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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
502/911

502.水の迷宮⑧

 ――自分の家は良いものだ。


 仮に元の世界に戻ってしまったら、家なんていうのはなかなか持てないだろう。

 ここはやっぱり、異世界様々ってやつかな。



「アイナ様、お帰りなさいませ!」


 食堂でまったり過ごしていると、ルークが少し慌てた感じで帰ってきた。

 時間にすればまだ夕方だし、いつもよりも早い気がする。


「ただいまー」


「お兄ちゃん、お帰りなさいなの!」


 私の挨拶に合わせて、リリーも挨拶を続ける。

 ちなみにリリーは今、私の膝の上に乗っている状態だ。ふふふ、可愛いでしょう。


「ご無事で何よりでした。

 リリーちゃんもずっと『水の迷宮』の方に行っていましたし、心配していたんですよ」


「ごめんね、グリゼルダが我儘を言うものだから……。

 でも魔法の方は上達したよ! すぐに見せてあげたいくらい!」


「おお、それは楽しみです!

 ……ところでエミリアさんとセミラミス様は?」


「えっと、ちょっと疲れて寝てる……かな?」


「そうですか。2週間以上、ダンジョンに籠りっきりでしたからね」


 ……ちなみにエミリアさんは食休み、セミラミスさんはコミュニケーションのオーバーヒートで休憩中だ。

 ルークが考えているのとは、休憩の理由がちょっと違うかな。



「ところで私のいない間、ルークの方は何かあった?」


「いえ、特には……。

 引き続き自警団の修練と、体制化に向けての作業を進めていました」


「お疲れ様ー。

 ルークもどんどん、偉くなっていくね」


「そうですね……。

 私としては、ある程度形にしたら他の方に引継ぎを行いたいのですが……」


「んー、そうだねぇ……。

 良さそうな人がいればねぇ……」


 正直言って、ルークが適任すぎるんだけど――

 ……それでも彼の希望は、私の側にいることだ。

 きっと今回の『水の迷宮』にだって、誰よりも一緒に行きたかったはず……。



「――そうそう。ひとつ、良いことがあったんですよ」


 暗くなりそうな話の中、ルークが明るく切り出した。


「ん? なになに? どうしたの?」


「アイナ様が作られた『ガチャの殿堂』があるじゃないですか。

 実はあのあと、私も試しに行ってみたんです」


「おぉ……!」


 『ガチャの殿堂』ができたとき、私たちは全員で遊びに行ってみたものの、ルークはガチャをまわさなかった。

 武器をクジで手に入れるという発想に、少し付いていけなかったようなんだけど――

 ……でも今は、それなりに理解してくれたのかな?


「みなさんがとても楽しそうにやっていましたので……、私も覚悟を決めて、まわしてきました」


「それでそれで? B賞くらいは当たった?」


「それがですね、S賞が当たってしまいまして」


「……っ!

 な、何回やったの?」


 ちなみにS賞は1%の確率だ。

 100回まわしてこの結果なら生暖かい目で見ることも出来るが、しかしこの流れはあれだよね。やっぱり――


「1回だけと決めて、1回目で出ました!!」


 ――ですよねーっ!!

 しれっと幸運をつかむ男、それがルークッ!!


「お、おめでとう……!

 私の知り合いの中で、当たりを引いた唯一の人……。

 ……それで、S賞の何が当たったの?」


「はい、『スピードスター』の魔法が使える剣です。

 どれかと言えば、それが欲しかったので、とても嬉しかったです」


 ……まさかまさかの、0.1%を当ててしまうとは……。

 やっぱりイケメンはやることが違うな!


「んー……。

 でも、ルークはアゼルラディアがあるじゃない?

 その剣はどうするの?」


「ずっと神器を振り回しているわけにもいきませんからね。

 サブウェポンとして使おうかと思っています」


 ……これは贅沢なサブウェポンだ。

 メインの武器にしようと狙っていた人は多いだろうに、まさかその剣がサブで扱われようとは……。


「ま、まぁ実力のある人に渡って良かったよ、うん……。

 ちょっと身近な人すぎるけど……」


「私も驚きました」


 私も驚きだよ!!

 ……でもまぁ、結果的には良かったのかな?

 ここは素直に喜んでおこう……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「アイナちゃーん♪」


 引き続きお喋りをしていると、扉の方から軽妙な声が聞こえてきた。


「あ、ジェラードさん。お久し振りです」


「本当にお久し振り、だよ!

 気が付いたら『水の迷宮』に行ってるんだもん。どこかに行くなら、たまには僕も一緒に連れていってよ!」


「あはは、ごめんなさい。

 ルークも行きたがってますし、今度みんなで行ってみましょうか」


「おお、それは良いね!

 20階に向かったって聞いたけど、どこまで行ったの?」


「予定通り20階まで行って、一通り探索してから戻ってきました。

 ……ああ、そうだ。『水の迷宮』の中で、不思議なことがあったんですよ」


「「不思議なこと?」」


 私の言葉に、ルークとジェラードが同時に反応した。

 そういえばまったりしすぎて、そのことをすっかり忘れてしまっていた。


「帰り道の17階で、知り合いのパーティに会ったんですよ。

 でもその人たち、10階を下りたら17階だったって言ってて……。

 そんな話は初めて聞いたから、ちょっと調べないといけないかなって」


「えぇ? 一気に7階も進んだってこと……? それはかなり怖いねぇ……」


 ダンジョンは基本的に、1階進めば敵もがらっと変わってしまう。

 一気に7階も進んでしまうことがあれば、その変化に対応できない冒険者は大勢出てくるだろう。


「ふむ……。

 自警団の訓練に、少し活用しようと思っていましたが――」


「ママー。私、それ知ってるの」


 ルークの声を遮って、膝に乗っているリリーが私を見上げて言った。


「え? ……何で知ってるの?

 っていうか、どういうこと?」


「あのね、『水の迷宮』はね、優しい子なの」


「……うん? そうだね?」


 確かに『水の迷宮』を創る際、必要となった『宣言』は『優しさと抱擁の宣言』というものだった。

 そこから察するに、きっと優しい性格になってくれたことだろう。


 ……ちなみに素材のひとつの『魔物の魂』は、近くにいたスライムにお願いしていた。

 リリーの成功例を踏まえて、申し訳ないけど手伝ってもらうことにしたのだ。


「それでね、りーだーがママに会いたい、会いたい、って、思っていたんだって。

 だから早く会わせてあげたいって、17階に飛ばしたって言ってたの!」


「へぇ~……。

 ……え?」


「うにゅ?」


 私の反応に、リリーは可愛く反応した。

 ああもう、可愛い――のは置いておいて。


「もしかしてリリーって、『水の迷宮』とお話ができるの?」


「なの!

 ずっと入口のところにいたらね、たまに話し掛けてきてくれたの♪」


「えぇ……。そ、そんなこともできるんだ……。

 ……あ、そうだ。その子、一人で寂しがってなかった?」


 リリーと同じであれば、ダンジョンの奥底で、一人寂しがっているかもしれない。

 ただのスライムとして生きているところを、私の勝手な判断でダンジョンというものに変えてしまったのだ。

 ……もしも手を差し伸べなくてはいけないのなら、私は早く行ってあげないといけない。


「んー、それは無かったの。

 でもね、ママにお願いがあるって言ってたの」


「え? お願い……?」


「お名前が欲しいって言ってたの。

 私の名前、とっても羨ましがってたの♪」


「……なるほど。

 そうだね、それくらいならお安い御用だよ。

 ……そっかぁ、名前……かぁ……」


 ダンジョンに明確に人格が宿るだなんて、正直リリーの場合が特別なのだと思っていた。

 でもやっぱり、ダンジョンっていうのは基本的に同じような存在なんだね。

 ……それなら『水の迷宮』も、私の子供同然か。



「それじゃ、明日は『水の迷宮』に行ってみようか。

 リリーは私の代わりに、お話をお願いできる?」


「お安い御用なの!」


「アイナ様、私もご一緒しましょう。

 明日は休みを取ってきたので、いくらでもお付き合いいたします」


「あ、それなら僕も行くよ!

 ふふふ、楽しみだなっ」


 ……おっと、思いがけず人数が増えてしまった。

 でもせっかくだし、今回はこのメンバーで行動することにしよう。


「ありがとうございます。

 それでは明日、みんなで一緒に行きましょう!」



 ――『水の迷宮』から戻ってきた次の日も、引き続き『水の迷宮』へ。

 予想外の展開だけど、明日はどんな話ができるのかな。

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