514.収穫祭⑤
「――はい! 明日の目玉は何と!!」
私の言葉に、ポエールさんがわざとらしい相槌を入れてくる。
打ち合わせ通りだから、本当にわざとなんだけどね!
「まずはこの街、マーメイドサイドの名前の由来になった人魚さん。
いつもは別の島で暮らしているのですが、今回は特別に演奏会を行ってもらうことになりました!!」
「おお!」
「人魚って本当にいたんだ!?」
「萌え萌え!?」
島に暮らす人魚は10人しかいないし、さらにこの街とは強い海流で隔たれている。
基本的にはこちらと島を繋ぐ係の人魚以外は見られない上、その人魚も必要が無ければ海に潜っているのだ。
つまりこの街に暮らす人であっても、人魚を見たことがない人は結構いる。
今回の収穫祭で初めて来た人は、当然見たことも無いだろう。
「アイナさんのご協力で、今回は特別に、ですからね!
変なお客さんがいたら、永久に公開停止になるので、観にいく方はご注意ください!」
「ちょっかい出す人は、命が無いものと思ってくださいね♪」
「アイナさん、怖い!
みなさま、神器の魔女様の怒りを買わないようにお願いします!!」
「はーい!」
「こわーいっ!」
「魔女さまーっ」
結構茶化して言っているけど、ちょっかいを出したら本当に許さないからね。
警備もしっかり固めるし、ここは毅然と対応させてもらうのだ。
「それでは人魚さんの演奏会は、静かにできる方だけ行ってください!
『賑やかな方が良いんだ!』という方には、次のイベントがオススメです!!」
「次のイベントですか!!
アイナさん、それは一体何でしょう!?」
「その名も――
『創星剛鍛祭』!! そう、せい、ごう、たん、さい!! です!!」
「なにそれ!!」
「名前が強そう!!」
「固そう!!?」
「こちらは鍛冶師と冒険者の祭典!
選ばれた鍛冶師が作った武器を使って、これまた選ばれた冒険者が戦い合うトーナメント戦です!!
血の気の多い人たちにはうってつけ!!」
「おぉ……!!」
「み、観たい……!?」
「俺、絶対にそっちに行くわ!」
「鍛冶師アドルフを筆頭に、優れた武器が勢揃いですよ!!
終わったあとは各鍛冶師さんによる即売会――……は、ありません! ご注意ください!!」
「「「無いんかーい!!」」」
「無いんでーす!!」
息のあったツッコミをばっさり返すと、会場からは笑い声が上がった。
そうそう、このライブ感! 司会進行をしていて、これが一番面白いんだよね。
「やぁやぁ、アイナさん。
収穫祭は大盛り上がりですね! まさか二日目に、新しいイベントが二つもあるだなんて!!」
「まったくですね、ポエールさん!
それでは三つめの紹介にいきましょう!!」
「え? まだあるんですか!?」
「あるんでーす!!」
「「「あるんかーい!!」」」
会場からのツッコミも最高潮だ。
まだまだ、これだけで終わるのはもったいないからね!!
「次は――こちらは女性向けです!
女性の方に質問です! ガチャってどう思いますかー!?」
「え……。お金の無駄遣い、じゃない?」
「まぁ、アクセサリをもらったけど……ねぇ?」
「その分、食費を入れて欲しいよっ!!」
……案外、厳しい評価が飛び出してくる。
やっぱり『ガチャの殿堂』は冒険者向け、男性向けだからね。
「そこで今回、収穫祭の限定ガチャをご用意しました!!
当たるものは王都で大人気だった私の作、日用品や美容品などを取り揃えています!
王族ご用達! 普通に買ったら金貨が必要になるものですが、今回は何と銀貨3枚でご提供!!」
「「「っ!!!!」」」
「しかも最低、銀貨3枚程度の日用品が当たります!
石鹸や洗剤など、そこら辺では手に入らないものが盛りだくさん!
お財布に余裕のある方は、是非ご検討くださーい♪」
「か、考えとくわ……!!」
「今年は収入も多かったし……」
「ま、まぁ見てからかしら」
……やはり少々、お財布の紐は固いようだ。
しかし今回は、それを緩めるための施策。できるだけガチャに理解を示してもらうのが本題だ。
そうしたら、まわりの人のガチャを咎めにくくなるしね。
ふふふ、私は悪の運営なのだ。
「何と三つもイベントがあるとは……。
アイナさん、さすがにもうありませんよね!?」
「それが何と、あるんです!!
この街の近くに出来た『水の迷宮』! ここの1階がとっても初心者に優しいんです!
なので、今回は特別に『水の迷宮』のツアーをご用意しました!!
さらに今回、宝箱の出現率がかなり上がっています!!」
「え!? 宝箱が!?」
「ま、まじで!?」
「それ、どうやるのーっ!?」
「私は魔女ですからね!
そんなことはちょちょいのちょいです!!」
……実はミラにお願いしただけなんだけどね。
ただその分、力を使う必要があるらしいから、しばらくは水の供給量が落ちるとのことだった。
でもそれは一時的な話だし、今回は問題無しとして進めることにしたのだ。
「ちなみに『水の迷宮』の前では、初心者用の冒険セットも販売いたします!
お子様も十分に楽しめる内容ですので、親子連れでのご参加、お待ちしております!」
「迷宮で宝石でもゲットして、売って、ガチャをまわすっていうのも良いかもしれませんね。
お父さんとお子さんで稼いで、お母さんが限定ガチャをまわす……とか!」
「おお、それは素晴らしい!
是非とも、一家揃ってお楽しみください!
ご家族様がいらっしゃらない場合は、お土産にご検討してみてはいかがでしょうか!!」
「いやー、それにしてもポエールさん。
イベントが盛りだくさんですね!!」
「はい、何と四つも!
アイナさん、さすがにもうありませんよね!!」
「無いですが、ここで良いお知らせがあります!」
「おお!? それは一体!?」
「明日からの二日間、広場や空き地でパフォーマンスのスペースをご用意いたします!
何か芸をお持ちの方は、そこで披露してください!!」
「アイナさんも私も痛感しているところではありますが、今日はとても混み合っておりました!
しかしその反面、そんな場所で何かをしたくなった方も多いのではないでしょうか!
簡単な道具はレンタルでご用意しましたので、ご希望の方はポエール商会までご相談ください!!」
「お金は取るんですね!」
「はい、警備代がかさんでいますから!!」
「ポエールさん、裏事情を言わないでくださーいっ!!」
「わははっ」
「ぬははっ」
「どははっ」
「それでは明日のイベント告知は、以上になります!
たくさんありますので、たくさん楽しんでくださいね♪
ビンゴ大会の予選は明後日も行いますので、上手く時間を調整してください!!」
「詳しいタイムススケジュールは各所に掲示いたしますので、そちらをご確認ください!」
「はい、ポエールさん!
それでは今日のイベントは終了――」
「……って、アイナさん! まだ告知しかしてませんよ!!」
「あ! そうでした!!」
「びっくりしたーっ!!」
「終わりかと思った……!!」
「メインイベントとはーっ!?」
時間にすれば、始まってからまだ20分しか経っていない。
このまま終わったら、さすがに暴動が起きてしまいそうだ。
「それでは改めて! ここからは普通の収穫祭に戻りまーす!
やっぱり歌と踊りは欠かせませんからね!!」
「そうですね!
収穫の喜びを全身で楽しむ! これに尽きますからね!!」
「ところでポエールさん、今日は何と、王都でも有名な美声の持ち主が来ているそうですよ!!」
「おお!?」
「おお!!」
「おお!?」
「まさか、歌姫ソフィアが!?」
「それではご紹介します!!
王都が誇る美声――ポエール・ミラ・ラシャスさんです!!」
「どうも、ご紹介に預かりましたポエールです!!」
「「「ズコーッ!?」」」
「「「お前かーいっ!!」」」
「「「騙されたーっ!!」」」
会場からは総ツッコミである。
……しかしこのあと、観客たちは知ることになるのだ。
ポエールさんの魅惑的な歌声を……。
いや、私も初めて聴いたときは正直驚いたんだけどね?
だって、本気で歌手顔負けの歌声なんだもん。
ちなみに本命としては、先ほど聞こえてきた歌姫のソフィアさんも招待していたりする。
だからポエールさんが場を一旦濁してくれて、進行的には正直助かったかな!




