表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
482/911

482.あるリーダーの手記③

「――おいおい! 何だよこのメシはっ!!」


 宿屋の食堂で、目の前のナガラが大きな声で言った。

 ……分かる、その気持ちは、凄く分かる。


「信じられなーいっ! めっちゃ美味しいじゃんっ!!」


「本当に……。あれ? ここ、普通の食堂ですよね……?」


 ナガラもマリモもメンヒルも、出てきた料理を凄い勢いで食べ続けている。

 かく言う俺も、正直手が止まらない状態だ。


 王都の方ではやたらと高騰している野菜を始め、柔らかくてボリュームのある肉に、美味い酒。

 特に酒は種類が豊富で、聞きなれない銘柄ばかりだ。


「あー、もう。肉が美味ぇ! 魚が美味ぇ! 野菜は……まぁ、美味ぇ!」


「野菜をあまり食べないナガラさんが……野菜を食べてますよ!?」


「この取り合わせが憎い!

 野菜が舌をリセットして、どれだけでも食べられる!!

 それにこれ、塩が上等なもんだぜ? 肉の味が凄い引き出されてる!!」


「いつになく饒舌だな……。

 いや、褒めちぎりたくなるのも分かるが……」


 正直、値段に対して料理の質が高すぎる。

 それに宿屋の部屋も、小さいながら手入れが行き渡っていたし、風呂も全部屋にある。

 王都を含めても、こんな街はあり得ないぞ……?



「そうそう、マリモちゃん。お風呂の石鹸、使ってみました!?」


「ああー、使った使った! 何であんなのが普通に置いてあるの!?

 私、めちゃくちゃ使っちゃったよ!!」


「ですよねー! あれ、買ったら結構な値段するはずですよ!」


「も、持ってっちゃおうか……!?」


「こらこら……。備品は持っていかないようにって、最初に言われただろ……」


 宿屋に入る際、とても丁寧な接客をされたのだが、そのときに注意事項としてひとつ言われたことがあった。

 備品は自由に使っても良いが、持ち出しは厳禁。

 それを破ったら、この街自体に出入りが禁止になる……という、かなり厳しいルールだった。


「……でも、石鹸くらい、良いんじゃね?」


 俺の話を聞いているのかいないのか、ナガラがぶっちゃけてきた。

 実際問題、そういう輩はたくさんいるからな。だからこそ、普通の宿屋では備品はあまり置いていないものなんだが。


「あのなぁ……。

 もしこの街を追放されたら、もうここの飯は食えないぞ……?」


「なっ!!? そ、それはダメだ!

 石鹸、持ち出しダメ! 良くない!!」


「あはは、そうだよね♪ 石鹸1個よりも、私はとりあえず、もっとこの街にいたいかなぁ」


「そうですよ! みんな、盗みはしちゃダメですからね!!」


 ……いつの間にか、俺たちの悪い企みは完全に消え失せていた。

 やっぱり人間、清く正しく生きていかないとな。



 俺たちはその後も、いつになく楽しい時間を過ごすことができた。


 信頼する仲間に美味い酒と飯。

 そして懐に優しい値段設定……!


 この宿屋、只者じゃない。王都にも、こんな宿屋が欲しかったなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――熱っちぃ!!」


 次の日の朝、早くからやっていた露店で、ナガラが何か食べ物を買ってきた。

 あまり熱くは見えなかったが、どうやらそんなことも無いらしい。


「見掛けよりも、熱そうですね……」


 メンヒルはナガラの様子を見ながら、手元の丸い物体を小さな木の棒で(つつ)いていた。

 その丸い物体は茶色く、静かな熱気を放ちながら、上に乗った茶色い何かをゆらゆらと揺らめかせている。


「……不思議な食べ物だね、この『たこ焼き』ってやつ……」


 マリモはそう言ってから、たこ焼きを口に運び、そして目をキラキラさせた。

 ……喋れないのか? ナガラは慌てて水を飲んでいるところだし、きっと熱くて喋れないんだろうな。


「リーダーは食べないんですか? 美味しいですよ!」


 少しずつほじくり返しながら食べるメンヒルが、俺にもたこ焼きを勧めてきた。

 恐る恐る口に入れてみると、確かに熱い――が、とても美味かった。

 屋台で出しているこんな不思議なものまでが美味いだなんて、海洋都市マーメイドサイド、恐るべし……!!


「そういえば、美味しいケーキ屋さんもあるみたいなの!

 あまり大きな街じゃないけど、専門店があるなんて凄いよね!!」


「マリモちゃん、今度行ってみましょう!」


「うん! 楽しみだねっ!!」



「……ところでナガラ、何か良い情報は聞くことができたか?」


 口の熱さをようやく克服したナガラに、気を逸らすように聞いてみる。


「そうだなぁ……。

 この街には冒険者ギルドが無いから、依頼の受発注はポエール商会がやっている……とか?

 そうそう、もうしばらくしたら収穫祭をやるっていう話も聞いてきたぞ」


「収穫祭か……。王都の方では、さっぱりだったからな……」


「今年も作物が良くできなかったからね……。

 それに引き換え、この街の食糧事情ときたら……!」


「日持ちするものなら、王都で売れば大儲けできなくね?

 なんで王都に売りに行かないんだろうな?」


「ナガラさん、この街は王国と反目していますから……」


「あ、そっか。それじゃ売りたくもないわなぁ」


 ……そうそう。この街の一番大きな不安点といえば、王国と反目しているところだ。

 俺たちも鉱山都市ミラエルツから出るときに、街門の守衛からは散々注意されたからな。


 辺境都市クレントスから海洋都市マーメイドサイドに掛けては、今は紛争地域の扱いがされている。

 勝手に行く分は止めはしないが、仮にそこで戦禍に巻き込まれても、王国は何も援助をしてくれない。

 自分で責任を持てるのであれば、勝手に行けば良い……って感じだったかな。


 つまり俺たちも、この街には金儲けに来たとは言え、それなりの覚悟は持ってきているのだ。



「――ところでリーダーは、何か情報は持ってきたんですか?」


「んんー、そうだな。俺の方でも依頼の受発注のことは聞いてきたけど……。

 ああ、そうそう。何だか武器が大量に運び込まれたとか、そんな噂を聞いたぞ」


「武器を大量に? ……もしかして、王国と戦争を始めるつもりなんじゃ……?」


「うーん、どうだろう……。

 戦争と言えば、この街の自警団が凄いらしいぞ。

 自警団を束ねているのは、あの子の仲間の……例の剣士なんだってさ」


「へぇ~……。武器に自警団に、そういうところに力を入れているんだね……。

 何だかちょっと、不安になってきたかも……」


「王国と反目しているわけだからな……。

 ま、俺たちはダンジョンに挑戦しながら、しばらく様子を見ることにしよう」


 いつまでも観光気分でいても仕方がない。これからはしっかりと稼ぐ目処も立ていかないとな。

 何せ、金もそんなに余っているというわけでも無いのだから……。



「ところでそのダンジョン……『水の迷宮』ですけど、どこにあるんですか?」


「えっと、この街を北西に出たところだな。

 ダンジョンから流れる川が、この街の水路に合流しているらしいんだ。だから、その川を辿っていけば良いんだってさ」


「へー、ダンジョンの水を引いているんですか……」


「何だかそのダンジョン、凄く良い場所にできたよな。

 もしかして、それもあの子の仕業だったり?」


「あはは、まさかー」


「だよなー」


 ……さすがに錬金術で神器を作れても、ダンジョンは無理だよな?

 だって大きいし、錬金術師が穴を掘って作るわけにもいかないだろうし……。



 俺たちはそんな話をしながら、街の北西を自然と目指していた。

 もちろん行き先は『水の迷宮』だ。

 まずは1階の様子を見て、傾向が分かったら改めて準備をして、下層を目指す。


 今日は下層を目指す準備はしていないけど、それでも1階あたりは十分まわれるはずだ。



「――ん? 何だ、あれ?」


 ふと、ナガラが遠くを見ながら呟いた。

 同じ方向を見てみれば、確かに人だかりが出来ているようだった。


「そういえば、何かの施設があるんでしたっけ?」


「ああ、そんな話もあったな……」


 その『施設』に近付くに連れて、たまに大きなどよめきが聞こえてきた。

 思いのほか、たくさんの人が集まっているようだ。


「一体何の施設なんだろうな……。

 ちょっとした行列になっているし……」


「ちょっと聞いてみよっか。

 ねぇ、おじさーん♪」


「ん?」


 マリモが最後尾の男性に、気軽に声を掛けていった。

 ここら辺のアクティブな動きは、このパーティでもダントツのナンバー1だろう。


「ここ、何をする場所なの?

 私たち、昨日きたばかりで何も分からないの」


「ああ、そうなんだ? 俺も1か月前から、コレにハマっちまってな!」


「コレ?」


「あ、そうか。初めてだったんだよな。

 ここは魔女様が作った施設なんだが、とても素晴らしい武器やアクセサリが手に入る場所なんだよ」


「「武器!?」」

「「アクセサリ!?」」


 俺とナガラ、マリモとメンヒルの声が被さった。

 そしてその様子を見た男性が、誇らしげに言ってきた。



「――ここはガチャの殿堂。

 魔女様と高名な鍛冶師が作り上げた、運命の出会いの場所なんだ……!」



 ほう、ほう……!

 それは凄い――


 ……って、うん?


 そもそも『ガチャ』って何なんだ……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ