528.収穫祭⑲
「やったあああああああああー!!!!
アイナさんのが当たったぞおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
ビンゴの20番目、その男性は嬉しそうに大声を張り上げた。
しかし拡声魔法の対象内だったため、大声はさらに大きくなって辺りに響き渡ってしまう。
最終的には轟音――
……まさにそんなレベルの大きさになってしまった。
ステージもしっかりした作りではあるが、その声の影響で結構揺れているし――
「ちょちょっ、ちょっと声が大きいですよ!?」
「うるせーぞ!!」
「静かにしろばかもん!!」
「耳痛ぇ……っ」
観客からも、非難の声が多く上がる。
今の声、近くの村くらいになら余裕で届いたんじゃないかな。
耳を塞いでうずくまっている人も多いようだし……。
「は……っ。ご、ごめんなさい……。つい、嬉しくて……」
「気を付けてくださいね……」
私がやんわりと男性に注意を促すと、ポエールさんがすかさず謝罪を入れた。
「申し訳ありません。イベントが長時間なので、拡声魔法の音量上限を設けておりませんでした。
体調が思わしくない方は、近くの係員にお声掛けください」
拡声魔法というのはなかなか希少な魔法のため、実は使い手が限られている。
ポエール商会にも使える人は一人しかおらず、そのため負担の軽いように、難しい制御は行っていないということだった。
今回の問題は、まさにそこを突かれてしまったものだ。
「――ひとまず体調の優れない方、耳鳴りが続く方が多いと思いますので、薬を差し上げますね」
こういう場合の薬……というのはよく分からないけど、とりあえず杖を出して、『英知接続』から『創造才覚<錬金術>』を使って――
……それで、それっぽい薬を作って――
バチッ
「おお?」
「あれが噂の!?」
「え? あれが!?」
観客からは何かそんな言葉が聞こえてくるが、ひとまず置いておいて……っと。
「ちょっと冷たいですけど、濡れはしませんからご安心ください。
『アルケミカ・ポーションレイン』っ!!」
そのまますぐ、作った薬を錬金魔法で周囲に降らせる。
回復系の薬なら『アルケミカ・ポーションレイン』で共通に使えるから、ひとまず応急処置としては大丈夫なはず。
これでダメなら、責任を取って今後の治療もさせて頂くことにしよう。
「……あ、何だか良くなった気がする」
「耳の痛みが取れた……!」
「アイナさん、すっげー!」
ちなみにこの間、降らせた雨には照明係が器用にライトアップをさせていた。
トラブルの中でも演出を決めてくるとは、なかなか憎いことをするものだ。
「みなさん、いかがでしょうか。
まだ体調が悪いようでしたら、遠慮なく近くの係員にお知らせください」
「分かったー!」
「りょうかーい!」
「良いもの見れたよ!」
……っと、細かいところは分からないけど、ひとまずは問題は起きなさそうかな?
「それでは申しわけありませんが、ビンゴ大会の方に戻らせて頂きます。
えっと――」
「あうあう……。
すいません、迷惑を掛けてしまって……。お、お詫びに、当選は辞退させて頂きます……!」
私が話を振ろうとすると、大声を出した男性は申し訳なさそうに、泣きそうになりながら言った。
……この男性も、悪気は無かったんだよね。
でも当たったものが当たったものだけに、あとになってまわりから何か言われてしまうかも?
それにこのまま進めても、何だかすっきりしなさそうだし、さてどうしたものか――
「ポエールさん、どうしましょう?」
「そ、そうですね……」
ポエールさんに振るも、彼も悩んでしまった。
思うところは大体一緒なのだろう。しかしこの男性に、何もあげずに帰すというのも気が引ける。
「そ、それなら!
アイナさんのサインをもらえますか!?」
「……は?」
突然、思い掛けない申し出が男性の口から飛び出した。
「実は俺、アイナさんの大ファンなんです!
だからサインでも、とっても嬉しくて……。
俺の当たった賞品はこっちの女の子に譲るので、是非サインでお願いします!」
「え? え?」
突然指を差された21番目の当選者、セシリアちゃんもこれには困惑気味だ。
「ま、まぁそれで良いのでしたら……。
はい、アイナさん。色紙とペンをどうぞ」
「えっ!? ポエールさん、何でそんなものを持っているんですか!?」
「いえ、あとで使おうと思っていたんです」
あとでって……。確かにゲストを招いてのトークショーがあとであるけど――
……ふむ、世の中は結構、上手くできているものだ。
「それで良いなら良いですが……。
えぇっと、会場のみなさんも、それで良いです?」
「良いぞーっ!!」
「許してやるぞーっ!!」
「もう気にすんなーっ!!」
……どうやらこの進め方で、ある程度の理解は得られるようだ。
それならここを落としどころにしておこう。
「分かりました、それじゃサイン――……っと。
はい、どうぞ」
いつも使っているサインを悪用されても嫌なので、少しアレンジして書いてみる。
ま、一応念のため……ということで。
「おや、アイナさん。
いつもより可愛らしいサインですね」
ポエールさんの言葉に、目の前の男性は顔をぱっと明るく輝かせた。
「いつもより……?
……と、特別なサイン……?」
「まぁ……、そうですね……?」
「やったー!!!! ひゃ――
……ひゃっほぅ」
「はい、声を抑えて頂いてありがとうございました。
それではいろいろありましたが、最後は問題なしということで」
「はい! いろいろとありがとうございました!」
その男性は元気に挨拶をすると、逃げるようにステージから降りていってしまった。
なかなかスピーディーな展開である。
「――さて、いろいろありましたが次に進みますね。
えぇっと、実はこちらのセシリアちゃんは、私の知っている子です。
ビンゴおめでとー」
「はい、ありがとうございます!」
「えっと、さっきの方から賞品を譲られたけど、それでも大丈夫?」
「え? でも――」
「良いぞーっ!!」
「もらっちゃえー!!」
「納得の展開!!」
観客たちも、特に不服は無いようだ。
小さな女の子は大切にしてあげないとね。
「それでは発表します!
私からの賞品は――こちら!!」
右手を大きく掲げて、アイテムボックスから手のひらにそれを出す。
「……何だ、あれ?」
「宝石……!?」
「キラキラしてるっ!!」
観客からの反応はそんな感じ。
そして当の、セシリアちゃんの反応は――
「綺麗……。
でもそれ、ガルルン……ですか?」
……はい、その通り!
以前作ってもらったうちの一体を、錬金術で宝石に置き換えたものだ。
とても煌めいていて、しかも宝石だから、一定の価値はある――そんな素敵アイテム!
錬金効果は大したものが付かなかったけどね。
「これは宝石で作られた、私の愛するマスコットキャラです!
実はこれ、こちらのセシリアちゃんがデザインしたものなんですよ。
ガルーナ村の特産なので、興味がある方は行ってみてください!」
――私の旅の目的のひとつ。
ガルルンの宣伝が、ようやく出来た瞬間だった。
これだけで、一年以上掛かってしまったなぁ……。
「ガルルン……そういうのもあるのか……」
「よく見えないけど、興味あるかも!」
「ガルーナ村か……!」
「ガルルン様-っ!!」
観客からの反応も、それなりには良いようだ。
最後の声は、何だか聞き覚えのある感じだったけど……。
――そしてそのまま、ビンゴ大会は好評のうちに終わっていった。
そのあとはトークショーという名のお喋りをしてから、街中に散って踊って終了。
長かった収穫祭も、これでようやくおしまい終了――
……ああ、楽しかった♪




