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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
507/911

507.開け放たれて③

「――アイナさん、大変なんですよ!」


 商会の拠点でポエールさんと話し始めた途端、私はそんなことを言われた。

 しかしこんな流れは、それなりによくあることだ。

 現にほら、ポエールさんの表情だって、どこか笑いを堪えている感じだし――



「……良い話でもありましたか?」


「そうですね、嬉しい悲鳴ではあります!

 ただ今回はアイナさんの領分なので、アイナさんには是非、嬉しい悲鳴を上げて頂きたく……!」


 ……え、私?

 正直、ちょっと他人事だったのは否定できなかったりして。


「と言うと、どういったお話でしょうか」


「はい、アイナさんの作った『ガチャの殿堂』の話です。

 用意していた1万個のうち、9000個が排出されましたので、規則に従って一時的に閉鎖させて頂きました」


「え、もうそんなに……?」


 ガチャは1回あたりが金貨3枚だから、9000個では金貨2万7000枚。

 日本円にすると、13億5000万円といったところか。


 これはなかなか良い売上だ。

 ……支出もあるから、まるっと利益にはならないんだけど。


「付きましては、A賞以上の補充をお願いしたいのです。

 予定ではもう少し先だったのですが、収穫祭の期間でもあそこは開いておきたいですから……!」


「確かに……。

 ちなみに、B賞以下の補充は大丈夫ですか?」


「はい、その辺りは私共で確保できますので。

 あとはアイナさんの提唱して頂いた『買い取り制度』も、利用する方が多くて助かりましたね」


 ――買い取り制度。

 ガチャでいろいろと当たるのは良いのだが、自分で扱えないものが出てきても困ってしまう。

 そういったことを踏まえて、同じ施設内に、買い取り用のカウンターも設けていたのだ。


 ガチャで当てた人としては使えないものをすぐに売ることができるし、こちらとしては補充の労力を抑えられる。

 それにガチャでお金が無くなったあとって、少しでも取り戻したくなるものだろうしね。


「A賞以上の武器自体はアドルフさんにお願いしているから――

 ……あとはそうですね、足りなかったら他の鍛冶師さんにお願いするのでも良いですね」


「はい! 『創星剛鍛祭』の準備が終わった鍛冶師もいるようですから、いくつかは大丈夫でしょう」


「では、私はアドルフさんのところに寄って、錬金効果を付けてくることにしましょう。

 ……仕事が増えちゃった」


「申し訳ありません。しかしここが頑張り時ですから!

 限定ガチャの準備は滞りなく終わりましたので、そちらはご安心ください」



「……何だかいろいろあるんだね……」


 私とポエールさんが話している横で、ジェラードがこっそりと呟いた。

 夜は夜でいろいろと企画をやるんだけど、それ以外でもいろいろと準備をしているのだ。


 いわゆる収穫祭――収穫を喜んで、歌って踊って、飲んで食べて。

 これ以外にも、抱き合わせ販売のようにいろいろとマーメイドサイドを売り込むチャンス!!


 ……とは言っても、『創星剛鍛祭』はそもそもアドルフさんの企画なんだけどね。

 他の人だったら、多分こんな名前にはなっていなかっただろうし。



「企画以外でも、ポエールさんが奏者や踊り子さんをたくさん呼んでましたよね。

 収穫祭と言えば、やっぱり歌と踊りなんでしょうか」


 実際、私は収穫祭というものには参加したことがない。

 何となく創作物では知っていたけど、具体的には何をやれば良いのかさっぱりだ。

 そんな中で、ポエールさんは歌と踊りを強く推してきていたのだ。


「それはもちろんですよ!

 私も兄と一緒に、小さい頃に賑やかな収穫祭を見て……それで商人を志したくらいですから!」


「おお、ポエールさんの原点なんですね」


 人が集まって賑やかなだけで、心は躍ってしまうものだ。

 一年の努力と実りを祝うのであれば、やはり『賑やかさ』は絶対に必要そうだね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 引き続きいろいろなことを話していくと、『街の外』の話が出てきた。

 ここでは私の方から、ポエールさんに伝えることがある。



「――そうだ。

 突然で申し訳ないんですけど、そろそろ『魔女の試練』を止めようかと思っているんです」


「え!!?

 …………だ、大丈夫……ですか!!?」


 ポエールさんは驚いた。

 これはそもそも、この街の最初から敷いてきたルールなのだ。

 私も実際、これだけはずっと変えるつもりは無かったんだけど――


「リリー本人が、もう要らないって言ったんです。

 ただ街門から撤去しても、必要なとき、必要な場所ではやろうと思っています」


「ふむ……。

 ……商業的にはネガティブポイントだったので、商人の立場からは賛同できます。

 ただ、街作りを一緒にやってきた仲間としては……うーん、何だかいろいろとショックですね……」


「あはは。私もリリーから言われて、結構ショックでしたよ。

 でも、時間は進むものなんだな……って、考えさせられもしました」


「そうですか……、時間、か……。

 ……リリーちゃんも、優しく育っているようで……ぐすっ」


 私とポエールさんはそれなりに会っているが、その際、一緒に来ているリリーも、同じようにポエールさんとは会っている。

 ずっと一緒だったリリーの立派な言葉に、ポエールさんもきっと感動したのだろう。



「――それで、さっき街門の外を見てきたんですよ。

 そしたら人の数が多くて……今は無理かな、と」


「ああ、外の人数は報告を受けていますね……。

 さすがに全員……というか、1/10程度でも対応し切れませんからね。

 ……少し、宣伝が過ぎましたか……」


 ポエールさんはため息をついた。

 すべての人に対応しきれないところに、やはり思うところがあるのだろう。


「そこでなんですけど、一部の人にだけ『魔女の試練』を免除して、街の中に入ってもらおうと思うんです。

 ちょっと知り合いを、そこに入れて欲しくはあるのですが」


「ほう」


「アイナちゃん、前夜祭にどうかって言ってたよね」


「そうそう。収穫祭が始まる前にひと盛り上がりしてくれたら良いかなって。

 前夜祭っていっても、食べて飲んで、くらいなものですからね」


「それは面白いですね……。

 ではパパッと企画して、奏者や踊り子も追加で派遣することにしましょう」


「え? 人手は大丈夫ですか?

 商会の人たち、みんな忙しそうですけど」


「かなり厳しいのですが、最近は新人も入ったんですよ。

 育成という観点からも新人に任せることになるのですが、それでも問題無いですか?」


「新人君、良いですね!

 これからの商会を担う人も、しっかり育てていかないと」


「ご理解、ありがとうございます。

 それではアイナ様もお忙しいかと思いますので、この件はこちらで取り仕切ってしまいますね」


「はい、お願いします。

 それで、ガルーナ村の人たちは全員入れてもらいたいのですが」


「かしこまりました。ガルーナ村……っと。

 全員……と言いますと、どのくらいの人数ですか?」


「全部で200人くらいの村なので、そこまではいないと思います。

 一部の人はもう、街の中に入っているそうですし」


「ふむ、ふむ。承知いたしました。

 そこら辺も新人にぶん投げてしまいましょう」


「おー、実戦的~……」


「ははは。お褒めの言葉として、頂戴しておきますよ!」


 ポエールさんは明るく笑ってから、近くの職員にすぐ、その指示を出してしまっていた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――それではそろそろ、私たちは失礼しますね」


 話すべきことを話し終えると、私はさっさと退散することにした。

 ポエールさんたちも忙しいし、私も仕事が増えてしまったし、ね。


「はい、それでは諸々、よろしくお願いします。

 あと数日、何とか頑張ってマーメイドサイドを盛り上げていきましょう!!」


「はい! それが終わったらゆっくり――」


「……できると思いますか?」


「え?」


 ポエールさんが、にやりと笑った。


「収穫祭が終わったあと、海を渡ったところのある国から、面会を要請されているのです。

 こちらはこちらで、違った忙しさがまたやってきますよ!!」


「うへ……。

 ついに交易がスタート……みたいな感じですか?

 そうなったら嬉しいんですけど……」


「はい、頑張りましょう♪」



 私の言葉に、ポエールさんは明るく返してくれた。

 しかし今はあれこれ考えている時間では無い。ひたすらに手を動かしている時間なのだ。


 ……さ、お仕事しよ……。

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