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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
486/911

486.あるリーダーの手記⑦

 俺とナガラはゆっくりと、マリモとメンヒルの方へと歩いて行った。

 すぐ側には『水の迷宮』の入口があったが、それは普通の洞窟のように、岩の合間にぽっかりと穴が空いている感じだった。



「あ、リーダー!

 この子、迷子とかじゃなくて、人を待っているんだって!」


 マリモが安心した顔で俺に言ってきた。

 俺たちには案外無理を言ってくるやつだけど、マリモは子供が好きだからな。

 きっと本気で心配していたんだろう。


「おー、それは良かった。

 えっと、俺の名前はリーダー。君の名前は?」


「私? 私は、リリーなの!」


 その子供は俺に向かって、にっこりと微笑みながら名乗った。

 黒い服に、黒い髪。そして想像通りの、黒い瞳。


 とても澄んだ黒色だ。……美しい。

 いや、子供の瞳は綺麗なものだけど、それ以上に、不思議な魅力を秘めているような気がした。


「リーダー、どうしました?

 ……もしかして、そっちの趣味が……?」


 リリーちゃんの瞳に見惚れていると、メンヒルが心配そうに声を掛けてきた。

 そっちの趣味って――


「いやいや! 何を言ってるんだ!?

 ただリリーちゃんの顔を見ていただけだぞ!?」


「ぁゃしぃ……」


 俺の返事に、メンヒルはなおも怪訝な顔を向けてくる。

 幼女趣味なんて無いぞ? 俺はしっかり、同世代の女の子が好きだからな!



「……それにしてもリリーちゃんって、どこかで聞いた名前じゃないか?」


 『リリー』という名前を、俺たちはどこかで聞いていたような気がした。

 確かこの街に来てからのどこか……。まぁ、どこにでもある名前と言われれば、実際その通りなんだけど。


「この街に入るとき、ポエール商会の方から聞いた名前ですね」


「ああ、あの子の――魔女の仲間だっていう、リリーさんのこと?」


 さすがメンヒルとマリモは、そういうことを忘れない。

 ナガラに至っては、二人の言葉を聞いてからようやく思い出したようだった。



「……でも、こんな小さい子が、そんなわけもないだろう?

 ねぇ、リリーちゃん」


「魔女って、ママのことなの?」


「え? ママ……?

 んん? それ、アイナちゃんのこと……?」


「ママを知ってるの? そうなの、私のママなの!」


「「「「え……」」」」


 明るく可愛く元気良く。

 リリーちゃんのそんな返事を受けて、俺たちは絶句してしまった。


 あれ? ちょっと待って?

 確かに17歳とか18歳で結婚する人なんてたくさんいるけど、この子……5歳くらいに見えるよね?

 とすると、アイナちゃんは12歳くらいで……?

 え? 俺たちと会ったときって、もうこの子を産んでたわけ……?


「……これは予想外の展開だ……。

 ちょっと俺、ショックかも……」


「分かる、分かるぞ、その気持ち……。

 リーダー、今夜は飲み明かそうぜ……」


「金、無いけどな……」


 ナガラの慰めに、俺は財布の中を憂いだ。

 ああ、確かに飲みたい気分だ。それにしても何だろう、この初恋が散ったような虚しい苦みは……。



「と、ところでリリーちゃんはいくつなのかな?」


「いくつ? って?」


 マリモの言葉に、リリーちゃんは不思議そうな顔をした。


「え? 年齢のこと。いつ生まれたのかな?」


「んー。一年前……くらい、なの?」


「「「「え?」」」」


 ……疑問形で答えられても困ってしまう。

 しかしたったの一年で、こんなに大きくなることはあり得ない。

 ただ、一年だというのが本当なら、俺たちがアイナちゃんに会ったときは、まだ産まれていなかったんだよな――


「おぉい、リーダー?

 顔色が悪いぞ? 大丈夫か?」


「あ、ああ……。

 ちょっと混乱してきちゃって……」


「分かる」

「分かる」

「分かります」


 今まさに、俺たちの考えは一致した。

 正直何が何だか分からなくなってきたから、細かいことは一旦スルーしておくことにしよう。



「それで、リリーちゃんは人を待っているんだっけ?

 誰を待ってるのかな?」


「えっとね、ママとおねーちゃんと はわわ なの!」


「……はわわ?」


 よくは分からないが、幼児語の一種だろうか。

 もしかしたらペットみたいなものかもしれない。


 それにしても、何だか家族構成が増えてしまったぞ?

 もしかして、アイナちゃんにはもう一人子供がいる……?


「おねーちゃんって、リリーちゃんのお姉ちゃん……かな?」


「えっとね、おねーちゃんはママの親友なの!!」


「あ、そうなんだ。……なるほど。

 リーダー、多分『おねーちゃん』っていうのは、前に冒険者ギルドで会ったエミリアちゃんじゃない?」


「ああ、そうか。ずっと一緒だったもんな……」


 エミリアという娘とは一度しか会ったことはないが、アイナちゃんはエミリア、ルークという仲間と一緒に指名手配をされていた。

 アイナちゃんが無事だというなら、きっとその二人も無事なのだろう。



「ところでおにーちゃんとおねーちゃんたちは、ママのことを知ってるの?」


「うん? ああ、王都の方でね、2回ほど会ったことがあるんだ。

 そこまで仲が良いってわけでも無かったけど、俺は一緒に旅をしてみたかったな」


「王都、なの? 私もママから話は聞いてるの!

 でも、もっとたくさんお話を聞きたいの!!」


 俺の返事に、リリーちゃんはとても興味を持ってしまったようだ。

 あまり話すことは無いが、それでもアイナちゃんの名声だけは知っている。

 指名手配の(くだり)は子供に話すことでも無いから、そこは避けて話してあげようか。

 しかし――



「……リーダー、今日は1階の様子を見ようとしていたけど、どうする?」


「そうだよな……。うぅーん……」


「俺はこのままでも構わないぞ?

 これも何かの縁、だしな」


「私も私も♪ リリーちゃん、可愛いからもっとお話したい!」


「私も構いませんよ~」


 三人とも、今日の探索は無くても良いらしい。

 俺も同感だ。それなら今日は、もうゆっくりしてしまおう。


 ……金は無いんだがな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 結局日が暮れるまで、俺たちはアイナちゃんのことを、リリーちゃんに話してあげた。

 その間、結構な数の冒険者たちが『水の迷宮』から帰還してきたので、空いているメンバーが情報収集にあたることにしていた。


 何組かのパーティに話を聞かせてもらったところ、それぞれ、なかなか良いものが手に入ったそうだ。

 あとはこの付近の買い取り業者よりも、街に戻って売った方が少しは高いはず……という、ありがたい情報も得ることができた。


 『よし、明日はガチャだな……』


 たまに、そんな声が聞こえてきたのは空耳だろうか。

 臨時収入があれば、俺もまた引きたいものだけど――……ああ、ダメだ、ダメ! 堅実にいかないと!!



「――……さて、もう遅いし、俺たちも戻ろう。

 リリーちゃんは、いつ戻るの?」


「ママたちが戻ってくるまで、待ってるの!」


「えぇ……。アイナちゃん、こんな遅くまで待たせるんだ……」


 リリーちゃんの言葉に、メンヒルが微妙な顔をした。


「違うのー。私が勝手に、待ってるだけなの!」


「でも……、もう遅いよ?」


 露店の大半は店仕舞いをして、すでに残っている人たちも少ない。

 人がいなくなれば、またこの場所も物騒になってしまうだろう。


「ほら、魔物が出たら襲われちゃうよ?

 それに人間だって、良い人ばかりじゃないし……」


「そんなこと、知ってるの!」


 ……それはそれで、ショッキングな答えだ。

 こんな小さな子供が、人間が良い人ばかりじゃないだなんて……。

 いや、このご時世、当たり前の答えか……。


「もー、我儘ばっかり言わないでさぁ……」


 そう言いながら、マリモがリリーちゃんに手を伸ばして触れようとした瞬間――




 ――ゾ……ゾワワワワワワッ!!!!!!!



「ッ!!」

「んがっ!?」

「わ!?」

「ひゃぁ!!?」



 俺の背中に――いや、身体中に、強烈な悪寒が走った。

 この悪寒と、それを生み出したこの気配には記憶がある。……いや、記憶に刻み付けられている。


 海洋都市マーメイドサイドに入るときに受けた『魔女の試練』。

 そこで感じた、強烈な気配と同じ――



「こ、これ……!?

 もしかして、『魔女の試練』って言うのは――」


「そうなの。ママが私のために作ってくれたの。

 ……ママ、心配性だよね?」



 その恐ろしい気配に反して、目の前にいるのは、優しく微笑む小さな子供。



 ――ああ、分かった。この子はただの『子供』では無い。


 アイナちゃんが護っているだなんて、それだけのはずが無い。


 きっとこの子も『仲間』。

 ……いや、違う。それよりも特別な、きっと、とても大切な存在なのだろう……。

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