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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
473/911

473.家庭教師さん②

「わぁ……、凄いです……!」


 私がその場で錬金術を披露すると、セミラミスさんが興味深そうに凝視してきた。

 一瞬後、どこからともなくノートを取り出して、一生懸命メモを取り始める。


 メモだなんて、何だか社会に出たばかりの頃を思い出してしまうなぁ。

 とりあえず分からないことは全部、メモに取れって言われていたっけ。


「……さすがにもう慣れちゃいましたけどね。

 油断してると、やっぱり驚かれてしまうんですよ」


「自分が普段やっていることは、いつの間にかそうなってしまうものじゃからな。

 セミラミスが人間に化けることだって、人間から見れば凄いことなんじゃぞ?」


「ふえぇ……。そんなものなんですか……」


「そうですよ! ……ああ、でもしばらくは元の姿に戻らないでくださいね。

 セミラミスさんのあの姿は、『突然現れて暴れた謎のドラゴン』……って話になっているので」


「ひっ……。もしバレたら、私、殺されちゃいますか……?」


「いや……それは無いんじゃないですか?

 むしろ普通に戦ってもかなり強そうでしたし……」


「この自信の無さがなければのう……。

 昔から人間と付き合おうとせんから、いつまで経ってもこんな調子なんじゃよ」


「そうなんですか……。

 ……そういえばグリゼルダとセミラミスさんって、昔からの知り合いなんです?」


「うむ。妾が300年も封じられておったから、会うのは久し振りじゃったがな。

 予想通りというか想像通りというか、昔暮らしていた場所にそのまま住んでおったわい」


「す、すいません……。目立ちたくなかったもので……」


 この様子だと多分、誰ともずっと会っていなかったんだよね?

 ……私だったらさすがに、300年だなんて無理かなぁ……。



「――あ、今作ったお酒はグリゼルダにあげますね。

 このまま一通り、教わったものは全部作ってしまいましょう」


「おお、それは良いのう♪

 せっかくじゃし、ツマミを用意してもらっても良いかの?」


「えー……。

 食事も終わったばかりなんですから、メイドさんの仕事を増やさないでくださいよ」


「アイナが作っても良いんじゃぞ?」


「簡単なものしかできませんよ……?」


 バチッ


「おお、これは香ばしい!」


「チーズを焼いただけですけどね」


 作った焼きチーズをそのまま渡すと、グリゼルダは早速お酒を飲み始めた。

 見ていて気持ちの良い飲みっぷりではある。

 ……ただ、光竜王様の威厳などは、もはやどこからも感じられない。



「あ、あの……。アイナ様?

 今のチーズも、もしかして錬金術……なんですか?」


「スキル的には、そうですね。

 ……『それが錬金術なの?』っていうツッコミはしないでくださいね……」


 だって、出来てしまうものは出来てしまうのだ。

 『錬金術』という線引きがどこからかは分からないが、出来てしまう以上、焼きチーズだって錬金術のアイテムなのだ。


「いえ……、そんなことまで出来ちゃうんだなって……。

 なるほど、私の知らないことばかりです……!」


「セミラミスはな、いろいろと情報を集めて、自分なりに解析して、それで魔法理論を組み立てるんじゃ。

 アイナの錬金術のように一瞬では終わらないから、それまでは普通の魔法でも学んでおれば良かろう」


「そうですね。セミラミスさん、よろしくお願いします」


「は、ひゃい……。

 不束者(ふつつかもの)ですが、末永くよろしくお願いいたします……」


 ……そう言うなら、末永くよろしくしちゃうよ?

 何にせよ、長命の仲間が増えるのは嬉しい限りなのだ。

 逆に、普通の寿命の仲間のことを考えると切なくなってしまうんだけどね……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後も錬金術を使って、いろいろなことを見せていった。

 コップの中の水をお湯にしたりだとか、空気中の酸素を無くしたりだとか。


 基本的には今までやってきたことばかりだったけど、初見のセミラミスさんとしては、どれも凄いことに映ったそうだ。

 ……実際、凄いんだけど。


「アイナ様、ご協力ありがとうございました……。

 大変興味深い内容ですので、早速これから、研究に入ろうと思います……!」


「あ、それなら部屋を用意しますね。

 数はたくさんあるので、好きなところを選んでください」


「あわわ……。部屋まで用意してくださるなんて、本当にありがとうございます……。

 私なんぞ、倉庫の片隅でも十分ですのに……」


「食事も用意しますからね」


「も、申し訳ございません……。

 パンの一欠片でもあれば十分ですので……」


 ……えーっと。セミラミスさんって、ドラゴンなんだよね……?

 人間に不慣れ……を通り越して、やたらと卑下が入ってない?


「ダメですよー。セミラミスさんも私の仲間なんです。先生ですけど。

 ですので、グリゼルダと同じ扱いをさせて頂きます」


「そ、そんな……。畏れ多い……!」


「それじゃ、お小遣いは少しだけ減らしておきましょう。

 グリゼルダの方が好待遇ですから!」


「お、お気遣いありがとうございます……」


 ……あれ? むしろそれだけの差でも良いんだ?

 でもきっと、ひとつひとつ言っていたら全部に差を付けなきゃいけなさそうだし……、まぁここはお小遣いの差だけにしておこう。



「――アイナよ。酒」


「ちょっ」


 気が付けばグリゼルダは最初のお酒をすでに空け、やや不満そうに私に言ってきた。

 もしかして、お小遣いだけの差っていうのが気に入らなかった?

 まさかねー。光竜王様、そんなことくらいじゃ拗ねないよねー。……拗ねないよね?


「……っと、グリゼルダにはいつもいろいろ差し入れているじゃないですか。

 日々の感謝ですよ、あれは」


「そうかの~?」


「ほらほら、今日はいろいろお酒がありますし。

 何ならやっぱりツマミ、私が作ってきましょうか!?」


「まぁ、それは次回にしておこう。

 この焼きチーズも、これはこれでやたらと美味いからな」


「これもS+級ですからねー」


「え……?」


「はい?」


 思わぬところで、セミラミスさんの声が入ってきた。


「セミラミスよ。アイナの作るものは、全部S+級になるんじゃよ」


「あー……。そこもいつも通りすぎて、説明を忘れていました……」


 本来であれば、S+級のアイテムなんてなかなか出来ないものなのだ。

 それこそ最高の設備で、最高の素材を使ったとしても、100%できるようには決してならない。


「す、凄いです……!

 さすが絶対神アドラルーンの使者様……!!」


「あはは……。元々は何のスキルも無い、ただの人だったんですけどね。

 ――あ、そうそう。グリゼルダ、『ダンジョン・コアの欠片』の件なんですけど」


「うん? あれがどうかしたのか?」


「はい。調べてみたところ、『ダンジョン・コア』として復元できるようでした。

 復元とはいっても、まったく同じにはならないで、別の力を宿してしまうようになるみたいですが」


「ふむ、それは良かった。

 妾も出来るとは思っていたんじゃが、確証は無かったからのう」


「は、はひゃあぁ……。『ダンジョン・コア』まで作ってしまわれるのですか……?

 アイナ様、凄いです……」


「ま、まぁ元があれば……ですけどね?」


「ふふん♪ 妾が浜辺で拾った甲斐があったのう♪」


 ……実際、それも大変な作業だからね。ひとまずグリゼルダには感謝、感謝だ。

 あとついでに、少しだけ機嫌が直ったようだ。良かった良かった。



「えーっと、あとは……そうそう、人魚の島の海底神殿!」


「海底神殿? ……ああ、確かに内装が神殿のようだと言っておったのう」


「そういう情報は共有してくださいよーっ。

 ……で、その奥に何かあったようなんですよ。触れない炎、みたいな」


「おう、それそれ。

 そこら辺もセミラミスが詳しくないかと思ってな。どれ、これから全員で見に行くか」


「いやいや、海中にある神殿なんですよね?

 私、行けませんよね?」


「そ、それなら私の魔法で……何とかなると思います……。

 空気の玉を作って、その中に入る感じの……移動魔法、なんですけど……」


「あ、やっぱりそういう魔法もあるんですね!」


 とってもファンタジーな移動魔法。

 結構怖いけど、ここは勇気を振り絞っていってみるか――

 ……じゃなくて!


「さすがにこれからだと、戻るのが遅くなっちゃいますよ。

 明日の朝にしませんか?」


「まぁ逃げるものでもないし、それでも良かろう。

 セミラミスも、よろしく頼んだぞ」


「はい……!」



 思いがけず開いた海底神殿への道。

 ついでに他のみんなにも声を掛けてみようかな。こんなこと、滅多にない機会だし。

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