501.水の迷宮⑦
「ママっ!!」
私たちが『水の迷宮』から戻ると、その出口ではリリーが待っていた。
リーダーさんから聞いてはいたものの、本当にずっと待っていたのかな。
……何せ、今日この時間に戻るだなんて、そんな確証はまったく無いのだから。
「ただいま、リリー!
ずっと待っててくれたの?」
「なの!」
リリーは元気良く、私にしがみついてきた。
ああもう、可愛いなぁ。この出迎えだけでも、ずっと頑張ってきた甲斐があるというものだ。
「うわぁ……。本当にずっと待ってたんだ……」
私の後ろから、リーダーさんの驚きの声がした。
しかしそれを気に留める様子もなく、リリーは今なお頬擦りをしてくる。
――ぐぅ。
「むぅ……。ママー、お腹が空いたの!」
「え、えぇ? 待ってたのは良いけど、ちゃんと食べてた?」
私の言葉に、リリーは首を横に振った。
余談ではあるが、リリーはお腹はしっかり減るものの、食べなくても死ぬということは無い。
……でも、食べられるのであれば、しっかり食べておいた方が良いよね。
空を見上げれば、時間は昼過ぎというところだ。
天気も良いことだし、ここはしっかり昼食をとることにしよう。
幸い、この辺りには露店がたくさんあるのだから。
「リーダーさんたちは、すぐに街に戻りますか?」
「話を聞いてたら、ちょっとお腹が空いてきちゃったかな……。
なぁ、みんな。一緒に食べていかないか?」
「おっ、賛成だぜ!」
「良いわね!」
「やったー♪」
……どうやら紅蓮の月光の四人も食べていくようだ。
それならリリーとも面識があることだし、一緒に食べていくことにしようかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ダンジョンの中でも思っていましたけど……。
エミリアさんって、たくさん食べる方なんですよね……」
エミリアさんの食べっぷりを眺めながら、メンヒルさんが感心しながら言った。
最近ではエミリアさんも食べる量を隠そうとしないし、私たちにとってはごく有り触れた日常のひとコマになっている。
「えへへ♪」
エミリアさんは肯定するでもなく、否定するでもなく。
目の前の料理を美味しそうに平らげていく。
「……エミリアさんは、アイナさんの親友……みたいな感じですか?」
「え?
うーん、何でしょうね?」
「何って、アイナさん酷いっ!!」
「いやぁ……。仲間だし、親友だとも思っているんですけど……。
ちょっと付き合いが深すぎて、それだけで済むのかなーって……」
「なるほど!」
私のふわっとした答えに、エミリアさんは何だか満足気だった。
「はぁあ~……。何て素敵な関係なんでしょう……」
「メンヒルさんには、そういう方はいないんですか?」
「私は紅蓮の月光のメンバーとずっと一緒にいますから……。
やっぱりマリモちゃんと、一番仲が良いですね」
「ん?
私だって、メンヒルちゃんのことは仲間だとも思っているし、親友だとも思っているよ?」
マリモさんは目の前の串焼きを食べながら、事も無げに言った。
「そ、それならマリモちゃん! お願いがあるんだけど……」
「……私、エミリアさんほどは食べられないよ?」
「えぇー……?」
……?
良くは分からないけど、メンヒルさんとマリモさんの間で、何か話が通じ合っているらしい。
確かにこの言葉数だけでこんなにも伝わるのなら、親友と言っても過言では無いだろう。
……長年連れ添った夫婦のような感じもするけど。
「ママーっ! お代わりを持ってきたのーっ」
「たくさん買えましたぁ……♪」
そうこうしていると、リリーとセミラミスさんが、大きなお皿に大量の料理を乗せて運んできた。
総勢8人で食事をしているから、露店でたくさん買ってきてもらったのだ。
「リリー、ありがとー。
セミラミスさんも、すいません。一緒に食べましょう!」
「えぇー……。わ、私は運ぶ係で大丈夫です……!」
いやいや、セミラミスさん。
あなたはこの場にいたくないだけでしょう。
しっかり話をして、しっかりコミニュケーション能力を磨きましょう。
私は強引にセミラミスさんを座らせて、一緒に食事をすることにした。
いつも通り、はわわっとしていたけど、それもいずれ直っていくことだろう。……多分。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食事も終わってのんびり話をしていると、遠くからリーダーさんに手招きをされた。
用事があるなら普通に話し掛けてくれれば良いのに……?
何か内緒の話でもあるのかな?
私が立ちあがると、リーダーさんは少し離れた岩陰に走っていった。
ふむ、本当に内緒話ということか。
「――呼びました?」
「ああ、うん! ごめんね、ゆっくりしているときに」
「いえ、大丈夫ですけど……」
私とリーダーさんのいる場所は、大きな岩の裏側。
暗くはないが、周りからは見られない、ちょっとしたポイントになっているようだった。
「えーっと……。
……あの、改めてお礼を言いたかったんだ」
「お礼?」
……そう聞いて、何も思い浮かばないほど呆けてはいない。
命を助けたり、食事の準備をしたり、それなりにはしてきたからね。
「うん。
……俺たち四人、命を助けてくれて、本当にありがとうございました!
誰ひとり欠けることなく戻って来れたのは、アイナちゃんのおかげです!」
「いえいえ。本当に偶然なんで、あまり気にしないでください。
これも何かの縁……ってやつですから」
「あそこで助けてもらったのは、偶然とは言え、本当に運が良かった……。
ガチャでは散々な目に遭ったから、それで相殺されたのかな……。いや、それどころじゃ無いんだけど……」
「あ、リーダーさんもガチャをやったんですか? どうでした?」
……まさかリーダーさんまでガチャをやってくれていたとは!
そして気になる、他人のガチャ結果。
他人の不幸は蜜の味――とまでは言わないけど、やはり気になるのが人の性というものだ。
「ははは……。俺たち四人で、一人一回ずつやったんだけど……。
全部D賞だったよ……」
「なむー」
「え?」
「ああ、いえ。私の故郷の、慰め言葉みたいなものです」
「そうなんだ。へぇ、初めて聞いたなぁ」
厳密には全然違うんだけど、ネットの世界ではそんな感じで使われたりもする。
つまりこれは、慰め言葉と言っても差し支えは無いだろう。
「ちなみに私はC賞ひとつ、D賞ふたつ、でしたね。
なかなか良いものは出てくれなくて……」
「お互い損をしたねぇ……。
――それで、話は戻るんだけど……、俺にはお礼であげられるものなんて無いから……これを受け取って欲しいんだ」
そう言いながらリーダーさんが出してきたのは、年代物の指輪だった。
「……これは?」
「うん。俺が17階で拾ったものなんだけど……。
あそこではみんな、宝箱を1つずつ開けていたみたいなんだ。
だからそれぞれ、その1つは自分のものにしようって話になってさ」
「えぇー?
さすがに17階で手に入れたなら、貴重なものかもしれませんよ?」
「ははは。自分と仲間たちの命以上に、貴重なものなんて無いよ」
……確かに。
私だって、エミリアさんやルークの命を助けてもらったら、それこそ全力でお礼をするところだ。
「んー……。
……でもこれ、私がもらって良いんですか?」
「え? もちろんだよ!」
ここ数日を一緒に過ごした感じ、メンヒルさんもマリモさんも、リーダーさんのことが好きっぽいんだよなぁ……。
そんな二人をさて置いて、お礼とは言え、拾いものとは言え、他の女の子に指輪なんて、あげちゃっても良いものなのか……。
……まぁ良いか。
問題が起きるようなら、そのときは返してあげよう。
またきっと、そのうち会うだろうしね。
――って、岩陰から誰かの気配がするぞ……。
嫌な予感。……ここはさっさと切り上げることにしよう。
「……そうですね、それではありがたく頂きます。
もし困ったことがあれば、いつでも気軽に相談してくださいね♪」
「うん、ありがとう!
しばらくはマーメイドサイドにいるから、また会おうね!」
「はい!」
……その後は、みんなで街に向かって、そこで解散。
――はぁ、それにしてもなかなかの長旅だった……。
今日は久し振りに、柔らかいベッドでぐっすり眠りたいところだなぁ……。




