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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
478/911

478.海底神殿④

 ――辺りに高い音が響く。


 そして私の目の前には、白く輝く、ひとつの宝石が浮いていた。


 今何をしているかと言えば、まさに錬金術の最中。

 いつもは一瞬で済ませてしまうが、それでも例外というものが存在する。


 その例外とは、特別な言葉によって力を与える、『宣言』だ。



「平穏と浄化の宣言――……静なる動なる変遷よ。

 積もるべく積もり、下へ下へ、ただひたすらにすべてを生み落とせ。

 永劫たる時間の中、止まるべく止まり、動くべく動き、我が進む先に清浄なる礎を――」



 ……神剣アゼルラディアのときとは違い、この宣言は今知ったばかり。

 むしろ、ウィンドウに出して読んでいる状態だ。


 暗記する時間なんて無かったから仕方ないとはいえ、絵面的には締まらないものがある。

 みんなには、この部屋から出て行ってもらっていて良かったかな……!



 パアアアアンッ!!!!



 『宣言』が終わると、目の前で白く輝いていた宝石は、次第に光を鎮めていった。


 ――問題無く完成。

 この神殿に在った謎の『概念<水>』を使って、『英知接続』で調べて、そして作り上げたアイテム……!!


 ……っと、何だか疲れちゃった。

 ちょっとこのまま、少しだけ座って休ませてもらおっと……。



「アイナ様!? ご無事ですか!?」

「アイナさーんっ!!?」



 地面にへたり込むように座った瞬間、みんなの声が聞こえてきた。

 ……そりゃそうか、結構大きな音が出ちゃったもんね。


 ゆっくり声のする方を振り返ってみると、隣の部屋から全員が、私の元に駆け寄ってきていた。


「あぁー……、ごめんなさい。

 大きな音を立てちゃいましたね」


「音は大丈夫です! それよりも、一体何があったんですか!?」


 ルークが珍しく慌てながら、へたり込んだ私にしゃがんで聞いてきた。


「えーっと……。

 ちょっと錬金術を使ったら、音が出ちゃって」


「は……?」


 私の答えに、ルークは不思議そうな表情を浮かべた。

 それはそうだ。私の錬金術を知っている人なら、そのおかしさにはすぐに気付く。


「アイナさん、いつものバチッって音では無かったですよ?

 ……錬金術、だったんですか」


「ちょっと良いものを作ったので……。

 ほら、アゼルラディアを作ったときも、大きな音がしたじゃないですか?」


「そういえばそうですけど……。あのときは稲妻のような感じの音が響いて――

 ……って、今回は一体何を作ったんですか?」


「ふふふ、これです、これ!」


 私はエミリアさんとルークに、今出来上がったばかりの宝石をひとつ、差し出した。

 それは少し細長い八面体の、澄んだ青色を湛える美しい宝石――



「――これはッ!!?」


「ひゃっ!? ルークさん、どうしたんですか!?

 ……私には、綺麗な宝石にしか見えませんけど……?」


 驚いて声を上げたルークに対して、それを不思議そうに見つめるエミリアさん。


 でも私には理解できる。

 この宝石は、ルークが知っている『あるもの』に酷似しているのだ。



「アイナ様……? それ、その宝石は……」


「あ、セミラミスさんもご存知なんですか?」


「……はい。以前、一度だけ……別のものを、見たことがあります……ので……」


 セミラミスさんの表情は、何だか少し複雑そうだった。

 しかしその表情こそが、ただの宝石では無いことを知っている証明でもあった。



「それで、何なの?

 ただの宝石じゃないことは、雰囲気で分かるけど……」


 マイヤさんの言葉に、他の人魚たちも頷いた。

 ぱっと見では美しい宝石に見えるけど、とても強い存在感を放っているのだ。


「んー。説明するよりも、鑑定しちゃうね。

 それ、かんてーっ」



 ----------------------------------------

 【ダンジョン・コア<水の迷宮>】

 美しい水を湛える清浄の迷宮を作るための核。

 水の加護に溢れている

 ----------------------------------------



 ――そう、今回作ったのは何と『ダンジョン・コア』!!

 グリゼルダが拾った『螺旋の迷宮』の『ダンジョン・コアの欠片』と、この部屋にあった『概念<水>』を使って作ったものだ。


 ルークは以前、『ダンジョン・コア<疫病の迷宮>』を見たことがあるから、今回は驚いてしまった……というわけだ。


「……これが噂の……」


「エミリアさんは初めて見ますよね。

 これをまた素材にして、迷宮を創れる――っていう感じです」


「え……? 『また』って、もしかしてこの間の『疫病の迷宮』って、アイナさんが創ったの……!?」


 私の言葉に、マイヤさんが驚いた。

 神剣アゼルラディアは『世界の声』で名前まで出ちゃったけど、迷宮の方は出なかったからね。

 それに、私としても迷宮の話は積極的に言いふらしてはいないし。


「ふふふ、黙っていてくださいね?」


「神器を作った時点で何でもありだとは思ったけど……。

 はぁ、本当に何でもありなのね……」



「……それにしても、『水の迷宮』ですか。

 『疫病の迷宮』よりも、アイナ様にはお似合いだと思います。

 いえ、リリーちゃんがどうのということでは無くて――」


「あはは。『疫病の迷宮』は実際、危険極まりないからね……。

 まぁ、その力を持ったのがリリーで本当に良かったよ……」


「え!? リリーちゃんって、そうだったの!?」


 私の言葉に、マイヤさんが再び驚いた。

 ……ああ、しまった。こっちはそもそも全然言っていない話だったんだ……。


「こ、これも黙っていてくださいね!?」


「アイナさん、秘密が多過ぎよ……」


 私からぼろぼろ漏れる秘密たちに、マイヤさんも少し呆れ始めていた。

 マイヤさんも完全に仲間のつもりだったから、ここら辺は油断し過ぎてしまっていた。

 ……反省、反省っと……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 『ダンジョン・コア<水の迷宮>』を作ったあとは、『概念<水>』も綺麗に消えてしまっていた。

 ちなみに、時間を持て余したマイヤさんたちが2部屋目を改めて調べてくれていたそうだけど、やっぱり何も見つからなかったようだ。

 ついでに3部屋目も調べたけど、そこでも何も見つからず。


 やることをすべて終えた私たちは、海底神殿から出ることにした。

 途中でタコの亡骸を海に流した以外は、特に何事も無かったかな?

 セミラミスさんがあわあわして、一時大変なことになったけど……まぁ、それは想定内の範囲だということで。



「ママ! お帰りなのーっ!!」

「皆の者、よくぞ戻ったのう」


 私たちが浜辺に戻ると、リリーとグリゼルダが出迎えてくれた。

 空を見れば、すでに陽が暮れかけている。

 案外、かなりの時間が経ってしまっていたようだ。


「……アイナさん、大変です!!」


「え? エミリアさん、どうしましたか?」


「私たち、お昼ご飯を食べていませんよ!!」


 ……あ、確かに。

 皆が皆、昼食のことを忘れてしまっていたようだ。

 いや実際は、言い出せなかっただけかもしれないけど。


「うぅーん。それじゃ夕飯は、お昼の分も食べる感じでがっつりいきますか。

 マイヤさんたちも一緒に、どう?」


「それは嬉しいんだけど、どこで食べるの?

 アイナさんのお屋敷って、陸の方なんでしょ?」


「あー、確かにちょっと遠いですよね……。

 それならこの辺でバーベキューでもしますか」


「それ、良いですね!

 マイヤさんたちも是非是非、ご一緒しましょう!!」


「ん、それならお邪魔するわ。皆も良いかな?」


「「「もちろん!!」」」


 人魚の皆さんも、マイヤさんに激しく同意していた。

 やっぱり皆、お腹減ってたんだね……。



「それでは妾が、屋敷に戻ってその旨を伝えてこよう。

 メイドも全員、呼んだ方が良いかのう?」


「せっかくだし、そうしますか。

 ……警備メンバーにはちょっと申し訳ないけど、あとでお肉の差し入れでもするとしましょう」


「ふふ、それもそうじゃな。

 それではセミラミスも付いて――って、お主はそれどころでは無さそうじゃのう……」


「も、申し訳……ございません……」


 私たちの足元でぐったりしているセミラミスさんを見下ろしながら、グリゼルダが呆れて言った。


「まぁまぁ、今日はいろいろ教えてもらったんです。

 あんまりいじめないでください」


「い、いじめてなんぞおらぬよ!?」

「アイナ様……ありがとう……ございます……」


 ……どっちを信じれば良いんだろう。

 まぁどっちでも良いか。



 それよりも、今日はもう遊んで過ごすことにしよう。

 調べるところは調べたし、作るものは作った。


 これ以上、今日の成果を求めるというのは、とても贅沢というものだよね。

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