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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
504/911

504.水の迷宮⑩

 ――いろいろ聞いてみよう……とは言うものの、さて何から聞くべきか。

 気になることはたくさんあるけど、初めて話すのに、あまり聞き出すような感じになるのは避けたいところだ。



「……さ、最近どう?」



 ――結果、私の口から出てきたのは、会話が困ったときに親が言うような台詞だった。

 この台詞、聞かれる側としては実際に困っちゃうんだよね。

 それは分かる。分かるんだけど――……無理矢理に絞り出すと、やっぱりこんな感じになってしまった。



「はい。お母様から頂いた使命のもと、今のところ上手く対応できていると思いますわ。

 特に水の供給につきましては、良質の水を維持できておりますし――」


「……え?」


「どうかされましたか?」


 ちょっと待って。

 ミラって、リリーより凄く大人っぽい。

 むしろミラの方がお姉ちゃんって感じがするぞ……?



「ミラの言うことはちょっと難しいの」


「そ、そうだね。あはは……」


 確かにリリーにとっては難しいかもしれない。

 しかし大人が相手なら、問題無く普通に伝わるレベルではあるのだ。


「それで、お母様。街の様子はいかがですか?

 私としては頑張っていますので、それなりの評価があれば良いと思っているのですが」


「おかげ様で水の方はとっても助かってるよ。

 水不足は結構先の話だったんだけど、水が潤沢にある分には越したことが無いからね」


「それは良かったです。私も引き続き、頑張ることにいたしますね♪」


「うん、よろしく!

 ……ところでさ。ミラは……寂しかったりする、のかな?

 私もずっとここにいるわけにはいかないから、ちょっと心配で」


「お気遣いありがとうございます。

 私はここから離れられませんが、冒険者の方に大勢来て頂いていますし、寂しいなんてことはありませんわ」


「そう……?

 でも、私も時間をみて、遊びにくるようにするからね」


「私もたくさん来るようにするの!」


「嬉しいですわ。

 お母様もリリーも、ありがとうございます」


「いえいえ」

「なのなの!」



「――ところでさ。

 冒険者を10階から17階に移動させたことがあるって、リリーから聞いたんだけど……」


「ええ。4人パーティのリーダーの方が、お母様のことを強く想っていらっしゃったので……。

 そのときお母様たちは18階を移動中でしたので、17階で再会して頂こうかと思ったんです♪」


 ……例の、紅蓮の月光(クリムゾン・ムーン)の四人が巻き込まれた不思議事件。

 リリーから聞いてはいたけど、本当にミラの思惑があったようだ。


「そうだったんだ……。

 でもさ、冒険者にもそれぞれ力量っていうのがあるから、そういうことをするのは危険だよ?」


「……?

 力の無い者がやられるのは、それは仕方が無いのでは……?」


 私の言葉に、ミラは不思議そうな顔をした。

 いやいや、えっと……あれ?

 そもそもやられたら私と会えなかったりするんだけど、それはそれとして――


「んー……、そうなんだけどね? でも、階を一気に飛ばさせるのは止めて欲しいな。

 そういう話が広まると、『水の迷宮』に来る人も減っちゃうし」


「……なるほど。

 さすがお母様、深い考えでいらっしゃいますのね!」


 ……いやいや?

 あれ……? ミラは優しくて丁寧な常識人かと思っていたけど、やっぱりどこかずれているところがあるみたいだ……。

 今後はちょくちょく会いにきて、しっかり教育をしなければいけないかも……?

 でも基本的なところは優しそうな子だから、価値観的なところだけを教えていけば大丈夫かな。



「――あ、そうだ。

 私には仲間がたくさんいるんだけど、今日は二人だけ来てもらったの。紹介するね」


 そう言ってから、私はルークに挨拶を促した。


「初めまして、ミラちゃん。

 私の名前はルーク。これから、よろしくね」


「初めまして、お兄様。

 お噂はリリーから伺っていますわ。お母様の騎士(ナイト)様なのだとか……」


 そう言いながら、ミラは少しうっとりしたような声を出した。

 む。ちょっとおませさん……?


 ちなみにリリーの呼び方の影響で、呼び方は『お兄様』のようだ。

 ……あれ、そうすると――


「初めまして、ミラちゃん!

 僕の名前はジェラードだよ♪」


「初めまして、色男様」


 ――そうなるよね……っ!!



「ちょ、ちょっと!? その呼び方は――」


 ジェラードが私の方を、悲しそうに振り返った。

 リリーみたいに子供っぽく言われるならまだしも、ミラのしっかりした口調で言われると……ね。


「ミラ? その呼び方はちょっと……、無いかな」


「そうですか? 嘘付きさんにはちょうど良い呼び方だと思いましたが……」


「嘘付き?」


「ふふふ♪ ジェラード様は嘘の多い方のようですから」


 ミラは事も無げに言った。

 そういえばリーダーさんの『私に会いたい』っていう気持ちも知っていたことだし、もしかしてミラって人の心が読める……?

 でも、それより何より――


「人に向かって『嘘付き』なんて言うのは良くないよ!

 ……ミラ、そういうときはどうするのかな」


「う……。

 申し訳ございません。ジェラード様、お許しください」


「ああ、うん。大丈夫だよ!

 ……実際、内緒にしていることもたくさんあるしさ♪」


 ジェラードはミラをフォローするように言った。

 しかし、それはそれでちょっと、どうだろう。


「いやぁ、ジェラードさんも秘密くらいはあるでしょうけど……。

 でも目の前で言われると、ちょっと微妙な感じがしますね……」


「えぇっ、そんなぁ……」


 私の正直な思いに、ジェラードは再び落ち込み始めた。

 いろいろな情報を扱う以上、むしろ内緒にしていることはあった方が良いとは思うんだけど……。


「ま、それは良しとしておきましょう。

 ミラも素直に聞いてくれて、ありがとうね」


「えへへ♪」


 私の言葉に、ミラは素直に喜んでくれた。

 なるほど、価値観は多少ずれているけど、基本的にはやはり素直な子ではあるようだ。


 さて、言うことを言ったあとで、次は――



「……ミラってさ、人の心が読めるの?」


 これだ。この話。

 やっぱりちょっと、気になっちゃうよね。


「はい、少しだけ……ですが。

 強い想いを発している方ほど、簡単に読むことができますわ」


「へぇ、凄いね……」


 凄いけど、ちょっと扱いが難しいかもしれない。

 人は誰だって、自分の心なんて読まれたくは無いのだ。

 あまり言いふらさないように、その内やんわりと伝えようかな。



「ところでミラちゃんって、リリーちゃんみたいにダンジョンからは出てこれないの?」


 話の切れ目のタイミングで、ジェラードが会話に入ってきた。

 依代を介して話をしているくらいだから、ダンジョンからは出てこられなさそうだけど……。


「――ジェラード様、リリーは特別ですからね?」


「え? ……そうなの?」


「リリーは……『疫病の迷宮』は、深淵クラスなのでしょう?

 深淵クラスのダンジョンは概念的な構成が含まれているので、その影響で龍脈から離れることができるのです。

 しかし私は通常クラス。だから龍脈からは離れることができませんし、最下層から動くこともできないのです」


「最下層、かぁ……。

 リリーちゃんの場合は、最下層でアイナちゃんが解放してくれたんだよね?」


「なの!」


 ジェラードの言葉に、リリーが元気良く返事をした。

 それにしても話を完全に信じると、ミラはずっとこのままになるのか……。


「それじゃ、ミラとはずっとこんな感じでしかお話できないんだね……」


「何か問題がありますか?」


「ううん、問題というか……。

 出来れば直接、会ってみたいってのはあるよ。

 私の可愛い子供だもん」


「それでは……リリーのようには無理ですが、私も何か考えておきますね」


「うん、ありがと。でも、無理はしないでね?」


「いえ、時間はたくさんありますから。

 言われてみれば確かに私も、お母様に直接お会いしたくなりました。

 早急に、何らかの方法で解決したいと思います!」


 ……健気なような、強情なような。

 でもこういう子、私は結構好きだな。


「それじゃ、いつか会える日を楽しみにしてるね!」


「はい!」



 ――その後、私たちはひたすら雑談をし続けた。

 小難しいことはもう置いておいて、楽しく時間を過ごすことを心掛けたのだ。


 次に来るのはまた少し先になるから、その分、今のうちにたくさん話しておかないとね。

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