519.収穫祭⑩
限定ガチャは見たし、パフォーマンスのスペースも観たし、『創星剛鍛祭』も会場には足を運んだし、人魚の演奏会も聴いてきた。
あと残っているのは、『水の迷宮』のツアーだけ。
これも参加をする……というより、状況を軽く見ておきたいだけだから、往復の時間さえあれば問題無いかな。
「――ビンゴ大会の予選も活況ですね」
露店で昼食を食べながら、近くのステージを眺めてみる。
ビンゴの数字が発表されるごとに、悲喜こもごもの歓声が上がっているようだ。
「みなさん……賑やかで、……はい。
私は無理ですけど……、楽しそうで、良いですよね……」
セミラミスさんも参加してくれば良いのに――
……とは思うものの、それができないのが彼女なのだ。
いつかできるようになっては欲しいものの、一足飛びでは難しいだろうし、あまり無理させるのも可哀想だろう。
「私は参加したかったですけど、時間がありませんので……」
「キャスリーンさん、今日は午前中だけだもんね」
「はい。ただ明日は一日空いていますので、アイナ様のステージは観に行かせて頂きます!」
「あはは、よろしくね♪
ところでセミラミスさんは良いとして、キャスリーンさん」
「は、はいっ」
「銀貨10枚分、まだ使ってないでしょ?」
「そうですね……。どうしましょう」
銀貨10枚――それは一番最初に約束した、最低限使うお金の話。
いろいろ露店を巡ったものの、今のところ使っているのは銀貨3枚程度だろう。
遠慮している感じは伝わってこなかったから、あまり無理は言わないけど、それでも何かあれば使っていって欲しいかな。
「キャスリーンさん……。あの、お土産とか……、どうですか?」
「それなら……あっ! あそこの露店、覘いていってもよろしいですか?」
「うん、大丈夫だよー」
……どんな露店かも確認しないまま、言いながら目を移してみると、ぬいぐるみがたくさん置いてある露店を見つけた。
基本的には子供向けっぽいが、それでも大きなぬいぐるみがあったりして、なかなか値段も張りそうだ。
「わぁ……、楽しそう……」
「セミラミス様も見に行きませんか?」
「え……? そ、そうですね……」
そう言いながら、セミラミスさんは私の方を見た。
私もぬいぐるみは結構好きだから、見に行くのであれば一緒に行きたいところだ。
「それじゃ、食べてるものを片付けてから行きましょうか」
「「はいっ」」
……おっと、セミラミスさんもなかなか元気だ。
結構こういうの、好きなのかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――どうしよう。
キャスリーンさんが大きなぬいぐるみをゲットして、目をキラキラさせている。
金貨1枚で割と大きな出費だったけど、別にそれは何の問題も無い。
ただ、買うまでにいろいろとひと悶着があって、結構時間を使ってしまったから――
……時間は既に13時過ぎ。
私がエミリアさんを迎えに行く約束は余裕で守れるけど、キャスリーンさんが午後から仕事をするという約束は守れない。
まさかこんなに時間を忘れて、ぬいぐるみ探しに没頭してしまうとは……。
あぁー、キャスリーンさん、お屋敷に戻ったら怒られちゃいそうだなー。
今はこんなに嬉しそうにしているのに、時間の話をしたら、一気に泣き出しちゃうかも……。
あとついでに、一緒に連れまわしていた私も怒られちゃうかも……。
「へーい、彼女たちー? 元気ぃー?」
突然、私たちに声を掛けてくる男性がいた。
考え事をしているときに……と思いながら目を移してみると、いわゆるちょっとチャラい系のお兄ちゃんたちが3人立っている。
歳は20歳過ぎくらいかな?
「何か御用ですか?」
「大きなぬいぐるみを買ってて、大変そうだなって思ってさ!
良ければ、俺たちが運んであげようか?」
「ついでに、一緒に収穫祭まわらない?」
「今日は一日、遊ぼうぜーっ♪」
……これはうっとうしい。
いわゆるナンパというやつなんだけど、こういうときに男性がいないと面倒だなぁと思ってしまう。
そもそも3人で話し掛けてくるっていうのがズルい。
ジェラードのナンパもうっとうしかったけど、彼は一人で声を掛けてきたからね。
ある意味、男らしくはあったのだ。
「すいません、今日はいろいろと用事がありますので」
「用事っていっても、遊びでしょ?
それなら俺たちと一緒に遊ぼうよー」
……やっぱりうっとうしい。
倒すだけならさっさと倒せるけど、今は楽しい収穫祭の真っ最中。
私たちの話し声も周囲には聞こえていないだろうし、騒ぎをあまり大きくしたくないし……。
「はわわ……」
「アイナ様……」
私の後ろで、二人の不安そうな声が聞こえてくる。
……いやいや、セミラミスさん。あなた強いんだから――……とは言っても、やっぱり女の子だからね。
見た目から年齢は分からないけど……うん、仕方ない、仕方ない。
それにしても――
「ところでお兄さんたち、昨日の夜のイベントは参加しました?」
「ん? ああ、歌姫のソフィアが出ていたってやつ?
いやー、あのときは宿屋にいたからなぁ」
「そうそう、ちょっと疲れちゃってね」
「ゆっくり休んでたんだよー♪ うひひ♪」
……なるほど、それなら私のことは知らないのかな?
それにその時間宿屋にいたってことは、もしかして昨日は昨日でナンパしていたのかもしれないし……。
お祭りなんだから多少ハメを外しても良いとは思うけど、でも私たちを巻き込んで欲しくはないな。
……さて、どうしたものか。
そもそもこんな連中に時間を使っている場合じゃないんだよね。
こっちはキャスリーンさんの遅刻の言い訳を考えなきゃいけないのに――
……と思ったところで、私はピコンと閃いた。
「――それじゃ、これから行ってみたいところがあったんですよ。
ちょっと街の外れの方なんですけど、一緒に遊びに行きませんか?」
「はわっ!?」
「え、えぇ……!?」
「お、いいじゃん、いいじゃん! 遊びに行こうよ!」
「一緒に楽しもうぜ!!」
「案外……うへへっ♪」
私の言葉に、五人はそれぞれの反応を見せた。
大丈夫大丈夫、何を守って何をやるかなんて、私は心得ているからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――バチッ
「ぐはっ!?」
「ぐおっ!?」
「うへっ!?」
賑やかな場所から少し離れた場所、とある建物の近くで間抜けな声が響いた。
ナンパ師三人組には錬金術――ではなく、風魔法『クローズスタン』を掛けてあげたのだ。
これはスタンガンみたいに、相手を痺れさせる魔法。無力化するときに便利な魔法だ。
「……こんなところまでのこのこ付いてきて、おバカさんですねー」
「うぅ……。な、何だと……?」
「それじゃセミラミスさん、あそこの建物から人を呼んできてください。
神器の魔女、アイナの使いだって、ちゃんと伝えてくださいね」
「りょ、了解しました……!」
そう言うと、セミラミスさんは走って、少し離れた建物に向かっていった。
その建物は、自警団の詰め所。
この街を護ってくれる、頼りになる人がたくさんいる場所なのだ。
「じ、神器の魔女……? お、お前が……?」
「いやいや、こんな子供……だぞ?」
「うそーん……」
子供と言っても、もう18歳だからね?
……あ、いや、外見は17歳か。ここは永遠の17歳ということにしておこう。
そうこうしているうちに、自警団の人が5人、全速力で現れた。
私が事情を告げると、そのままナンパ師たちを連行していってくれた。
ここまで連れてきた理由を細かく聞かれそうになったけど、今は時間が無いから、それはあとまわしにしてもらうことに。
捕まえておく時間は、この街の責任者(?)である私の責任で、とりあえず無期限に設定。
罪状は――私たちにちょっかいを出した罪、かな?
迷惑防止条例っぽいやつでも何でも良いけど、この街で私にちょっかいを出す方が悪いということで。
ふふふ。ここら辺、我ながら暴君である。
――さて。
ナンパされてから最短ルートでここまでやってきて、今の時間は13時40分!
ここからならエミリアさんとの約束の時間も何とか守れるし、私の方は問題無し。
あとはキャスリーンさんの方の問題か。
「いやー、結構自警団まで時間掛かっちゃいましたね!」
「そ、そうですね……?
あっ! 私、午後からお仕事があるんです……!」
「急がないといけませんね!
でもさっきのナンパ師のおかげで、結構時間を使っちゃいましたからねー」
「た、確かに? 凄い時間、連れまわされたような……?」
実際は最短ルートだったけどね。
でも被害に遭ってる最中って、時間がやたら長く感じちゃうものだし、ここはその錯覚を利用させてもらおう。
「それじゃセミラミスさんはキャスリーンさんと一緒に戻って、クラリスさんに事情を説明してあげてください。
変な三人組に声を掛けられて、自警団まで連れていったから遅れちゃいましたーって」
「か、かしこまりました……!
アイナ様は……どうするんですか?」
「エミリアさんと約束をしていますからね。
今からそっちに行ってきます」
「分かりました……!
……キャスリーンさんのことは、お任せください」
「はい、よろしくお願いします!
キャスリーンさんも、最後ごめんね!」
「いえ、助けて頂いてありがとうございました。
あとこのぬいぐるみも、大切にさせて頂きます!」
そう言いながら、大きなぬいぐるみをきゅっと抱き締め直すキャスリーンさん。
キャスリーンさん、純粋に可愛い。
――さて、これで遅刻の件もうやむやにできそうだし、何よりもキャスリーンさんの笑顔を守れて良かったかな。
言い訳に使われることになったナンパ師三人組には、そこだけは感謝しておこう。そこだけは、ね。




