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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
510/911

510.収穫祭①

 ――待ちに待った収穫祭!!


 今日から三日間、海洋都市マーメイドサイドでは収穫祭が行われる。

 周辺の村を巻き込んで、この一帯の中心地として大いに盛り上がるのだ。


 私はお昼過ぎ、仲間たちと一緒に街へ繰り出してみることにした。

 街のあちこちでは人が溢れ返り、賑やかな声と一緒に、どこからともなく明るい曲が流れてくる。

 ポエール商会が呼んだ奏者や踊り子さんが、既に観衆を賑わわせているようだ。



「祭りというのは、うきうきしてくるのう♪」


「はわわ……」


 上機嫌なグリゼルダに対して、早くも修羅場なセミラミスさん。

 人混みというだけで、やはり過剰反応をしてしまうようだ。


「人が多いから、みんな気を付けてね♪」


 私の後ろからは、ジェラードの声が聞こえてくる。

 ルークは自警団の仕事で街の警戒に当たっているから、今は男性は一人だけ。

 酔っ払いもちらほら見えるし、もし何かあったらジェラードに任せることにしよう。

 ……自分でも何とかできるとは思うんだけど、私の『何とか』は威力が高すぎるからね……。


 ちなみにエミリアさんも、今は孤児院で出している露店で仕事をしているはずだ。

 14時頃には手が空くそうだから、そのときに合流する予定だけど――

 ……さて、それまでは何をしようかな。



「アイナちゃん、今日は何がオススメなの?」


「変わったものは今晩からなので、今はとりあえず普通に収穫祭……って感じですね。

 歌と踊り、露店で買い食い……。あとは『ガチャの殿堂』で、新しい賞品の補充がありますよ!」


「ガチャ……かぁ。

 この収穫祭で、初めて知る人もいるだろうね。売れるかな?」


「爆売れ間違い無しですね。

 やっぱりガチャは、みんなの浪漫ですから」


「うーん。僕はちょっと、いまいちよく分からないだよね……。

 アイナちゃんの住んでた国だと、ガチャってそんな感じだったんだ?」


「やっぱり人は選びますけどね? でも、宣伝も大々的にやってましたよ。

 儲かるところは儲かる、ダメなところはダメ……みたいな感じでしたけど」


 ……実際のところ、ソシャゲの運営が上手くいっているのなんて、数%くらいだと聞いたことがある。

 ガチャで悪どく稼いでいるように見えても、赤字のところが大半なのだ。

 そう言った意味だと、私の『ガチャの殿堂』は今のところ大成功しているよね。



「――さて、それではアイナよ。

 まずはどうするかの? 踊るか?」


「わーい、踊るの!」


 グリゼルダの言葉に、リリーが突然踊り始めた。

 ……空中で。



「わぁ……。すごーい、あの子!」

「空を飛ぶ魔法か……。話には聞いたことがあるけど……」

「あれって、リリーちゃんじゃない? わー、可愛い~♪」



 しかし案外、それを目撃した人も呑気なものだ。

 さすが『魔女の試練』を通り抜けてきただけはあるか。


 ……でも、それも今後は無くなってしまうんだよなぁ。

 今更ながらに、ちょっと心配になってきてしまった……。


「あはは、リリーは踊りも上手だね!

 私は……まぁ、やめとくけど」


「なんじゃと!? アイナも踊るんじゃぞ!!」


「えぇ……、何でですか。

 それじゃ、セミラミスさんが踊るなら踊ります」


「その条件はなんじゃいな」


「はわわ……」


 特に意味なんて無いけど、『踊れ』と言われて踊るほど、私は踊りに自信が無い。

 みんなが踊っている中で、周りに合わせて踊るくらいが精一杯だ。


「さて、ひとまずはお昼時ですし、適当に露店でも見ていきませんか?」


「ん? エミリアと合流する前に、食ってしまっても良いのか?」


「良いんじゃないですか?

 エミリアさん、私たちが食べ終わったあとも、ずっと食べ続けていそうだし」


「それもそうじゃな」


「即答ですね」


 さすがエミリアさん。

 ここにいなくても、さすがエミリアさん。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 適当に何軒かの露店に入って、めぼしいものを買っていく。

 近くのテーブルに集まって、みんなでそれをつつくというのも楽しいものだ。


「――たこ焼きは、やはり美味いのう♪」


「これも結構、広まってきましたよね。

 ちょっとずつバリエーションも増えてきましたし」


 元の世界でもたこ焼きはいろいろな種類があったけど、こっちの世界でもいろいろな種類が生まれ始めている。

 結構、似たような感じになっちゃってるけどね。


「おばちゃん、もうお酒を飲んでるの?」


「祭りには酒じゃよ!

 リリーも飲むかえ?」


「ダメです!!」


 ちょっとちょっと、何で子供にお酒を勧めているのかな?

 グリゼルダは腐っても光竜王様なんだから、そこら辺はしっかりルールを守って頂きたいものだ。



 食べたり歩いたりを繰り返しながら露店をまわっていると、次第に子供の声が聞こえてきた。

 たくさんの、そして賑やかな、そんな子供たちの声。


「いらっしゃいませー!

 美味しいよー! どうぞ、いらっしゃーい!」


 その声に釣られてその露店を覘いてみれば、、私の知っている子供の顔があった。

 エミリアさんが通っている孤児院の、賑やかなリーダー格の男の子だ。


「――あ! アイナだ!!」


「うぇっ!? 見つかった!!」


「みんなー、アイナが来たぞー!!

 集まれ――……って、痛っ!!?」


 危うく私のもとに子供たちが集まろうとしたとき、男の子の頭がポカリと叩かれた。


「こらこらー。

 アイナさんをいじめちゃダメですよー。私が許しませんよー」


「ひ、ひぃ!? エミリアさん、ごめんなさいっ!!」


 静かな雰囲気を醸し出すエミリアさんを前に、途端に謝り始める男の子。

 ……それにしてもこの落差、何ですかね……。


「アイナさん、いらっしゃいませ!

 ここではアイナさんに教えてもらった、焼きそばを売ってるんですよー!

 野菜もたくさん――は入ってませんけど、ちょっとは入ってますから!!」


「そうだそうだ! 俺たちが一生懸命育てたんだぞ! ほら、買っていけよーっ!!」


「アイナさんはお客様ですよ!!」


「ひ、ひぃっ!?

 あの、えっと……いらっしゃいませ!!?」


 エミリアさんの言葉に怯える男の子。

 やっぱりこの落差は――……まぁ良いとして。ここの孤児院の子供たちって、私には変にちょっかいを出してくるから、何だか苦手なんだよなぁ……。

 子供は好きだし、孤児院は立派な場所だし、それは分かるんだけどね。


「えっと……。それじゃ、人数分くださいな。

 エミリアさんはそろそろ、おしまいの時間ですか?」


「そうですね! それではキリも良いので、私はこの辺にさせてもらいましょう!」


「エミリアさんの分、三人前追加でお願いしまーす」


「毎度あり!」


「わーい♪ 確かに三人前くらいがちょうど良さそうです!

 さすがアイナさん!!」


 ……何が『さすが』なのかと言えば、エミリアさんの腹の具合を見極めるところだ。

 ふふふ、これは誰にも負けないぞ。



「――はい、お釣り。

 アイナ、エミリアさんのこと、よろしくなっ」


「ん? よろしくって?」


「食べ過ぎないように、ちゃんと見てろよ!!」


「……エミリアさんが食べ過ぎって、それは無いでしょ」


「それもそっか!」


 男の子の返事に、仲間たちは一様に頷いた。

 みんなの思うところはひとつ。それにしても、心が重なる瞬間というのは気持ちが良いものだ。


 そんなことを考えていると、少し離れていたエミリアさんが戻ってきた。

 院長先生に、露店から抜けることを報告してきたらしい。


「――お待たせしました!

 ささ、早く食べましょーっ」


「そうですね。

 あ、あっちのテーブルが空いてますね。あそこに行きましょう」


「はーいっ!」



 ……収穫祭はまだまだ始まったばかり。

 今日の夜には仕事があるけど、それまではとりあえず、私も楽しんでおくことにしようかな。

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