52.ひとりぶらり歩き④
鉱山長と鉱山夫の後に付いて、坑道を奥へ奥へと進んでいく。
こんな事故が起こってしまったものの、鉱山の内部を見れたのは少しラッキーだったかもしれない。
あ、いや、不幸中の幸いというか……。意味がちょっと違うか。
「それにしても、さっきの揺れってなんだったんでしょう?」
「あー、あれな。鉱山の奥で崩落があったようでな」
「え? 奥にいた人は大丈夫だったんですか?」
「ああ。崩落の直前に奥の方で爆発音が響いてな。それである程度は避難していたから――生き埋めになったやつはいなかったな。
まだ奥にいるガッシュとセドリックは除いて……なんだが」
なるほど、怪我人は確かに多かったけど、確かに全員中級ポーションで何とかなるくらいだったもんね。
今のところだけど、これこそ不幸中の幸いだ。それにしても――
「爆発音……ですか」
「爆発といえば鉱山長、何でも冒険者ギルドでも入口で爆発事故があったみたいっすよ」
「何だと……? 今回の一件と何か関係があるのか?」
「さぁ……? さっき捕まえたヤツなら何か知っていますかね?」
「そうだな。戻ったらこってり絞ってやるか」
ふーむ、たしかに爆発続きとなると怪しいよね。何か組織立って事件を起こしているのかな。こわいこわい……。
「鉱山長、俺がガッシュたちを見たのはこの先なんですが――」
ゆるやかなカーブを曲がると、岩や土砂が坑道を塞いでいた。
完全には塞がっていないものの、坑道の途中に大きな土の山が出来ている……といった感じだ。
「ふむ、周りにはいないようだな。もしかしてこの中か……?
――おおい!!! 誰か埋まっているか!!!!?」」
鉱山長は一際大きな声で土の山の中に呼び掛けた。
その後、耳を澄ませていると何やら野太い音が。
「――よし、誰かいるようだ。掘り起こすぞ!!」
鉱山長と鉱山夫たちは持っていたシャベルで土を取り除き始めた。
私は私で、土の中だけど鑑定で状況は分かるかな――と思いながら鑑定スキルを使ってみる。
中にはどうやらガッシュさんとセドリックさんの二人がいるようだった。
何だか怪我をしているようだけど、命に別状は無さそうだからひとまず報告するのは止めておこう。
作業に一生懸命だし、そもそも説明が面倒だしね。
しばらくすると、ガッシュさんとセドリックさんが救助された。
「鉱山長と……お前らも、ありがとよ。セドリックも何とか無事だぜ」
「心配掛けるんじゃねぇよ!」
「そうっすよ!」
「心配したんですから!」
ガッシュさんは、鉱山長は置いておいて――鉱山夫たちの兄貴分みたいな感じっぽいね。
ふーむ。確かに頼りになりそうだし、なるほどって感じがする。
「――あの、怪我をしているようなので、これを使ってください」
話の切れ目を狙って中級ポーションを差し出す。話も良いけど先に回復しよう?
「え? 何でこんなところに女の子が!?」
「おう、お嬢ちゃんじゃねぇか。どうしたんだ、こんなところで」
「――え? ガッシュさんの知り合いですか!? もしかして娘さん!?」
セドリックさんが驚きながらガッシュさんを見る。
「馬鹿! ちげーよ! 今朝ちょっと、来る途中で会ってな。あ、そうだ。最初に使ってやったポーション、このお嬢ちゃんからもらったんだぞ!」
「えぇ? そうだったんですか? ……いやぁ、お嬢ちゃんは俺の命の恩人だなぁ。付き合ってください」
「いえ、結構です」
よく分からない流れになったのだがそこは一蹴だ。
「はっはっは! なかなか面白いお嬢ちゃんだろう?」
「とほほ……」
「それは良いので、ポーションで回復してください。痛みませんか?」
「これくらいの怪我は何てこと無いんだが、ありがたく頂くよ」
いやいや、それなりに血が出てますよ……?
私の心のツッコミをよそに、ガッシュさんは傷口にポーションを振り掛けた。
「おお……。何だか凄い早く効果が出るな……。これ、もしかして高級ポーションか?」
「いえ、中級ポーションです」
効果は2倍だけどね!
「ははぁ……。それじゃ品質が良いのか……。あれ? そうすると朝にもらったのは、もしかして初級ポーション?」
「はい」
「そうか、あれで初級ポーションだったのか……。セドリックに使ったとき、やたらと効いてるから中級ポーションだと思っていたんだ」
初級ポーションも効果は2倍だけどね!
「出来るだけ高品質のものを持ち歩いているんです。何があるか分かりませんし」
嘘は付いてないぞ!
「ここに来る前にもな、怪我した全員分のポーションを出してくれたんだぞ? 帰ったらちゃんと礼を弾まないとな。
――戻ったら、コンラッドのおやっさんに報告と直談判に行くとするか」
鉱山長の言葉に、ガッシュさんも頷きながら続ける。
「鉱山長、俺も付いていくぞ。おやっさん、こういうところでもケチりそうだし」
「ちげーねぇ!」
一同爆笑。
――みんな笑ってるけど、私には身内ネタは分からないぞっ!?
「あの、コンラッド……さん、というのは?」
「すまんすまん。コンラッドのおやっさんはこの鉱山の所有者でな、俺たちのボスなんだ」
鉱山長が説明してくれる。お偉いさんなのね。
「一応貴族なんだが、どうにも金にがめつくてな。下の方にあんまり回してくれねぇんだよ」
「ああいうの、守銭奴っていうんでしょうね!」
「ちげーねぇ!」
一同爆笑。
――だから! この流れは止めてー!?
「よし、それじゃガッシュとセドリックも救助したし、外に出るか!」
「おう」
「「「はい!」」」
身内ネタが席捲する中、ガッシュさんだけ返事が違ったのには少し笑ったかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
炭鉱の外に出ると、鉱山夫たちが出迎えてくれた。
ガッシュさんとセドリックさんを囲み、賑やかに話をしている。
私はその輪から外れてるんだけど、むしろそれは助かったかな。あんな強烈な場所にはいられそうにないからね。
――そんな中、鉱山長が私の元に来た。
「お嬢ちゃん――ああっと、ガッシュから聞いたんだが、アイナさんって言うんだな。アイナさん、今回は本当にありがとうな」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
「俺の名前も言い損ねていたな。俺はオズワルドってんだ。この鉱山の責任者をやっている。
今回の礼もしたいから、滞在先を教えてくれねぇか?」
「あ、はい。えぇっと――」
……どうやって伝えれば良いかな。
「もし良ければ街までコイツを付けるからさ、連れて行ってくれねぇか?」
鉱山長がそういうと、後ろからジェラードが現れた。
「どうも……」
……うん? 何か元気が無いようだけど、どうしたんだろう?
「俺たちはまだやることがあるからよ。良いかな?」
「あ、はい。えぇっと……アルリーゴさん、よろしくお願いします」
「……うん、よろしく」
「それじゃアルリーゴ、頼んだぞ!」
鉱山長――オズワルドさんはジェラードのお尻を一回叩いてから、鉱山夫たちの輪に戻っていった。
「……あ痛たた……。さ、それじゃ――」
「はい、行きましょう」
ジェラードと横に並んで歩き出す。
途中でまた誘われたり口説かれりすると思ったのだけど、宿屋に着くまでの会話はこれだけだった。
気楽ではあったけど――、何だかジェラードっぽく無かったね? どうしたんだろう。




