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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
518/911

518.収穫祭⑨

 浜辺の片隅に急遽作られた闘技場――


 ……闘技場とは言っても、足場をしっかり固めただけの舞台。

 そしてそれを囲むようにして作られた観客席。

 さらにそれを囲むようにして並ぶたくさんの露店たち。


 ――そこが、今回行われる『創星剛鍛祭』の会場だった。



「うおおおおぉおおおっ!!!!」

「燃えるうぅううううっ!!!!」

「殺せ殺せぇええええっ!!!!」



「ふえぇ……」


 周囲の熱狂に圧され、セミラミスさんがいつも以上に怯んでいた。

 かく言う私も、やはりこの雰囲気には呑まれてしまう。


 荒事のイベントだけに、やはり観客は強そうな人が多い。

 私たちみたいな、そこら辺にいるような感じの女性はおらず、女性がいたとしても屈強さが滲み出ている人ばかりだ。


「特にキャスリーンさんは、気を付けてね!」


「はいっ、しっかり掴まってます!」


 そう言いながら、キャスリーンさんは私に抱き付くようにして掴まってきた。

 ちょっとくっつきすぎだけど……まぁ変なトラブルに巻き込まれるよりはよっぽどマシか。


「アイナ様……、私も掴まらせてください……っ!」


「……セミラミスさんって、ぶっちゃけ私よりも強くありませんか?」


「総合的に見れば、アイナ様の方がずっと上ですぅ……!」


 私の承諾を得ずに、セミラミスさんも私に掴まってくる。

 総合的って言っても……まぁ、セミラミスさんは性格的なところで損をしているからね。


 結果、私は左右から掴まられてしまい、どうにも動き辛い。

 ここには座れるような席も数が少ないし、さてどうしたものか――

 ……いや、そもそもここって、この面子で来るような場所だったかな……。



「――お、アイナさんじゃないか!

 可愛い女の子を連れて、デートかい!?」


 突然私に声を掛けてきたのは、土木工事の職人だった。

 確かこの人は最初期からいて、ずっと頑張ってくれている人だ。


「こんにちは。

 デートって……。あのー、私も女の子ですよ!?」


「おっと、こいつはすまねぇ!

 両手に花っていうのを言いたかっただけなんだよ、はっはっは」


「そうですか。はっはっはー」

「はわわ……」

「うふふ♪」


「……それで、今日はここで観戦かい?

 もう4試合が終わっちまったが、熱い試合ばかりだったぜ!」


「はぅ……。もう、そんなに……終わったんですね……」


「午前に一回戦の8試合、午後に決勝までの7試合の予定なんですよ。

 一日で済ますとなると、なかなかスケジュールも大変で」


「しかしアイナさんたちの身長じゃ、なかなか舞台も見えにくいだろう?

 どれ、ちょっと俺が客席を空けてくるとしようか!」


「ありがとうございます。

 でも、もうすぐ戻るつもりですので、大丈夫です!」


「お、そうかい?

 それじゃ、舞台が見えなくて困ったら、俺に声を掛けてくれよな!」


「はい、そのときはよろしくお願いしますね!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 闘技場から離れたあと、私たちの後ろから一際大きな歓声が上がるのが聞こえてきた。

 きっと、良い勝負が繰り広げられているに違いない。


「……アイナ様、試合は……観なくても、良かったんですか……?」


「いやー、想像以上に男らしい場所だったので、今回は良いかなって……。

 試合の方は気になりますけど、使うのは本物の武器ですからね。

 当然のことながら、血がぶわーっと出ますよ!」


「ひっ」


 よくよく考えてみれば、今一緒にいるのはセミラミスさんとキャスリーンさんだ。

 セミラミスさんは血とか苦手だろうし、キャスリーンさんも決して得意では無いだろう。

 ……そもそも、この面子であそこに行ったこと自体が間違いだったのだ。


「お気遣い、ありがとうございます」


「ごめんね、配慮が足りてなくて。

 もう始まっちゃってるだろうけど、今から人魚さんの演奏会の方に行きましょうか」


「そ、そうですね……。私、そっちの方が良い……です!」


「私も賛成です」


「それではそうしましょう♪

 ……ところで二人は、いつまでしがみ付いているんですか?」


 闘技場に行って以来、私の身体は二人からずっとしがみ付かれていた。

 ここまでは直線的な道だったから良かったものの、ここからは曲線的な道が続く。

 ……つまり、さすがに歩きにくいから、そろそろ離れて欲しいところなのだ。


「はわわ……、すいませんっ」


「いえいえ。

 ……はい、キャスリーンさんも、そろそろ離れよっか」


「むぅ……」


 さっさと離れたセミラミスさんに比べて、まったく離れようとしないキャスリーンさん。

 甘えんぼキャスリーンさん、可愛い。



「――ところであの闘技場……、ルークさんがいらっしゃいましたよね……」


「え、そうなんですか? 全然見えなかったですよ」


「私も見えなかったですけど……その、気配を、感じましたので……」


「あんな中でも気配を感じられるんですね……。凄いなぁ……」



 ――おそらく、マーメイドサイドの中ではルークが一番強い人間だろう。

 だからこそ、あのイベントの警護をやってくれているのかな?


 それなら『創星剛鍛祭』の話は、あとでルークから聞けば良さそうだ。

 試合自体は私も見たいけど、血がぶわーって出るのはあまり落ち着かないからね。

 個人的に、思わずポーションを降らせてしまうかもしれないし……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 人魚の演奏会は、人魚たちが暮らす島で行われる。

 今日に限ってのみ、島の一部に人間を招き入れるのだ。


 いつもなら強い海流で閉ざされた道も、今日は特別に開放されている。

 ポエール商会の関係者や雇われた冒険者、さらに遠くにはポチの飛んでいる姿も確認できた。

 当初の予定通り、警備面はなかなか厳重になっているようだ。


 職員の案内に従って島へ渡ってみると、人魚たちは海から覗いた岩場で演奏をしていた。

 客席からは良い感じで距離が離れており、おかしな客がいても、逃げる時間くらいは確保できるだろう。


 客席の後ろには、グリゼルダもしっかり控えてくれていた。

 グリゼルダはもはや、この島の守護者みたいな感じだからね。



 人魚たちの使う楽器は、ハープと横笛。

 なるほどなるほど、お伽噺に出てくるような、そんな人魚のイメージに近そうだ。


 音はとても澄んでいて、耳に心地良い。

 さらに美しい歌声も風に乗ってきて、得も言えない世界感が伝わってくる。

 多分これ、屋内でやったら出ない音だ。自然と共にある音楽――っていうのかな。



 ――気が付くと、演奏会は終わってしまっていた。

 時間にして、私たちが来てから20分ほど――


「……時間が、一瞬で過ぎてしまいました……」


「はぅ……。私、感動……しました……っ」


「私も音楽はたくさん聴いてきましたが、今日の演奏はとても素晴らしかったです!」


 セミラミスさんもキャスリーンさんも満足気に喜んでいる。

 私としても、最上級の演奏に感じられた。


 良いものだろうとは思っていたけど、まさかここまで良いものだなんて。

 これはもしかして、世界に発信していきたいコンテンツかもしれない。

 ……あまり音楽には詳しくないけど、詳しい人ばかりが聴くわけでも無いからね。



 人魚たちは一同揃ってお辞儀をしたあと、観客たちの拍手の中、海の中へと消えていった。

 最後まで、何とも人魚らしい演出だ。


 観客たちはそれを見送ると、名残惜しそうに帰り道へと向かっていった。

 中には島の中に行こうとしていた人もいたけど、そこはグリゼルダやポチが捕まえてくれていた。



「――……はぁ。油断も隙も無いものじゃのう……」


 一仕事を終えると、グリゼルダが私たちの元にやってきて、愚痴をこぼした。

 何のことかと言えば、先ほど島の中に侵入しようとした人たちのことだろう。


「あはは、お疲れ様です。

 でもグリゼルダがいるからこそ、人魚さんも安心して演奏が出来たんだと思いますよ」


「まぁ、のう?

 ここはもう、妾にも特別ボーナスが必要じゃな!」


「あれ? 商会の方から送っていませんか?

 お酒の詰め合わせ、たくさん送ったと思うんですけど」


「あんなもん、人魚たちと酒盛りをしたら一瞬よ」


「えぇ……。

 ……まぁ、良い演奏を聴かせて頂きましたので……、あとでまた手配しておきますね……」


「お、話が分かるのう♪」



 ――グリゼルダはいつも通り、そんな感じ。

 しかしこんな素晴らしい音楽を守ってくれているのだと思えば、お酒くらいはお安いものかもしれない――


 ……多分、そうだよね? ちょっと心配だけど、多分そう。

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