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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
524/911

524.収穫祭⑮

「――改めまして、アイナ様。

 私の名前はエイブラムと申します」


 見覚えのあるような、無いような。

 そんな5人のリーダー格の男性は、ゆっくりとそう名乗った。


 ……エイブラムさん。


 うーん? そんな名前、初めて聞いた気がするけど……。

 こう見えても私、人の名前を覚えるのは得意な方なんだよね。

 でも、エイブラムさん……は、ちょっと思い出せないかな。


「あの、すいません。

 どこかでお会いしたことがありましたっけ?」


「おっと、これは失礼しました!

 いえ、初対面になるかと思います。実は私、アイナ様の導きによって救われた者なのです!」



 ……何だかんだで私も各所に影響を及ぼしてきたから、その関係で、エイブラムさんも知らない間に救っちゃったのかな?

 私の見ていないところであれば、お礼なんて言う必要は無いんだけど。


「ちょっと私が何をしたのか分からないのですが……。

 でも、何かが良くなったのなら、それは良かったですね」



 そんな当たり障りの無い返事をしていると、エミリアさんが私の裾をちょいちょいと引っ張ってきた。

 そしてそのまま、顔を近付けて小声で囁く。


「もしかしてこの方、メルタテオスの……」


 ……メルタテオス?


 宗教都市メルタテオスの、エイブラムさん。

 ……いや、やっぱり記憶に無いけど……。


「うーん……。ちょっと思い出せないですね……」


「ほら、あれですよ。その、ガルルンの前に、育毛剤……」


 ……あ。


 エミリアさんの指摘を受けて、改めてエイブラムさんを見てみれば、確かにあのときの教祖様……のような気がする。

 メルタテオスでミスリルを上手く入手したあと、一芝居打って、どこぞの宗教の教祖様に育毛剤をあげたことがあったんだよね。

 食堂で一言か二言だけは話したけど、さすがにそれだけでは印象に残っていないか。



「あの、もしかして――ガルルン教、とか……?」


「はい、その通りです!

 とある御縁でガルルン教を知りまして、そして不思議な霊薬に出会いました。

 その霊薬は、私の長年の悩みを即座に解決してくれたのです!!」


 ……確かに髪の毛、一年以上経った今でもふさふさだ。

 あれだけの量でこんなに効果が続くだなんて、売り始めたらきっと飛ぶように売れるだろう。

 でも『不思議な霊薬』っていう扱いになっちゃってるから、ちょっと市販はしにくいかも……?


「それは何よりでした。

 えっと、それで何でガルーナ村の方と一緒に?」


 もしかしたらこの人たちが、ガルーナ村に行くかもしれない――

 ……そんな手紙はランドンさんたちに出してはいたものの、本当に行っちゃったのかな。


「ガルルン様のご神体を調べさせて頂いたところ、ガルーナ村で作られたことが分かったのです。

 しかしそのガルーナ村は、旅の錬金術師によって疫病から救われたばかりとのこと。

 それに感銘を受けて、私共も力及ばずながら、復興のお手伝いをさせてもらうことにしたのです」


「わぁ、そうなんですね。ありがとうございます!」


 そういえばエイブラムさんのところって、慈善事業みたいなことをやっている宗教なんだよね。

 儲けにもならないし、先も特に見えない復興支援をしてくれるだなんて、本当にありがたい限りだ。



「――それで、突然で申し訳ないのですが、お願いがあるのです」


「はい、何でしょう。

 ガルーナ村に尽力してくださったのであれば、出来るだけお応えしたいです」


「ありがとうございます!

 それでは私共を、ガルルン教に入信させて頂けないでしょうか!」


「「「「よろしくお願いします!!」」」」


「えぇ……?」


 エイブラムさんを筆頭に、周囲の4人も一斉に頭を下げてきた。

 まさかここに来て、ガルルン教の最初の入信者が――


 ……って、いやいや。

 ガルルン教、何も活動してないからね? 入っても、やることないよ?


「あのー……。実はあの育毛……もとい霊薬は、私の錬金術で作ったものでして……」


「やはりそうでしたか。

 アイナ様のガルーナ村での活躍、並びに神器作成、数々の偉業は聞き及んでおります。

 あの霊薬も、神の御業ではなく、高度な錬金術なのでは……という可能性も考えておりました」


「あ、そうなんですか」


「しかし、これをご覧ください!」


 そう言ってエイブラムさんが促すと、信者の一人は持っていた箱を開けて、中を私に見せてくれた。

 その中には、私が見覚えのあるものがたくさん詰まっている。


「これは……ガルルン茸?」


「その通りです!

 アイナ様が王都からガルーナ村に送ってくださったものを、大切に大切に育てあげました。

 そしてあるとき、鑑定の機会を得たのです。

 その結果を見て、私は驚き、そして涙しました。やはりガルルン教こそ、神に繋がる教えなのだ……と!!」


 ……ガルルン茸の鑑定結果って、どんなのだったっけ?

 私は頭の中で、以前の鑑定結果を出してみた。


 ----------------------------------------

 【ガルルン茸】

 神の慈悲により人間に与えられた祝福のキノコ。

 疫病への抵抗力を上げる薬を作ることができる

 ----------------------------------------


 ……ああ、そうそう。説明文が一回変わって、こんな感じになっちゃったんだよね。

 これを見ると……確かに神の存在がほのめかされているか。


 そしてこの鑑定結果を受けて、育毛剤も神の御業として扱われるようになってしまった――そんなところだろう。


「いやいや。でも……ねぇ?」


 私はどうにも困って、エミリアさんの方をちらっと見た。

 するとエミリアさんは、これからどんな展開になるのか……そんな目でこちらを楽しそうに見ている。

 ……えー、他人事なの……?


「つきましては是非!

 私共もアイナ様のもとで信仰の道を歩みたい! その願い、どうか聞き入れては頂けないでしょうか!!」


「た、確かにガルルン教を作ったのは私ですけど――」


「おお! やはり神器の巫女様!

 私の目は正しかった!!」


「ちょ、ちょっと! 新しい呼び方、作らないでくださいよ!!」


「いえ、『魔女』だなんて、私の口からはとてもとても!

 それが例え、アイナ様みずからが名乗られたものだとしても、私共は異議を唱えます!」


 う……。魔女の由来を見抜かれている……!?

 さすが宗教を興す人物、頭は良さそうだ。


「エミリアさん、助けて……」


「えーっ。良いじゃないですか、ガルルン教を広めましょう♪」


 う、うわーっ!

 エミリアさん、完全に他人事だーっ!!



 ――……私は神器の魔女。

 人の命も奪ってきたし、邪魔する者は排してきた。

 エミリアさんは、そんな私の冷徹さをきっと忘れてしまっているのだろう。

 私は、容赦しないときは、容赦しない。

 それが仲間であっても、親友であっても――



「……エイブラムさん。確かに私はガルルン教を作りました。

 しかし今はこちらのエミリアさんに一任しているのです。

 彼女は元々、ルーンセラフィス教の司祭。改宗をしてまで、ガルルン教に尽くすと誓ってくれたんですよ」


「ちょっ!? あ、アイナさん!?」


「おお、そうだったのですか……!!

 ガルルン教のこと、エミリア様がすべてを任せられているのですね……!!」


「その通りです。エミリアさんに任せることで、私は錬金術の研究や、この街作りに力を注ぐことができるのです。

 それに彼女は孤児院の活動にも積極的なんです。その優しさこそ、信仰のあるべき姿ではないでしょうか」


「「「「「確かに!!」」」」」


「それではエミリアさん。

 エイブラムさんたちのことを、よろしくお願いします!」


「え、えーっ!!?

 ちょっと待ってくださいっ!!?」


「大丈夫です、落ち着いてください。分かります、突然のことに驚いているんですよね?

 ……そんなわけでみなさん、細かい話は収穫祭が終わったあと、ということにしてもよろしいでしょうか」


「もちろんですとも!

 ようやく私共の希望を伝えることができたんです。それだけでも、神に感謝するところですから」


「やりましたね、教祖様!」


「うむ。これからは皆で、エミリア様に付いていくことにしよう!」


「「「「はいっ!!」」」」



「…………ア~イ~ナ~さ~ん……?」


 教祖様たち5人に比べて、少し冷たいものが混じっているエミリアさんの言葉。

 しかし今回は、私を助けてくれなかったエミリアさんが悪いのだ。



 ――というのは冗談として。

 そろそろ信仰のことも何か考えた方が良いかな、というのは本音のところだった。


 エミリアさんは、逃亡生活の中でルーンセラフィス教と決別してしまったけど、それまではずっと彼女の生き甲斐だったのだ。

 そしてそれを潰してしまった私には、当然のことながらずっと負い目がある。


 エイブラムさんたちとは不思議な縁だけど、これがきっかけになって何かが起これば――

 ……そんなことを期待してしまうのは、私のワガママなのだろうか。



 押し付けたなんて、それはとんだ誤解デスヨ。

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