489.あるリーダーの手記⑩
「おらぁっ!!」
バキンッ!!
「グゴォオオッ!!」
「なんの!!」
――魔物に囲まれて絶体絶命だからと言っても、何もしないわけにはいかない。
命さえ繋げれば、あとは何回だって挑戦できる。
しかしそれが叶わなければ、あと一回だって挑戦することはできない。
「何が何でも生き残るぞ!!」
「おう!」
「うん!」
「はい!」
仲間たちの返事が心強い。
そうだ、俺たちは今まで、いろいろな局面を乗り越えてきたんだ……!!
ドカッ!!
「ぐはっ!?」
「ナガラ! だいじょうぶ――」
「リーダー! うしろ!」
「づぉ!?」
マリモの声に、俺は何とか魔物の攻撃をかわした。
しかしナガラは強い一撃を食らって倒れてしまった……!
「ファイアーボール!!」
「ピィイイィッ!!」
「きゃっ!?」
メンヒルは果敢に魔法で攻撃をするが、あまり上手くいっていない。
どうやらマリモのことを庇っているようで、さらにメンヒル自身も細かい怪我をしているようだった。
そこへ――
「メンヒル! うしろ!!」
「あっ!?
きゃああああああっ!!」
死角を突いて襲ってきた魔物に、一撃でやられてしまった。
いつもならマリモと連携して、あの程度の攻撃を受けるようなことは無いんだが――
「この……! くたばりなさい!
サンダーボルト!!」
「「「ピィイイィイッ!!」」」
ボコボコボコ……
バシャーンッ
「ちょ、ちょっと――
きゃあああああっ!?」
マリモは魔物たちの水魔法に押し潰され、地面に叩きつけられた。
くそ、三人ともダメージがまずいんじゃないか!?
せめて残っている俺が、誰かにポーションを使わなければ――
メリッ……
「――ぐッ!!!?」
突然、俺の腹に重い衝撃が走った。
慌てて目を落とすと、小さな岩の魔物が俺の腹に、食い込むように飛び込んできていた。
……何てこった。こんなに小さな身体なのに、こんなに強い力を持っているだなんて……。
俺の身体から、急速に力が抜ける。
そして、地面に膝をつき、そのまま倒れる。
視界の遠くの方に、メンヒルとマリモの姿が見えた。
二人とも倒れてしまい、そして魔物はそんな二人にじりじりと近付いていく。
――……確か、ダンジョンで死んだ人間は、そのダンジョンに吸収されるんだっけ……?
ダンジョンはその力をもとにして、さらなる人間を呼び込むべく、宝や魔物の準備をする。
……それは知識としては知っていた。
しかし、自分やその仲間がそんな目に遭うだなんて――
……自業自得?
そうかもしれない。でも、ダンジョンには浪漫があるだろう?
それを追い求めて、何が悪い――
「う! おおお!! おおぉおぉぉお――――――ッ!!!!」
「リーダー……」
俺が全力で立ち上がると、誰かの声が聞こえた気がした。
そうだ、俺はリーダーだ。真のリーダーになるべく、俺は立ち続けなければいけない――
「グォオオオォオオォッ!!」
……そうは言っても、俺には力が残されていない。
剣だって、手の届かないところまで弾き飛ばされている。
素手でこんなゴーレムを、どうやって倒せば良いんだよ……。
……いや、そうじゃない。素手でも何でも、最後まで諦めちゃいけないんだ――
そうだ。俺は、負けない……!!
力を込めて、全力のパンチをゴーレムに叩き込む。
拳が壊れてしまうかもしれない。しかし諦めるわけには――
――ドゴォオオォオォオオォンッ!!
「グガアァアッ!!!?」
「……へ?」
俺のパンチが当たる前に、突然、俺と対峙していたゴーレムは頭を吹き飛ばされた。
凄まじい轟音が響いたが、それはゴーレムの頭を吹き飛ばした――……魔法? 弓矢? ……今のは一体、何だったんだろう……。
「――大丈夫ですか?」
再び倒れた俺の元に、女の子の声が聞こえてきた。
周囲の魔物は次々と、どこかから飛んでくる魔法に撃ち落とされていく。
「だ、大丈夫……。でも、力が少し、入らない……かな……」
「もう安心してください。傷、治しちゃいますね。
――アルケミカ・ポーションレイン!」
その声が聞こえた次の瞬間、俺のまわりに優しい雨が降ってきた。
触れるたびに身体が癒えていく、そんな不思議な雨――
「う……お……?」
「あ、私――」
「みんな、大丈夫……?」
仲間たちの声も、遠くから聞こえてくる。
結構距離があるというのに、今の魔法で一気に回復することができたのだろうか。
……凄い魔法だ。
「はわわ……。
アイナ様~っ、こっちも手伝ってくださぁ~いっ……」
どこかから聞こえてくる、頼りない声。
「ごめんなさい、すぐ行きます!
――それじゃ、魔物を倒してきますね。みなさん、まとまっていてください」
……ん? アイナ?
そういえば、確かにこの声――
俺は思い切り上半身を跳ね起こした。
突然の動きに、目の前の懐かしい少女はとても驚いていた。
「あ……、アイナちゃん!!」
「え? ……あれ? リーダーさん?
紅蓮の月光の、リーダーさんですよね?」
「覚えててくれたの!?」
「あはは、奇遇ですね♪
でも再会を喜ぶのはあとにしましょう。今は魔物を倒してしまわないと」
「魔物を、倒すって……!?
アイナちゃん、錬金術師なんだよね!?」
「んー……。
そうなんですけど、私のことは知ってますでしょ?」
「ピィイイィイイィッ!!」
隙を突いて、魔物がアイナちゃんに襲い掛かった。
しかし彼女は動じない。むしろ余裕に微笑みながら――
「私は神器の魔女、アイナ・バートランド・クリスティア。
ただの錬金術師ではないんですよ。
――……アルケミカ・クラッグバースト!」
瞬間、彼女の指先から、凄まじい速度で何かが弾け飛んだ。
そして訳の分からないまま、目の前の魔物は吹き飛ばされて――
……強い。
確かに俺の知っている錬金術師とは、まるで全然違うようだ……。




