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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
483/911

483.あるリーダーの手記④

 『施設』の入口にはちょっとした行列が出来ていたが、それとは違う入口から中に入ることができた。

 どうやら行列に並ぶのは、武器やアクセサリを手に入れようとする人たちだけのようだ。



「――何だか、綺麗なところだね」


 建物の中をきょろきょろと眺めながら、マリモが言った。

 天井は高く、内装は白系の色で統一されている。


「確かに、殿堂って感じがするなぁ……」


「リーダー、 ここからはさっきの行列の先頭が見えるみたいですよ。

 見物席って感じなんでしょうか」


 メンヒルが言った通り、俺たちと行列の人たちの間にはちょっとした段差があるものの、行列の先をよく眺めることができた。

 そして行列の先では、この施設の職員と思われる人たちが待ち構えている。


 服装は……商人のような、聖職者のような感じだ。

 ありそうでなかったような、少し不思議な出で立ち……と言うのかな。


 そして、その横には――



「……あの装置ってなんだろ?

 上の部分が透明で、丸い玉がたくさん入っているけど……」


 大きさとしては、全体で2メートルほど。

 上側の三分の一程度が透明な素材――ガラスのようなもので作られており、中が見えるようになっている。

 そしてその中には無数の玉が入っていて、玉の中にはそれぞれ何かが入っていた。


「んー。玉の中には金属のプレートが入ってるみたいだな。

 大きさは、指でつまめるくらいか? 何だ、ありゃ」


 ナガラが目を細めながら、遠くの玉を確認していた。

 俺も目は良い方だと思っていたが、さすがに玉の中までは分からないぞ……?


 まぁそれは置いておいて、あの装置を使って一体何が始まるんだ?

 俺たちは周りの様子を窺いながら、何かが始まるのを静かに待つことにした。



「――お待たせいたしました。

 これより本日の、午前の部を開始させて頂きます!」


「待ってました!」

「今日こそは!」

「金は持ってきたぞ!」

「ワンチャンあるで!」

「目玉は何ですかっ!?」


 職員の声に対して、行列に並んでいた人たちの声も負けていない。

 全員が何か期待に胸を躍らせるような、そんな声を上げているようだった。



「今日の目玉は、名匠アドルフ様による強力な剣となっております。

 錬金効果として、なんと風魔法『スピートスター』使用可能の効果が付いています!!」



「なん……だと……!?」



 職員の説明に呼応する行列の人たちと、それを見守る人たち。

 歓声が上がる中、思わず俺の口からも驚きの言葉が飛び出していた。


 ……風魔法『スピートスター』とは、自身の動く速度を上昇させる魔法だ。


 少しの速さがアドバンテージになる、もしくは命取りになる近接職にとって、それはとても魅力的な魔法。

 しかもあの剣を装備すれば、その魔法が自分で使えることになるんだろう……!?


「リーダー、凄い顔してますよ……」


「本当に、ね。

 あの剣、そんなに欲しいの?」


「そ、そりゃ欲しくないわけないだろ!?

 え、ちょっと待って!? 俺も参加してきて良い!?」


「別に良いけど……。

 でも私たち、これから何をするか全然分かっていないのよ?」


「ぐっ、確かに……!

 ……ちょっと様子を見て、参加できそうなら、してみようかな……」


「まずは理解するところから始めないとなぁ」



「――それでは毎度恒例とはなりますが、公平を期すために、これから行われる『ガチャ』の説明をさせて頂きます。

 ご利用は計画的に。皆さま、無理のない範囲でお楽しみください」


「あ、ちょうど良かったね。

 リーダー、ちゃんと説明を聞いておきましょ」


「おう!」


 その職員の説明は、とてもよく聞こえてきた。

 大声を出しているというよりも、普通の声を大きくしているようだけど――多分あれは、拡声魔法というやつだろう。



「私どもの後ろ、皆様の前にあるこちらの装置ですが、これは錬金術で作られたものになります。

 中には透明な玉が常時1000個入れられており、1個無くなるたびに1個が補充され、それと同時にシャッフルされます」


「はぁ……。

 理屈は分からないけど、何だか無駄に高性能ね……」


 マリモの言葉に、ついつい俺も頷いてしまう。

 錬金術で作られたとは言え、きっとそれ以外の魔法も使われていることだろう。



「参加者の方には、この装置の取っ手をまわして頂きます。

 そうしますと、取っ手の下の穴から玉が1つ出て来ますので、それを私どもにご提示ください。

 中のプレートに記載されている武器やアクセサリと、この場で交換させて頂きます」


 ……すでにその説明は聞いたことがあるのだろう。

 行列の人たちは皆、そわそわと話が終わるのを待っているようだった。



「……なるほど。

 あの装置を使って、くじ引きみたいな感じで何かが手に入るんだな。

 そのうちのひとつが、さっきの『スピードスター』の剣っていうことか……」


「つまり、ギャンブル……なんだな」


「何回もまわすことができれば、当たる確率も上がるだろうけど……。

 一回いくらくらいなんだろう?」


 俺たちの興味は、自然と金額の話に移っていた。

 そんな中、施設の一番奥の方では一枚の大きなタペストリーが広げられた。


 恐らくは当たるもののランクと、その下には金額が書かれているようだが――



 ----------------------------------------

 Sランク 1%

 Aランク 4%

 Bランク 15%

 Cランク 30%

 Dランク 50%

 1回:金貨3枚

 ----------------------------------------



「――うぉっ!?」

「高ぇ!?」

「金貨3枚!?」

「ふえぇ……」


 ……予想外の、思わぬ確率と金額。

 金貨3枚なんて言ったら、頑張れば一か月を暮らせる金額だぞ……!?


「『スピードスター』の剣は、絶対にSランクだよな……。

 当たるのが1%だから……、100回やるとしたら、金貨300枚か……」


「でも……あの装置の中には、玉が1000個入っているんですよね?」


 メンヒルがふと呟いたその台詞に、俺は愕然とした。

 もしかして、Sランクの中にも種類がある……のか……?


 例えば母数を1000個だとすれば、その1%は10個だ。

 10個すべてが『スピードスター』の剣だとすれば、その剣が当たる確率は1%。

 しかし10個のうち1個だけが『スピードスター』の剣だとしたら……?


 ……そう考えると、もしかしたら金貨3000枚掛かる可能性がある……?

 いや、でもそれはあくまでも確率だ。……運が良ければ、1回で当たるかもしれない……。



「……あ、あのさ。モノは相談なんだけど……」


「もしかして、やる気か……?」

「ダメダメ! 私たち、お金が無いんだから!」

「リーダー……。どうか、道を踏み外さないでください……」


 俺の相談は陽の目を見ず、議題に上がることすら許されなかった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――ガチャッ


「おめでとうございます!

 Cランクのグレートランスです!」


 ――ガチャッ


「おめでとうございます!

 Bランクのディザーウィップです!」


 ――ガチャッ


「おめでとうございます!

 Dランクのアイアンソードです!」



 俺たちの目の前で、行列の人たちが次々とガチャに挑戦していった。

 ぱっと見、BランクやCランクの武器もそれなりに良くは見えるんだが、やっぱり目玉がずば抜けているからな。

 比較的良いものが出ても、大体の人は落胆して行列から離れていっているようだった。


 ……ちなみにあの装置、取っ手をまわすと『ガチャッ』って音がするから、そのまま名前も『ガチャ』って言うのかなぁ……。


「うぅーん……。なかなかSランクは出ませんね。

 そりゃそうか、1%ですもんね……」



 ――ガチャッ


「おめでとうございます!!

 Sランクのブリリアントリングです!」


「っ!!!!

 や、やったあああああああああ!!!!」



「おぉ……!?」


「当たったぞ……!? ……当たるんだな……。

 でも、目玉では無いよな? どうせしょぼい効果なんだろ?」



「――こちらは魔女様の特別製!

 なんと錬金効果で『美容効果+2%』が付いております!!

 女性への贈り物にオススメですよ!!」


「や、やった!

 これで嫁さんに顔向けできるッ!!」


 当たった人は大喜びで、全員の祝福を浴び、それに応えていた。

 しかしこれは、見ているだけでこちらも嬉しくなってしまう。

 でも何だか、俺も当たりそうな気がするぞ? だって俺だし。絶対当たるだろ?


 ……いやいや、俺たちには金が無いんだ。

 何を考えている。しっかりしろ、俺。


 我慢、我慢だ。



「――……ねぇ、リーダー」


「うん? どうした?」


「……一人、一回くらいなら……良いんじゃない?」


「は?」


「美容……。美容……。

 リーダー、私、アレ、欲しい……」



 マリモとメンヒルの顔には、やたらと怪しい笑みが浮かんでいた。

 ……あれ? え? 俺たち、お金……無いんじゃなかったっけ……?

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