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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
493/911

493.アルケミカ・ルール②

 本日は晴天なり、本日は晴天なり。


 こんな日は魔法の練習に限る。

 私は浜辺にマトを立てて、そこで魔法の練習をしていた。



「――アルケミカ~……

 クラッグ……バース……、トぉ……っ」


 パシュッ♪


 ガスッ!!



 たどたどしい魔法名のコールに、何だかご機嫌な発動音。

 それとはミスマッチの、魔法の着弾音。



「……まだまだじゃのう……」



 私の様子を眺めながら、グリゼルダが呑気に言った。

 まだ昼前にも関わらず、すでにお酒を煽っている。


 ……どうやら街でいろいろと買い込んできていたようだ。

 最近は私も、街のお酒屋さんにいろいろと卸しているからね。


 ちなみにグリゼルダは、ここには私の護衛のために来ているらしい。

 それならお酒、何で飲んでいるかなぁ……。


 ま、それはそれとして――



「難しいんですよ、この魔法……。

 魔法名だけ言って、パーンって出れば良いのに」


「ふっ、魔法なんてそもそもはそんなものよ。

 詠唱が無い方がおかしいんじゃ」


「むぅ……。グリゼルダはきっと、魔法道具で魔法を覚えるのは嫌いなクチですよね」


「ああ、あれか……。あれは邪道じゃからのう。

 自らが学ぶ機会をみすみす放棄するようなものじゃからな。

 ……ただ、時間に限りのある人間にとっては、有用なものだとは思っておるぞ?」


「あはは……。実際、魔法は理解して覚えた方が、効果は高いですからね……。

 でも私が練習している魔法、まだまだへっぽこなのに、威力だけはめちゃくちゃ強いですよ?」


「そりゃそうじゃろ。

 何だかんだで――結論から言ってしまえば、禁呪の一種が含まれておるからのう」


「え!? もしかして、禍々しい系?」


「違う違う。

 暴発すると危険じゃからな、そう言う意味で禁呪なんじゃよ。

 ただセミラミスから聞いた話によれば、暴発することは……まぁ今の程度では無いそうじゃから、安心するが良いぞ?」


「それ、いつかは暴発の可能性があるってことじゃないですか……。

 私、これから研究しようと思っているのに」


「その頃には、お主ももう少しくらいは理解できているじゃろ。

 それに、その境地に辿り着くまではセミラミスもまだ生きておるじゃろうしな」


「ははは……。そうだと良いんですけどね……」



 ……正直、それには自信が無い。

 『天才の一瞬の閃きは凡人の一生に勝る』という言葉もあるのだ。


 凡人が天才に絶対に勝てない――とは思わないけど、勝敗じゃなくて、最後に辿り着ける場所にはやはり違いがあると思う。

 つまり、難解な問題を時間があれば解けるのかと言えば、私にはその自信が無い……ということだ。



「ま、アイナは実践派じゃからな。

 今は深く考えずに、目の前の魔法だけを修得していけば良いじゃろ。

 ところでもうひとつ、雨を降らせる魔法の方は大丈夫なのか?」


「そっちはそれなりに使えるようになりました。

 やっぱり私、水とか氷の魔法とは相性が良いみたいで」


「相性、か。それもあるからなぁ……。

 妾がそういう加護をくれてやれれば楽なんじゃがな、今は無理だしのう」


「ええ……。グリゼルダって、そんなこともできるんですか……」


「ほれ、あれじゃよ。

 アイナたちにもくれてやったじゃろ? 『神竜の卵』じゃよ」


「……ああ、懐かしいですね」



 『神竜の卵』――

 ……神剣アゼルラディアを作った後、私たちが王都を追われる前。

 そんなタイミングで、かつての光竜王様にもらったレアルスキルだ。


 持ち主の強い思いに反応して、新たなるスキルを入手できる。


 私はユニークスキル『収納スキル拡張』を。

 ルークはレアスキル『光の祝福(状態異常)』を。

 エミリアさんは――そう言えば残念ながら、まだ『神竜の卵』のままだったっけ。



「あれも大量の力が必要になるものじゃからなぁ……」


「でも、何が手に入るかは運じゃないですか?

 それになかなか発動してくれないし……」


 私もルークも、絶体絶命のピンチにようやく発動してくれたのだ。

 最近ではずいぶんと平和になったし、そんな機会もなかなか無さそうだよね……。


「魔法の相性くらいのものだったら、妾が普通に誘導できるぞ?

 ただ……ほれ、特にスキルといった形にはならんのじゃよな」


「……孵化が失敗……、みたいな……?」


「言い方を悪くすればそうじゃの♪」


 ……それは嫌だなぁ。

 今にして思えば、私の『神竜の卵』は最高の形で孵化してくれたと思う。

 いや、正直、本気で。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「アイナさーんっ!!」


「……あ、エミリアさん!」


 引き続き魔法の練習をしていると、エミリアさんが大きなカゴを両手に持って現れた。

 その後ろにはセミラミスさんも付いてきていて、彼女も大きなカゴを持っている。


「二人とも、どうしたんじゃ?」


「もうすぐお昼だなって、昼食をお持ちしました!

 みんなで食べませんか?」


「おお、良いのう♪」


「グリゼルダ、お酒と一緒にツマミも食べてたじゃないですか……」


「それはそれ、これはこれじゃよ。

 ツマミは別腹って言うじゃろ?」


「言いませんね」


「まぁそんなわけでじゃ。

 せっかくのエミリアの厚意、皆で頂くとしよう!」


「スルーしましたね」


 ……まぁ、別に良いんだけど。



「それでですね! 今日持ってきた食事は、セミラミス様にも手伝ってもらったんです!」


「ほう、やるではないか」


「最近、メイドさんたちにいろいろ教わっていらっしゃるんですよ。

 セミラミス様は基本的には筋が良いって、褒められていましたし!」


「……基本的って、どういう意味じゃ?」


「あ……。えっと、たまにパニくると、調味料を大量に入れる……っていうか?」


「はわわ……。ば、ばらさないでくださーい……っ」


「でも今回は大丈夫ですから!

 私もずっと見ていたので、安心してください!」



 エミリアさんは明るくフォローしながら、シートを引いて、昼食の準備をしてくれた。

 ちなみにこのシートも私の特製である。


 耐水性で、さらに丈夫。そして肌触りもなかなかの逸品。

 雑貨屋で売っているから、興味のある人は探して購入して頂きたいところだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――それで、アイナさんの方は順調ですか?」


 サンドイッチを頬張りながら、エミリアさんが聞いてきた。

 私も負けじと頬張りながら答える。


「発動自体はするようになったんですけどー……。

 あとは速さ、次に威力……ですか」


「なるほど、発動さえしてしまえば、あとは努力ですからね」


「今まではいつの間にか使えるようになっていたり、すぐに使えるようになったりとかだったんですけど……。

 本来は魔法って、こういう感じなんですね」


「あはは、難易度が高いものはそうですね。

 ……うーん、それにしても難しそうですね。良い練習方法があれば良いんですけど……」


「ん? あるじゃろ?」


 エミリアさんの疑問に、グリゼルダがすぐに返事をした。


「えぇーっ。あるなら早く、教えてくださいよ……」


「おお、それはすまんかったな。

 それを踏まえて、お主はここで練習をしているのかと思っていたわい」


「ぐふ……。

 そ、それで? 一体、どういう練習なんですか?」


「習うより慣れろ、じゃな!」


「……は?」


「練習はあくまでも練習。実践には遠く及ぶまいて。

 ……ほれ、アイナは実践派じゃろ?」


「んん……?

 そうですね、それじゃそこら辺の森にでも行って魔物か何かを――」


「いやいや、戦いに格好の場があるではないか。

 お主、創ってからずっと放置しておったじゃろ? その間に、冒険者たちが探検しておるそうじゃぞ?」


「……え?

 それって、もしかして……」


「なぁに。深淵クラスでもないし、20階くらいは余裕じゃろ?

 『水の迷宮』に、エミリアでも連れて行ってくるんじゃよ♪」


「えぇ……。さすがに二人だけじゃなぁ……。

 ルークもずっと、忙しそうだし……。グリゼルダも、どうせ来てくれませんよね?」


「頼りになる者がおると、その分緊張感が減るじゃろ?」


「いやいや! 二人だけは危険ですってば!」


「仕方ないのう……。

 それでは、基本的に頼りにはならないが、いざというときには戦力になるかもしれない者の同行を許そう」


「ええ、許すとか許さないとか……。何でそんな話に……。

 それに、その人って誰なんですか……」


「うん? お主の隣におるではないか」



 私の隣?


 私の隣にはエミリアさん。

 ……いやいや、エミリアさんは一緒に行くんでしょう?



「はわわ……」


 私の逆の隣から、頼りにならない声が聞こえてきた。

 ……ああ、確かに基本的には頼りにならなさそうだ。

 しかしいざというときには、戦力になってくれるかもしれない――



「はぁ……」



 とりあえず私はため息をついた。

 いや、セミラミスさんにじゃなくて、グリゼルダに――……でも無いのかな。


 ……何となく、この場の空気に対して、ため息をついてしまった。

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