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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
477/911

477.海底神殿③

「……このタコ、どうしましょ?」


 ルークが軽く葬り去ったタコを眺めながら、何の気なしに聞いてみる。

 今いるこの部屋は、今まで見てきた神殿の部屋の中でもかなり小さい方だ。

 しかしそれでも、厳かな雰囲気がある。


 そんな場所に、タコの亡骸を置き去りにするのは、いかがなものかと思ってしまったのだ。


「放っておけば?

 もし気になるなら、帰り際に海まで持っていってやれば、魚たちの餌にはなるわよ」


「うーん、そうしよっかな……。

 こんな場所、タコを食べる何かが来そうもないし」


 運ぶだけなら私のアイテムボックスで余裕だから、とりあえずこのタコはさっさとしまって――っと。


「……アイナさんのそれ、あんな大きなものでも入っちゃうのね……。

 何だかずるいわ」


 マイヤさんがしきりに羨ましがるも、それは持っている本人もそう思っているところだ。

 そもそも私のスキルは全部がずるいからね。錬金術スキル然り、鑑定スキル然り、収納スキル然り。



「――さて、改めて部屋を眺めてみると……何も無いですね。

 マイヤさん、この前きたときは調べたの?」


「一通りは、一応ね。でも、何も無かったわよ?」


「それじゃ、さっさと次に行きますか」


 隠し通路とか隠し部屋があったら面白そうだけど、こんな小さな神殿には無い方が多いだろう。

 すでに調査済みということなら、ここは楽をさせてもらおうかな。


「それじゃエミリアさん、次の部屋に行きましょう。

 ルークも一応、一緒に前に来てくれる? さすがにもういないとは思うけど、また何か敵がいたら嫌だし」


「かしこまりました。

 それではアイナ様は一歩お下がりください」


 ルークとエミリアさんを先頭に、その後ろに私とセミラミスさん、さらに後ろは人魚のみなさん。

 そんな隊列で、私たちは神殿の3部屋目に進んでいった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 3部屋目に入ると、奥にはエミリアさんの照明の魔法で照らされた、小さな祭壇がひとつだけ見えた。


 ……他には何も無い。

 敵もいないし、部屋の装飾も慎ましい感じだ。


 全員で祭壇に近付いていくと、その中心、少し浮いたところに青紫色の炎が静かに揺らめいていた。



「――炎?」


「そう見えるでしょう?

 でもこれ、熱くも冷たくもないし、そもそも触れないのよ。

 風を送っても全然動かないし」


「ふむ……」


 ひとまずマイヤさんの言った通りのことをして確かめてみる。

 近くに手をかざしても、熱さや冷たさは伝わってこない。

 適当に紙を出して扇いでも、紙を触れさせても何も起こらない。


 最後の最後、覚悟を決めて手で直接触れても、やっぱり何も起こらなかった。


「……アイナさん、何か分かりました?」


「分かりませんけど、思い出したことがひとつあります」


「思い出したこと?」

「それは一体――」


「……私、鑑定スキルを持ってましたね!」


「ぶはっ」


 私のうっかりに、マイヤさんが噴き出した。

 いやぁ、先にマイヤさんがいろいろ試してくれていたから、すっかり鑑定するのを忘れていたというか……。



「それではアイナ様。

 鑑定をお願いいたします」


 少しお間抜けな空気が流れる中、ルークが真面目な空気に戻してくれた。

 やっぱり真面目な人が要所で発言すると、場がまとまることってあるよね。


「それじゃ早速、かんてーっ」



 ----------------------------------------

 【概念<水>】

 水?

 ----------------------------------------



「――……は?」


 思わぬ鑑定結果に、私は変な声を出してしまった。

 あっさりとした名前に比べて、そもそも説明文が酷い。


「水?」


 鑑定結果のウィンドウを覗きながら、エミリアさんが説明文を読んだ。

 この説明文、見る人がいないからって、適当に作ったような空気すら伝わってくる。

 ちなみに詳しく鑑定してみても、これ以上の情報は何も出てこなかった。


「『水?』……って、何ですかね……?

 鑑定スキルって、たまに全然情報をくれないことがあるんですよねぇ……」


「あ、あの……」


 鑑定結果で盛り上がっているところへ、セミラミスさんが申し訳なさそうに入ってきた。


「もしかして、セミラミスさんは何かご存知なんですか?」


 私の言葉に、その場の全員がセミラミスさんに注目する。


「ひ、はわわ……っ」


 途端に目をぐるぐるさせ始めるセミラミスさん。


 ……ダメだ、これ。

 セミラミスさんはこの人数の視線に耐えられないから――……申し訳ないけど、人魚の10人にはここから離れてもらうことにしよう。


「マイヤさん、あの――」


「察したわ。あとでいろいろ教えてね?

 みんな、私たちは前の部屋に戻りましょ」


「「「はーい」」」


 マイヤさんの言葉に、人魚の全員は渋ることなく、2部屋目に戻っていった。

 何だかんだでこの10人、とってもまとまりが良い。1人でも欠けないように、私も彼女たちをしっかり護っていかないと。



「……セミラミスさん、これくらいの人数なら大丈夫ですか?」


 この場所に残ったのは、私とルーク、エミリアさん。あとはセミラミスさんの合計4人。

 これでダメだとなれば、私と二人で話すしか無くなってしまうけど……。


「だ、大丈夫です……。

 本当に、すいません……」


「いえいえ、気にしないでください。

 それより、何か知っていることがあれば教えてください」


「は、はい……。

 あの、ここで言う『概念』……というのは、この世界……を作るための、法則のことだと思います……」


「法則……?」


「ルールや、定義……といった言葉で置き換えても、良いかもしれません……。

 つまり『本来は見えるはずの無いもの』なんです……」


「んん……? な、なるほど……?」


 ……しかしそう考え始めると、『概念』という概念すら、よく分からなくなってくる。

 私、地頭はそんなに良くないんだよね……。


「セミラミス様。それではこれが見えてしまう……ということは、おかしいことなのでしょうか」


 私が頭をフル回転していると、エミリアさんがそんな質問を投げ掛けていた。

 ……そうそう、そもそも見えないものが見えてる時点でおかしいよね?


「はい、おかしい……と、思います……。

 ただ、無くは無いこと……でも、あります。高位の創造術では、こういったものを扱うと聞いたことがありますので……」


「高位の……創造術?」


「錬金術とは違うんですか?」


「はい……。錬金術は、この世界に存在するものを扱います……。

 でも創造術は、世界を創り出すために使うもの……なんです」


「ふむ……。世界を作り出すというなら、確かにどう作るか、法則が必要ですよね……」


「それこそ、まさに神の御業です……」


 エミリアさんがしみじみと、深く頷きながら言った。


 さすがにこのレベルの話、神様くらいしか扱うことはできないだろう。

 グリゼルダと話している限り、竜王様たちだって、世界自体のことには踏み込んでなさそうだもんね。


「人間が使う錬金術に、神様が使う創造術……。

 うぅーん、私も錬金術でいろいろできますけど、それでも作れないものがやっぱりあるんですね……」


「はい……。

 ですので、この『概念』は、ここに残しておくしか……」


「ちなみに仮に持ち運べたら、世界の法則は乱れちゃったりするんですか?」


「いえ、それは大丈夫です……。

 可視化されている以上、この世界の法則からは切り離されているはず……なので」


「なるほどー……」



 ……その後、アイテムボックスに入れてみようとしたが、当然のようにダメだった。

 やっぱり高位のアイテムや神様レベルのモノって、収納スキルじゃ手に負えないよね。


 しかし試してみたあと、ふと神剣アゼルラディアを作ったときのことを思い出した。

 あのときも『光竜の魂』が持ち帰れなかったから、光竜王様の神殿で作らざるを得なかったんだけど――



「……アイナさん? どうかしましたか?」


「え?」


「アイナ様……。何だか、嬉しそう……ですけど……?」


「……いやいや、まさかー?

 でも、もう少し調べていきたいので、隣の部屋で待っていてくれますか?」


「分かりました!」

「はい……」

「かしこまりました。お気を付けて」


 私の言葉に、三人は2部屋目に戻っていった。



 ――……まずいまずい、ちょっとした『たくらみ』が顔に出てしまっていたようだ。



 ……そう、持ち帰れないものなら、それを素材にして、作ったものを持ち帰ってしまえば良い。

 できるかは分からないけど、何を作れるのかは分からないけど、少しくらいは調べてみるのも良いだろう。


 実は少し前、『概念』の名前を見ていたことがあったのだ。

 そのときは神器を作ったときに使った、『宣言』のような言葉だと思っていたんだけど――


 ……上手くいけば、いろいろな問題が解決できるかもしれない。

 きっとここに、この『概念』があったのも運命だ。

 私は新しい運命を切り開いている最中なのだから、この運命だって、私の後押しをしてくれるものだろう。


 ……まぁ、私の勝手な思い込みなんだけどね。

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