライトアップをさせていた。

 トラブルの中でも演出を決めてくるとは、なかなか憎いことをするものだ。


「みなさん、いかがでしょうか。

 まだ体調が悪いようでしたら、遠慮なく近くの係員にお知らせください」



「分かったー!」

「りょうかーい!」

「良いもの見れたよ!」



 ……っと、細かいところは分からないけど、ひとまずは問題は起きなさそうかな?


「それでは申しわけありませんが、ビンゴ大会の方に戻らせて頂きます。

 えっと――」


「あうあう……。

 すいません、迷惑を掛けてしまって……。お、お詫びに、当選は辞退させて頂きます……!」


 私が話を振ろうとすると、大声を出した男性は申し訳なさそうに、泣きそうになりながら言った。


 ……この男性も、悪気は無かったんだよね。

 でも当たったものが当たったものだけに、あとになってまわりから何か言われてしまうかも?

 それにこのまま進めても、何だかすっきりしなさそうだし、さてどうしたものか――


「ポエールさん、どうしましょう?」


「そ、そうですね……」


 ポエールさんに振るも、彼も悩んでしまった。

 思うところは大体一緒なのだろう。しかしこの男性に、何もあげずに帰すというのも気が引ける。


「そ、それなら!

 アイナさんのサインをもらえますか!?」


「……は?」


 突然、思い掛けない申し出が男性の口から飛び出した。


「実は俺、アイナさんの大ファンなんです!

 だからサインでも、とっても嬉しくて……。

 俺の当たった賞品はこっちの女の子に譲るので、是非サインでお願いします!」


「え? え?」


 突然指を差された21番目の当選者、セシリアちゃんもこれには困惑気味だ。


「ま、まぁそれで良いのでしたら……。

 はい、アイナさん。色紙とペンをどうぞ」


「えっ!? ポエールさん、何でそんなものを持っているんですか!?」


「いえ、あとで使おうと思っていたんです」


 あとでって……。確かにゲストを招いてのトークショーがあとであるけど――

 ……ふむ、世の中は結構、上手くできているものだ。


「それで良いなら良いですが……。

 えぇっと、会場のみなさんも、それで良いです?」



「良いぞーっ!!」

「許してやるぞーっ!!」

「もう気にすんなーっ!!」



 ……どうやらこの進め方で、ある程度の理解は得られるようだ。

 それならここを落としどころにしておこう。


「分かりました、それじゃサイン――……っと。

 はい、どうぞ」


 いつも使っているサインを悪用されても嫌なので、少しアレンジして書いてみる。

 ま、一応念のため……ということで。


「おや、アイナさん。

 いつもより可愛らしいサインですね」


 ポエールさんの言葉に、目の前の男性は顔をぱっと明るく輝かせた。


「いつもより……?

 ……と、特別なサイン……?」


「まぁ……、そうですね……?」


「やったー!!!! ひゃ――

 ……ひゃっほぅ」


「はい、声を抑えて頂いてありがとうございました。

 それではいろいろありましたが、最後は問題なしということで」


「はい! いろいろとありがとうございました!」


 その男性は元気に挨拶をすると、逃げるようにステージから降りていってしまった。

 なかなかスピーディーな展開である。



「――さて、いろいろありましたが次に進みますね。

 えぇっと、実はこちらのセシリアちゃんは、私の知っている子です。

 ビンゴおめでとー」


「はい、ありがとうございます!」


「えっと、さっきの方から賞品を譲られたけど、それでも大丈夫?」


「え? でも――」



「良いぞーっ!!」

「もらっちゃえー!!」

「納得の展開!!」



 観客たちも、特に不服は無いようだ。

 小さな女の子は大切にしてあげないとね。


「それでは発表します!

 私からの賞品は――こちら!!」


 右手を大きく掲げて、アイテムボックスから手のひらにそれを出す。



「……何だ、あれ?」

「宝石……!?」

「キラキラしてるっ!!」



 観客からの反応はそんな感じ。

 そして当の、セシリアちゃんの反応は――


「綺麗……。

 でもそれ、ガルルン……ですか?」



 ……はい、その通り!

 以前作ってもらったうちの一体を、錬金術で宝石に置き換えたものだ。

 とても煌めいていて、しかも宝石だから、一定の価値はある――そんな素敵アイテム!

 錬金効果は大したものが付かなかったけどね。


「これは宝石で作られた、私の愛するマスコットキャラです!

 実はこれ、こちらのセシリアちゃんがデザインしたものなんですよ。

 ガルーナ村の特産なので、興味がある方は行ってみてください!」



 ――私の旅の目的のひとつ。

 ガルルンの宣伝が、ようやく出来た瞬間だった。

 これだけで、一年以上掛かってしまったなぁ……。



「ガルルン……そういうのもあるのか……」

「よく見えないけど、興味あるかも!」

「ガルーナ村か……!」

「ガルルン様-っ!!」



 観客からの反応も、それなりには良いようだ。

 最後の声は、何だか聞き覚えのある感じだったけど……。



 ――そしてそのまま、ビンゴ大会は好評のうちに終わっていった。

 そのあとはトークショーという名のお喋りをしてから、街中に散って踊って終了。


 長かった収穫祭も、これでようやくおしまい終了――


 ……ああ、楽しかった♪

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