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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
488/911

488.あるリーダーの手記⑨

「……参ったな」


 俺の言葉は、誰もいない空間に響き渡った。



 『水の迷宮』に来て、今日で三日目。

 昨日までで10階までを探索し、それなりの成果を得ていた。


 ざっと計算してみて、おおよそ金貨20枚程度の宝石を手に入れることができたのだ。

 それ以外にはポーションなどの消耗品が多かったが、残念ながら持てる量には限界がある。

 大きさと値段を考慮して、持ちきれないものについてはその場で諦めることにしていた。


 そしてついさっき、俺たちは10階の終着点に辿り着いた。

 ……そうそう、10階の開始地点の近くには、階段が無かったんだ。


 このダンジョンは初心者に優しいという触れ込みだったが、さすがにそれは10階までだったのだろう。

 11階への階段を見つけたとき、俺たちは様子見ということで、下りてみることにしたんだ。



「――それが不味かった……」



 ……俺は改めて、周囲を見渡した。

 そこには誰もいなく、水の滴る音、水の流れる音だけが聞こえてくる。


 そう。俺は突然、一人にされてしまったのだ……。


 これもダンジョンの力なのか?

 しかしこんな――罠と言ってしまっても良いのだろうか。こんな罠のことなんて、誰も話していなかったぞ?



 ……しばらく誰かを待ってみるも、ここには誰も来なかった。

 10階に戻る階段は、俺の近くには無い。

 きっと転送系の何かを受けてしまったのだろう……。



「――仕方ない、そろそろ動くか……」


 仲間とはぐれたときは、あまりその場所からは動かない方が良いという。

 しかしそれは、行動が連続している場合の話だ。

 今回の俺のように、突然別の場所に飛ばされてしまった場合は、その限りでは無いだろう。


 ……他のみんなは無事なのか?


 もしかすると俺だけが飛ばされてしまったのかもしれないが、その確証は当然のように無い。

 ああ、心配だ。みんな、どうしているのか――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 しばらく鍾乳洞の中を歩いていくと、宝箱を見つけた。

 敵よりも宝箱を見つけるだなんて、これは運が良い。


 ……ただ、それはここから戻れればの話だ。

 戻れなければ、拾い損で終わってしまう……。


 ――いやいや、こんなところで弱気になってどうする。

 俺は紅蓮の月光(クリムゾン・ムーン)のリーダー、リーダーじゃないか!!



 そんなことを考えながら、宝箱を静かに開けてみる。

 罠は仕掛けられておらず、中には古びた指輪が入っていた。


「指輪……かぁ」


 それは年代物の指輪だった。

 しかしこういう装飾品って、当たり外れが大きいんだよな。


 もう少し洒落(しゃれ)たデザインなら、メンヒルやマリモにあげても良かったかもしれないが……。

 いやいや、それはそれなりに安かったときの話だな。

 ……いや、それはそれであげにくいか……。



 ――メキッ



「ッ!!」


 不意に音のした方を見てみれば、白く大きなゴーレムが立っていた。

 こんな巨体で、いつの間に!?


 しかも10階までに出会った敵よりも、ボスらしきものよりもずっと大きい……!!



「グァアアアアッ!!!!」


「っと、危ねぇ!!」


 ドゴォオンッ!!



 体勢を整えるよりも早く、ゴーレムは巨大な腕で攻撃を繰り出した。

 俺は何とか避けたものの、攻撃の当たった地面を見て、冷や汗をかいてしまった。


 ……地面に、大きな穴が空いてしまっている。

 確かに多少(もろ)くはある地面だが、それにしてもあんな攻撃を食らってしまったらタダでは済まない。


 それに俺は今、一人なんだ。

 仲間がいれば、倒れてしまったあとでも何とかなるだろう。

 しかし誰もいなければ、動けなくなった時点で、気を失った時点で終わってしまうのだ。


「動きは遅そうだし……、ここは逃げるッ!!」



 俺は一目散に逃げだした。

 逃げる? いや、違うな。これは戦術的撤退、と言うんだ。

 これも冒険者としてのスキルだ。何も恥ずかしがることは無いんだぜ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――問題としては、敵が減ってくれないってことか……」


 息を切らせながら、俺は誰にともなく言った。


 逃げるというのは、逃げ切れる相手ならば有効な手段だ。

 しかし追い付かれる可能性があるのであれば、そうとは言い切れない。


 ……残念ながら、今回がそんな状況だった。



 俺の逃げてきた道を、壁からこっそり覗き見る。

 ゴーレムから逃げながら、俺は途中で空飛ぶタツノオトシゴのような魔物に出くわしてしまったのだ。

 それも、10体ほどの大軍だ。


 かろうじて2体は倒したものの、そこから本気で追われるようになってしまった。

 そしていろいろ逃げている中で、最初のゴーレムとまた出くわしてしまうと言う……。


「はぁ、最悪だ……」


 物陰で、息を何とか整える。

 実際に交戦したのはタツノオトシゴの魔物だけだが、あいつらは10階の魔物よりもずっと強かった。

 その10階の魔物だって、『循環の迷宮』の10階の魔物と同じくらいの強さだったんだ。


 ……さすが11階の魔物。

 しかしこのくらいのレベルなら、紅蓮の月光(クリムゾン・ムーン)の4人が揃えば問題無く進めるんじゃないか?



「――とは言え、みんなと合流してからの話か……」


 俺はぼやきながら、引き続き仲間を探すために立ち上がった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――うぉおぉおおおぉおお!!」


 まずい、まずい、まずい!!


 魔物から逃げながら移動をしていたら、さらに魔物を呼び寄せてしまった!!

 そしてさらに逃げるため、全力疾走をしていたら、さらに魔物が近付いてくる!!


 何だこれ、悪循環にもほどがあるぞ!?



 さすがにここで捕まったら、俺はもう終わってしまう。

 誰か助けてくれ――……とは言っても、この階に来てからは誰ともすれ違わない。

 10階までは誰かしらがいたのに、何でここへ来て突然……?



「ピィイイィイイィッ!!」


 ズキンッ!!


「――ッ!?」


 魔物が甲高く叫んだ瞬間、俺の太ももに鋭い傷が撃ち込まれた。

 待て待て!? 何だそれ、真空波か何かか!?


 俺は頭の中で説明を求めたが、その間、力の抜けた脚は俺の身体を支えてくれなかった。


 ズシャッ


 身体に押し付けられた地面が、とても冷たかった。

 それこそ、これからの死を予感させてしまうくらいに――



「く、くそっ!! こんなところで終わっちまうのか……!?」



 俺は絶望した。

 しかし次の瞬間、俺の後ろから、希望の声が聞こえてきた。


「リーダーっ!!」

「おいおい、こんなところにいたのかよ!?」

「探したんですよーっ」



 ――マジか!! 助かった、九死に一生を得るとはこのことだ!!



「みんな! すまん、助けてくれ!!」


「「「えっ」」」


「えっ」



 仲間の言葉に、俺は耳を疑った。

 そしてそのまま仲間の方を振り返ってみれば――



 ……あいつらも、大量の魔物に追い掛けられているようだった……。



「マジか……」



 ……何度見ても、マジだった。


 どうすんだよ、これ…………。

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