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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
503/911

503.水の迷宮⑨

 次の日、私たちは『水の迷宮』に向かった。


 今回来たのは、私とリリー、ルークとジェラードの4人。

 エミリアさんも来たがっていたけど、今日は久し振りに孤児院の方に行くとのことだった。


 私に錬金術のお店があるように、ルークに自警団があるように、エミリアさんにも活動の場所がある。

 特に子供たちは未来の宝だから、私としても手厚く援助をしていきたいところだ。



 ――というのは置いておいて。

 今は『水の迷宮』である。



「とりあえずは来てみたけど……」


 何となくリリーに向かって話し掛けてみる。


 そもそも『水の迷宮』との対話なんて、リリーがいなければ出来ないのだ。

 最下層まで行けば出来るかもしれないが、さすがにそこまで行くのは難しい。

 ルークやジェラード、グリゼルダみたいな、攻撃力が強い仲間を全員集めていけば、もしかしたら行けるかもしれないけど――


「この前はね、入口のところに立ってたらお話をしてきてくれたの。

 ……少し待てば良いの?」


 リリーがきょとんとした目で私を見てくる。

 いやいや、私に聞かれても、ちょっと困っちゃうなぁ。


「それじゃ、のんびりと待ってみよっか。

 お腹が空いたら露店もあるし」


「かしこまりました」

「じゃ、飲み物でも買ってくるよ♪」

「いろおとこー。私も飲みたいの!」



 しばらくすると、ジェラードが人数分の飲み物を買ってきてくれた。

 受け取って飲んでみると、スポーツドリンクに近い味がする。

 ……何となく、懐かしい感じがするジュースだ。


「今日も平和だねぇ……」


「そうですね」

「だねぇ♪」



 ――平和。


 身近すぎるとまったく気付かず、遠すぎると毎日切望するもの。

 平和っていうだけで、環境としてはとても恵まれているんだよね。

 ……本当、平和を切望していた時代には戻りたくないものだ。


 しばらく『水の迷宮』の横でまったりしていると、これはもうピクニックに来たとしか思えなくなってくる。

 当初の目的が何だったのかも、徐々に忘れてきてしまうような――



「……なの!」


「お?」


 突然のリリーの反応に、私たちの注目が集まった。

 もしかして、『水の迷宮』から話し掛けられたのかな?


「ママ! こんにちはー、って言ってるの!」


「おお、挨拶のできる良い子だ!

 そ、それじゃ……、こんにちはー……?」


「こんにちはー、なの」


 リリーは『水の迷宮』の方向を向いて、そこに誰かがいるような感じで話し掛けた。


「……何だかリリーちゃん、『見えないお友達』と話しているみたいだねぇ」


「あはは。実際に見えませんしね♪」


 ジェラードの言葉に、私は差し障りのない返事をした。

 本来の意味とは違うだろうけど、私たちに見えていないのは確かだからね。



「……ねぇ、ママ。アクアマリンは持ってるの?」


「え?」


 突然の脈絡のない質問に、私は驚いた。


「『水の迷宮』がね、このままだとお(はなし)し難いよねって言ってるの。

 よりしろ? みたいなものがあれば、もっと簡単に話せるって言ってるの」


「アクアマリンで……依代(よりしろ)を?

 んー、ちょっと待ってね」


 私は『創造才覚<錬金術>』を使って、それっぽい何かを探してみた。

 ……すると、使えそうなものをひとつだけ発見することができた。

 よし、早速作ってみようかな……。れんきーんっ


 バチッ



 私の手の中に出来たのは、小さなアクアマリン製の人形だ。

 人形とは言っても、デフォルメ掛かった、三等身くらいの可愛いもの――


 ……そう! 今回は奇跡的に、可愛くできた!!

 シンプルな作りだから、きっとそれが良かったのだろう。

 細かい造形は、私の錬金術は得意じゃないからね。



「とりあえず作ってみたけど、これでどうかな」


「可愛いの! ちょっと聞いてみるの~♪

 『水の迷宮』~。これでどうなの?」


 そう言いながら、リリーは人形を宙に差し出した。

 リリーの目には何がどう映っているのか分からないけど、傍から見ているとやはり不思議な光景だ。

 しかししばらくすると、その人形のまわりにキラキラしたものが集まり始め、次第に人形の中へと吸い込まれていった。



「――ママ、準備が出来たみたいなの!」


「え? 準備?」


 私がオウム返しをしたあと、その人形は浮いて、リリーの手から離れていった。


 人形が浮いてる――

 ……この時点でちょっと不気味……というか、ポルターガイストっぽい現象に見えてしまう……。



「……ぴー……が……お……」


「んん?」


「……っと……しつ……失礼、しま……した……」



 突然聞こえてきた声は、徐々に聞こえやすくなっていく。

 最初は雑音のような感じだったが、次第に女の子の声に変わっていった。


「いえいえ。

 ……えっと、あなたが『水の迷宮』さん?」


「……はい……。

 初めまして、お母様……」


「おか……」


 ……私、まだ未婚なのに。


「アイナちゃん、もう二児の母親なんだねぇ♪」


 そんなことを明るく言うジェラード。

 改めて言われると、何だかちょっとショックだったりするんだけど――

 ……その流れのまま、私はついついジェラードのことを睨み付けてしまったかもしれない。


 でもまぁ、それも今更だ。

 実際に『疫病の迷宮』も『水の迷宮』も私が創り出したのだから、そこは素直に受け止めることにしよう。



「初めまして、私はアイナ。

 あなたのお名前は――……まだ、無いんだよね?」


「……はい。だから、リリーが羨ましくて……」


 ……お。

 リリーのことは呼び捨てなんだ。

 関係としては、姉妹みたいな感じになるのかな?

 そうするとリリーがお姉ちゃんか……。うーん、何だかちょっと、不思議な気分。


「ママー。『水の迷宮』にもお名前を付けてあげて?」


「うん、そうだね。

 『水の迷宮』さん、あなたのことはこれから『ミラ』って呼んでも良いかな」


「ミラ……。

 ……ありがとうございます、それが私の名前――」


 その声と同時に、アクアマリン製の人形は明るく輝き出した。

 これは……喜んでいるのかな? ……きっとそうだよね。


 ちなみに名前の由来は『鏡』の『ミラー』から。

 『水の迷宮』の20階にあった、鏡のような湖面をイメージして付けたものだ。

 それに優しい性格なのであれば、物事にあまり波風を立たせない……とか、その辺りも含めていろいろと。


「ミラ、よろしくなの!」


 リリーもすぐに、新しい名前を使ってくれた。

 なかなか響きも良いんじゃないかな?


「……リリーも、ありがとう。

 改めまして、私は『水の迷宮』ミラです。

 みなさま、今後ともよろしくお願いいたしますわ」



 話していくにつれて依代に順応してきたのか、喋りも流暢になってきた。

 これならスムーズに話が出来そうだ。


 ……それじゃ、いろいろと聞いてみようかな。

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