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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
521/911

521.収穫祭⑫

 ――気が付けばまた、人魚の演奏会は好評のうちに終わってしまっていた。


 元の世界で、セイレーンっていう海の魔物が人々を魅了したっていう伝説があるけど、それも何だか分かるなぁ……。

 何というかこう、心に直接響いてくるというか――



「……確かに! 確かに凄く、良かったですぅ!」


 エミリアさんは私の横で、薄っすら涙目になりながら拍手をしている。

 うん、気持ちは分かる。良い演奏だったよね。私もまだまだ聴いていたいくらいだし。

 ……となるとこれは、今回限定じゃなくて何かあるたびに開催していきたいところだ。


「でも残念ながら、来た人はそこまで多くないんですよね。

 収穫祭に参加している全員と比べると……」


 一回の演奏会につき、来ている人は大体300人くらいだった。

 よくよく見れば、何となく午前中に見た人もいるし――

 ……うぅん、この演奏会に参加しないなんて、何てもったいないことだろう。


「きっと、創星――なんとか祭りの方に行っているんでしょうね」


 エミリアさんが少し寂し気に、原因を指摘してきた。


「そうですね……。

 マーメイドサイドは基本的に男性が多いですから。

 ……それも、血の気の多い感じの」


 たくさんの男性――というのは、土木建築の職人であったり、冒険者であったり。

 そもそもこの街の仕事はまだ男性向きのものが多いから、結果として男性の比率が多くなっているのだ。

 そんな観点からしてみると、ゆったりと音楽を聴く層はまだまだ少ないのかもしれない。


「でも、個人的にはこれくらいの人数がちょうど良いと思いました。

 人が多すぎると、遠くて聴こえない人も出てきそうですから」


「少なければ寂しいし、多ければ全員に音が行きわたらない……と。

 それを踏まえて、できるだけたくさんの人と一緒に感動したいですよね」


「そうですね!

 以前は大聖堂で音楽の催しもあったんでけど、今はあまり機会がなくて……」


「確かに私も、音楽とは全然縁が無くなっちゃいましたね……」


 元の世界にいたときは、それこそ毎日何かしらの音楽を聴いていたものだ。

 主にはネットやCDで聴いていたけど、こっちの世界に来てからはそういうものは当然のように無いわけで……。


 むしろ縁が無いのであれば、音楽をいつでも聴ける感じの施設を作っても良いかもしれない。

 音楽や芸術っていうのは、人の心を豊かにするからね。

 ……芸術は行き過ぎると、ちょっとよく分からなくなることもあるけど。


 しばらくすると人魚たちは海の中に消えて、観客も名残惜しそうにこの場から去り始めた。

 演奏会は、このあと17時からもう一回やるらしい。

 正直また聴きたい気持ちはあるけど、ここはエミリアさんとの約束通り、パフォーマンスの方を観にいくことにしよう。



「――あ、リリーだ」


 会場に来たときは姿が見えなかったが、気が付けばグリゼルダに肩車をしてもらいながら、こちらに手を振っている。

 飛べるのに何でまた肩車なんて――とは思ったものの、飛んでしまえばやはりここにいる人たちの目を引いてしまう。

 リリーが飛ぶことを知っている人もそれなりにいるとは言え、知らない人の注目はどうしても……ね。

 だからこそ、今は飛ばないことを選んでいたのだろう。


 『魔女の試練』を要らないと言うだけあって、ここら辺の気配りはできるようになっているようだ。

 成長したなぁ、もう……。


 しかし――



「ママーっ♪」



 ――あ、飛んできた。


 リリー、私の感動を返してもらおうか。



「リリーだー♪ いつ来たの?

 始まるときには、いなかったよね?」


「えっと……始まってすぐ来たの。

 どくしょずきに連れてきてもらったんだけど、なんぱ? ……っていうの?

 それで時間が掛かっちゃったの」


「はぁ……。ナンパ、多いね……」


 ……ちなみに『どくしょずき』というのはメイドのルーシーさんのことだ。

 お屋敷の庭で読書する姿を見て、リリーはこう呼び始めていた。

 本人曰く、尊敬の念は込めているらしい……。


「ママも、なんぱをされたの?」


「そうそう。追い払ってあげたけどね」


「さすがなの!」


 何故か誇らしげなリリー。

 きっとここに来るときに、うっとうしい光景を目の当たりにしたのだろう。

 ……それにしても子供を連れているのにナンパって、節操が無いなぁ……。



「ところでリリーちゃん。

 ルーシーさんの方は、ナンパはどうしたの?」


「内緒なの!」


「えー……」


「飴あげるよー?」


「わーい♪

 どくしょずきがね、ビンタばちーんってしてたの!」


「「えぇ……」」


 エミリアさんから飴を受け取ると、リリーは速攻でバラしてしまっていた。

 ……なるほど、そんなことをすれば口止めくらいはしたくなるか。


「それで、相手は引き下がってくれたの?」


「ううん? そのあとね、ご(ほん)(かど)でゴスッってしてたの!」


 ゴスッ……。

 ……痛そう。


「な、なるほど……。

 今回はそれで良かったけど、ルーシーさんにも無理しないように言っておかないとなぁ……」


「物静かな方に見えましたけどね。やっぱりこれは、アイナさんが移ったんでしょうか」


「移ったって……。病気みたいに言わないでくださいよ……」


「でもご主人様がアイナさんだったら、やっはり影響を受けちゃいますよー」


「同感じゃな!」


「うわぁっ!?」


 私たちの会話に、突然グリゼルダが入ってきた。

 リリーが飛んできて私たちと話している間、グリゼルダはお客さんの誘導をしていたようだ。

 ……主に、島の中に無断で入っていこうとしていた人の。


「グリゼルダ様、お疲れ様です。

 アイナさん、驚きすぎですよー」


「すいません、何だか不意を突かれてしまって」


「ふっふっふっ、まだまだじゃのう」


「……もしかして、わざと気配を消してました?」


「ほう、少しは出来るようになったようじゃな♪」


 さすがに私も気配くらいは多少感じられるようになっている。

 でも気配を消されると、やっぱり全然ダメなんだよね。


 世の中には、気配を消された上で感じ取れるという強者がいるらしいんだけど、正直私には理解できないレベルの話だ。

 そういう人は身近にいるんだけどね。ルークとか、ジェラードとか。グリゼルダなんかも、もちろんそうだろうし。



「ま、それは置いておいて……。

 私たちは別のところに行くけど、リリーはどうする?」


「えっとね、もう一回やるみたいだから、もう一回聴いていくの!」


「よっぽど人魚どもの演奏が気に入ったようじゃな♪」


「なのー♪」


「確かに、何度も聴きたくなる演奏ですからね。

 それじゃグリゼルダ、リリーのことをお願いします」


「うむ、承知した。

 その代わり、妾の特別ボーナスも頼むぞ♪」


「お酒のことばっかりですね!」


「ツマミでも良いぞ?」


「それも同じことじゃ――

 ……ま、まぁ分かりましたけど……」


「うむ、物分かりが良くて助かるのう♪」


「実際、かなりお世話になってますからね……。

 さて、それじゃ私たちはもう行きますね」


「うむ、気を付けてな」

「ママ! また夜に、なの!」


 もう一度行われる演奏会には未練があるものの、私とエミリアさんは予定通り、人魚の島を出ていくことにした。

 時間はもう16時過ぎ。空には夕方の雰囲気が漂い始めている。



 ――さて、二日目も残り少しだ、

 残りの時間も精一杯、楽しんでいくことにしよう。

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