500.水の迷宮⑥
エミリアさんとセミラミスさんの力を借りて、魔物たちは無事に倒すことができた。
多少の追加があったけど、それもばっちり対応済みだ。
今回の戦いを通して、また少しだけ魔法の速さが上がった気がする――
……けど、油断したらまた落ちちゃうんだろうなぁ。
いざというときのためには、やっぱりこの魔法も日々使っていかないとダメそうかな。
紅蓮の月光の四人のもとに戻ると、私たちは再会を喜んだ。
セミラミスさんにも挨拶をしてもらったけど、やっぱり目をぐるぐるにまわし始めてしまう。
挨拶くらいは頑張って欲しかったけど、まだまだ難しいところか……。
「――……ところでみなさん、結構下の階まで来たんですね」
『水の迷宮』は初心者に優しいとは言え、それは大体10階くらいまでの話だ。
つまり17階に来る冒険者だなんて、かなりの実力者のはずなんだけど……この四人って、そんなに強かったっけ?
しかしその答えは、とんでもなく予想外のものだった。
「そうかな? でも10階までは楽だったし、11階もその流れで平気だったよ」
「「「え?」」」
「「「「え?」」」」
リーダーさんの言葉に、私とエミリアさん、セミラミスさんは驚いた。
そして私たちの言葉に、リーダーさんたちは驚いた。
「……???
あの、ここは17階ですよ?」
「「「「え?」」」」
私の言葉に、先ほどと同じく四人は驚いた。
「ちょ、ちょっと待って……?
俺たち、10階から下りて、今ここにいるんだけど……!?
な、なぁ、みんな」
「だよな……?」
「だよね……?」
「ですよね……?」
……その表情からして、どうやら嘘は付いていないようだ。
全員が全員、見るからに驚きの表情を浮かべている。
「私たちは18階から戻って来て、今ここにいるんですよね……。
……うーん。おかしいなぁ……」
「罠だったら、かなり危険ですよね」
「ちゅ、注意喚起しないと……ですね……っ」
「――ま、それはそれとしておきましょう。
ところで、私たちも用事を済ませて戻るところだったんです。良ければ一緒に戻りませんか?」
さすがに全滅をしかけた彼らを置いていくわけにはいかない。
ここで会ったのも何かの縁だし、できれば一緒に戻りたいところだ。
「た、助かるよ!
17階なんて、俺たちにはまだまだ早過ぎる階だし、さ」
……理解が速くて助かる。
ここで変なプライドを出されようものなら、せっかく助けたのが無駄になってしまうかもしれないし、ね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――夜の時間。
ダンジョンの中では時間が分からなくなるから、クロックの魔法には正直助かっている。
体感だけで進めていると、やっぱり歪がどこかに出ちゃうからね。
「みなさんは、お食事はどうしているんですか?」
「え? 携帯食で済ませてるけど……?」
そう言いながら、リーダーさんはごく一般的な携帯食を見せてくれた。
私も何度か食べたことがあるけど、やはり美味しいとは言い難いものだ。
「それなら、夕食はご一緒しませんか?
私はアイテムボックス持ちなので、ダンジョンの中でもいろいろと作っているんですよ」
「す、凄い……!
是非、是非ご一緒させてください……!」
私の言葉に、リーダーさんよりも早くメンヒルさんが返事をくれた。
……それにしてもメンヒルさんって、こんな喋り方だったっけ……。
正直マリモさんと少しごっちゃになっていたところがあったんだけど、これは分かりやすくて覚えやすい。
「それじゃ申し訳ないけど、お世話になろうかな……。
あ、もちろんお金は払うから!」
「お金……は、別に要らないですよ?
値段ばかり気にしていたら、食べてもらいたいものも出せなくなりそうですし」
「え? そんなに良いものばかり食べてるの!?」
「あはは、そういうわけでも無いですけど。
でも値段のことはあまり考えていないので、逆にお金換算されるとつらいんですよー」
私が作るものの中には、品質が高いためにどうしても高価になってしまうものがある。
塩ひとつ取ったって、微妙に高かったりするわけだしね。
「うーん、でもなぁ……」
「それなら食事の準備中、魔物が襲ってこないかを警戒してもらっても良いですか?
あとは夜番とか、少し負担してくれると助かります」
「む、そうだな。
……それくらいが落としどころ……かな?」
私の提案に、リーダーさんは納得してくれた。
「でもリーダー、この階の敵って……俺たちじゃ倒せ無さそうだぞ?」
……今いるのは16階。
まだまだ紅蓮の月光の四人では厳しい階だ。
「敵が出たら、私たちに教えてくれれば対応しますので。
出来るところはお願いしたいですけど、あまり無理はしないでくださいね」
「そ、それくらいが落としどころ……かな?」
リーダーさんは納得してくれた……の、かな?
いや、やっぱり思うところはあるんだろうなぁ……。でも、強さ的には仕方ないよね……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――美味っ!」
「本当だ! お代わり!!」
「ナガラ速すぎぃ!! でも美味しいっ」
「さすがアイナちゃん……。うぅ、お料理まで……」
食事を始めると、四人が感想をそれぞれ言ってくれた。
やはり感想が聞けるのは、料理冥利に尽きるというものだ。
「アイナさんって、昔はこういうことを中心に冒険していたんですよね。
私と、ルークさんって剣士の方と三人で冒険していたときの話なんですけど」
「「「「へーっ」」」」
「あはは。あのときは私、まだ戦う力がありませんでしたからね♪」
エミリアさんの昔話に、思わず懐かしさが込み上げてくる。
戦いで役に立たない分、それ以外のときは頼りになろうとしていたあの頃――
……しかし今では、それなりに強くなってしまった。
まぁ、これからも裏方の仕事で手を抜くつもりは無いけどね。
「はぁ……。アイナちゃんと冒険がしたかったぜ……」
リーダーさんの口から、そんな言葉が漏れて出てきた。
そう言ってくれるのは、個人的にはとても嬉しいことだ。
「ありがとうございます。でも私、今はあまり冒険をしていないんですよ。
今回だってちょっと、無茶振りをされたのがそもそもの始まりでしたし」
「そ、そうだよね……。
アイナちゃん、偉い人だもんね……」
「えぇ……?」
『偉い』というのは、私にはいまいちピンと来なかった。
『偉い』……の、かなぁ……。
「だってアイナさんって、マーメイドサイトを作った人なんでしょ?
錬金術のお店を開くのは待っていたけど、まさか街を開いちゃうなんて――」
「なぁ?」
「なぁ?」
「ですねぇ」
「……う。皆さん、連携が素晴らしいです……。
ああ、そうだ。お店もちゃんと開いたんですよ。今度遊びに来てくださいね」
お店を開いたら教える――
……そんな約束を昔、私はこの四人としていた。
今はポエール商会から斡旋された仕事だけをしているけど、昔の縁があるのであれば、この四人からの仕事を特別に受けてみるのも良いだろう。
本当にただ遊びに来るだけなら、それはそれで問題無いんだけど。
「はいはい! 絶対に行きます!
アイナちゃんのお店、凄く楽しみ! ……いつ頃なら大丈夫ですか!?」
私の言葉に食いついてきたのはメンヒルさんだ。
……この人、テレーゼさんやキャスリーンさんに通じたものがあるかもしれない……。
「そうですね、毎日開けているわけではないので、ポエール商会を通して連絡を頂けますか?
ここから出たら収穫祭があるので、その間は難しいと思いますけど……」
「え? 収穫祭?」
「はい。近くの村を巻き込んで、街で大きなお祭りを開くんです。
露店とかもたくさん出ますし、私もポエール商会と一緒になって、イベントをやる予定なんですよ」
「おー……。
アイナちゃん、やっぱり偉い人じゃん……」
「そうですか? ……うーん?
せっかくですし、みなさんも楽しんでいってくださいね!」
紅蓮の月光の四人がいつまでいるのかは分からないけど、しばらくは滞在してくれるのかな?
それならその間、しっかり楽しんでいってもらいたいものだ。
……まぁ、今はダンジョンから出るのが先決なんだけど。




