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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
497/911

497.水の迷宮③

 ――『水の迷宮』の20階。


 私たちは、ついに目標の階まで辿り着いた。

 そしてその階は、階段を下りてすぐのところに、大きな大きな湖が広がっていた。


 いわゆる地底湖……というやつだろう。

 その水面(みなも)はひたすら(たいら)らに、広く広く広がっていた。



「……うわー、綺麗ですね……」


 私の口から、思わず感嘆の言葉が漏れた。

 仄かに青白く光る壁に囲まれて、ぼんやりとその明るさ映しているのがとても幻想的だった。


「まるで、鏡みたいです……」


「……触るにも、何だか申し訳ない……です……」


 エミリアさんとセミラミスさんも、私と同じ感想のようだ。

 湖に触れた瞬間、水面は波紋で揺れてしまうだろうし……。

 確かに、触れてしまうのも(はばか)られるかな。



 湖に近付いて奥を覘いてみると、深い深い湖の底が見えた。

 綺麗な水だとは思っていたけど、透明度も半端ない。一通り眺めてみるも、何の姿も見えない。

 ……ちなみに、宝箱や建築物が沈んでいるということも無い。ただただ、水があるだけだった。


「うーん……。綺麗なのは良いですけど、何も無いですね。

 もっと浅い階層だったら観光地にできたかもですが……」


「もう、アイナさんってば。

 『水の迷宮』のこと、良いように使い過ぎですよっ!」


 エミリアさんは笑いながら言った。

 確かにこのダンジョンには、すでに水源として活躍してもらっているからね。


「あはは、つい……。

 さて、せっかくここまで来たことですし、この20階までは探索することにしましょうか。

 さすがにキリの良い階だから、何かありそうな気がしますよね」


「そうですね。

 ボスがいてくれたら、グリゼルダ様にも報告がし易くなりますし」


「20階では何もしないで戻ってきました……なんて言ったら、もう一回行ってこい……って、言われそう、ですよね」


 セミラミスさんの言葉に、私たちは笑ってしまった。

 しかしグリゼルダは本気で言いそうだから、やっぱり20階で、分かりやすい成果を上げていきたいところかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そのまま湖に沿って歩いていくと、半周もしたところで、ようやく別の部屋に行けそうな道を見つけた。

 半周っていっても、もう1時間はずっと歩いていたんだけどね。

 ……ちなみにその間、敵が出ることもなく、かつてないほどの平和な時間を過ごすことができていた。


「この道を進んだら、何だか凄いことが待っていそうですけど……」


「凄いこと、上等ですよ!

 さくっと踏破して、さくっと戻りましょう♪」


「エミリアさぁん……。そんなことを言っていると、嫌な予感がしてきますよぉ……」


 自信満々のエミリアさんに対して、自信無さげなセミラミスさん。

 私としては、今ならエミリアさんを推すかな。私たち、良い感じで戦闘をこなすことが出来ているからね。



 それなりに広い道を通り抜けたあと、私たちは湖から離れた場所へとやって来た。

 そしてそこで待っていたのは――


「……湖」


 何と、私たちの前には再び大きな湖が現れたのだ。

 つまり、この階には湖が2つある……ということになる。



「――あれ?

 アイナさん、底の方で何か動きませんでした?」


 ちらちらと中を覘き込みながら、エミリアさんが不安そうに呟いた。

 私も覘いてみるが、中は透明な水で満たされていて――


「……ん? 確かに何か揺らめいたような……。

 あ! あそこに宝箱が落ちていますよ!」


「おー、本当ですね。

 いや、でも私が見たのはそれじゃなくて……」



 ――チャプン



 私たちが話をしていると、不意に湖の表面が揺れた。

 そしてその揺れは徐々に大きな波紋となり、うねりとなっていく……!



 ――ザバアアアァアアンッ!!



「ちょっ!?」

「きゃーっ」

「はわわっ!?」


 激しい音とともに、大量の水飛沫とともに、湖から現れたのは巨大な水の塊――

 ……ではなくて、クラゲ? ……ああ、いや、スライム?


 とっさに鑑定してみると、『ヒュージクリアスライム』……という種類のスライムのようだった。

 その身体はまるで水のように透けており、中には何も見えない。

 本当に水の塊が動いているような……そんな感じだった。



「とりあえず、アルケミカ・クラッグバーストっ!!」


 初撃にして必殺。

 私が力強く魔法を放つと、その直線はヒュージクリアスライムの身体を貫いた。

 ……しかしそのまま、穿たれた傷は何事も無かったように、塞がれていってしまった。


「おぉ……。さすがスライム……」


 スライムの種類によっては、身体の中にある核を壊せば、一撃で倒せることがある。

 しかしこのスライムには、核のようなものは見当たらなかった。


 それに加えて、5メートルはあろうかというこの巨体。

 確実に、私たちとの相性は悪いようだった。



「――さて、どうしましょう……。

 私の攻撃手段だと、もう手が無いんですけど……」


 攻撃手段はいくつかあるけれど、そのすべてがヒュージクリアスライムには効かなさそうだ。

 錬金魔法然り、氷魔法然り、爆弾然り――……いや、爆弾って効くのかな。


「私も残念ながら、攻撃手段はありませんので……」


 エミリアさんの攻撃手段と言えば、今も昔もシルバー・ブレッドだ。

 防御や回復の魔法は増えているのに、攻撃魔法は未だにこれだけ。何か拘りでもあるのかな?



「……と、なると?」


 私とエミリアさんの視線は、自然にセミラミスさんへと注がれた。


「はわわ……。

 ……あの、できればお二人で何とかした方が、その、報告用には良さそうですけど……」


「んー、そうは言いましても……」


 私は目の前のヒュージクリアスライムを改めて眺めた。

 再度鑑定をしてみると、どうやら20階のボスのようだ。

 さすがに目標階のボスをセミラミスさんに倒させてしまえば、クエストとしては失敗のような気もしてくる。


「アイナさん! ここは新しい錬金魔法の登場なのでは!?」


「エミリアさん! 今こそ『神竜の卵』を孵化させるときでは!?」


 お互いが無茶を言い合う。

 ……まぁどちらかが上手くできれば、それはそれでクリアが出来そうなものだけど――


 私たちがうんうんと唸っていると、しばらくしてからセミラミスさんが、おどおどしながら声を掛けてきた。


「せ、せっかくですし……。

 アイナ様、……三番目の魔法、いってみますか……?」


「あるんかーいっ!?」


「す、すいません……っ」


 突然降って湧いた新しい魔法に、私はもう普通にツッコんでしまった。

 ……まずい、私とセミラミスさんの関係が、だんだんそんな感じになってきているぞ……!?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――正直、アイナ様には……まだ、早いと思う魔法なのですが……」


 そう言いながら、セミラミスさんはその魔法の仕組みを、地面にチョークのようなもので書いていった。

 ちなみにこの間、私たちの後ろではエミリアさんがヒュージクリアスライムを止めてくれている。


 ……本当、エミリアさんの防御性能は、格段に上昇しているようだ。

 今はそれに感謝して、さっさと魔法の仕組みを理解してしまうことにしよう。

 しかしそれにしても――


「……確かに難解ですね。

 今使える二つよりも、ずっと手順が多いですし……」


 それに、正直何がどうなってこうなるのか――そのレベルで、ちょっと意味が分からない。

 具体的に、と聞いても、抽象的な答えしか返ってこない状態だ。


「ふえぇ……。

 私も偶然発見したものなので……あまり聞かれると、よく分からないのですが……」


「……それ、暴発の危険は無いんですか?」


「あ……、グリゼルダ様から、何か聞きましたか……?

 この魔法はその方面のものでは無いので、大丈夫……な、はずです……。

 失敗すれば、何も起こらないだけ……ですから」


 基本的には魔法を使うのに失敗すると、何らかの反動や影響が出てしまうものだ。

 それが無いと言うのであれば、ここはもう試してみるべきだろう。


「まぁ、ものは試し……ですよね。

 いつまでもエミリアさんに頑張ってもらうわけにもいきませんし……」


 エミリアさんは防御の壁で、まったりとヒュージクリアスライムと押し合いをしていた。

 ……どうやらエミリアさんが凄いというよりも、ヒュージクリアスライムの攻撃力があまり無いのかな?

 ただ、倒しにくい――という特徴だけが際立ってしまっているようだ。



「それでは急いでお教えしますね……!!」


「お願いします!

 それで、この魔法の名前は?」


「はい、えぇっと……。

 『アルケミカ・スペルビア・カエレスエス・サピエンティア・クォヴァディス』……です!」


「なっが!!?」



 魔法は名前が長い方が、基本的には効果が高い。

 でもこんなに長いのって、私がこの世界に来てから初めて聞くレベルだ。


 ……逆に考えると、ヒュージクリアスライムごときに使って良い魔法……なのかな……!?

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