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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
487/911

487.あるリーダーの手記⑧

 俺たちは一旦宿屋に泊まって、改めて『水の迷宮』に挑戦することにした。


 時間は早朝。体調も万全。

 今日はがっつり探索することが出来そうだ。



「――あれ? ねぇ、あそこ見て……」


 マリモの指差した方を見てみると、ダンジョンの入口の横で、リリーちゃんが空を見上げながら立っていた。


 周囲の露店は、ほとんどがまだ開いていない中――

 ……もしかして、昨日は戻っていないのか?



「リリーちゃん!」


「あ! おはよーなの!」


 俺の言葉に、リリーちゃんは挨拶を返してくれた。

 そうだな、まずは朝の挨拶だ。


「うん、おはよう!

 ……もしかして、昨日は戻らなかったの?」


「そうなの。でも、まだ予定通りだから、大丈夫なの」


「予定通り? ……ああ、もしかしてアイナちゃんたち、結構奥に行ってるのかな」


「20階を頑張るって言ってたの!」


「は……?」

「え? 20階……?」

「3人組……だったよね……?」

「凄い……」


 一般的に、ダンジョンの20階というのは、熟練の冒険者が行くような場所だ。

 それも人数や物資を十分確保してのところなのに……。


「もしかしたら、簡単なダンジョンなのかも……?」


 マリモの言葉に賛成したいところではあるが、宿屋で軽く情報収集をしたところ、『循環の迷宮』と同じくらいの難易度らしかった。

 公開されている情報の中では、20階が最高到達階であることも聞いていた。

 しかし――


「……話によれば、下に行くこと自体は簡単そうなんだよな。

 行けば分かるって言われたんだけど」


「ふぅん……? どういう意味なんだろう?」


「このダンジョンはね、初心者に優しいって言ってたの。

 だからおにーちゃんとおねーちゃんたちも、楽しんできてくださいなの!」


「え? ……ああ、うん?」


 リリーちゃんの言葉に、俺は何だか可笑(おか)しくなってしまった。

 この子はまるで、このダンジョンを案内する係員のようだ。


「よし、それじゃ行ってみるか!

 リリーちゃん、また今度ね!」


「うん、ママに会ったらよろしくなの♪」



 俺たちはリリーちゃんと笑顔で別れた。

 そうだな、アイナちゃんに会うことができたら、久し振りの再会を喜ぶことにしよう。


 ――って、20階なんて無理だけどな!!!!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 『水の迷宮』に入ると、そこは広い鍾乳洞だった。

 道幅も広く、戦うことも問題なく出来そうだ。


「わぁ……、綺麗……!

 地元の鍾乳洞とは、雲泥の差ですね!」


「そうだな、あそこは狭かったからな……」


 実際、鍾乳洞なんてものは見たことのある方が少ないだろう。

 しかし俺たちの育った村には、小さくて狭い鍾乳洞があったのだ。


 近くの水場を手で触っていたナガラも、しばらくすると上機嫌で戻ってきた。


「涼しいけど、動けば熱くなるしな。

 水も綺麗だから、これは攻略しやすいダンジョンなんじゃないか?」


 水の流れる迷宮と言えば、『循環の迷宮』が思い当たる。

 ただ、あそこは『水』でけでなく『風』も『循環』していたんだよな。

 それはそれで空気が淀まなくて良いのだが、逆にその風が敵にもなったりもするわけで……。


「リリーちゃんも、初心者に優しい……って言ってたからな。

 うん、『循環の迷宮』よりも進みやすそうだ」


「『循環の迷宮』も冒険者で賑わってましたからね。

 ここもいずれ、そうなってしまうのでしょうか……」


「それまでに、俺たちはどんどん攻略してしまおう。

 貴重なものは、先に取ったもの勝ちだし!」


 基本的に、ダンジョンで手に入るアイテムや武器は、無尽蔵で種類も多い。

 しかしそれにもある程度の傾向があるため、やはり早いうちに出した方が高く売ることができるのだ。

 いくら貴重なものでも、2つ目、3つ目となれば、その値段は下がっていくからな。



「……ところでリーダー、あれを見てよ……」


 話の切れ間で、マリモが奥を指差して言った。

 岩で少し見えにくいが、そこには何と――


「……階段?

 え? もう?」


 全員でその場に行ってみると、入って早々にも関わらず、2階への階段を見つけてしまった。

 ダンジョン内の階段なんて、普通はその階の一番奥にあるようなものなのに……。


「こ、これは攻略がしやすそうですね……」


「なるほど……。1階に用の無いやつは、さっさと2階に行けということか……」


 ……これは親切設計だ。

 こんな感じでずっと続いていくなら、アイナちゃんが3人で20階まで行く――という話も、ある程度は信憑性を帯びてくる。

 とは言え、敵の強さは20階相当なんだよな? ……そう考えると、やはり無謀な気もしてくるが……。


「……どうする?

 俺たちも、『循環の迷宮』なら10階まで行ったことがあるし……」


「うーん……。10階までなら、そこまで手に入るものは変わらないんだよなぁ……。

 ひとまずは1階からまわってみよう。敵とアイテムをある程度見定めて、それから検討することにしようか」


「おっけー」

「順当ね」

「分かりました!」



 まずは確実に、着実に。

 せめてこのダンジョンの性質くらいは、体感として持っていなければいけないからな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「リーダー~……。またポーションですよーぅ」


 10個目の宝箱を開けると、メンヒルが駄々をこねるように言ってきた。


 敵は主に、鍾乳洞から生まれたような、小さな空飛ぶ白い岩。

 武器で叩けばあっさりと倒せる上に、数もそんなに多くない。


 逆に、宝箱はたくさん見つけることができた。

 しかし、その中身はポーションのような消耗品がほとんどだった。


「これ……。敵も宝箱の中身も、本当に初心者用だな……」


 ナガラがぼそりと呟いた。

 その意見、俺も同感だ。


 ポーションはそれなりの値段がするものだが、しかし冒険者がダンジョンに行ってまで欲しいものでは無い。

 むしろダンジョンに行くために用意するものなのだ。


 そしてここの敵は、冒険者がわざわざ倒すような強さでも無い。

 それこそ冒険者を夢見る少年少女ですら、簡単に倒せてしまうようなレベルだった。



「……どうする?」


 さすがにこの展開は予想外だ。

 この調子なら、一気に10階まで行っても問題ないんじゃないか?


「『循環の迷宮』よりも簡単なら、15階とか20階とかどうかな?」


「いやいや、それはさすがに端折(はしょ)りすぎでしょ!?

 良いとこ10階、できれば5階くらいだと思うなぁ……」


「それじゃ、ちょこちょこ様子を見ながら――

 ……そうだな、10階あたりを目指そうか」


「ちょこちょこって、どれくらい?」


「敵と何回か戦って、あとは宝箱を少し開けてみて……、くらいかな?」


「ま、それだけやっておけば大丈夫だろ。

 基本的には、同じ階層の魔物は同じくらいの強さだし」


「そうですねー」


 ナガラの言葉に、全員が頷いた。

 それはダンジョンという存在の、共通のルールなのだ。



 ――時間は有限だ。

 だからこそ大切に、無駄なところは省いていかないとな。

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